2007年10月17日

鏡の国のリリス

 適当にネットの記事を見ていて、中央線での痴漢行為の検挙数が埼京線を上回ったとの記事があって、「へえ」と思っておりました。確認しようとしたら、どの新聞社のサイトを見ても、そのような記事がなく、どこだったんだろうと思いましたが、「はてなブックマーク」で『朝日』のサイトだったことがわかりました。残念ながら、『朝日』のサイトでは当該記事を読むことができないのですが、女性専用車両の導入の効果にも触れていたと記憶しております。女性専用車両の導入には賛否両論がありますが、私自身、導入当初、やや懐疑的でした。1車両程度では、被害にあった経験の多い女性が十分に収容されるのかどうか疑問がありましたし、男性サイドとしては駆け込み乗車は危険ですし、他の乗客にも影響が出かねないなど好ましくないとはいうものの、急いでいるときにはやむをない場合も多く、女性専用車両が最も近い車両の時にはどうするんだろうとか、下らないことではありますが、痴漢被害の軽減と他の面での乗客の利便性の比較考量ができているのだろうか、やや疑問でした。

 現段階で女性専用車両が痴漢行為そのものをどの程度、軽減しているのかは疑問な点もあります。ただ、ないよりはマシだろうというぐらいには評価しております。今回はこの点には触れずに、どこか、痴漢行為に関して鈍感な感覚がまだまだ根強いという点についてのみ、触れます。

 ただ、痴漢行為そのものには、私自身の性格と、後で述べる経験から、ずいぶん日本社会というのは寛容だなあという感覚がありました。極端な例かもしれませんが、主として義務教育に携わる方たちに極めて高いモラルを求めている方が、知人となると途端に甘くなるという傾向などを見聞きいたしますると、相手によって破廉恥行為の重みが全く変わってしまうという点では、痴漢行為その他の破廉恥行為そのものに関する認識そのものが実は甘いのではないか、そんな疑念をもったりします。私は、他人から体を触れられることと嫌悪感を覚える神経質なところがありまして、こどもの頃から向こうは親しいと思っているのか、頭をなでたり、肩を叩かれたりすると、相手が気がつかないように避けていました。頭を触るというのは、両親ですら許したことがなく、「おばあちゃん子」だったせいか、祖母に「よくできたね」と頭を優しくなでてくれる以外、許したことがありません(「加齢」とともに例外も増えてゆくのは致し方ないか)。もちろん、頭以外の部位に関しても、他人からなれなれしく触れられるのは嫌でして、若い人が記念に肩を組んで写真をとってくださいと言わない限り、肩を組まないぐらい、他人の肉体に触れること自体が苦痛ですらあります。もちろん、若い人が望む場合には苦痛ではなく、らしくない体育会系のノリでがっちり肩を組むのではありますが。

 この手の、新聞でいえば「社会面」あたりで記事が載る話題は、「時の最果て」の苦手なのですが、やはりこのような記事を読むたびに、自分の「被害」が時々、記憶として蘇る部分があります。幸い、一度きりでしたので、当時、大変なショックを受けただけで、現在ではそのような感覚も薄れておりますので、簡潔に自分の経験を書いておきます。

 学生時代(まだ未成年の頃でした)に家庭教師のアルバイトが終わって、日によっては訪問先をでて駅で電車に乗る頃には10時前後になることもありました。アルバイトが終わって最初に電車に乗ったときには満員でびっくりすることもありましたが(田舎からでてきたので電車で定期的に通うという習慣もなく、こんな遅い時間でも混むのかと、ちょっとカルチャーショックでした)、段々と慣れてきました。2年目の秋でしょうか、正確な時期は覚えておりませんが、いつも通り、電車に乗ると、やはりかなり混んでおりまして、帰りの電車の乗車時間は20分程度でしたので、自分の勉強の本を、これまたいつも通り準備して読み始めました。乗車してから2分後程度でしょうか、お尻のあたりに違和感があり、ふだんは荷物があたる程度ならしばしば経験しておりましたが、段々と人間の手であることに気がつき、背筋が凍りました。当時は、ジーパンとチノの両方を使っていましたが、そのときはジーパンだったと思います。まったく身動きが取れない状態というわけではなく、冷静に考えれば、素知らぬ顔をして移動すればよいのですが、ジーパンの上からお尻を触られるという経験自体が非現実的で、冷静な対応ができませんでした。これは私の至らぬところかもしれません。

 もう一つは、田舎では「変質者」というのは女子生徒から聞かされてやっぱりいるんだというぐらいの感覚で、電車で通学している知り合いがいなかったせいか、痴漢による被害という話は聞いたことがなく、なんとなくリアリティがありませんでした。それもあって、こちらが自意識過剰なのかなと放置していたら、お尻から股間にかけて手が撫で回してきて、気もち悪さと嫌悪感と恐怖感が高まり、さすがに耐えがたく、おそるおそる手の主らしき人をたどってゆくと、見た目は当時としてはそれほど派手ではない、ごく普通の20代半ばの女性で、余計に気もちが悪く、次の駅で逃げるように下車しました。目的の駅ではないのですが、あの適切な形容が思いつかないバカにされたような、なんとも心底から屈辱を感じる状況から逃げたいという一心でした。

 今となっては、私が狙われた理由がわかりませんが、当時は、まだ高校を卒業して1年程度でしたから、長距離をやっていた頃に、ヒップが締まっていたようで、女性の友だちとは、「お尻の形はいい線してるよね」とからかわれるので、「お尻だけかよ!」と言うと、ハイハイという感じで「顔もいいわよ」と「トドメ」をさしてくださる状態でした。ただ、そんな冗談が通じる相手でも、突然、お尻を触られたら、お断りですし、まして知らない人となると論外。あの嫌な経験をした後も、何事もなく読書をしたり、講義に出たりしておりましたが、アルバイトはしばらくしてやめました。電車に乗るのが苦痛になってしまったからです。私がひ弱なのかもしれませんが、しばらく電車を見るのも嫌になりました。もっとも、今ではお尻もたるんで触ろうという奇特な方はいないので、平気で満員電車に乗ってつり革につかまりながら、うつらうつらしていることが多いのですが。

 「痴漢冤罪」も深刻な問題でらくちんさんの記事を拝読したときは、怖いなあと思いました。普通の男性にとっては、こちらが「脅威」なのでしょう。痴漢自体に興味がそれほどないので、どの程度の比率で男性が痴漢行為をしたことがあるのか、まったく検討もつかないのですが、冤罪の問題はあるとはいえ、これだけ検挙数があるということは、女性の被害があること自体を否定することはありえないでしょう。さすがに、職場では聞きづらいのですが、やはり、なかにはひどい経験をしたという相談もあるので、データではでてこない深刻な部分があるのを感じます。通勤・通学でそのようなストレスを感じていては、個人差があるとはいえ、やはり大変だと思います。

 痴漢行為に関する分析を読んだことはありませんが、やや厳しい表現をすれば、満員電車などで行動が制約されている中で他人の身体の自由を侵す行為だと認識しております。もちろん、破廉恥行為ではありますが、他人の身体の自由を直接に侵すという点では日常生活の中で最悪のものであろうと。私の場合、自分がそのような目に遭うのが嫌だから、他人にもしないという低いレベルで考えてしまうのですが、自分を律することができない方がいらっしゃる以上、そのような方から被害を受けやすい方を自分を守る選択肢を増やすこと自体は好ましいことだと考えます。もちろん、女性専用車両がそのような方策のすべてではないのでしょうが、効果を評価してゆきながら、対応してゆくことが肝心だろうと。人権問題の多くは、極端な事例が多く、私にはわからないことが多いのですが、ごく日常生活で起きている他人の身体の自由を侵す行為を律することもできなくては、より深刻な人権問題に触れること自体、空々しさを感じてしまいます。また、より深刻な性犯罪では再犯率が高いことが指摘されており、自分で自分を律することもできない人たちの監視に租税が使われること自体、腹立たしい側面もありますが、やはり、やむをえないのでしょう。「二度あることは三度ある」、「三度目の正直」とも言いますし。

 それ以上に、痴漢行為に無意識に寛容な部分が男性サイドにもあるように思うことがあります。私自身が肉体的に受けた苦痛自体以上に、精神的な苦痛は相当でした。他方で、精神的苦痛が大きいにしても、その根源は身体の自由を侵す行為です。痴漢行為にも程度の差があるのでしょうが、どこか身体の自由に関して鈍感な方々も無視できない程度にはいらっしゃるようです。「冤罪」の問題は深刻な側面もありますが、過去の履歴などからある程度、推測できる部分もあり、そのような予断をもつこと自体、危険なこともあるのでしょうが、繊維などを利用した捜査などにより「冤罪」が生じる確率は技術的に低下してゆく可能性があります。問題は、日常生活における自由というのは、どこかで自制が必要であり、その自制できない行為を繰り返す方というのは、やはり社会人として失格なのではないかと。懲罰がゆきすぎないバランスも必要でしょうが、ダメなものはダメと強制する以外ないのでしょう。

 以上のことが偽善的と感じる方はご勝手にという感じ(抑制していること自体は否定しませんが)。それにしても、自制することが難しい時代に生きているんだなとしみじみ感じますね。それにしても、加害した者の心を映しだす鏡があったら、そこになにが映るのだろうかと。悪魔なるものは、心の中にある闇を具象化したにすぎないのかもしれません。 
posted by Hache at 12:20| Comment(0) | TrackBack(0) | まじめな?寝言