2008年12月02日

防衛省「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案について」雑感

今回、取り上げる事案に関しては、2008年10月28日、横浜地裁で3等海佐に有罪判決が下りました。10月30日、この3等海佐は控訴しました。また、2等海曹に関しては様々な噂や憶測がとびかっておりますが、今回の関心はそこにはありませんので、すべて省きます。このような事件が通常の裁判所で取り扱われることに違和感を覚えますが、特別なつてもありませんし、ネットで見ても裏づけに乏しい話や意見が多い印象がありますので、防衛省が公表している下記の資料のみを参考とします。

防衛省「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案について」(平成20年3月21日(参照))

 事件の流れとしては、3等海佐Bが特別防衛秘密を漏えいし、防衛省の報告書の範囲ですら、実に多数の海上自衛隊員にイージスシステムの情報が流れました。この事態が発覚するきっかけになったのが、平成19年1月20日に神奈川県警による「しらね」乗組員である2等海曹の自宅を妻の出入国管理及び難民認定法違反容疑で捜査した際に、外付けハードディスクへ秘密が記録されていたことでした。防衛省の報告書では「3等海佐Bから2等海曹Aまでのイージスシステムに係る特別防衛流出の経緯及びそれ以外の者への流出の有無について明らかにする」ことを調査の目的としています。また、情報流出防止対策も提案されており、その後の実施などは防衛省のサイトでも報告がありませんが、再発しないことを祈るばかりです。

 この事案の影響として、防衛省の報告書は次の3点に要約しています。

(1)海上自衛隊および防衛省の情報保全体制に対する国民の大きな不信を招いた。
(2)日米安全保障体制や関係国との関係にも影響をおよぼしかねなかった。
(3)自衛隊において隊員の士気に多大な影響を与えた。

 (2)では明確には示されていませんが、アメリカとの信頼関係を損ねる可能性があったということでしょう。この認識が正しいのかは率直なところ、怪しいと思います。既に損なってしまったのではないかと懐疑的に見ております。特別防衛秘密流出が明るみにでたきっかけが神奈川県警の捜査というのはあまりにお粗末な印象です。さらに、公判記録が残るわけでして、さすがに核心のイージスシステムに関する情報部分は公開されないのでしょうが(公判記録に残っていたらゾッとしますが)、海自の情報保全体制のひどさ、それを裁く体制の不備などはいかに日米安保条約があるとはいえ、自衛隊と情報を共有するリスクの高さを、ある程度は感じていたのだろうと思いますが、米軍に痛感させたと想像します。

 もちろん、事案の影響として第一義的には防衛省・自衛隊は国民に責任を負っているわけで、国民の不信を招いたという認識は重要だと思います。しかし、現実問題としては、「あたご」と漁船の衝突事故の方が、事故という点では、もちろん不幸ですが、耳目を集めてしまうことは不幸でしょう。「イージスシステムに係る特別防衛秘密流出事案」の方がはるかに国防への影響が甚大だと感じる私の方がどうかしているのかもしれません。CICにおける火災によって「しらね」が事実上、廃艦寸前になり、200億円程度の支出が見込まれるという話をすると驚く人のほうが多いのが実態です。さらに、情報という対価が明確ではない話になると、興味をもつ方が変なのかも……。検索してみると、スパイ防止法を制定せよという主張の根拠としてこの事案をとりあげていることが多い印象がありますので、そのような政策上の主張とは切り離して、この事案から浮かび上がってくる、自衛隊というプロの組織ですら情報の「価値」への意識が希薄であるという事態を考えてみます。かなり鬱になるのですが。


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