2008年11月08日

気分しだいに馬政権を眺める

 ふわあ。風邪でだるいですし、風邪薬で眠いです。なんでオバマ当選でこんなに日本の新聞が大はしゃぎするのか不思議ですが、ノルウェーからは冷や水がとんできていて、苦笑いしてしまいました(ペイリンの評価は同意いたしかねますが)。正直なところ、1回目の討論会を見た段階ではどちらもたいしたタマではなさそうねという感想で、その後、オバマが煽りに強くなったようですが、人間というのは40もすぎると、地はそう変わらんからなあという感じ(日本の選挙だったら、無党派層というより無関心層に分類されそうです)。「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案について」もバカな作文のおかげでタイミングが悪いですしね。そんなわけで、例によって『世界の論調批評』「中台関係」 2008年10月30日(木) )で紹介されていたTed Galen Carpenter,"Taiwan's Delicate Détente"(原文はこちらから。初出:Wall Street Journal Asia, 2008)を読んでいました。ケイトー研究所というのが微妙にひっかかりましたが、馬英九氏が台湾総統に選出されてからの中台関係を手際よく整理していて、なるほどという感じ。『世界の論調批評』では「中国は今、馬英九政権への対応をどうしたらよいのか決めかねて、むしろ困惑しているのではないかと思われます」という分析はなるほどと思いました。

 Carpenterはワシントンと北京は馬政権の誕生でホッとできると考えていたが、中国が譲歩しないので楽観論が消え去り、問題は北京の方にあると指摘しています。また、台湾の有権者は中国との関係を強化することを望んだが、大陸との宥和政策を実施することを認めたという気はさらさらなく、まして統一などというのは論外という指摘は、台湾総統選の有権者の気分をそれなりに伝えていると思います。Carpenterは馬政権で実施された中台直行のチャーター便をはじめ、実務的に両岸関係を強化する政策に大陸側が十分に答えておらず、馬政権は苦境に陥っていると分析しています。

 馬政権の譲歩への見返りとしてCarpenterが挙げているのが、台湾を標的とした1200基のミサイルの撤去やWHOなどの国際機関へ台湾が参加することを認めることなどです。こうしてみると、"Ma thaw"は確かに対応が難しいなあと。馬総統自身も中国と台湾が普通の国と国との関係ではないと述べてはいるものの、同じ立場で大陸が馬政権と接するに、見返りを与えることが難しい。そこまで見通していたのなら馬総統も相当のやり手でしょうが、たぶん、意図せざる結果なのでしょう。そんなわけで、台湾国内では一方的な譲歩と映り、10月21日には海峡両岸関係協会の中国側代表が台湾南部で民進党支持者と取っ組み合いになり、日程を切上げて北京に戻るというひどい状態になったようです。25日のデモはその流れも大きく影響しているようです。

 CarpenterのGlobal Views Survey Research Centerの調査結果も興味深いです。台湾と大陸が最終的には統一すべきだという見解に67.5%が反対で19.5%が賛成とのこと。さらに、公式に独立すべきという立場が50.6%で反対は34.1%。現時点での台湾の世論の大勢は、やはり統一には反対で、馬政権に対する中国側の反応を見て独立してしまえという気分が過半を占めるという状況のようです。陳政権が独立を主張して米中の反発をくらったのを見て統一は嫌だが独立はどうなんだろうと逡巡したものの、中台関係を改善しようとしても、台湾側が譲歩するだけの結果になり、フラストレーションがたまっているのでしょう。前政権の腐敗と景気の悪化の方が投票行動に、より直接的に影響を与えたとは思いますが。時期尚早という気もいたしますが、馬総統の実務関係を重視する政策は、意図と反して台湾の独立意識を高めていると思います。

 Carpenterは、2012年の総統選で民進党が有利になるだろうと予想しており、現状では危機の可能性を除去できないと述べています。楽観はできませんが、「こうした状況下で、中国が万博後の2年間に抜本的な変化を実現しようとすれば、使える最大の梃子はその軍事力しかないでしょう。そしてそれが使えるかどうかは、その時の軍事バランスと米政権の姿勢いかんによりますが、中国がその2年間も何もできないまま過ごす可能性も、十分出て来たように思われます」という評価は概ね、妥当だと思います。この慎重な留保条件である「軍事バランスと米政権の姿勢いかん」は素人にはわかりかねますが、オバマが通常の民主党大統領とさほど変わらなければ、一時的に中国に宥和的な対応をしても、それに中国が応えない場合、共和党政権よりもかえって強く出る可能性もあるのでしょう。


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