2008年04月01日

気長にイラク情勢を見ましょう

 年度の節目で落ち着かないのですが、安達正興さんのこのコラムはさすがに真剣に読みました。イラク情勢をいちいち気にしだすときりがないのですが、最近は安定していると思っていただけに、かなり厳しい状態です。イラク政府の統治能力が向上しないと、アメリカとの「同盟国」になるのは難しいだけでなく、間接的に米軍の抑止力を低下させてしまいかねないです。もっとも、イラク政府の統治能力が回復するのは、あまり根拠はありませんが、大雑把に見て5年はかかりそうです。その間、米軍は中東の安定化を最優先せざるをえないでしょう。

 安達正興さんのコラムの中でリンクされている過去のコラムは2007年1月27日の記事の誤りでしょう。過去のコラムの「ペトレイアス=ファモス報告(Counterinsurgency)」は、「ベーカー=ハミルトン報告」よりもはるかにできがよいようです。2008年3月29日のコラムでは米軍増派後、「「ペトレイアス=ファモス」報告の内容がかなりの程度、実現しているようです。「ベーカー=ハミルトン報告」からはイラクからの「出口」を探っているような印象をもちました。恥ずかしながら、「ペトレイアス=ファモス報告」を読んでいないので、イラクの治安を回復をまず米軍が担保すること、その手段として増派は妥当であったと思います。問題は、イラク政府そのものの統治能力の回復ですが、あらためて厳しいことを実感します。「ベーカー=ハミルトン報告」はイラク政府の統治能力が米軍の駐留を代替するかのような印象をもちましたが、「ペトレイアス=ファモス報告」ではそのような考え方は退けられているという印象をもちました。

 裏づけが乏しいのですが、まず、米軍が治安確保のために増派し、その上でイラク政府の統治能力を高めるという基本戦略は妥当だと思います。ただし、イラク政府の統治能力の強化は5年単位で考える必要があるのかもしれません。その間、アメリカにとって安全保障上プライオリティが最も高いのは中東であり、ついでアフガニスタン周辺であるという状態は変わらないでしょう。この状況下でパワーバランスの変化が既に始まっており、米軍の抑止力の低下による影響が顕著に現れるのはユーラシア大陸の東側でしょう。現状を変えようとしている勢力が中共であることは明白でしょう。イラク情勢が緩やかにせよ改善しつつも、「一進一退」の状態が続けば、基本的な戦略が概ね妥当であっても、5年単位で、私はさらに気長に10年前後は不透明感がともなうでしょう。

 ここで問題になるのは、米軍の抑止力低下そのもの以上に、米軍の影響力が低下することを現状を変えようとする中共が読み間違えるリスクです。チベットの「反乱」が示しているように、中共は「獅子身中の虫」を抱えている以上、台湾海峡でこぶしを振り下ろすことは中国のナショナリズムの正統な「継承者」としての中共の地位を脅かすのかもしれません。中共が台湾海峡に、どのような形であれ、でてくる蓋然性が高いと見たほうがよいのでしょう。ただし、アメリカとの対決となれば、中共の選択肢はほとんどないといってよいでしょう。もちろん、そのような事態を避けながら、中共は台湾への圧力を強化してゆくのでしょうが、それが台湾の「独立」阻止ではなく、アグレッシブな形になる可能性が高いと思います。

 そのような攻勢をとどめるのは米軍の影響力ですが、プレゼンスの低下が生じてはいるものの、明白な戦争でなくても、台湾海峡に米軍が関与する確率を読み間違えると、台湾海峡で中共がアメリカの関与を招きかねない事態を惹起するでしょう。ひょっとしたら、イラク情勢が想定以上に好転した場合にも中共は台湾の事実上の併合を目指す可能性もあるのでしょう。

 私自身は、台湾海峡で深刻な紛争が生じる確率自体は、利害関係を有する国々が合理的であれば、相当、低いと見ております。問題は、この国でありまして、日銀総裁がどうたらこうたらとかガソリン税がどうたらこうたらも深刻ではありますが、それで国が滅ぶかといえば、致命的な自体ではないと思います。問題は、外交・安全保障政策を民主党が「政争の具」にするか否かです。私が敬愛する方は、「民主党に政権が転んでも、前原や長島がいるから大丈夫だ」とおっしゃっていましたが、彼らの見識ではなく党内での影響力という点で不安が残ります。

 これは民主党に限らないことですが、イラク戦争後の占領統治の不首尾によってアメリカを軽侮する傾向が少なからず存在するように感じます。10年単位の長期にわたるであろうイラク情勢に右往左往することなく、英米の側にあることがこの国の安全と繁栄の基盤であることが政争のなかで曖昧になってしまうことを恐れます。ひどい「寝言」ですが、外交・安全保障で致命的な誤りをしなければ、日銀総裁だの道路特定財源などはどうでもいい話です。イラク情勢は間断なく観察する一方で、決して感情を交えてはならず、一喜一憂する必要はないと思います。ただし、2009年の新大統領がどのような判断をするのかによって、この国が振り回されることも覚悟しておくべきでしょう。