2008年11月16日

経済危機ラプソディ

 土曜日にNHKのBS1の番組、『地球特派員』の「悪夢はいつまで続くのか 世界金融危機 アメリカからの報告」を見ました。録画もしたので、あとはDVDに落とすだけと思っておりましたが、微妙な感じ。ノーベル賞受賞決定直後にクルーグマン先生にインタビューというのはタイミング的にはすごいなあと思いましたが、インタビューで彼が答えていることはあまりおもしろくなかったです。

 番組全体でも、最近の議論でも言えることですが、規制強化が必要なことはみんなわかっているのだけれども、具体的にどうするのかというアイディアとなると、乏しい。露骨に言えば、規制など非効率の塊のようなものですが、政府が市場の代わりをすることはできず、補完するのがやっとという事実自体は変わらないわけで、あまり政府に期待をもたせるのはどうかなと。もっとも、伊藤洋一さんの感想はおもしろくて、番組の最初の方でふだんのようにジョークや明るさがあるけれど、どこかでみんな不安を抱えているように見えるというあたりでしょうか。まだ始まったばかりですが、このような状況とどれぐらい付き合えばよいのかすら見当がつかないというところでしょう。あくまでニューヨークというアメリカでも特殊な都市の話でしょうが、アメリカ人の気分の一端を伝えているあたりがよかったと思います。

 不謹慎ですが、番組ででてきた4億円(記憶違いかも)の豪邸は、一度でいいから住んでみたいなと思ったものの、部屋の間取りや数を考えると、使用人を雇えるぐらいの収入と資産がなくてはダメなんだろうなと。いずれにしても、あのような家が飛ぶように売れるという時代は、二度と戻ってこないのだろうと感じました。

 クルーグマンあたりが実体経済への影響をどのように見ているのかが聞きたかったのですが、番組内では責任者はグリーンスパンだとか、コラムみたいな話でちと興ざめでした。正直なところ、ひいてしまいましたが、森永卓郎氏がGMの救済に環境保護技術の開発を目的にカネを入れるべきだと主張されていて、正直に企業救済と言わないと、政治的に説得するのがかえって大変だろうなと。いまさら、環境技術の開発のためにお金を入れると政府が表明すれば、その程度の危機感しかないのかという反応や「本音」と「建前」の違いが露骨すぎて反発も予想されます。最悪の場合、変なアナウンスをしてしまうと、政府の足元を市場が見て、かえって破綻を早めてしまうでしょう。

 もっとも、政策的に守るべき対象が企業なのか、アメリカの自動車メーカーが支えてきた雇用なのか、年金・医療などの社会保障なのか、面倒なようでも整理してゆかないと大変だろうなと思います。ひどいことを言ってしまえば、アメリカのメーカーが潰れても、政府が労働市場対策を行い、公的な社会保障制度を整える方が「社会的費用」が少なくて済むのなら、その方がよいのでしょう。現実問題としてGMが破綻するという社会的なショックがアメリカ人にとってどの程度なのかがつかめないと、政策がどの方向に向くのかすら、予想ができません。

 日本のポジションがよくなるという議論も私の頭では理解不能でした。空幕長のわけのわからん作文は別にしても(おかげでもっときつい経済危機への感覚を麻痺させてくれる程度の効能はあったのかもしれませんが)、日本政治は混迷し、金融危機の影響とは関係なく、景気は悪化しています。いわゆる「財政出動」にせよ、「金融緩和」にせよ、政府が危機へ無関心ではないというアナウンス以上の効果を期待できない状態を先進国ではまず日本が経験し、欧米が追随しているだけのような気もします。こんなものは「痛み止め」にすぎないのだが、それもしないとなるとさすがに政治的にまずい。日本のポジションがよくなったのではなくて、欧米も日本に近づいてきただけなのではというのが率直な実感です。まあ、この状況下でも消費意欲がもてるだけの所得と資産をもっている人たちが集まっているところにゆけば、景気が悪いと実感できないのは当たり前で、無闇に経済統計が整備されたおかげで集計量から導かれる平均からかけ離れたところにいると、この程度で済むはずがないという意見も出てくれば、本当に景気が悪いのかという意見も出てくるというだけの話でしょう。

 レバレッジを抑えた投資銀行なども紹介されていましたが、2000年代のような「バターも大砲も」という時代は去って、地味な時代に入る象徴でしかないのでしょう。金融工学が悪いというのは笑うしかない。かなり乱暴なたとえですが、核兵器が出現したら、核物理学が悪い(唯一の被爆国では物性が物理学でも圧倒的で、よく素粒子論とかでノーベル賞受賞者がでるというのはある意味、驚異ではありますが)というような感じ。技術をどう活用するのかというのは、結局、人間だということが忘れられていて、むしろ、経済評論家(いわゆる「エコノミスト」)の世界はしみじみ「脳死」状態なんだなあと実感しました。

 規制や救済にはアメリカ連邦政府の説得力がどの程度なのかということが肝要です。こちらではオバマが政権への期待値を上手に下げてゆくことが大切だが難しいということを書きました。番組内でも、大統領選挙直前のアメリカを取材した伊藤洋一さんがオバマ政権への期待感は、思ったほどでなければ、急速に失望に変わると指摘されていました。このあたりも番組では十分に議論されずに、終わりました。2009年に新政権が発足すれば、しばらくは悪かったことはブッシュ政権に押し付けることができるでしょうが、「ハネムーン」が短ければ、非常に困難でしょう。余計なお世話ですが、オバマは自分の理解や説得力が弱いと思っているところではついやりすぎる気がします。もちろん、気のせいでしょうけれども。

 既に、欧米も金融危機を金融セクターの問題に封じ込めることには失敗して実体経済に波及している以上、実体経済の悪化が金融セクターの悪化につながるというスパイラルに入ってくるでしょう。この連鎖をとめる方法はいまだに原理的にすらわかっていないので(原理的にわかっても政策手段として実現可能な話にできないと難しいのですが)、番組で揶揄されていた「絆創膏」で政策が後追いする事態が続くことを覚悟した方がよいのでしょう。


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