2008年11月17日

続・「先手の利」か「後の先」か

 てなわけで、経済とか政治とかあまりまともに見ていてもしょうがないなという感じですので、日曜日はなんと第21期竜王戦第3局の検討という、ど素人には無謀なことで時間を潰していたら、あっという間に時間がすぎてしまいました。小難しい話は経済評論家の方たちがなんとかしなさるのでしょう。市井の人は、どうでもいいことで時間を潰していると、考え込んでしまいます。検討といっても、手順がぱっと浮かぶ棋力は皆無なので、「後の先」がどこまで通用するのかという、いかにもアバウトな感覚なのですが。ただ、本局では、羽生名人が結果的に渡辺竜王を圧倒した形でした。内容的にも羽生名人の言い分が一方的に通ってしまった感がありますが、ちょっと不思議な感じです。子どもの頃は、角換わりの将棋というと、先手から角を交換して、棒銀で攻め倒すとか、ちょっとかっこをつけて腰掛銀というあたりで、やはり後手から角を交換するという感覚は不思議です(木村定跡を並べたときには意味がわかっていなかったと思いますが、びっくりしました)。第1局の様なタイプもあるので、現段階ではなんともいえないのですが、先手に有効な対策がない限り、本局のようなタイプの一手損角換わりの局面を先手が避ける形になるのかもしれません。

 『竜王戦中継plus』(こちら)では、11月15日にさらに詳しい検討が加えられていて、他棋戦でも、これまでの竜王戦の中継でも珍しいです。中継サイトではA図に至る手順が不明瞭ですが、43手目から▲5三歩成、△4九と、▲2六角、△5九と、▲7七銀、△8六歩、▲同銀、△6九銀、▲5ニ歩という感じでしょうか。△8六歩をいれるタイミングが示されていないので自信がありませんが、上記のタイミングで△8六歩に▲同歩ですと、△8七歩が入って非常に危険な感じ。△8六歩を入れるタイミングはこのあたりでしょうか。△8六歩を入れない場合は、素人目には後手がやはりさせる感じですが。

 『第21期竜王戦中継』HP(こちら)の「棋譜plus」では34手目羽生名人が3三桂とはねたときに、次のような解説があります。

「羽生さんはこの将棋にするつもりだったんですね、午前中でここまで進めるということは」(真田七段)
11時半頃、消費時間は渡辺1時間2分、羽生1時間4分。
この将棋は過去に5局(先手1勝、後手2勝、1持将棋、1千日手)。最新の将棋は9月に行われた王位戦第7局▲羽生−△深浦戦の▲7七銀(羽生負け)。その将棋以外は▲7七角と指している。
控え室にNHK解説の行方八段が登場。「この戦型に過去の歴史を考えていました。王位戦は▲7七銀だったんですよね。でも、それ以降は指されていない。懸案の局面なんでしょう。▲7七角は△4四角と、佐藤流であまり自信ない。あ、▲7九玉と引く手はありますね。この一ヶ月間で、この将棋に対する全体の見方というか流れがずいぶん変わったと思います。」
森下−熊倉戦の第2局は、熊倉女流1級が勝ったようだ。「いやいや、お強いですねー。びっくりしました」(森下九段)
ここで昼食休憩に入った。消費時間は渡辺2時間29分、羽生1時間4分。


「▲7九玉は初めて見ました」(羽生)
「▲7七銀は自信持てなくて、▲7七角も冴えないので本譜を選びました」(渡辺)

 上記引用にもあるように、第49期王位戦第7局(棋譜などはこちら)では、まったく同じ手順で35手目に羽生名人が▲7七銀と指し、深浦王位は△3六歩と進めて、羽生名人は▲5四角と角頭を攻めています。ここまでは竜王戦と異なるのは▲7七銀と▲7九玉の違いだけですが、38手目には王位戦の検討陣が激しい順として挙げた、△3七角成という手がでています。以下、▲3七同桂、△同歩成、▲2六飛、△4七とと進んでいます。このあと、7七の地点で銀桂交換をして△8六歩、▲同歩、△8七歩と進んで、深浦王位が左右両翼から羽生名人の玉を囲む形になりました。ここでの形勢は正直なところわかりませんが、羽生名人の攻めを、深浦王位が飛車先を止めたりして和らげて勝っています。竜王戦第4局の解説で△8六歩を入れるかどうかが検討されているのはこのあたりのこともあるのでしょうか。私の棋力ではとても読み切れませんが。それにしても、壁銀を解消する手がかならずしもよくないとなると、先手の手が相当、制約されている印象です。

 翻って、この進行では35手目で先手が自信をもって戦える手が少ないのかもしれません。この進行自体、一手損角換わりの進行手順の一つに過ぎませんが、「先手の7九銀が0手で8八に移動した。すなわち後手一手損。将棋はたくさん指したほうが必ずしも有利というわけではないというのが、この作戦の骨子になっている」という後手の主張が通りやすい進行なのかもしれません。私の棋力では「寝言」そのものですが、先手が8八銀とするタイミングを後手が選択できるという効果が、この進行手順では如実にでてくるのでしょう。ただ、42手目では次のような解説があり、悩ましいです。

羽生はたいして時間を使わずに踏み込んだ。早い流れ。止まらない。
「止まったら死ぬって感じですね」(行方八段)
「もしかして終局の新記録を作ろうとしてるのかも…」(真田七段)
渡辺はしきりに首を振っている。胸の内は「羽生さんは何を勘違いしているのか」なのか「おいおい、これで負け?勘弁してくださいよ」なのか。
「断言しがいのある局面になりましたね。羽生勝ちです」(行方八段)
16時14分、モニターから渡辺竜王の大きなため息が聞こえてきた。羽生は席を立っている。
しばらくして、今度は「いやー…」。羽生はまだ戻ってこない。


「本譜を思えば▲5三歩成でしたね」(渡辺)


 王位戦第7局と比較すると、後手をもって羽生名人は38手目に△37歩成と深浦王位よりもさらに激しい手順を選びました。王位戦での深浦王位、竜王戦での羽生名人はともに大きな駒損ですが、竜王戦の方が居玉の玉頭に歩が進んでくるだけに、リスクが高いように素人目には映ります。「自宅警備飛車」の横利きが強いとはいえ、ここまで踏み込むのはさすがに相当、怖いです。さらに研究が進んでゆくのでしょうが、一手損角換わりの将棋で、この進行は後手の主張が通りやすい手順なのかもしれません。この将棋のみをとりあげて、「先手の利」か「後の先」かという問題に一般的なことはなにも言えませんが、フォロワーがリーダーにさらに先に進まざるをえない状況をつくることができる場合、「後の先」が生きるのかもしれないと感じました。

 私の場合、わけのわからない記号を使っていますが、将棋の世界はうらやましいものです。考えることと実際に指すことが一致して、それを試して結果を出すというのはちょっと憧れてしまいます。もちろん、間違っても、将棋棋士になろうとは思いませんでした。棋力があまりに低いがゆえに、中学時代には超えられない壁を感じて、「読み」からバッサリ捨てていましたから。それにしても、やはり勝負の世界は厳しい。渡辺竜王のブログで、「1日目の夜に48手目△5四歩の局面が思っていたよりも悪いことに気が付いて、自分にしては珍しく3〜4時間しか眠れませんでした。朝食も食べる気分ではなく、足取り重く対局室へ向かいました」とあって、淡々と事実と心境だけを語られていますが、ふだん健康であるがゆえに、このような肉体的な疲労に精神的な厳しさが重なるのは、私のように(頭がいかれているのは別として)年がら年中、病気ばかりしている者とは異なる、むしろ、はるかにつらい状態でしょう。渡辺竜王も王位戦第7局の将棋を知らなかったわけではないでしょうから、先手番で難解な手順を受けて立った(この時点で「後の先」なのかもしれませんが)ことはなかなかできることではないと思いました。


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posted by Hache at 08:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 気分しだいの寝言