2008年04月11日

イラクの新たな「内戦」

 いきなり本題から外れますが、失礼ながら、思い通りにできないことがすべて野党の責任になるのなら、私でも総理は務まります。別に反省していただく必要もないのですし、いわゆる「親中」だとか小さな政治姿勢をあれこれと問題にする気も起きません。ただ、無能な総理がその座にすわり続けること自体が迷惑千万であるというだけのことです。ある企業の管理職の方が、「景気が悪いから業績も悪いといったら話にならない。そんなのは経営の否定だよ。うちのボスがそんなことを言ったら引き摺り下ろされるし、取引先がその程度だったらお断りする」と話してくれたことがありました。たかが、といっては失礼ですが、一民間企業にお勤めの方でもそれにふさわしい気概をもっているものです。まして、日本の総理が野党が話を聞かないからことが進まないなどと堂々とメールマガジンに書いてしまう神経が信じられません。政治というのは会社勤めよりもお気楽なお仕事なのでしょうか。小沢さんと刺し違えるぐらいの覚悟がないのなら、お辞めいただくのが、ありがたい話です。あるいは、反小沢で自民党が頑なになったところで、何も変わらないでしょうから最低限、素人目にも厄介な相手と取引が必要な情勢で「相手が難しいからうまくゆかない」などと公言しない常識のある方に交代していただきたいものです。こんなくだらないことに「寝言」を書いていたおかげでイラク情勢に関する「寝言」が後回しになったので、言いたい放題で「強制終了」させていただきます。

 言いにくいのですが、この国が「脳死」状態であっても、情勢は内外で変化しています。イラクばかり見ているのは「偏食」がすぎる気が致しますが、単に重苦しいだけではなく、やはりアメリカにとっての「痛点」となっている事態をしっかりと見ておく必要を感じます。安達正興さん『世界の論調批評』頼みというわれながら情けない状態ですが、バスラの戦いをあまりに軽く見ていたことに気がつかされます。また、finalventさん記事も、非常に刺激になりました。これだけ観察している方が揃うと、私が付け加える余地がないことを感じますが、素人ではあっても見ておく必要は、自分自身のためだけですが、あるのだろうと。以下では、こちらで紹介されているAnthony H, Cordesman, "A Civil War Iraq Can't Win"(New York Times, March 30, 2008)の内容を追ってゆきます。

 まず、Cordesmanは、イラクにおいてアルカイダを除去できるとしてても、イラクが分断され、アメリカが「勝利」を勝ち取れない新しい可能性を指摘しています。(1)アメリカとか協力関係にあるスンニー派の部族や民兵が中層政府から離反するリスク、(2)イラク北部におけるアラブ人とクルド人、トルコ人の抗争、(3)シーア派内部の政治闘争が武力衝突にいたることなどの3点を挙げています。バスラの戦いは(3)の可能性にかかわるものと位置づけられています。

 バスラの戦いではやや限定されますが、3月25日からのバグダード近郊とイラク南部における戦闘は、サドル(影響下にあるマフディ軍)とマリキおよびハキムが影響をもつイラク・イスラム最高評議会の間で行われました。後者は、イラクの治安部隊の大部分とハキム派がもつ私軍であるBadr Organizationを事実上、支配下においているとCordesmanは指摘しています。

 なお、Cordesmanはバスラとバグダードにおける戦闘をイラク政府がイニシアチブをとったものと理解しているようです。安達さんの記事によれば、アメリカ上院軍事委員会でPetraeusが自ら立案しマリキ首相に進言したと証言しているので、Cordesmanの記事は事実誤認を含んでいる可能性があります。全体のトーンが、シーア派内部の闘争にアメリカが深入りさせられる危険を指摘する論調なので、このあたりは要注意かもしれません。

 記事に戻りますと、バスラやバグダード近郊での戦闘に関する報告は、サドルとマフディ軍が平和を破壊する悪の勢力であり、政府軍が秩序をもたらす正統性のある勢力という前提にもとづいていると述べています。そして、その前提は、あやうい過度の単純化であって、アメリカがマリキ首相を支持するにあたってはるかに注意深くならなければならないと指摘しております。

 まず、マフディ軍がアメリカの敵意を抱いていることやサドルが昨年の夏に休戦を宣言したものの、各地で暴力を用いていること、さらにイランと結びついていることなどは議論の余地の無いことだと指摘しています。マフディ軍に幻想を抱いてはならないと説いているわけです。このあたりは事実の確認とともにレトリックでしょう。

 というのは、マリキやダワ党、イスラム最高評議会に幻想を抱くことも危険であるという指摘が続くからです。イラク政府は、直近の戦闘を犯罪行為への取締りとして描こうとするが、内実はマリキと最も強力なシーア派政党が、自分たちの影響力が浸透していないバスラやバグダードの一部で彼らの権力を確立しようとする努力だと指摘しています。ただ、それに続く指摘は、バスラの戦いに象徴される軍事行動がマリキがアメリカ軍を引っ張り込む形で主導したと理解しており、先ほど事実認識が誤っている可能性があります。Cordesmanは、マリキ政権がアメリカを戦闘に引きずり込んでしまったがために、休戦が破られてしまうリスクを指摘していますが、戦闘に至る意思決定プロセスの如何にかかわらず、同じ結果になってしまうのかは疑問が残ります。

 ついつい長くなってしまったので、いったんここで打ち切りますが、戦闘地域をすべてカバーしていない表現ではありますが、バスラの戦いはイラク情勢の複雑さの危険な要因を浮き彫りにした印象があります。第1に、シーア派内部の対立にアメリカが巻き込まれてしまい、イラクの政治的統合が遅れてしまう可能性です。第2に、Cordesmanは簡単な指摘にとどめておりますが、イラク政府の統治能力は治安のみならず、民生の確保や公的サービスの提供という平時の能力の部分でおおいに弱いという点です。これらの要因だけでもイラクが分断されてしまう可能性は無視できないでしょう。また、イラクが統一された国家として機能するまでには5年どころか10年ぐらいのスパンで見る必要性すら感じます。占領統治初期の遅れを取り戻すのは容易ではなく、この事態にアメリカの世論がいつまで耐えられるのかが懸念されるところです。