2008年11月13日

共感するならカネを出せ!

 『家なき子』をドラマとしてちゃんと見たことが一度もないのですが、安達祐実の「同情するならカネをくれ!」の一言は妙に印象に残っております。どこで見たのか、記憶がはっきりしないのですが。ドラマとして見たことがないので、なんのひねりもなく、「そりゃそうだよね」という程度の感覚でしかありません。

 で、Thomas Friedmanの"Show Me the Money"というコラム(New York Times, November 9,2008)を読みながら、「オバマに共感するならカネを出せ!」と変な訳になってしまいました。あのドラマの中ほど切迫感はなく、イランとの関係を論じているようで、そうでないような微妙な感じ。オバマ次期大統領(と書くと、こちらでは"President-elect Obama"の訳としては不適切だとお叱りを受けそうですが)でなにが変わるのかという点がなかなか見えないように私などは感じてしまうのですが、やはり変わるようです。コラムの紹介としては失格ですが、このコラムで読むべき点は、イラン情勢そのものというより、ブッシュ大統領のときには、アメリカ大統領を「悪の権化」として描くのが容易だったがために、アメリカの覇権に各国が「ただ乗り(free-ride)」しやすかったのが、オバマはそうはいかないので、ただ乗りお断りという感じでしょうか。これはFriedmanの気分を私がそう読んだだけの話で、実際にアメリカの外交政策がそういう方向に動くのかは不明ですが、意図せざる補助線としては興味深く感じました。イランとの交渉を論じた"Sleepless in Tehran"というコラムはあまり面白くなかったのですが、こちらはタイトルからして読む気になりますね。

 もちろん、10月29日のコラムがしきりに強調している原油価格の急落という事態がイランをはじめ産油国にとって打撃であるのはそうなんでしょう。「イランは30%を超えるインフレーションと11%の失業率に直面している」("Sleepless in Tehran")という指摘は、経済制裁という"leverage"が効果的になる可能性を示唆しているのでしょう。ただ、Friedmanがイランをはじめ中東諸国との交渉で不可欠だと指摘する"leverage"がどうも具体的に見えず、すっきりしないコラムでしたが、11月9日のコラムは、オバマによる外交政策がどのように変化するのかという方向性の可能性(変な日本語ですがご容赦)の一つを示しているのでしょう。Friedmanのコラムをいかれた「外道」の目から見ると、ブッシュ政権は経済でも安全保障でも世界中に大盤振る舞いをしていた。ただし、他国の共感をえるという点で失敗したために、世界中がそれにただ乗りした。オバマは世界中から共感をえている。だったら、対価を払ってくれ。そんな主張のように見えます。

 もちろん、"Show Me the Money"で提示されている経済制裁を"leverage"としてイランの核開発を阻止すべしという主張が実現すれば、それに越したことはないのですが、なんとも微妙な感じです。北朝鮮では一時的な状態で終わるのかそうでないのかは不確定要素はありますが、米軍の軍事行動が抑止されていたために、結局、金正日総書記はアメリカとのリスクの高い賭けに成功しました。アフマディネジャド大統領が、アメリカあるいはイスラエルによる武力行使の可能性がないと確信すれば、北朝鮮と同様の賭けに出る可能性もあるでしょう。Friedmanが挙げているイランへの経済制裁でアメリカと組むべき諸国――中国、フランス、ロシア、インド、ドイツ――は、利害がバラバラで、共感、控えめに言っても「好感」というブッシュ政権にはない利点をアメリカがえたとしても、とても長期間にわたってアメリカを中心にまとまることは困難だと思います。対イラン政策としては、戦略性を欠いている印象があります。

 Friedmanのコラムが示しているのは、オバマ政権へ移行したときの外交政策の可能性というよりも、ブッシュ政権の下で孤立主義に戻れずに、ただただ孤独感を味わったアメリカ人の叫びなのかもしれません。オバマブームに鈍感だった私はこのあたりを忘れていたのでしょう。「時の最果て」とはいえ、あまりにひどい読み方ですが、これがすべてではないにしても、全米がオバマ氏の大統領選勝利に沸いた理由をようやくわかってきた感じです。


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