2007年05月09日

日米同盟の双務性を高めるために

 今日は簡潔に。今の若い世代を見ていると、もちろん例外もあるのでしょうし屈折がないとはいえないのでしょうが、多くはこの国に生まれて育ってよかったと感じているように見えます。「焼け野原」から出発した世代から見れば、現在の30代でも少なくとも経済的には豊かな状態で育ったように映るでしょう。学生時代の話ですが、左翼の先生が東アジア(中国や韓国など)や東南アジアを旅行した学生が、昔と異なって旅行して帰国すると、みんな「ナショナリスト」になってしまうとこぼしておりました。ナショナリストといっても、通常の意味、すなわち排外的な傾向はなく、要は日本がベストということです。アメリカやイギリスでも、飯がまずいなどという贅沢を言う世代です。現在の20代はそれ以上に豊かな状態で育ってきているので、この傾向が変わる可能性は非常に低いでしょう。「愛国心」と言われると、ピンとこないでしょうが、自然とこの国がよいと思っているので、そこにもう少し国全体のことも考える視点が加われば、十分すぎるぐらいだと思います。

 現在、20代、30代の人たちが、あと20−30年もすると、民間部門でも公的部門でも日本社会の中心になるのでしょう。学力以外にも上の世代と比べて能力的に劣ると不安視する方も年配の方には少なくないようです。私自身が、この世代の、歳を食っている部類に入りますが、そのような懸念は否定できないとは思います。他方で、昔のようにイデオロギーや観念的な議論には惑わされにくいという側面もあって、上の世代の方たちが心配するほどではないという気もあります。暴論の極みでしょうが、昔の人が20年かけて勉強したことを今の若い人たちは30年かけて勉強していると思えば、遅いと言う批判はあるでしょうが、社会の維持が困難になるということはないのだろうと思います。

 私自身は、安倍内閣が進めている集団的自衛権の憲法解釈の正常化と日米同盟をより双務的にすること、さらに憲法改正にも賛成です。しかし、次に引用する安倍総理の談話は、観念的すぎて、次の20−30年を担ってゆくであろう20−30代の人たちを説得し、「教育」してゆくという意味では問題が多いと思います。

 このような状勢の中で、現行憲法の基本原則を不変の価値として継承しつつ、戦後レジームを原点にさかのぼって大胆に見直し、新しい日本の姿の実現に向けて憲法について議論を深めることは、新しい時代を切り拓いていく精神へとつながるものであります(「日本国憲法施行60周年に当たっての内閣総理大臣談話 平成19年5月3日)。

 とりわけ20代の人たちは、冷戦そのものを知らないので(「ベルリンの壁」といってもピンとこない方が多数)、観念的な議論にはなじみにくい印象があります。周囲の若い人たちにこの談話を読んでもらいましたが、何を言いたいのかがわからないという感想がほとんどです。要は、憲法改正をして自分たちにとってどのようなメリットがあるのか、まるで実感できないということにつきるのでしょう。安倍総理の談話の批判をしたいのではなく、日米同盟が、歴代内閣は国際協調を加えて外交政策の二本柱としてきましたが、専門的な知識がなくても、当たり前だというレベルになるようにしていただきたいということです。これはすこし要求水準が高すぎるのかもしれませんが、少なくとも、現在の経済的繁栄の基盤の主要な要素は日米同盟が支えてきたことを説得的に説明すれば、それなりに納得する問題だと思います。現在、安倍政権が進めようとしている施策が安倍政権一代限りのものであれば、現状のままでよいと思います。そうではないからこそ、これから20−30年にわたって受け継いでゆくべき外交政策の根幹をわかりやすく語っていただきたいと思います。

 集団的自衛権に関しては、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が設置され、「結論ありき」との批判もあります。いまさら「批判派」を加えて一から議論するという段階はとうに終わっていると私は考えますので、このような批判はあまり意味がないと思います。また、懇談会での議論そのものは専門的になることも当然だと思います。問題は、それがこれから日本社会で様々なレベルで影響力をもつであろう人たちが理解し継承してゆくかどうかということだと思います。この点で、現内閣からだされるメッセージはわかりにくいと思います。戦争後、イラクに大量破壊兵器がなかったため、小泉総理の記者会見(平成15年3月20日)はあまり評価されなくなったようですが、次の一節は、若い人たちにもわかる明快なメッセージだと思います。

 アメリカは、日本への攻撃はアメリカへの攻撃とはっきり明言しています。日本への攻撃はアメリカへの攻撃とみなすということをはっきり言っているただ一つの国であります。いかなる日本への攻撃も、アメリカへの攻撃とみなすということ自体、日本を攻撃しようと思ういかなる国に対しても、大きな抑止力になっているということを日本国民は忘れてはならないと思っております。

 2008年前後に「危機」が集中する可能性が高いのでしょうが、日米同盟は今後20−30年のスパンで考えてマネージすべき話だと思います。安倍政権が着手しようとしている課題は、まさにそのような問題であり、今後、この課題がクリアされた後も、持続的に国民的な理解(ある範囲に限定されるでしょうが)をえるためには、より明快なメッセージが必要だと思います。「戦略的広報外交」の対象は、外国だけではなく、国内世論でコンセンサスを築くということが除外できないと考えております。冷戦下で、失礼ながら「神学論争」をやっていた時期ならば、いざ知らず、現在は、ちゃんとした説得が行われれば、コンセンサスを築くこと自体は、やり方しだいではありますが、以前ほど困難だとは思わないのですが。

 自分の国は自分たちで守る。これが基本ではありますが、実際の能力を考えると、単独で自国を守ることができる国は、アメリカを除くとほとんどないといってよい状況です。そのアメリカとの同盟関係が、実際に戦争が生じること自体を抑止し、最悪の場合、現状を打破しようとする勢力が武力を行使した際には、ともに抵抗するのが自国の利益にかなうでしょう。あまりに雑な話ですが、自国を守るのは自分たちではありますが、その延長線上に自然と日米同盟が位置づけば、問題はないと思います。観念的な話自体が悪いのではなく、説得のためには、理念だけでなく実利をもってする必要があるだろうという程度の話です。

 もっとも、よけいなお世話なんでしょうが。市井の人には似合わない話題なので、このぐらいにしておきます。