2007年02月05日

この国を守る

 以下のような報道がありました。御覧になっている方も多いかと存じますが、個人用のメモとして記しておきます。出所は、『日本経済新聞』2007年(平成19年)2月4日(朝刊14版)です。

 麻生太郎外相は三日、京都市で講演し、米国によるイラクの占領政策について「非常に幼稚だった」と指摘した。
 外相は「平和構築を考える時、ドンパチ(戦争)が終わった後が大変だというのがイラクで分かった」と強調。その理由として「ラムズフェルド(前国防長官)が、ばっと(開戦)をやったけど、占領した後のオペレーション(作戦)としては全く非常に幼稚であって、これがなかなかうまくいかなかったから、今もめている」と自爆テロなどが絶えないイラク情勢に言及した。
 イラクに関しては、久間章生防衛相がブッシュ政権の開戦判断を「間違っていた」と批判。その後、「当時、閣外で感じた感想を述べたものだ」などと釈明している(「米のイラク占領政策 麻生外相『非常に幼稚』」)。

 お相手が「釣り師」だけに現段階ではコメントを保留します。まあ、魚拓になるのも悪くないのですが。

 『チャンネル桜』の「日本よ、今...闘論!倒論!討論!2007 【緊急シミュレーション討論 今そこにある危機】」という番組が精神衛生によさそう(?)なので拝見すると、「こわーい話」を和やかにされているので、別の意味でmitsu様お気に入りの「((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」となってしまいました。論点が多岐にわたるので、感想を書いていると、キリがないので、とくに勉強になったことを2点ほど記しておきます。第1は、アメリカの動向に関することです。第2は、憲法をはじめとする法制度と自衛隊の関係です。

(1)アメリカの動向について

 朝鮮半島情勢では、アメリカの選択肢について将軍・提督の方々でいろいろな見方があって、非常に興味深く感じました。粗っぽく分類すると、以下のようになります。(A)米軍は朝鮮半島の「共産化」を黙認することはありえない。韓国から陸軍兵力を完全に引き揚げることはありえない。(B)米軍は中東をはじめ、負担が重くなっている。朝鮮半島から「撤退」する可能性がある。(C)米軍は前線から下がろうとしている。「サージカル・アタック」を前兆かもしれない。錚々たる方たちのお話だけに、どれも説得力があります。遠慮しているのではなく、どの可能性も(番組では触れられていないことも含めて)考慮しておく必要があるでしょう。

 司会の水島さんが岡崎大使の話として「アメリカの動向を戦略的に考えすぎると間違えますよ」ということを紹介されていました。これは、誤解を招く可能性がありますが、私のザルの脳では、番組での結論と同工異曲だと思います。簡単に言えば、アメリカの出方は読めない。私の粗雑な表現なので誤解を招く虞がありますが、アメリカの動向を事前に読みきることができない以上、常にアメリカを観察しておくことが肝要だということになります。

 もう一つは、松尾文夫さんによるところが大きいのですが、短期ではアメリカの「エゴイズム」が世界を振り回すことが少なくありません。いくらアメリカとはいえ、ベトナム末期では撤退するより他には選択肢がありませんでした。アメリカの「エゴイズム」というと、表現がきついかもしれませんが、理想主義的な目標(それはかならずしも現実主義的な判断と背反するものではないことも少なくないのですが)を掲げたものの、その実現が困難になると、「現実主義的」な潮流が強くなるという話です。もっと、露骨に言えば、アメリカといえども、手詰まりになると、選択肢が一つぐらいしかなくなってしまって、投げてしまうということです。ベトナム戦争後の混迷は、1970年代のスタグフレーションとあいまってアメリカを「内向き」にしました。

 他方で、坂元先生の表現によると、「アメリカはinvincible(無敵)であるけれども、omnipotent(全能)ではないのです」(岡崎久彦編『歴史の教訓』PHP出版 2005年)という側面があります。アメリカは、その国力ゆえ、選択肢が他の国よりもはるかに広いでしょう。これもまた、他国からアメリカの動向を読み間違える原因になります。情勢判断一般がそうだと思うのですが、先入観や希望的観測を捨てて、冷徹にアメリカの動向を読むことが、とりわけ日米同盟という死活的問題にコミットしているこの国にとって不可欠のことだと思います。

(2)憲法と自衛隊

 領域警備の問題でこの議論がでてきたと記憶しております。警告射撃も「武力行使」というのはちょっと唖然としました。私にはこのあたりの議論が非常に勉強になりました。国防における「自主」とか「独立」というのは、この程度の問題であるというのも、勉強にはなるのですが、非常にお寒い状況であることが伝わってきました。最終的には自衛隊が国軍となり、自衛のためには、武力行使も辞さないというのが当たり前だと思います。このように書くと、「自存自衛」のために破局的な戦争に突入していったではないかという意見がいまだにあるのでしょうが、そのような意見は完全には無視できないけれども、少数になりつつあるように思います。

 番組では触れられていませんでしたが、憲法改正は私が思っているより早く進むのかもしれませんが、安倍政権が2期6年を全うして憲法改正への道筋がつくかどうかという程度でしか進まないかもしれません。その間、憲法でできないと言ってしまうと、佐藤空将が指摘されている「2008年問題」には対処できないでしょう。憲法改正を目指すと同時に、現行憲法でも可能なことを明確にすべきだと思います。領域警備の問題は典型ですが、同様の問題に集団的自衛権の行使に関する解釈の問題があります。これは憲法の不備というより、政治の「不作為」です。憲法改正は重要な問題だと思いますが、それと同等に政治の「不作為」をあらためることが肝要でしょう。

 もっと言えば、憲法を改正したら、万全かといえば、そうではないと思います。憲法やその他の法律は、基本的には行政府が執行するものです。憲法が改正されても、そして、それに応じて種々の法が制定されても、適切に運用できる政治家がいなくては、「空文」になってしまいます。

 自衛隊に関する政府の判断は、まず自衛官の方々の生命を危険にさらします。危機に不作為であれば、国民全体が危険にさらされます。この問題は、人の生死に関わる決断を行える政治家をいかに育ててゆくかという問題に帰着すると思います。憲法改正は大切ですが、それ以上に憲法を適切に運用できる政治家をいかに育てるのかということが抜けてしまうと、なにも変わらない可能性すらあります。これは国を挙げて考えてゆかなければならないと思います。

 上記の問題は、この国を守る気概を日本人が共有することにつきると思います。あらためて、安全保障の点から見ると、この国の敗戦後の歩みは衰退史であると思いました。他方で、この番組を拝見して楽観はできないけれども、衰退の歩みを止める気概をもった方々が戦後を支えてきたことを実感いたします。この国を守る気概を日本人が共有する――衰退を止めるためには、政治的リーダーシップが不可欠です。日米同盟が、本来の同盟として機能しない根源には、自分の国は自分で守る意図と能力をもつことが当然のこととして合意されていないこと、その根源に政治的エリートの不在があることを実感したしだいです。

 番組の内容の割りに、感想が貧弱なのが恥ずかしいのですが。陸海空で発想の違いなども垣間見れて、楽しんで拝見しました。ふと、政治の世界を見ると…。まあ、同盟関係に影響がないなら、アメリカもバカだねえとかお手軽な評論でもなさっていればいいんじゃないんですか。精神衛生によろしくないようなので、しばらくは放置。