2008年11月15日

モラルハザード?

 今週はわざわざ私みたいな人付き合いの悪いところに、足を運んでくださる奇特な方と話し込んでしまいました。よくお酒も飲みにゆく仲ですので、病気の話をしたら、びっくりしていました。話がわかる方なので、血栓自体が消滅していないので、しぱらく静脈を拡張させて血栓が動くリスクがあるので、アルコールは難しいのですよと話していて、ちょっと残念な感じ。ワーファリンが効いてきているとはいえ、血栓が消滅するには程遠い状態ですが、そのあたりを説明するのは面倒なので、ごく親しい方にだけ知らせております。それ以外の方にはとくにお知らせする必要もないので、適当にちょっと思い病気ですという程度で済ませていたら、歩けるようになったのをそこら中で目撃されたのか、これでもかと仕事が入って、ちょっと参ります。夕方から晩にはまだ足がむくんできついことも多いのですが、杖をつくのも大袈裟なので、素知らぬ顔で仕事を済ませて、帰ってからぐったりという生活をだらだらとすごしております。

 最近、金融機関やビッグスリーの救済などが話題になるせいか、「モラルハザードの連鎖」という表現をみかけます。どうも、メディアなどではモラルが道徳や倫理を指すものになっていて、金融機関や特定の産業に政府が救済策を行うことによって市場経済の原則と一般ではみなされている「自己責任」が曖昧になってしまうという懸念が背後にあるようです。モラルハザード自体は、もともと保険などの分野で、事前に設定した制度が保険加入者に病気を予防したり、火災や事故の発生を予防する努力の水準を低下させてしまい、結果として病気や事故の発生確率があがるリスクが生じ、結果として経済的な効率が保てないことを意味します。これに対応するためには、リスクの上昇を抑制するように被保険者へインセンティブを与えるように保険制度を設計することになります。今回のように、金融機関がリスクの水準を適切にできなかったこと自体は、現行の金融部門への規制でそのようなインセンティブを十分に考慮していなかったことが問題で、金融危機で金融機関を救済すること自体が「モラルハザード」と呼ぶのは、適当ではないのでしょう。もちろん、今後、金融危機を受けて制度設計の見直しが実施されるのでしょうが、モラルハザードが問題になるのは、金融危機を克服される過程での制度設計であって、救済に関しては別の問題になるでしょう。もちろん、政府が救済してくれるということが暗黙の了解となったときに、金融機関が自ら不良資産処理を行うインセンティブを低下させてしまうという意味でのモラルハザードが起きる可能性はあるでしょう。ただし、現状では、金融機関の資産の毀損を確定するには公的介入が不可欠だと思いますが。「自己責任」という倫理を強調しすぎると、逆に極度にリスク回避的になってかえってシステミックリスクの危険が高まってしまうので、お世辞にも合理的だとはいえないでしょう。現状では、9月と比較すれば安定していますが、過去の過度(実際にはどの程度が「適度」で、どの程度が「過度」なのかという基準は曖昧なままのような気がしますが)のリスクテイクの結果の処理は、モラルハザードの問題とは切り離した方がよいと思います。

 自動車産業の場合、さらに問題は複雑で、国際競争に敗れた企業を救済すべきか否かは、効率という観点からは正当化することは難しいでしょう。もちろん、ビッグスリーを救済しなければ、失業自体、大きな問題ですが、それにとどまらず、自動車メーカーが従業員に保障してきた年金や医療などの問題もあり、メーカーの救済は非効率な企業が市場から退場するのが市場経済では当たり前だという論理だけでは論じられないと思います。また、自動車メーカーを救済するなら、他の産業を救済しない理由を明確に難しいため、他の産業からも救済策を求める圧力が高まるという懸念もあるでしょう。ひどいことを言えば、農業保護などバカみたいにカネを使っているのだから、自動車だけを農業とは異なる扱いにする理由はないのではと思ったりします。ただし、それらは政治的な問題であって、いわゆる「モラルハザード」の問題との関係は希薄だと思います。


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2008年11月14日

「先手の利」と「後の先」:第21期竜王戦第3局の気分しだいの観戦記

 単なる睡眠不足なのか、足元が揺れて、「あれ? 地震?」と周囲を見渡すと、なんでもなかったりします。まさか、脳に異常?どうも、慢性的に疲労がたまっているのか。ワーファリンを飲んでいるので、内出血のリスクとかにちょっと過敏になりすぎかもしれませんが、単に冷やされたら、温められたりと、体がついてゆかないだけなのでしょう。まあ、ボロボロの状態なので、もっともカネのかからない将棋の竜王戦などを見ておりましたが、1日目から終盤かと思うほどの激しい将棋。こちらから棋譜などを見ることができます。それにしても、先手の渡辺竜王が37手目に5四歩と突いたのに対し、羽生名人が3七歩成りとしたのはびっくり。中央から先手がどんどん歩を進めるだけで駒得になるので、ちと怖いのですが、リスクの高い手順を選ぶとは……。羽生名人の42手目の3二とは棋譜の解説では自然な流れだそうで、ど素人にはと金を捨てるのがもったいない感じがします。

 素人なので、第1局を見たときに、一手損角換わり戦法の意味がわからなかったのですが(最近のプロ棋戦ではよくでてくる戦法の一つだという程度)、今回の解説はところどころ丁寧で、棋譜プラスの解説には9手目で「後手が自分から角を交換し、先手の7九銀が0手で8八に移動した。すなわち後手一手損。将棋はたくさん指したほうが必ずしも有利というわけではないというのが、この作戦の骨子になっている」とあってなるほどという感じ。性格がせっかちなのか、手損が嫌いなのですが(この10年近くは指していないので、見てるだけになりました)、素人的には指す手がないときには一手パスしたくなることもあります。第1局の15手目の解説では、「米長会長の予言その2『一手損角換わりはみんなで研究した結果、先手有利という結論になるだろう。しかし、それは私が生きている間に解明されるかはわからない』」とあって、トップを極めた方の意見の深みは素人には窺い知れないものがありますが、なんとなくそんな気がしないでもないです。やはり、手損をして主導権を握られると、へぼ将棋でも相手が間違えてくれるのを祈るしかない。不思議な戦型だなあと。

 第3局の16手目の解説では「10時ちょうど、羽生は△6四歩と伸ばす。腰掛け銀を目指した一着だ。角換わりは棒銀と早繰り銀、腰掛け銀はジャンケンのような関係にある。つまり、棒銀は腰掛け銀に強く、早繰り銀に弱い。早繰り銀は棒銀に強く、腰掛け銀に弱い。腰掛け銀は早繰り銀に強く、棒銀に弱い。という関係にある。後手は手が遅れているのを逆利用して、先手の作戦を見てから自分の作戦を決めることができる。早繰り銀に強い腰掛け銀を目指す」とあって、素人にも後手がこの戦型を選ぶ理由が「後の先」を将棋の枠で追究しましょうというという感覚なんだなあと思いました。

 この将棋で「新手」があって、それが渡辺竜王が35手目に指した7九玉。結果的に、壁銀のまま、玉を下段に押し込めてしまったことを羽生名人がとがめる形になったのですが、これが成立しない手なのかは素人にはよくわかりません。38手目以下の羽生名人の攻めは素人には苛烈すぎて指しすぎなのではと思うほどです。ただ、42手目の3二とに対して、渡辺竜王が同金と応じたのが、どうだったのか。私みたいに粗雑な性格だと、「ええい、ままよ」とばかりに5三歩成りとしたいところですが、やっぱり乱暴すぎるんでしょうね。でも、次に4九飛が見えているだけに、指しづらい一手のような気もします。こうなると、6八玉とあがらざるをえず(解説では6九銀で千日手というのもあるそうですが)、これはなんとなくつらい。下段の玉を咎められた形になって、一日目の封じ手を迎えました。

 解説では4五桂という手が挙がっていましたが、素人目には普通に2九飛成りで十分かなという感じ。3九歩で龍がいったん閉じ込められますが、3七歩が利きますし、あとは底歩を打たせれば3筋に歩をうたれて玉が狭くなるのも防げる。手順に4五桂とはねられる可能性もありますが、後手玉に迫ったときに、3筋からするすると逃げられるのはちとかなわんなあという感じ。

 不謹慎なことに、職場からちょっと見てしまいましたが、封じ手が2九飛成でまぐれあたり。その後、想定した手順でしたが、自然な感じで48手目に5四歩と目障りな歩を払ったあたりはへえという感じ。攻め合いにでて、5三にと金ができてしまうと、後手玉が居玉なのでちょっと怖い感じです。で、羽生名人の5四歩に渡辺竜王が5三角と指して、歩を払ってできた空間に角を打ち込む手はまず浮かびそうにないので、トッププロの発想というのはやはり違うなあと。6四角成とすると、解説では6五桂も消しているとのことで、なるほど。ここに桂馬を打たれると、先手陣が途端に窮屈になってしまうので、よさげな手に見えました。

 実際には、51手目に5二歩と打つ手が有力だったそうで、これもまるで浮かびそうにないです。局面が進んで渡辺竜王の53手目の5二歩に対し、羽生名人が4一玉と逃げた手が解説によると控え室では検討されていなかったそうで、これは逆に驚きました。なんとなく、この歩はとりづらいなあと。同金に5三歩と叩かれるのがちと嫌な感じ。ただ、控え室の検討では、4一玉と逃げると、詰めよがいっぱいかかるとのことで、これはまったく気がつきませんでした。実は、同歩とするよりもリスクの高い手だったようです。無知なる者は幸いかな。

 進んで渡辺竜王の59手目の2二歩がどうかなあと。ちょっと頼りない攻めになって、先手が苦しい感じ。60手目の3一金はびっくりで、「負ける気はまるでありません」という激辛の手。とどめに、羽生名人が62手目に5三銀と打って、あたしじゃあ、羽生名人相手にここまで指すこと自体、無理だけど、こんな手を指されたら、心が折れそうな感じ。ここ十年ぐらい、将棋好きの人と指す機会がありませんが、こんな手を指されたら、性格悪そうだなあと勘ぐってしまいそうです。録画しておいたNHKのBSでは羽生名人が登場していて、激しい将棋だったので一手のミスが命とりになるので必死でしたとおっしゃっていたので、これは対局者としては当然なのでしょう。『竜王戦中継プラス』の対局後の感想では「超急戦で来られて、形として待てないので本譜(36手目△3六歩)行くしかないと思いました。△5三銀打(62手目)として、ちょっと良くなったかと。▲7九玉(35手目)は知りませんでした。第4局も変わらず、一生懸命指します」(羽生)とのことで、楽観していなかったんでしょう。

 棋譜を並べていると、このあたりで事実上、終わった感じがしますが、「ちょっと良くなった」と言われてしまうと、渡辺竜王もつらいのでは。第3局で羽生名人が勝利して、3連勝。あと1勝で竜王奪回だけでなく、初代永世竜王の称号を獲得することになります。他方、いわゆる羽生世代を相手に長い間、竜王の座を守ってきた渡辺竜王には厳しい結果となりました。次局は、渡辺竜王の攻めを存分に発揮していただきたいと思います。

 それにしても、第1局も不思議だったのですが、第3局も素人には不思議です。35手目の7九玉が悪い手なのかは見当がつかないのですが、42手目の3二とに同金以外の手が成立しないとすると、やはり悪い手なのでしょうか(5三歩成で先手が良くなるのかは私の棋力ではちと無理)。ちょっと細かいことになりますが、さかのぼって24手目の8五歩は行方八段の解説(BS)では、7七銀と上がらせない意味があるそうで(25手目以降、▲7七銀、△8六歩、▲同歩、△8五歩、▲同歩、△同飛で十字飛車)、壁銀のままにしておく効果があるそうです。これも「後の先」なのかはわかりませんが、一手を損することによって、相手の形を決めさせてしまうという不思議な戦型が試される理由がちょっとだけわかったような気になりました。

 私のレベルですと、お互いに玉を囲って攻撃態勢も整ったところで、仕掛けるタイミングで、こちらが先に形を崩すのがどうもなあというときに相手に攻めてもらうという程度の感覚あたりが限界です。どこかで、やっぱりわざわざ一手とはいえ、自分から損をしてという戦い方が大局的にはよいとは思えないのですが、「後手」というのはやはり主導権を握ることが難しく、相手に形を決めさせて対応を決めるというのは「後の先」の典型なのでしょう。「先手の利」か「後の先か」という問題には、まったく別のことで興味があるのですが、将棋の世界では、今のところ、決着がついていないことに興味深く感じました。


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posted by Hache at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 気分しだいの寝言

2008年11月13日

共感するならカネを出せ!

 『家なき子』をドラマとしてちゃんと見たことが一度もないのですが、安達祐実の「同情するならカネをくれ!」の一言は妙に印象に残っております。どこで見たのか、記憶がはっきりしないのですが。ドラマとして見たことがないので、なんのひねりもなく、「そりゃそうだよね」という程度の感覚でしかありません。

 で、Thomas Friedmanの"Show Me the Money"というコラム(New York Times, November 9,2008)を読みながら、「オバマに共感するならカネを出せ!」と変な訳になってしまいました。あのドラマの中ほど切迫感はなく、イランとの関係を論じているようで、そうでないような微妙な感じ。オバマ次期大統領(と書くと、こちらでは"President-elect Obama"の訳としては不適切だとお叱りを受けそうですが)でなにが変わるのかという点がなかなか見えないように私などは感じてしまうのですが、やはり変わるようです。コラムの紹介としては失格ですが、このコラムで読むべき点は、イラン情勢そのものというより、ブッシュ大統領のときには、アメリカ大統領を「悪の権化」として描くのが容易だったがために、アメリカの覇権に各国が「ただ乗り(free-ride)」しやすかったのが、オバマはそうはいかないので、ただ乗りお断りという感じでしょうか。これはFriedmanの気分を私がそう読んだだけの話で、実際にアメリカの外交政策がそういう方向に動くのかは不明ですが、意図せざる補助線としては興味深く感じました。イランとの交渉を論じた"Sleepless in Tehran"というコラムはあまり面白くなかったのですが、こちらはタイトルからして読む気になりますね。

 もちろん、10月29日のコラムがしきりに強調している原油価格の急落という事態がイランをはじめ産油国にとって打撃であるのはそうなんでしょう。「イランは30%を超えるインフレーションと11%の失業率に直面している」("Sleepless in Tehran")という指摘は、経済制裁という"leverage"が効果的になる可能性を示唆しているのでしょう。ただ、Friedmanがイランをはじめ中東諸国との交渉で不可欠だと指摘する"leverage"がどうも具体的に見えず、すっきりしないコラムでしたが、11月9日のコラムは、オバマによる外交政策がどのように変化するのかという方向性の可能性(変な日本語ですがご容赦)の一つを示しているのでしょう。Friedmanのコラムをいかれた「外道」の目から見ると、ブッシュ政権は経済でも安全保障でも世界中に大盤振る舞いをしていた。ただし、他国の共感をえるという点で失敗したために、世界中がそれにただ乗りした。オバマは世界中から共感をえている。だったら、対価を払ってくれ。そんな主張のように見えます。

 もちろん、"Show Me the Money"で提示されている経済制裁を"leverage"としてイランの核開発を阻止すべしという主張が実現すれば、それに越したことはないのですが、なんとも微妙な感じです。北朝鮮では一時的な状態で終わるのかそうでないのかは不確定要素はありますが、米軍の軍事行動が抑止されていたために、結局、金正日総書記はアメリカとのリスクの高い賭けに成功しました。アフマディネジャド大統領が、アメリカあるいはイスラエルによる武力行使の可能性がないと確信すれば、北朝鮮と同様の賭けに出る可能性もあるでしょう。Friedmanが挙げているイランへの経済制裁でアメリカと組むべき諸国――中国、フランス、ロシア、インド、ドイツ――は、利害がバラバラで、共感、控えめに言っても「好感」というブッシュ政権にはない利点をアメリカがえたとしても、とても長期間にわたってアメリカを中心にまとまることは困難だと思います。対イラン政策としては、戦略性を欠いている印象があります。

 Friedmanのコラムが示しているのは、オバマ政権へ移行したときの外交政策の可能性というよりも、ブッシュ政権の下で孤立主義に戻れずに、ただただ孤独感を味わったアメリカ人の叫びなのかもしれません。オバマブームに鈍感だった私はこのあたりを忘れていたのでしょう。「時の最果て」とはいえ、あまりにひどい読み方ですが、これがすべてではないにしても、全米がオバマ氏の大統領選勝利に沸いた理由をようやくわかってきた感じです。


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2008年11月11日

衰退産業の構造調整

 『朝日』の「ビッグ3、国にすがる公的資金、生き残りへ頼みの綱」という記事を読みましたが、ちょっとだけ気になる数字が。「米国の自動車業界は産業の多様化とともに米経済での存在感は徐々に小さくなり、すでに国内総生産(GDP)に占める割合は3%」とありますが、以前はどの程度だったのだろうと。GDPの3%というと小さく見えますが、日本の場合でもほぼ同様の水準です。平成18年度国民経済計算 (平成12年基準・93SNA データはこちら)の「5. 付表」の「経済活動別の国内総生産・要素所得」のうち、「固定基準年方式 実質暦年」のデータから計算すると、1996年には輸送用機械が国内総生産に占める割合が約2.0%だったのが、2006年には約2.9%に上昇しています。また、農林水産業の場合、1996年には約1.7%のが2006年には約1.5%に若干ですが、ウェートが落ちています。産業の特性があるのでいささか乱暴ですが、GDPに占める割合という点からのみ見れば、自動車産業を救済すべきではないのなら、農林水産業も保護すべきではないでしょう。もちろん、悪い冗談ですが、金銭的な合理性からすると、自動車産業を保護すべきではないのなら、海外からの輸入によってある程度、代替することができる農林水産業保護など論外です。露骨に言えば、衰退産業への対応は経済合理性では説明がつかない部分が大きく、政治的問題としての側面が強いのでしょう。

 オバマ関連だったこともあって自動車産業が注目されたようですが、実体経済の低迷によって、金融機関の不良資産が拡大する状態が予想されます。AIGの救済に関しても、英字紙、邦字紙が報道していますが、TARPの目的であった、"troubled asset"の処理は景気悪化とともに困難を増してくる事態が予想されるでしょう。TARPで確保した7,000億ドルのうち、3,500億ドルは金融機関の資本注入に利用されましたが、経済情勢がさらに悪化してくると、7,000億ドルでも足りないという事態が生じるのかもしれません。可能性でしかありませんが、金融機関の"bailout"にさらに公的資金が必要となったときに、オバマは直接には議会、より広くは世論の支持をえるために腐心しなければならない局面がやってくるかもしれません。米自動車産業の救済が大きな論点であること自体を否定するつもりはありませんが、金融システムの安定は、あるレベルで抑制している段階で、それ以上の解決に踏み込むためには政権のリーダーシップと説得力が問われる厳しい局面もありうるでしょう。

 EU諸国内でも経済政策がバラバラだという指摘もありますが、アメリカをはじめ、金融システム不安をあるレベルまでに抑制するためには、金融機関への公的資金の注入や不良資産の買い入れなど納税者が不満をもちやすい政策的イッシューが国家間の協調以前に生じるでしょう。各国の政治的指導者の説得力が問われる厳しい局面が続くと思います。


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2008年11月09日

田岡元帥が語る"Dr. Strangelove"の世界

 某巨大掲示板群に田岡俊次氏の『愛川欽也のパックイン・ジャーナル』における発言の一部が紹介されていました。そんなに間違ってもいないのですが、微妙にニュアンスが伝わっていなかったような。「元帥」というあだ名(あるいは「逆神」)は、マスコミ板の「田岡俊次を囲む会」(2001年ごろかな)で知りましたですね、はい。過去ログを読みたい方はご自由にネットで検索してください。それにしても、立場が違うがゆえに痛いところをついてきますね。ちなみに、この番組を見ていた時期もありますが、いつだったか、金美齢さんが本当に怒ってしまったとき以来、まったく見なくなりました。以下は、番組(2時間)の最後の約30分で田母神前航空幕僚長更迭の話題における田岡元帥の発言を適当に抜き出したものです。幕僚長の水準という国家機密を漏らしてしまったという皮肉はネットで散々、見ているので省きましたです。

 番組全体の雰囲気は、左派の立場から、(1)田母神氏の歴史認識が事実のレベルで間違っている、(2)政府の対応のまずさを追求すべき、(3)今週の国会で野党がもっと追及すべきというあたりでしょうか。

○問題なのは、彼が奇矯な人物でも、突飛な人物でもないってことなんです。一番正統的な教育を受けて、防大を出て、幹部学校、指揮幕僚課程というエリートの学校を出て、優秀な成績で……37歳で中佐ね、二佐ね、41歳で大佐とかね。抜群の出世をずっとしてきて……。これがまだまともな人なんです。

→この後も、「まだマシな方」とか「自衛隊は世間知らず」など悪意はこもっている表現が多いものの、まあ、わからんでもないなあという話を連発。

○大臣が不快を表明したら、栗栖さんは辞表をもってきた。ところが、彼はもってこなかった。防衛省は頭を抱えた。彼は日本の高官の伝統文化を破壊した(日本の伝統文化を守れといっている人こそが破壊したという皮肉)。

→確かに、高位高官らしからぬ振る舞いと対応で疲れました。はい。外野で見ていても疲れるので、ひそかに中で疲れた方に敬礼!元帥の話では、高官が辞表を出すときに、審理にかける必要はございませんと一筆添えるんだそうです。前空幕長は辞表を出さないだけでなく、審理にかけてくれと開き直った。それで、やむをえず、退職扱いにしたとのこと。手続きの細かい点を理解していないので私の聞き間違いかも。

○更迭の理由は官房長に文書で届を出して承認をえなかったこと。防衛大の学生ですら、外で論文を発表するときには律儀に官房長に届けを出して承認をえている。

→スタジオ内の雰囲気では歴史観がおかしいからといって更迭するわけにはゆかないから、更迭する理由はないじゃないかという話に元帥が反論。政府の立場を元帥が説明するうるわしい光景。

○(メディアはなんでもっと田母神氏の歴史認識を追及しないのだという意見に対して)実は、新聞記者も自信がない。下手に手出しをすると足元をすくわれるので、勇気がない。

→番組では張作霖爆殺事件などをはじめ、おかしな点が指摘されていたものの、この種の陰謀論に反論するには、反論する側の能力が低いと、一つでも不正確な知識があると、陰謀論を主張する側が「それ見たことか!」となるので、臆病なジャーナリストを批判はできないですな。

○(APAの懸賞論文に自衛隊員が多数、応募しているのは防衛省に責任があるという批判に対して)『産経』、『正論』ばかり読んでいるのが多い。(だからといって)『産経』、『正論』ばかり読んでるのが、けしからん、危険思想とまではいいにくい。

→うーむ、こんな「正論」を出されてしまうと、参りますなあ。そこまで単純な話でもないでしょうが、まあ、わかりやすいのは間違いないか。

○空幕長だけじゃなくて、彼に対する内局の措置がけしからんと言って航空自衛隊がほとんど団結していると。広報だって内局に言うらしんですよ。いろんなメールがきておりますと。国民の8割は田母神空将を支持しておりますと。

→とどめの一言。これにはぐうの音も出ない。この話題は打ち切りにしようという気分にしてくれた一言。獅子咆哮弾(完成型)をいくらでも打てそうな気分です(まさに「「重い『気』を生じ『気』を落とし、『気』が沈む…」)。

 元帥をはじめ、スタジオの皆さん、とっても嬉しそうでしたね。もう、この話題をやっていると、抑鬱を超えて涅槃の境地に達しそうなので(なんだかリアルで"Dr. Strangelove"を経験した気分)、これにておしまい。


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2008年11月08日

気分しだいに馬政権を眺める

 ふわあ。風邪でだるいですし、風邪薬で眠いです。なんでオバマ当選でこんなに日本の新聞が大はしゃぎするのか不思議ですが、ノルウェーからは冷や水がとんできていて、苦笑いしてしまいました(ペイリンの評価は同意いたしかねますが)。正直なところ、1回目の討論会を見た段階ではどちらもたいしたタマではなさそうねという感想で、その後、オバマが煽りに強くなったようですが、人間というのは40もすぎると、地はそう変わらんからなあという感じ(日本の選挙だったら、無党派層というより無関心層に分類されそうです)。「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案について」もバカな作文のおかげでタイミングが悪いですしね。そんなわけで、例によって『世界の論調批評』「中台関係」 2008年10月30日(木) )で紹介されていたTed Galen Carpenter,"Taiwan's Delicate Détente"(原文はこちらから。初出:Wall Street Journal Asia, 2008)を読んでいました。ケイトー研究所というのが微妙にひっかかりましたが、馬英九氏が台湾総統に選出されてからの中台関係を手際よく整理していて、なるほどという感じ。『世界の論調批評』では「中国は今、馬英九政権への対応をどうしたらよいのか決めかねて、むしろ困惑しているのではないかと思われます」という分析はなるほどと思いました。

 Carpenterはワシントンと北京は馬政権の誕生でホッとできると考えていたが、中国が譲歩しないので楽観論が消え去り、問題は北京の方にあると指摘しています。また、台湾の有権者は中国との関係を強化することを望んだが、大陸との宥和政策を実施することを認めたという気はさらさらなく、まして統一などというのは論外という指摘は、台湾総統選の有権者の気分をそれなりに伝えていると思います。Carpenterは馬政権で実施された中台直行のチャーター便をはじめ、実務的に両岸関係を強化する政策に大陸側が十分に答えておらず、馬政権は苦境に陥っていると分析しています。

 馬政権の譲歩への見返りとしてCarpenterが挙げているのが、台湾を標的とした1200基のミサイルの撤去やWHOなどの国際機関へ台湾が参加することを認めることなどです。こうしてみると、"Ma thaw"は確かに対応が難しいなあと。馬総統自身も中国と台湾が普通の国と国との関係ではないと述べてはいるものの、同じ立場で大陸が馬政権と接するに、見返りを与えることが難しい。そこまで見通していたのなら馬総統も相当のやり手でしょうが、たぶん、意図せざる結果なのでしょう。そんなわけで、台湾国内では一方的な譲歩と映り、10月21日には海峡両岸関係協会の中国側代表が台湾南部で民進党支持者と取っ組み合いになり、日程を切上げて北京に戻るというひどい状態になったようです。25日のデモはその流れも大きく影響しているようです。

 CarpenterのGlobal Views Survey Research Centerの調査結果も興味深いです。台湾と大陸が最終的には統一すべきだという見解に67.5%が反対で19.5%が賛成とのこと。さらに、公式に独立すべきという立場が50.6%で反対は34.1%。現時点での台湾の世論の大勢は、やはり統一には反対で、馬政権に対する中国側の反応を見て独立してしまえという気分が過半を占めるという状況のようです。陳政権が独立を主張して米中の反発をくらったのを見て統一は嫌だが独立はどうなんだろうと逡巡したものの、中台関係を改善しようとしても、台湾側が譲歩するだけの結果になり、フラストレーションがたまっているのでしょう。前政権の腐敗と景気の悪化の方が投票行動に、より直接的に影響を与えたとは思いますが。時期尚早という気もいたしますが、馬総統の実務関係を重視する政策は、意図と反して台湾の独立意識を高めていると思います。

 Carpenterは、2012年の総統選で民進党が有利になるだろうと予想しており、現状では危機の可能性を除去できないと述べています。楽観はできませんが、「こうした状況下で、中国が万博後の2年間に抜本的な変化を実現しようとすれば、使える最大の梃子はその軍事力しかないでしょう。そしてそれが使えるかどうかは、その時の軍事バランスと米政権の姿勢いかんによりますが、中国がその2年間も何もできないまま過ごす可能性も、十分出て来たように思われます」という評価は概ね、妥当だと思います。この慎重な留保条件である「軍事バランスと米政権の姿勢いかん」は素人にはわかりかねますが、オバマが通常の民主党大統領とさほど変わらなければ、一時的に中国に宥和的な対応をしても、それに中国が応えない場合、共和党政権よりもかえって強く出る可能性もあるのでしょう。


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2008年11月06日

"Yes We Can"は変わらないことを演出できるのか?

 風邪薬でこれほどまで眠くなるとは……。一日中、頭がボーっとしていました。とにかく、集中力を維持するのが精一杯。珍しく午後9時からのNHKのニュースを見ておりましたが、これは大変だなと。これだけオバマ次期大統領への期待値が高いと、どうやって政権への期待値を妥当な水準に落としてゆくのに苦労するような気がします。今回の大統領選挙で確定した"change"は、大統領選挙が正常に行われて、次期大統領が確定したことぐらいですから。"Yes We Can"が経済における政府への依存心に変われば、かなりまずいような。オバマがよほど上手に期待値を下げないと、かなり厳しい事態に陥るでしょう。率直なところ、金融危機をあるレベルで安定させるのが精一杯で、すぐに生活レベルで対策が打てる状況だとは思えないですから。もっとも、"Troubled Asset Relief Program"の成立過程でマケインとともに議論に参加していたわけですから、私などが書かなくても、理解されているのでしょうが。

 外交や安全保障でも劇的な変化というのは困難だと思います。イラクからの全面撤退は、いくら治安情勢が大幅に改善したとはいえ、マリキ政権がとても独り立ちできるところまでいっていないわけですから、イラク情勢を不安定化させかねないでしょう。さらに、アフガンに兵力を投入するというのは、イラクの治安改善と同列には議論できないでしょう。言いにくいですが、ブッシュ政権が「バターも大砲も」という時代を7年近くやった結果、それでもアメリカの選択肢は他国よりもはるかに大きいとはいえ、かなり制約されていると思います。現実問題としては、ブッシュ政権末期の政策を大幅に転換するのは難しいと思います。他方で、英米系メディアのブッシュ政権への支持率は軒並み20%であるのに加えて、不支持率が70%を超える状態です。ホワイトハウスの主は他の国の首脳よりも世界に与える影響力が大きいとはいえ、すべてを意のままにすることはできない。ホワイトハウスの主が変わること自体、"change"でしょうが、現政権の不支持率はそれ以上の変化を望んでいることを示しているのでしょう。オバマ政権が発足した後、事実上、ブッシュ政権と同じことをしなければならない場合、"change"がそのような印象を打ち消す可能性もあれば、やっぱり変わらないのかという失望に変化する可能性が高い。"Yes We Can"はアメリカ人らしくそれ自体は好感がもてますが、選択肢がそれほど大きくはないことを人々に伝えることはよほど難しい。

 アメリカ人の大部分はブッシュ政権の下で「閉塞感」を感じていたのでしょう。オバマは、党派間対立を克服しうる人材としてかなり早くから注目されていました。"Yes We Can"は、アメリカの民主主義の「復元力」の現われなのかもしれません。しかし、現在のアメリカが自らと世界に及ぼすことができる影響力は8年前と比較すれば、はるかに落ちている。そのような現実を受け入れるスローガンになるのか、現実を拒絶するスローガンになるのか、それとも、オバマが大衆が見たいと欲する現実を見せるためのスローガンにできるのか。ありきたりですが、風邪薬でボーっとした状態で、そんな「寝言」が浮かびました。


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2008年11月04日

田母神作文よりも大切なこと

 連休中、どうしてこんなにだるいんだろう、何もやる気がおきないんだろう、うつ病なのかと思っておりました。病院で血圧を図ってもらうついでに体温を測定したところ、37.0度ジャスト。血圧は92で看護婦さんがびっくりしていて、私の方が「こんなもんですよ」と話しておりました。前回の採血の結果を伺いながら、おっさんの口を「あ〜ん」してとやらなくてはならないお医者様も大変だなあと思いながら、「風邪ですな」の診断。SARSとかだったら大変ですが、咳もなく、微熱が続いているようで、とりあえず、休暇をとってくださいなとのこと。まあ、現実には断れない仕事が山積していて、寝ているわけにはゆかないのがつらいのではありますが。

 診察後は、心電図に採血。採血のときに、看護婦さんが「今日は気もちいいぐらい、よくでますねえ」とニコニコしているので、「まさか血が止まらないってこと?」と不安になりましたが、「ね、ピューという音がしてるでしょ?これだけ勢いがいいと気もちいいですね」(危ない人と見られていると思っていたのは自意識過剰だっただけで天然の方なのかも)とおっしゃるので、「うーん、血が有り余っているから抜いていただいた方がいいかもしれないですね」と囁くと、ニコッとしていました(医学用語がわからないのですが、毎回4本分ぐらい採血していただいております)。ちとエロイ会話のような気もしますが、今日も痛みがなく、ありがとうございましたと言って、会計を済ませました。風邪薬に抗生物質を服用するのは2年ぶりぐらいで、もう眠たいので、今日はいつよりはるかに手短に参ります。

 若い人で某巨大掲示板群を見ていそうな人に、字をわざと書き間違えて「俺のボケが始まるのもコミンテルンの陰謀」とやったら、耐え切れないのが約2名。私も見ているとわかって調子に乗りやがって、「作業が進まないのも」といいかけた瞬間に、「それは君の能力の問題」とマジレスしたら不満そうだったので、そういえば、あのお方は公務員の身分で個人献金していたんだよなとネタをあげると、「それじゃあ、日教組とたいして変わらないんじゃないですか」とびっくりしていました。

 そう言われれば、同一視はできませんが、似ていないこともないなあと。相手を自分の思想に取り込もうとしようとしているのに、妙に押し付けがましいあたりとか、敵視している勢力が消えてしまえばこの世が一気に明るくなるという奇妙な「楽観論」あたりですね。話が例によって、とりとめがなくなりますが、私自身の日教組へのスタンスは、あくまで労働組合として活動すること(勤務時間内の組合活動は論外)、教員である以上、職務上の言動に関して政治的中立を守ってほしいというあたりですが、国旗・国歌はわからないところが多くて、今ひとつピンとこないです。記憶に残っているところでは浜松市の小学校の卒業式と中学校の入学式・卒業式、静岡市の高校の入学式・卒業式ですが、全部、国旗は当然で国歌斉唱も当たり前だったので、騒いでいる方たちはいったいどんな教育を受けてきたのだろうかと。国旗掲揚・国歌斉唱は当たり前じゃないのかと思うのですが、そうじゃないからどうすると言われても、普通のことを普通にやれとしか言いようがなく、われながら無策。もっとも、思想がどうとかよりも、単純に大都市圏の公教育が崩壊しているだけではと思ったりします。

 うっかりしておりましたが、防衛省・自衛隊のHP内の「報告書等」で平成20年(2008年)3月21日には「護衛艦『しらね』の火災事案について」、「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案について」の報告書がでていて、どちらも読むと非常に深刻な問題だなあと。「艦船事故調査委員会による調査について」にあまりに力を使いすぎている気もします。もちろん、あたごと漁船の衝突事故も不幸ではありますが、いかれた「外道」の目には前二者のほうがはるかに防衛への影響が大きいと感じますので。とくに、「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案」に関しては、報道よりも報告書の方が、間接的な表現が多いところが部外者にはわかりにくい点も多いのですが、事態の深刻さを浮き彫りにしているように感じました。前空幕長(IMEがバカすぎるのでうっかり「空爆長」と変換しかねないのが怖いのですが)の騒ぎが収まってからでないと、単なる防衛省・自衛隊バッシングととられかねないですし、軍事音痴で理解が行き届かないことを痛感する上に、風邪もきついので落ち着いてからにします。ただ気になるところは山ほどあり、たとえば報告書本体の「2 調査結果」(2頁)の冒頭(「(1)プログラム業務隊関連 ア 流出した資料の作成」)から問題の難しさを感じます。

 イージスシステム等のプログラムの作成、維持管理等を担当する部隊であったプログラム業務隊(横須賀)のプログラム第2科に勤務する3等海佐G、3等海佐H、3等海佐Iは、平成9年頃から12年頃までにかけて、同部隊への新着任者の教育に使用する目的で、米国留学中に得たイージスシステムへの新着任者の教育に使用する目的で、米国留学中に得たイージスシステムの性能等に関する知識や米国から供与された文書等を参考に、「イージス概要」と題するパワーポイント資料等の教育用資料を作成した。
 これら資料の中には、日米相互防衛援助協定等に基づき米国から供与された装備品の性能等についての情報が含まれていたことから、「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」に規定する特別防衛秘密(以下「特別防衛秘密という。)に該当するものがあったが、特別防衛秘密としての登録は行われないなど不適切に取り扱われた。

 最初の方で躓いては、しみじみこの問題を論じるには力不足だなと思うのですが、このあまりに淡白な叙述では、官公庁の文書なのでやたらと「等」がついてそれ以外がそもそもあるのか、存在するとしてどのような規定なのかという問題はやむをえないとしても、次の3点がわかりません。第1に、「『イージス概要』と題するパワーポイント資料等の教育用資料」に特別防衛秘密に属する事柄を含めなければ、資料ができなかったのかという点です。どうも、ここでの叙述ではわからない。もちろん、教育用資料とはいえ、海自が「装備品の性能等」について無知では困るのでしょうが、「日米相互防衛援助協定等に基づき米国から供与された装備品の性能等についての情報」を含める必要があったのかどうかということです。第2に、「日米相互防衛援助協定等に基づき米国から供与された装備品の性能等についての情報」が特別防衛秘密に該当するのか否かという問題について資料を作成したとされている海佐3名がどのように自覚していたのかという点です。この点に関しても、調査結果としては非常に不満です。第3に、「イージス概要」が特別防衛秘密としての登録を行うか行わないのかの判断を行うべき主体が資料作成者にあるのか、資料作成の上長にあるのかがまるでわからない。報告書の内容の信憑性が疑わしいのではなくて、責任と権限の所在と関係に関する分析がどうも不明瞭な印象があります。防衛機密に関わることなので、すべてを公表するべきだとは思わないのですが、資料作成段階から報告書では曖昧な点が多く、分析ができない印象があります。これを読んで、そんなこともわからないドさんぴんには「猫に小判」なんだよと麻生首相にすごまれたら、つい納得してしまいそうですが。

 ただし、報告書の「4 事案が与えた影響」には次のように記されています。

 本調査において、特別防衛秘密の自衛隊外への流出は確認されなかったものの、イージスシステムに係る秘密情報が、海上自衛隊内において多数の隊員へ流出し、また、一部隊員はそれを自宅で保有していたなど外部流出のおそれも否定できない状況が存在していたことは、情報保全に係る極めて重大な問題であり、海上自衛隊、ひいては防衛省全体としての情報保全体制に対する国民の大きな不信を招くとともに、日米安全保障体制や関係国との関係にも影響を及ぼしかねないものであった。また、自衛隊内においても、隊員の士気に多大な影響を与えることとなった(11頁)。

 イージスシステムに関する情報漏えいは、直接的な国民の不信はもちろんですが、日米安全保障体制への影響を通して間接的な国民、あるいは国益を害する部分が大きいとはいえ、やはり私たちがこのような問題に関心を持ち続けてゆく必要があるのだろうと。ただ、私のようなど素人にはわからない話も多いので、現在でも防衛省は努力されていると思いますが、必要な情報を丁寧に公開していただきたいです。不祥事なども、世論では単なる勧善懲悪に流れやすいのはある程度まではいたしかたないので、事実の確定と分析という地味な作業をいっそう丁寧にやっていただきたいと思います。「しらね」のCICにおける火災に関する報告書を読むと、なかなか難しいことも理解できるのですが。

 八つ当たりではなく、マスメディアは扇情的にビジュアルでわかりやすい「あたご」の事故ばかりを報道するのではなく、地味でわかりにくいが影響が甚大になる可能性のある事案に継続的な報道を願いたいと思います。と書いた瞬間に、「まあ、メディアに期待するなんて、『こみん☆てるん』にローズヴェルトが操られていたと考える人たちを説得できると考えるの同じぐらい無駄な話だな」と涅槃の境地になりそうなのが、悲しいと感じる程度には不幸せではありますが。


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2008年11月03日

敗戦でえた資産を守るには

 田母神氏の作文の内容についてはいろいろツッコミをされている方もいらっしゃるようです。通常の国であれば、空軍のトップの方が披露された歴史認識としては、あまりに悲しい感じもいたします。読みようによっては、「日本は(コミンテルンに操られた愚鈍な)ルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行」し、結局、首都をはじめ大都市が焼け野原になり、広島・長崎に新型爆弾を投下されてボロボロになり、ソ連の参戦で心が折れて滅亡したというひどい歴史観になってしまいますからね。まさに「当時の我が国の指導者は(ミエミエの罠をまるで見抜けなかった)みんな馬鹿だったと言わんばかりである」という、これほどひどい自虐的な歴史観を読んだのははじめてです。コミンテルンの「暗躍」があったことは漸く史料で確認できる状態になったところで、こんな作文がでては、まともに研究しようという人にとってはかわいそうな気もします。

 クリントン政権の時代には日米関係がこじれたときに、自衛隊と米軍の連携が最後の砦となってきました。冷戦後も日米安全保障体制は、日本にとってだけでなくアメリカにとっても必要な枠組みでした。日本の地理的な位置が大きいのでしょうが、自衛隊の練度の高さや規律のレベルの高さなどがアメリカから見ても、侮れないという現実があったのでしょう。他方で、現在では海自におけるイージス艦の情報漏洩や「しらね」のCIC(戦闘指揮所)への中国製冷温蔵庫の持込による火災など、海自が主ですが、自衛隊の規律自体に疑問をもたざるをえない問題であり、また、「友軍」である米軍の信頼感を損なわせる不祥事が生じています。マスメディアが「あたご」の事故に集中してくれているおかげで、危機感が薄くなっている印象があります。MDの配備・運用では情報の共有が必要となりますが、大丈夫だろうかと感じてしまいます。

 さらに、沖縄をめぐる米軍基地の問題は解決をみたとはいえない状態です。私も威勢のよいことばかり書いておりましたが、日米間の安全保障をめぐっては解決しなければならない問題が多く、なおかつマスメディアが長期的に取材して問題を追跡するという状態ではありません。

 六カ国協議の枠組みを極東の地域協議機関に格上げしようという動きがアメリカ国内で強まっています(こちらこちら)。「現実主義者の平和論」で高坂正堯先生が「極東ロカルノ方式」を提唱した頃とは時代背景が異なる部分が多く、とりわけアメリカが中国抜きでは極東の政策をマネージできない状態だということを象徴しているのでしょう。冷静に見て、アメリカは日本よりも選択肢が広く、地域集団安全保障体制を目指す方向に動く可能性は否定できないでしょう。その際、日米安全保障体制を代替するのではなく、補完するように用心深い日米関係の強化が不可欠な条件です。アメリカも中国の言い分を完全に通してしまっては利益が相反することも多いでしょうから、日本というパートナーが不要となる可能性は低いでしょう。過度に悲観する必要はないのでしょう。しかし、基地問題やMDの配備、情報の共有体制などを考慮すれば、これまでの日本側の対応のスピードを考えると、日米安全保障条約を廃棄までゆかなくても、形骸化するインセンティブをアメリカ側に与えかねません。

 今日の安全保障問題をめぐる混乱は、戦争に負けたこと自体というよりは、占領期のアメリカの再三の再軍備要請にあまりに消極的だった吉田茂の「負の遺産」とその後も、再軍備に関する合意形成を怠ってきた結果でしょう。以前、「統治の不在」という表現をしましたが、今後の合意形成は戦後世代が多数を占める中、「憲法改正」や「東京裁判史観の克服」といった問題の本質を曇らせかねないスローガンによるのではなく、この国の安全を守るための死活的利益はなにか、それを実現する手段はなにか、その手段の費用対効果はいかほどかなどを議論する土俵を作る地味な作業になるでしょう。ただ、そのような作業に入るには日米安保が存続できるのかというところまで追い込まれなければ、党派的対立が克服できないのではという一抹の不安がありますが。


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2008年11月02日

田母神俊雄航空幕僚長の「日本は侵略国家であったのか」に関する英米の反応

 田母神俊雄航空幕僚長の「日本は侵略国家であったのか」という作文が2008年10月31日、アパグループ第一回「真の近現代史観」懸賞論文最優秀藤誠志賞を受賞されたそうです。上記の受賞作は、アパグループのHPに日本語だけでなく英語版もPDFでアップされています。同日、田母神航空幕僚長は航空幕僚監部付となったそうです。内容を読みますと、「よその国がやったから日本もやっていいということにはならないが、日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない」という程度の話の気もしましたが、日米戦争に至るプロセスで、「ヴェノナファイルというアメリカの公式文書」にもとづいて、ハル・ノートの書いたとされるハリー・ホワイトがコミンテルンのスパイだったと断定しています。

 また、田母神氏によれば、「ルーズベルトは戦争をしないという公約で大統領になったため、日米戦争を開始するにはどうしても見かけ上日本に第1撃を引かせる必要があった。日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行することになる」だそうです。アパグループの「真の近現代史観」の第1回の懸賞論文で最優秀藤誠志賞に選ばれたのは、このような現代の「タブー」に挑戦する作文でした。

 英語版が出されたせいか、海外でもそれなりに報道がされているようです。ネットでも注目されているBBCの"Japan air force chief faces sack"(参照)では日米開戦の経緯に関する田母神氏の主張を簡潔に要約しています。

He also argued that Japan was drawn into World War II by then US President Franklin D Roosevelt.

He said Roosevelt had been manipulated by the Comintern, the international communist organisation founded in Moscow in 1919.


 BBCはとくにこの点に関して論評しておりませんが、サイトを見ると、真珠湾攻撃の写真が掲載されています。これを見ろというところでしょうか。また、元の作文では「ローズヴェルトがコミンテルンに操られていた」とまでは断定していないと思いますが、まあ、そう読まれてもしかたがない叙述ではあります。読みようによっては、ローズヴェルトが狡猾かつ愚鈍だったとも読めますし。

 また、AP配信の記事がInternational Herald Tribune紙やWashington Post紙などで配信されているようです(参照)。こちらも、田母神氏の韓国併合や日中戦争などに関する叙述を引用していますが、とくに論評らしきものは見当たりません。淡々と叙述を引用しております。その上で、こちらが本題でしょうが、田母神氏の日米開戦の経緯に関する叙述をBBCよりもやや詳細に引用しております。

Tamogami also claimed that Japan was tricked into attacking Pearl Harbor on December 7, 1941, by U.S. President Franklin D. Roosevelt.

Japan was "snared in a trap that was very carefully laid by the United States in order to draw Japan into a war," he wrote.

"Roosevelt had become president on his public pledge not to go to war, so in order to start a war between the United States and Japan, it had to appear that Japan took the first shot. Japan was caught in Roosevelt's trap and carried out the attack on Pearl Harbor," he wrote.

 通信社電ですので論評が少ないだけかもしれませんが、愚論には余計な反論や評価を加えずに、それ自体、淡々と語らせるという英米紙の流儀なのかもしれません。私の深読みですが、軽蔑している感じもいたしますが。まあ、この件がなくても、どのみち、アメリカの極東、ひいてはアジアにおける第1のパートナーは中国になるのでしょう。度重なる防衛省・自衛隊の不祥事を見ておりますと、日米同盟などと称するのはおこがましく、日米安全保障条約をどうやって維持してゆくのか、腐心してゆくのが肝心なのでしょう。


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