2010年06月30日

サッカー日本代表ありがとう

 惜しくもPK戦で敗れましたが、本当にここまでありがとうと申し上げたいです。延長戦まで集中力が途切れることなく、体力的にも逞しく感じました。サッカーのテクニカルなことはまったくわかりませんでしたが、前半、主導権を握られていたのが、後半から徐々に主導権をとり返してきたのは相当の底力だったように感じました。最後は幸運の女神がパラグアイに微笑みましたが、これからの試合でパラグアイ代表がそれにふさわしいチームであるよう、頑張ってほしいです。

 決勝トーナメントを勝ち抜くという楽しみは残りました。とりあえず、睡眠不足を解消しなくては。
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2010年06月28日

オバマ大統領とマクリスタル解任メモ

 実質的には土日返上なので、自分用のメモです。まずは、RSSリーダーで読み込んだ、Washington Postが2010年6月25日付で配信した無署名の"Rolling Stone fact checker sent McChrystal aide 30 questions"という記事です。記事というよりも、Rolling Stone誌が更迭されたマクリスタル司令官(当時)の補佐役に送った30もの質問と回答ですが、マクリスタルが解任されるに至る発言を行った背景のにおいすらしません。

Washington Postの論調に乗せられている気もしますが、2010年6月26日に配信されたKaren DeYoung and Rajiv Chandrasekaranの"Gen. McChrystal allies, Rolling Stone disagree over article's ground rules"では、マクリスタルに近い高官がRolling Stone誌の編集主幹が記事の内容をマクリスタルや補佐官と精査したとの声明に対して疑問を投げかけていると指摘しています。全体としてマクリスタルを擁護し、Rolling Stone誌の記事の内容に、オフレコの話をそのまま載せたことなど基本原則をRolling Stone誌が破ったことなどを理由に、疑問を投げかけています。この問題が真偽はわからずじまいで終わるかもしれませんし、マクリスタルが解任され、ペトレイアスが後任の地位に就いたこと自体は覆らないでしょう。

 ペトレイアスも気の毒なものでして、やはりWashington Postですが、2010年6月27日付で配信されたChris Cillizzaの"Who had the worst week in Washington? Gen. David Petraeus."というタイトルですべてが語られている記事を書かれる始末。表面的に見れば、Rolling Stone誌が不注意でマクリスタル解任のきっかけをつくり、既にババ抜きポストでしかない司令官の地位にペトレイアスが回されたというところでしょうか。現実問題として、バイデン副大統領は元々、マクリスタルの作戦に反対していましたし、ちょっとしたきっかけでペトレイアスも潰せるといった具合。もっとも、アフガニスタンでの戦闘は、"a war of choice"ではなく、"a war of necessity"だと断言し、のっぴきならない話にした張本人はオバマ大統領ではありますが(参考)。

 DeYoung and Chandrasekaranの記事でも指摘されているように、Rolling Stone誌からの「あなたは大統領選でオバマに投票したのか?」という質問にマクリスタルの側近は軍人としての節度をもって回答しています。アフガニスタンにおける軍事行動が失敗に終わると決まったわけではありませんが、マクリスタルにペトレイアスと司令官レベルで人材を次々と喪失しかねないオバマの外政能力の欠如にため息が出ます。


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2010年06月25日

マクリスタル解任後のアフガニスタン戦略

 木曜日に帰宅して『日経』の夕刊を手にしたら、参議院議員選挙が公示されたそうです。ざっと主要政党の公約を見ましたが、民主・自民は財務省の「死○死○詐欺」に乗っかっているので、選択肢から既に消えております。それでも、投票には行く予定でして、今回はなにも書かずに済みそうで楽だなあと。棄権する方が地球には優しいのかもしれませんが、投票所には用紙が準備されているので、白票でも大差がないのでしょう。それにしても、鬱陶しい先生方の就活につきあわされるのは勘弁ですね。公務員の人員整理や総人件費の4割カット(税収不足を考えれば6割が妥当だと思いますが)、公務員共済の公的資金の投入廃止と受給者からの回収はギリシャ危機を受けての財政再建ですから、これでも最低ラインだと思いますが、どこの政党も掲げないので、入れるところは一つもありません。

 本題のマクリスタル解任ですが、あれこれ斜め読みをしましたが、事実関係は、Bloombergが2010年6月24日付でオンラインで配信したJulianna Goldman and Viola Giengerの"Obama May Gain `Breathing Room' on Afghan Strategy"という記事が事実関係を淡々と整理していてわかりやすかったです。解任直前にはマクリスタルはアメリカと45の同盟国から編成した14万2千人の兵士を指揮していました。タリバンの強固な基盤であるカンダハールへ攻勢を強めようとしていました。アメリカの計画では12月に戦略の再評価を行い、アフガニスタン現地の兵士を訓練して2011年7月から撤退を開始する予定でした。この予定に関しては共和党は撤退に批判的であり、民主党は間に合わないのではないかと懸念していました。マクリスタルを解任してペトレイアスを指名したおかげでオバマは一息つけたと記事は評価しています。

 解任のきっかけとなったのはRolling Stone誌でマクリスタルがオバマ大統領をはじめ、高官を批判したことでした。オバマは激怒し、ホワイトハウスからペンタゴンまでマクリスタル解任の機運が高まりました。カルザイ大統領(アフガニスタン)は当初、マクリスタルの続投を望みましたが、結局、オバマの決断を讃え、ペトレイアスの指名を歓迎しました。アメリカ議会もペトレイアスの指名を超党派で受諾する可能性が高いようです。6月29日にはペトレイアスがマクリスタルの後任として上院で承認される見通しです。

 オバマは、今回の解任は正しかったと強調する一方、司令官の交代であって戦略の変更ではないと述べました。マクリスタルはオバマのアフガン戦略を強く支持し、連合軍と提携国、そしてアフガニスタンの人々に専心してきたと述べ、辞表を提出しました。なお、上院のメンバーはアフガニスタンにおける非軍事活動がより効果駅であるという認識を共有しているようです。スタンド使い、もといスパイを上手に使うペトレイアスが今後アフガニスタンの作戦に全責任を負うことになります。ペトレイアスのスパイ活用に関してはCIAとの確執などが米紙で報道されていますが、仮に捕虜になってもジュネーブ条約が適用されないなど、非常に高いリスクを負った任務を担っているようです。

 マクリスタルの解任とペトレイアスの指名で米紙のコラムでは主としてペトレイアスなら大丈夫という論調が強くなっています(例えば、Washington Postが2010年6月24日に配信したDavid Ignatiusの"Gen. David Petraeus: The right commander for Afghanistan"(参考)など)。皮肉ではなく、そうだといいですねというところでしょうか。


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2010年06月24日

カンダハールの一縷の望み そして暗転

 なんだか「寝言」が浮かんでも書かなくなったなあと思っておりましたが、一週間もたっていなかったのですね。5月下旬から6月にかけて極度の睡眠不足が続きました。夜の1時半に就寝というのは私にしては早いほうなのですが、朝方の4時半頃に目が覚めてしまい、おかしいなあと。熟睡して進退にかかわりかねない事故を起こすことがあったのですが、睡眠があまりに浅く、なおかつ眠れない日々が続きました。年相応に仕事が増えているので、人並みにはストレスがあるのですが、それが原因とも思えず、寝ぼけた状態で、ミスや失言が多く、まずいなあと。

 鈍い私でも6月の第2週になると、原因がはっきりしてきました。なんと歯痛です。大学生時代に右の奥歯の虫歯治療を受けたのですが、25歳頃に再度、虫歯が進行して治療を受けました。このときの歯医者さんは非常に優秀で、30代前半に出張先で歯が痛んだので歯医者に駆け込んだのですが、「奥歯の治療はしっかりしてますね」と感心していました。確か、今年の正月にガチッという音とともに、金属が口から出てきてびっくり。あとで気がついたのですが、その奥歯の表面を覆っていた合金でした。25歳のときに治療を受けた医者は引退して息子さんがあとを継いだようですが、失礼ながら、下手糞で前歯の治療を受けた翌日にイソジンでうがいをすると着色する始末。他によい歯医者がみつからないので、ついつい放置していたら、神経にまで達してしまい、寝不足になってしまいました。先週の火曜日に別の歯科で神経をとる治療を受けましたが、疼痛が残っているので、長期戦になりそうです。

 加えて嫌な兆候であった尿潜血ですが、こちらは心臓内科で毎月、見て頂いている先生に話すと、血液検査で異常が出たためしがないから、念のため検査するけれど、大丈夫でしょうと。再度、検査を受けましたが、異常なしでした。睡眠不足が重なっていたせいなのでしょう。毎日、3リットル以上の水分を補給しているので腎臓に過負荷がかかっているのかと少し心配でしたが、杞憂だったと思ってよさそうです。

 あれこれ書いていますが、国内メディアは完全にスルー状態です。6月から米中関係を中心に米紙の記事を追っていましたが、元切上げの話は、オバマ政権がBPで国内問題に足をとられているのを見透かしたように巧みだなあと。中国の粗暴さには目に余るものもあるのですが、けち臭い話ばかりしている(なぜか若いOBが絶望的ですが)無能な外務省官僚に代わる人材を、中国から日本国への忠誠心があることが前提ですが、引き抜けないものかと。もっとも、これとてやはり政治的リーダーの質の差が大きいのでしょうが。

 漸く、本題ですが、Washington Postが2010年6月21日に配信したRajiv Chandrasekaranの"U.S. eager to replicate Afghan villagers' successful revolt against Taliban"という記事の内容をメモしておこうという予定でした。記事によると、カンダハールの北北東に位置するGizabは、タリバンによる長年の支配下にあり、カンダハールやヘルマンド州に浸透するタリバンの戦士の休息の地であると同時に戦士の補充を行う地でした。この地でアフガニスタンの15の村で反タリバンの「反乱」が起きたことは、現段階では戦術的なレベルとしてChandrasekaranは評価していますが、軍や外交当局は2010年に起きた最大の転換となるかもしれないという見解を紹介しています。私自身は、アフガニスタンにおける軍事行動は、出口戦略もさることながら、戦略目標が曖昧であり、仮に成果を収めたとしても、アフガニスタンの戦略的価値が低いと評価しているので、米軍の、純粋な戦闘能力というよりは、国際秩序の重石としての価値を高める点が少ないという点で評価していませんでした。失敗すれば、いくら戦闘能力が高くても、侮りを招くでしょう。その意味で、やや憂鬱な気分でアフガニスタン情勢を眺めておりましたが、米軍にとって有利な情勢の変化自体は、懐疑的かつ慎重に見ておりますが、歓迎したいと思って読んでおりました。

 しかるに、ワシントンではPetraeusが上院の公聴会を病欠して大丈夫だろうかと思っていたところに、McChrystalがオバマ政権の高官を批判する発言が雑誌に掲載されるとのことで、オバマが激怒して、McChrystalをワシントンに呼びつけるという事態になっています。WaPoやWSJはアフガニスタンの指導者がマクリスタルを支持するAP電を配信していますが、このゴタゴタは最悪ですね。マクリスタルが昨年9月に提出されたとする報告書自体は読んでいませんが、率直なところ、イラクとは異なるアフガニスタンで平定戦のような作戦は非現実的ではないかと感じておりました。雑に理由を述べると、カルザイ政権の腐敗はひどく、アフガニスタン住民の米軍への信頼は高いものの、カルザイよりもタリバンはまだましといった世論調査の結果が根拠ですが。Gizabでのタリバンへの反乱は、決定的にアフガニスタン情勢を変化させるものではないと思いますが、漸く、好転の手がかりとして活用できる可能性が生じました。このタイミングで現地司令官とオバマ政権の高官やスタッフの軋轢が表面化するのは、最悪と言ってよいでしょう。

 米紙の報道では、McChrystalが雑誌記事で""Are you asking me about Vice President Biden? Who's that?" McChrystal is quoted as saying at one point in the article."( Greg Jaffe and Ernesto Londoño, "Obama orders McChrystal back to Washington after remarks about U.S. officials", Washington Post, June 23, 2010)と述べたとのことで、この発言自体は無思慮と言ってよいでしょう。直接的にはバイデン副大統領への批判ですが、実質的にはMcChrystalの「武断派」とバイデンに象徴される批判派の調整を十分に行わず、折衷的にアフガニスタンへの増派と安全地帯からの「ラララ無人君」による攻撃をミックスさせたオバマ大統領の優柔不断さが露呈したのだと思います。

 今回の件は、米紙が洪水のように情報を流しており、私自身、歯痛によって集中力が保てないこともあって、整理しきれておりません。現段階では、オバマが軍事行動にあたって優柔不断であり、マクリスタルをどう処遇するかというよりも、米大統領としての重要な資質が欠けていることが露呈した問題でしょう。鳩山政権があまりにひどかったために、昨年11月のサントリーホール演説を歓迎する「寝言」を書きましたが、その後、アジア政策ではめぼしい進展はありません。菅政権への交代で日米関係の改善を期待する論評もありますが、集団的自衛権が行使できないという制約の下でも、最低限の双務性である米軍基地使用の問題で大きな進展はないでしょう。

 米紙でもいわゆる「サイバー戦」の強化が報道されており、安全保障面では米中対立が本格化してくるのでしょう。動員することができる物的・人的資源に関しては楽観はできませんが、アメリカが直ちに覇権を喪失する自体ではないと思います。問題は、軍事力の多寡ではなく、もてる力を有効に活用する政治的リーダーシップでしょう。オバマ氏程度(日本の政治家ならば文句なくトップレベル抜きん出た存在でしょうが)の政治的リーダーしかアメリカが輩出できない状態が20年程度、続くと、アメリカの覇権もさすがに揺らいでくるリスクが生じるでしょう。私自身は、アメリカ通でもなんでもない、単なるど素人ですから気軽に「寝言」を述べることができます。アメリカの覇権は、単に物質的な優位によるものではなく、理念とそれを支える資源を活用する知的能力に依存していると思います。その前提がオバマ政権から大きく崩れるリスクに警戒が必要だと思います。


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2010年06月18日

愚者の断章

 嘘は怒りを招く。真実ではないことを吹聴することが怒りを呼び起こすこと自体は恐れることではない。本当に恐ろしいのは、怒れる者が限度を忘れてしまうことである。真の災厄は、真実を見る目が曇ることである。


 どうも理解できないのは利己愛と利他的な愛を区別する現代人の病だ。わけがわからない世の中を生きるなら愛するしかないだろうに。


 「神秘的なのは世界がいかにあるかではなく、世界があるということなのである」とウィトゲンシュタインは呟いた。「寝言」としては最上の部類だ。気が利かないのは、後者の問いに前者の問いへの答えで代替しようとする人たちだ。もっとも、退屈しのぎには有益であることは否定できないが。


 愚か者はなぜか他者に自分が利巧だと映りたいと願う。それは自分の真の姿を隠したいからではなく、知恵など吹けば飛ぶようなものだという空しさを知らないからでしかない。


 真に賢い者は沈黙する。彼に力があるのは、知恵の空しさを知っているからではなく、絶句するしかほかない世界を見てしまったからである。絶句した後、沈黙するのか、それでも呟き続けるのかは気分の問題ではある。


 ちなみに「寝言」を書いている者は絶句する世界を見たことがない。まあ、そこまで突き詰めなくても、そこから先がない話というのもあることは薄々、気が付くし、そこまで思いつめるためには力量が必要なこともわかる。明白なのは、そこまでの力量がないことであり、下手の考え休むに似たるということを経験しすぎているからでしかない。

 人間の考えと行為で最も難しく、上等なことの一つは忘れるということかもしれない。「神秘的なのは世界がいかにあるかではなく、世界があるということなのである」ことでさえ忘れてしまえば、どうということはない。他方で、現代の文明は人間と自然に関する膨大なメモリーで成り立っている以上、忘却することは自己否定につながる。忘却が許されない環境というのは生きるということ、より根源的なあるということを難しくする。いかにあるということが難しくなるのではないことを理解できないのは不幸なことではある。
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2010年06月14日

J. S. バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータとソナタ ライブ編

 以下、不躾な部分もあるので、匿名の状態で感想だけ記しておきます。この曲とは一生の付き合いになりそうなので。

 うーむ、変な感想になりますが、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータをライブで聴くのは、実は、初めてなのですが、実際の演奏を聴くだけではなく、見ると、想像以上の難曲だなあと。ソナタ第1番のフーガが凄まじいのでありまして、ミスがいくつかあるのは素人でも気がつくのは容易なのですが、この曲が現代とは限らないのかもしれませんが、演奏者にとって要求するレベルが非常に厳しいことに気が付きます。演奏はヴァイオリニスト一人で、なおかつ暗譜(スコアを置かないのは譜面をめくっている余裕がないので当然ではありますが)で演奏していてどこまで演奏したのか迷いそうです。しかも、緻密な構成なので音が流れてしまったり、飛んでしまうと、一気に崩壊するリスクが高い。録音ですら、全曲を通して安心感があるのはハイフェッツぐらいでしょうか。驚いたのは、シチリアーノでして、この音色は言葉では表現できないです。パルティータは安心して拝聴しました。

 とある公会堂のホールで聴いたのですが、どうも、残響が強いのか、席が悪かったのか、音が割れるように聴こえることが少なくなく、ちょっと厳しいです。気になったのは、室内の湿度の低さでしょうか。高温多湿の日本という国はヴァイオリンにとって決して優しい環境ではないのでしょう。しかし、ホール内部は空調が利いていて目がカラカラになるぐらい。他方で、高音のときにはなんともいえないよい音色が出ていて、もう少し前の方に座ればよかったのですが、G線で出ている音色なのかはわかりませんでした。ソナタとパルティータの第1番が終わったところで休憩。これは演奏者を苦しめる曲だなあと。紹介して下さった方は、聴いている方が冷や冷やすると、困ったような様子。ただ、演奏が止まるようなミスはなかったので、ライブではかなり完成度が高い方でしょう。というよりも、ライブで全曲を披露されるというのは、向上心が強い方なのだろうと。本当に貴重な機会でした。

 ソナタの第2番ですが、アルマンドは第1番と同じく、なんともうっとりするような美しさがあります。問題は、第1番よりもフーガが長く、技巧というより、ほとんど嫌がらせに近いレベル。若干、ミスが気になりましたが、第1番のような抑圧された曲より演奏者にとっては弾きやすいのでしょうか。ただし、こちらは低音で苦しい部分が多く、使用楽器がわからなかったのですが、ご一緒した方々はほとんどがグァルネリに近い音色とのことでしたが、低音の響きが「カノン」のような低音でドーンとくるような迫力ではなく、高音の華やかさは、ストラディヴァリウスではないにしても、かなりよい感じでした。注目は、実はソナタの第2番ですと、第3楽章(という表現でよいのかは素人ですので疑問ですが)のアンダンテ。緩徐楽章のようでボウイングの方に注目ですが、見事に弾かれていました。フーガ−アンダンテ−アレグロという構成自体がしっかりしすぎていて、厳しいのですが、ソナタの第2番のアンダンテがほぼノーミスで弾けるということは演奏者の技量が高いことを示していると思います。バッハの緩徐楽章は異常に要求水準が高くて、全曲録音を残している演奏家でも、間延びしていたり、時折、主題と通奏低音がやや混乱している部分がありますので。

 この日の目玉はやはりパルティータ第2番でした。それまでの演奏では楽章の合間に、軽く間をおいて、音を確認する作業が入りましたが、このパルティータでは、アルマンドとクーラント、クーラントとサラバンドの間に間をおいたものの、音の確認はなく、サラバンドから後は全休止こそあっても、一気にジーグ、シャコンヌへ流れていって、当時の演奏に近いのかもしれません。シャコンヌは、聴きながらうっとりしてしまいました。まあ、余計な感想が浮かばない、最高の演奏でした。

 ちょっと興味深いのはソナタとパルティータの第3番の演奏でした。第1番で目立ったミスですが、こちらは曲の難易度、特殊なボウを使わないあたりからくる普通のミスですが、第3番は敢えてミスを恐れずに踏み込んでいくようなタイプのミスがありました。商業ベースに乗る演奏家の場合、ノーミスが当然であって、その制約の下でなんとか音楽性を表現するのですが、ノーミスの制約が厳しく、長調の下での解放感を表現する部分にまで制約がかかります。もちろん、ミスをすることが好ましいことではありませんが、個人的にはノーミスが当たり前の状態ではちょっと食い足りない。このソナタのフーガも全3曲で最長というだけではなく、反行フーガまであって、迷いの森になりかねない部分です。ミスはありましたが、慎重に「建築」をつくりあげようとするあまり、抑制が効きすぎて流麗さが損なわれることが多いのですが、今回の演奏ではまさに流麗であり、コラール前奏曲の主題が非常に美しく響きました。スコアを見ていないので、バッハの音楽として正統ではないのかもしれませんが、こういう解釈もありうるし、ひょっとしたら標準的な解釈よりも優れている、スケールの大きな演奏だと思いました。

 演奏者はオイストラフを心の友にしていると、紹介者から演奏が終わってから伺いましたが、この演奏は非常に興味深いです。なにしろ、オイストラフが全曲録音を断念してしまったので、やはりハイフェッツが最も完成度の高い録音を残してくれたのを頼りにするしかないのですが、テンポからすると、ヒラリー・ハーンよりはやや速め、ハイフェッツよりはやや緩やかというところでしょうか。しかし、全体としてこのフーガを流麗に描くというのは容易ではなく、音楽性の表現としては非常に高いものを感じました。ノーミスにこだわるとできない演奏ですね。女性の演奏者には失礼ですが、男性的な力強さと流麗さが印象に残りました。

 シャコンヌに続いて、演奏者の高い音楽性を感じさせてくれたのは、パルティータの第3番。こちらもソナタと同じく、長調ですが、第2番のシャコンヌで高い精神性を抑制的に表現した後に、自由、あるいは平たく言えば、プレリュードが提示する開放的なのびやかさとともに、展開部の抑制の下での自由が絡み合う曲です。シャコンヌのやや内向的な精神性の高さとは異なる、音楽の喜びが抑制的ながらも、はるかに前面に出てくる、演奏者の個性がはっきりと出る楽章です。演奏者は、ソナタに続いて流麗な演奏で、ジグまで飽きることのない、音楽の弾く喜び、聴く喜びと音楽の楽しむ喜びを存分に披露していて、素晴らしい演奏でした。

 やはり全体としてはミスが少なくないのが惜しいのですが、ノーミスにこだわりすぎると、聴くことができない演奏を聴く機会に恵まれたのは幸せでした。休憩を入れて3時間近い演奏をされたKさんにあらためて拍手を送るとともに、紹介して下さったS先生に感謝です。


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2010年06月12日

なんだかあたふた

 自分でも「何屋さんだったけ?」と自問自答したくなるような状態です。頭の中で七つぐらいのお手玉をなんとか落とさないように回している状態です。まあ、年齢を考えると当然かなとも思うのですが、並列作業が苦手な私にはちょっと厳しい。ときどき頭の中を空っぽにするために、「寝言」を考えるわけですが、正直なところ、仕事よりもこちらの方が楽しくて深入りしそうになると、ぐっとブレーキを踏む感じでしょうか。週末はちょっとした楽しみでしたが、冷静になって無伴奏ソナタ&パルティータを全曲、通して聴くとなると、こちらの鑑賞能力以上に体力が問われますなあ。というわけで、不謹慎な話ですが、プライベートで体力を使いそうなので、今週は手を抜きながら温存しようとしたのですが、金曜日に痛恨のミスをして、結局、疲れ果てました。

 「寝言」関連(要は「悪い冗談」なわけですが)で、Robert D. Kaplanの"The Geography of Chinese Power"(Foreign Affairs, 89(3))を読んでいるのですが、27頁の図を見て噴きました。"Countries that will resist Chinese influence"で網かけになっている国で、インドはともかく、日本が網かけになっているのが笑えます。もちろん、笑うところではないのですが、「眠れる獅子」と恐れられていた清が日清戦争の一撃で「死せる豚」という実態が列強にばれてしまったのと逆のことが起きそうなんじゃないのかなという非国民ですので。なにせ、ブーメラン政党が与党でブーメランのド本命の方がトップ。野党なら笑ってすみますが、与党となりますと、被害甚大。しみじみ、日米安保のお陰で長生きしてきましたが、それも終了の可能性が大かなと。そんなわけで、現政権下の国で生きるというのは日々、"dead or alive"の状態に直面しているのですが、漫画代や下着代(キャミはさすがに大臣の言い訳を信じたいのですが)がほにゃらららで批判している人たちもよほど平和なのでしょう。とにかく嘘でも澄ましてKaplanの地図から網かけが外れないようにしないと。「お前はもう死んでいる」と言われたら、終わりですからね。

 ふと気がつけば日本語版があるのですが、なぜか英語版をコピーしてしまう自分がバカだなあと。こういう分析というべきか常識的な論考が日本ではまずお目にかかれない(例外はこちらですが、やはり少数派だと思います)のが、ちょっと不思議です。日本人は他の国の人と比較しても歴史好きではないかと思うのですが、なぜか「帝国」というのは古代からの連続性で捉えられることがなく、19世紀以降は別の文脈になってしまいます。まあ、この件は別の機会(ずっと先になるのかもしれませんが)に「寝言」を唱えるとして、空理空論を唱えてきた人たちが曲がりなりにも権力の座につけるというのは、「反戦平和思想」の影響ととるのが普通でしょうが、やはり日米安保は成功しすぎたのだという「寝言」が浮かびます。アメリカによって、ほとんど100%の安全を保障されている状態では、よほどの阿呆ではない限り(一匹は駆除したのですが、もっとすごいのが後を襲ったのが現状なわけで(以下略))、対米関係を壊さない限り、やはり安全なわけでして、アメリカの覇権が万全だった20世紀後半は平和だったなあと。これが軍事的なパリティを達成しそうな国が現れると、かなり高い確率で頓死するでしょう。毎回、試験で零点をとる子が、ある日、突然、満点を出すのはご無体な話でありまして、今の政権が続く限り、"dead or alive"の状態が続くのでしょう。政権の枠組みが代わったところで、中国の過大評価を改めようというのは、他面で、アメリカの台所事情が苦しいことも背景にあるわけですから、そのあたりは素直に歓迎できない問題でもあります。

 Kaplanの中国帝国論は、非常に簡明で、拡張の動機が天然資源のアクセスなど、人間の欲にもとづいているという点で典型的な帝国なのだということが明確です。これは、裏を返せば、アメリカという「帝国」が歴史的にも異端児であることを示しているのでしょう。異質な使命感に燃えた帝国の庇護の下にある島国はあまりにも自国の運命に無関心すぎる気がします。アメリカの「ナイーブさ」と中国のナイーブさは質的に異なるのでしょう。また、使命感に燃えたアメリカという異端の「帝国」が世界史でも稀な開放的な秩序を築いたということも日本人は忘れがちです。米中という共通項が多いように語られてきた秩序形成者と挑戦者は根本の部分で異質性が強いことも留意が必要なのでしょう。


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2010年06月09日

菅直人内閣への不安

 日本政治に関心を持続することに困難を覚えます。Zakariaの"What does China want?"というWashington Postに2010年6月7日付で掲載された記事の方が、中国外交の傲慢さがピークに達するとともに、中国共産党の経済運営の行き詰まりを間接的に示していて、これまでの米紙の報道を後追いするとともに、かなり危険な時期に入っていることを示唆していると思います。そうはいっても、「寝言」よりもリアルの睡眠が最優先なので、折を見て。

 韓国人から菅首相になって普天間問題が解決するのかという質問を受けて閉口しました。こればかりは鳩山前首相がひどすぎたので参ったのですが、米紙の報道を見る限りは、菅首相への期待値が高い可能性が本線でしょうと。もはや出口が見えない状態ですが、アメリカがどの程度、我慢できるかによるだろうと。ただし、米紙の報道は菅首相への期待値が高すぎるぐらいであり、日本に関する報道は特定の記者に集中しているので信頼性が薄いけれども、オバマ政権がある程度の忍耐力があれば、事態の進展がないことに肝要だろうと。日米関係そのものが切れる確率は低いだろうと。

 日本のマスメディアに染まってしまうと、韓国人も日本人化してしまうのだなあと感心してしまったのは、小沢氏との距離。民主党自体に拒否感が強いのでバイアスが強烈にかかっているとはいえ、昨年の揮発油税の暫定税率一つをとっても、小沢氏がいなければ予算は上がらなかったであろうと。民主党には常に空中分解しかねない危うさがあって、小沢氏も報道にあるような批判を受けるべき点も多いが、自民党パージの次は小沢一派パージで、積極的な部分(汚れ役・嫌われ役を厭わない)は完全否定されてしまう雰囲気はちょっとついてゆけない部分もあります(「お縄一郎」にわくわくするのは否定できないのではありますが)。韓国の歴代大統領もカネ絡みのスキャンダルで追い込まれてしまい、そのことが必ずしも韓国政治に好ましい影響を与えたのかどうかと逆に質問を投げかけると、黙りこくってしまいました。平たく表現すれば、自民党は空気のような存在になり、小沢、鳩山と憎まれ役が表舞台から去った後、ダイレクトに民主党の政権担当能力が問われる段階に入ったというところでしょうか。

 ただ、閣僚名簿も出ない段階であれこれ憶測が多すぎてうんざりしていました。名簿を見て不安になったのは、やはり仙石由人官房長官でしょうか。イデオロギーがどうというよりも、ポスト小泉政権が機能不全に陥ったのは内閣官房が機能しない政権が連続したことが多いと感じております。やはり最強は福田康夫氏で、2004年に血栓性静脈炎を患ったその時期に退任されてしまいましたが、内閣官房は機能するのかと悲鳴を上げました。後任の細田博之氏が地味ながらまとめていたのは想定外のことでしたが。仙石由人氏に関してはイデオロギーの点で批判が多いのですが、そんなことよりも、やはり連立政権内の調整で重大案件が少なくなく、強制力をもった調整ができる能力があるのかは現時点ではまるでわかりません。どちらかというと、怒りっぽい仙石氏には不向きなポストではないかという不安をもちます。もっとも、北岡伸一東京大学大学院法学政治学研究科教授と御厨貴東京大学先端科学技術研究センター教授の昨年の対談によると、下記のような状態だそうですのできっと杞憂なのでしょう。

北岡 一方、党を立て直す気概や能力を備えた、四十代、五十代くらいの人材がいるかと見渡してみても、正直、あまりいないんですね。選挙で大敗したこともあるのですが、根本的は長老支配のつけがまわってきたとしか言いようがない。民主党であれば、五十歳前後で、野田佳彦・前原誠司・枝野幸男・玄葉光一郎など、立場はそれぞれですが、次を担いそうな名前がすぐに浮かぶのですが。いっそ小渕優子氏くらいまで世代交代したほうがいいのかもしれません。(笑)

御厨 善し悪しは別にして、かつて若手の教育機関の役割を果たしていた派閥が弱体化したことで、自民党には人材が育っていないんです。こういう危機的状況に立ち至ってみると、よく分かります。気がつけば人材の面でも民主党に逆転されていたんですね。
(『中央公論』2009年10月号 33頁)


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2010年06月07日

政権交代後のハンガリー新政府のギャンブル

 マジャール人というのは真面目すぎる人たちなのか、駆け引きに長けた人たちなのでしょうか。それとも、2010年4月に議会選挙で対象を収めたフィデスが統治に慣れていないのか。『日経』の夕刊にもありましたが、Wall Street Journalが2010年6月5日付で配信した"Hungary's Economic Woes Punish Euro, Roil Markets"という記事が興味深いです。先のヨーロッパ全体に関する記事でも概要は同じなのですが、なんといっても政権交代後のバカ正直な財政再建へのコミットメントが混乱を招くという点で、不謹慎ではありますが、おもしろいと思いました。もちろん、新政権がなんの政治的な目的もなくバカ正直にコミットしたわけではなく、この記事ではIMFとの再交渉を狙っているという推測が紹介されています。IMFが再交渉に応じれば、ハンガリーのようにまだしも財政再建が進みつつある国ならばともかく、そうでない国にも「実は」という逃げ道をつくるインセンティブを与えるでしょう。ハンガリーが上げた「悲鳴」は、きわどい賭けだなという印象です。

 まずは政治的な背景ですが、上記の記事では足りないので、基礎データは、外務省HP(参考)と直近の選挙に関してはWikipediaの"Politics of Hungary"という記事と"Hungarian parliamentary election, 2010"という記事(やや難があるようなのでデータのみですが)を参考にしました。

 ハンガリーの政体は議会制民主主義で、元首は大統領(任期5年)、議会は一院制(国民議会)です。大統領は国民議会の選挙で選ばれ、象徴としての地位しかもちませんが、軍の最高司令官であり、首相の指名権をもちます。現大統領はショーヨム・ラースローで、独立系とされています。議員の任期は4年で、定数は386名です。2010年4月の選挙の前には社会党政権でした。改選前にはハンガリー社会党が190議席、フィデスが164議席でしたが、4月の選挙後、フィデスが263議席(得票率52.73%)、社会党が59議席(得票率(19.30%)とフィデスが圧勝しました。フィデスの党首、Viktor Orban首相は1963年5月31日生まれで、今年で47歳という若いリーダーです。

 経済面では2008年にハンガリー政府はIMFやEU、世銀などに総額200億ユーロの融資をEU諸国としては初めて要請しました(過去に1976年の英国の事例あり)。話が前後しますが、外務省HPでは2008年3月に行われた国民投票では改革の根幹であった『入院費』『受診料』『授業料』の導入が白紙に戻る等、改革は行き詰まりを見せている」とあり、旧共産圏であったために、医療や教育などは無償だったのかもしれません(どこぞの島国は高校の実質無償化を図るそうで、ハンガリー政府自身が改革が必要だとみなしている旧弊を目指すんですかね)。

 ここからはWSJの記事がメインです。木曜日に、フィデスのLajos Kosa副大統領が"Hungary was in a Greek-style sovereign-debt crisis"と発言しました。続いて金曜日には首相のスポークスマンであるSzijjartoが次のような発言をしました。

  Mr. Szijjarto said at a news conference that Hungary's new government is "ready to avert the Greek road," but he added that "there is nobody in the country apart from the previous government who still says the budget deficit of 3.8% of gross domestic product can be reached." That is the IMF's target for this year.

 Szijjartoは記者会見で新政府は「ギリシャの道を避ける準備がある」と述べた。しかし、「GDPの3.8%という財政赤字を達成すると述べているのは前政府以外にはいない」とも付け加えた。この数値は今年のIMFの目標である。


 あまりに率直すぎて思わず息をのみそうになります。外務省HPによると、フィデスは若手中心の政党のようです。若いがゆえの野心的な「構造改革」を目指すためにあえてギャンブルに出たのか、単に未熟なのか、あるいは社会党の「悪行」を暴露するための政略が入っているのか、ちょっと判断がつきません。ただし、おそらく確実なのは、この記者会見での発言は、ヨーロッパ市場を揺るがすことは考慮していなかったことでしょう。"Europe Default Insurance Jumps"(改題後は"Debt Insurance Soars Across EU)でもハンガリーにおける、この副大統領および首相スポークスマンの発言がヨーロッパ市場を動揺させ、ユーロ下落につながったことを指摘しています。ハンガリーはユーロに加盟していませんが、EUには2004年に加盟しています(NATOには1999年加盟)。政権交代で前政権の「粉飾」を暴露すれば、EUもこれまでの支援を見直さざるをえなくなるでしょう。

  Government officials have warned in recent weeks that the deficit could hit as much as 7.5% of GDP this year; analysts have attributed those alerts to an attempt by the government to prepare the ground for any new austerity measures it might be forced to take. Hungary's central bank reiterated late Friday that it expects a deficit of 4.5% of GDP.
  Hungary remains a case apart from Greece, whose deficit was 13.6% of GDP last year and whose lack of foreseeable growth calls into question whether its towering debts can ever be repaid. Since it manages its own currency, Hungary has more flexibility to deal with economic concerns, but the country hasn't had cause to devalue the forint. Its primary worry is having the money to cover its budget gap.
  It has also made some headway on constraining the flood of foreign-currency loans to households and businesses, which had borrowed in euros and Swiss francs to avoid the forint's high interest rates; that turned into a bad deal when the forint fell in 2008. The withdrawal of credit has also meant foreign banks that were big lenders are now less exposed to Hungary's problems.

 この数週間、政府高官は今年度の財政赤字はGDPの7.5%に上るであろうと警告してきた。アナリストは、この警告はいかなる緊縮政策を強制的に実行するための政府による試みによるものだとしてきた。ハンガリーの中央銀行は金曜日の晩に財政赤字はGDPの4.5%であるという予想を繰り返した。
 ハンガリーはギリシャとは異なる事案である。ギリシャの財政赤字は、昨年にはGDPの13.6%であり、予見可能な成長を欠いており、積み上がる負債を返済できるのかという問題がある。自国の通貨を活用することによって、ハンガリーは経済的な懸念に対応する、ギリシャよりも柔軟性を有していた。だが、ハンガリーはフォリントを切り下げるもっともな理由がない。第一義的には、予算のギャップを埋める金があるのかという懸念である(引用者:フォリントの切下げによってユーロなど外貨建ての借款などを返済するのが困難になる)。
 フォリントの切下げは、家計や企業に対する外国通貨建ての貸出の流れに制約を加えることを進めてきた。家計や企業は、フォリントの高い利率を避けてユーロ建てやスイスフラン建てで借り入れていた。2008年のフォリントの下落によって、この借入は分の悪い取引になった。信用の引きあげは、巨大な貸し手であった外資系銀行にとっては、いまやハンガリー問題でリスクにさらされなくなることを意味する。


 ハンガリーは、ギリシャやアイルランドの債務問題が注目されるようになるまで、ヨーロッパの「厄介者」とみなされてきたとのことです。2008年の金融危機によって、ハンガリーはIMFの支援を仰ぎ、緊縮財政を余儀なくされました。

  Still, the shock of the credit crunch in 2008 left it high and dry. But the ruling Socialists, who presided over years of profligacy, gave way last year to a caretaker government largely made up of technocrats who appeared bent on fiscal rectitude.
  Fidesz benefited from anti-incumbent fervor and routed the Socialists from parliament in April elections.
  Now, says Yusaf Akbar of Budapest's Central European University Business School, Fidesz is "trying to backtrack on the obligations the Socialist government made to the IMF."
  Mr. Akbar says that's a "perilous" game. Unlike Greece or Portugal, which have loads of money at the ready from others eager to keep the common currency together, Hungarians "don't have the euro zone to back them up."
  The austerity measures needed to meet the IMF's targets have required tough fixes to entrenched problems. Hungary has a large state sector, a big non-taxed gray market and a relatively generous pension system that keeps vast numbers of Hungarians out of the work force.
  The solutions―cutting public employment, hustling more people onto the tax rolls and crimping pensions―aren't popular with voters.

 2008年の金融危機の衝撃によって、ハンガリーの財政は行き詰まった。だが、与党社会党は、放漫財政をとりしきってきたが、昨年には財政規律を厳粛に守るテクノクラートからなる暫定政府へ道を譲った。
 フィデスは現職議員への熱烈な反感から恩恵を受け、4月の選挙で社会党を議会から放り出した。
 今や、Yusaf Akbar(ブダペストの中央ヨーロッパ大学ビジネススクール)は次のように語る。フィデスは「社会党政府がIMFと結んだ契約履行義務を撤回しようとしている」。
 Akbarはこの試みを「危険な」ゲームだと述べた。共通通貨を維持する意欲をもつ他国が相当量の資金を準備しているギリシャやポルトガルとは異なり、ハンガリー人は、「ハンガリー人を支援するユーロ圏をもたない」。
 IMFの目標と合致するために必要とされた緊縮政策は、固定化された問題への厳しい解決策を要件とした。ハンガリーは、巨大な国有部門や非課税のグレーマーケット、相対的に甘い年金制度(この制度のおかげでハンガリー人の多くは労働力から外れた状態でいることができる)などを抱えてきた。
 解決策は、――公務員を削減することやより多くの人を課税対象へと追い立てること、年金制度を変えることなど――有権者には人気がない。


 フィデスが、IMFとの再交渉を行うとするギャンブルは、2010年6月4日にはユーロが動揺する一因となりました。債務の「真の値」を公表することが、IMFへ再交渉に応じるインセンティブを与えるのかはわかりません。また、Wall Street Journalが2010年6月5日に配信した"Hungary Rushes to Calm Markets"という記事では、ハンガリーがユーロへの加盟を目指していることが指摘されています。また、IMFの地域代表がブダペストに駐在しており、非公式に今回のハンガリー政府の政策に関して知ろうとしているとも指摘されています。IMFもこれだけの「隠れた」債務が明るみに出れば、少なくとも、門前払いをするのは困難なのでしょう。

 ユーロを動揺させ、加盟国の債務保証のコストを押し上げたハンガリーの行動がユーロ圏の支援をえるのにプラスに働くのかは疑問に思います。ユーロ圏の混乱が長引くことが解を見出す時間稼ぎとなるのか、はたまた債務圧縮に迫られた国々の利己的な行動を誘発し、解を見出すことを困難にするのか、現時点では明確な確信がもてませんが、後者のリスクが現時点では強く残っていることに留意した方がよいと思います。なお、文中の訳にはかなり苦し紛れの部分が多く、ここまでお読みになった方でご指摘を賜れれば、幸いです。


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2010年06月06日

厄介なヨーロッパ

 お人が悪い人が民主党叩きのネタを振って、道ならぬ道を歩く人が煽ると。リーダーを育てるために日本人よ寛容たれと主張する人が、小沢だけは許すなと。いかにもうるわしい、日本人らしい、忠臣蔵を見ながら白けるような気分ですな。世も末かなと思いますが、インターネットの発達のお陰で、拡声器の性能が格段に上がって、寝言もといノイズも大きく聞こえるだけで、昔からこんなものなのでしょう。

 新人議員の「小沢離れ」を勧める声が世論的には圧倒的多数なのでしょうが、普通の会社だったら、新入社員に財務や人事、企画をはじめ経営全般を任せたら潰れるでしょうに。中央政府というのは、そんなにインスタントにマネージできるものなのでしょうか。政治学者が率先して国政の「おニャン子クラブ」(若い人にはわからないと思いますが)化を提唱するというのは目を剥きます。リアルで「菅氏の偉大さは俺でも総理大臣が務まるぐらい楽な仕事だという希望を与え、敷居をさらに下げたこと」と話したら、「是非、総理におなり下さい」と真顔で言われて困りました。たぶん、こいつ消えてくれないかなあという社内の「デスノート」、あるいはブラックリストに載っているのではと今更ながら人望のなさを実感しますなあ。

 こんなことよりも気になるのは、最近、買ったアジシオの穴が大きくなったのではないかという重大な「疑惑」です。たぶん、勘ぐりすぎなのでしょうが、朝のトーストにハムとチーズ、トマトをのっけて食べるのが習慣ですが、トマトがなんとなく辛い。使い始めなので気もち弱めに一振りしないとまずいだけなのでしょうが、古い方を捨ててしまったので、穴が大きくなったのではないかとついつい勘ぐってしまいます。最近、白身の魚でおいしいものが少ないなあと、久しぶりに舌ヒラメのムニエルを作ったら、おいしかったなあ。さすがに、ヒラメに塩を振りかける際には匙を使うので、トマトのような「悲劇」はおきず、やや薄味に仕上がって、満足しました。ただ、歳のせいか、バターはくどく感じるようになって、ちょっと後が重いのが難でしょうか。

 それはさておき、ユーロが4年ぶりに1.2ドルを切る水準になって、持久戦も大変ですなあという気の利かない「寝言」が浮かびます。プロの見立ては長期戦なら2008年9月以降よりも手の打つ時間が稼げるとのことのようですが、13兆ドルを超える経済規模をもつユーロ圏が動揺するのはあまり外人の目からしても気もちがよいものではなく、どこぞの島国のように、「失われた10年」となるのはどうなのかなと。しかも、どこぞの島国と異なって、債務危機ですので、ある国家を他の国家、あるいは国際機関が助ける構図になり、なおかつ、域内には16もの国家が存在するとなると、協調的な解に至るまでの政治的なコストがバカにならないでしょうし、IMFもEUやらECBやら面倒な連中との調整に時間をとられるでしょう。そう意味で"acute"ではないことが本当に幸いなのかどうかは難しい問題かなという気がします。気のせいで終わることも否定できないのですが。

 ネタ元はWall Street Journalが2010年6月4日付で配信したNeil Shahの"Europe Default Insurance Jumps"という記事の予定でしたが、記事のタイトルが"Debt Insurance Soars Across EU"に変わり、配信日も6月5日に変更されています(参考)。この辺の事情はよくわかりませんが、内容も若干、変わっているので、変更前の記事からの引用であることをお断りします。なお、あわせて、Wall Street Journalが6月4日に配信した"Euro Sinks Below $1.20 On Data, Debt Worry"という記事も参考にしていますが、ちんぷんかんぷんのところもありますので(『大航海時代III』で背表紙が伏字になっているような感じ)、メインの記事は、上述の通りです。

 Shahは、金曜日にヨーロッパの借り手となる国が発行した債務を保証する費用が上昇したと指摘しています。その理由としてフランスの銀行(ソシエテ・ジェネラル)が金融派生商品で損失を出したという噂とハンガリーの首相報道官がバカ正直に財政の見通しが悪いことを公表したことを挙げています。

  The cost of insuring debt issued by European sovereign borrowers rose Friday as a weaker euro, speculation in the market about losses at French banks and concerns about Hungary added to persisting doubts over economic recovery in Europe.
  While Spain has taken a beating lately, investors also appear to be taking their frustration out on stronger euro members like Italy and even France―Europe's second-biggest economy after Germany. French banking giant Société Générale SA on Friday was hit by rumors of losses tied to derivatives, which has sent its stock plummeting.


 上記引用が冒頭部分ですが、投資家はスペインを叩きのめしただけでは気が済まず、イタリア、さらにフランスにまで不満を強めているとのこと。率直なところ、おフランスざまあという気もしないでもないのですが、"contagion"がフランスにおよぶ可能性はまったく考慮していなかったので、一時的な現象で収まるだろうとは思うのですが、気もち悪いです。"Debt Insurance Soars Across EU"と改題された記事の方にはMarkit社による5年物国債の1,000万ドルに対する保証に要する金額が掲載されていて、はっきりとハンガリーはスパイクしていますが、図で見ると、イタリアは微妙な感じ、フランスはハンガリーにつられたのか、ソシエテ・ジェネラルに関する噂につられたのかは判然としませんが、スパイクしているようにも見えます。ハンガリーはユーロには加入していないので因果が本当にあるのかは私自身は確信がもてませんが、ギリシャに続く、「疫病神のヨーロッパ」の象徴なのかなと。2008年に既にIMFの貸付を受けているのですが、旧共産圏の国だけに思うように財政再建が進んでいないようです。暇だったら、ハンガリーもついでに見ておきます。

  Budget deficits in France and Italy are small compared with those threatening Greece and Ireland―and possibly Hungary, which isn't a member of the euro zone. But the derivatives market is growing concerned regardless as European debt jitters persist. It now costs $290,000 a year to insure $10 million of Italian government bonds against default for five years, compared with $237,000 on Thursday, according to data provider Markit.
  The extra interest Italy has to pay investors to buy its bonds instead of Germany's has also jumped. That is painful because Italy tends to visit the market more often to raise cash, having the world's third-biggest bond market, after the U.S. and Japan. Meanwhile, the cost of insuring Irish debt against default is only slightly higher at $340,000 even though Ireland has a budget deficit many times bigger than Italy's.


 実額で見ますと、イタリア国債の保証に要する費用はバカにならず、木曜日に5年物国債1,000万ドルに対して237,000ドルであったのが金曜日には290,000ドルに跳ね上がったとのことです。上記引用部分で目を引くのが、イタリアの国債市場の規模がアメリカ、日本に次いで世界で3番目という指摘です。アイルランドのすら340,000万ドルだと指摘されると、これは怖いですな。こんなおっかない国債を引き受けるのはご免蒙りまするなんて金融機関がでてきそうです。

  One explanation: While Italy's deficit is relatively small, it is burdened with a national debt that is well over 100% of its GDP and the highest in the euro area―creating its own potential problems.

  解説:イタリアの財政赤字は相対的に小さいのだが、国債残高は、GDP比で100%をゆうに超えており、ユーロ圏で最も高く域内の潜在的な問題をつくりだしている。


 この後、フランスの10年物国債の利回りが3.01%から一晩で3.08%に上昇したとあるのですが、債券はさっぱりわからず、実感がない数字です。まあ、債券の世界では"jump"という表現がぴったりなのでしょう。しかし、BloombergのHPで見ると(参考)、ドイツのクーポンレートが10年物国債で3%ぴったりに対して日本が1.3%とは「寝言」、あるいは悪い冗談のような気もしますが。ドイツに関する記述がよくわからないので誤魔化しましたが、ドイツなみの金利を払わなくてはならないとなりますると、1.7%×850兆円=約14.5兆円の国債費の増加となり、消費税率1%の引上げで概ね2−3兆円の増収ですから、2.5兆円の増収として約5.8%程度の引上げが必要になりますなあ。これに加えて基礎年金の国庫負担の引上げ(これは文句なく自公政権が「やり逃げ」した案件)や医療費など社会保障関係費の増加を加味すると、まあざっくりと10%程度、引き上げておけば、当座はやりくりできるのでしょう。話がそれますが、「ギリシャ化」を心配する前に、ドイツなみの金利を払うだけで大変だということを抑えておいた方がよいと思います。

 ハンガリーの話は紛れるのでとばして、ギリシャ国債の利回りが安定しているのに対し、スペインの利回りがじわじわと上昇しているのは不気味です。この場合、スプレッドという表現が適切なのか疑問ですが、ドイツ国債に対するスペイン国債の利回りは1.92から1.96に上昇したと指摘されています。1日でこれだけプレミアムが上昇すると厳しいですなあ。もっとも、フランス国債は同じ週に80億ドルの新規発行があったと指摘しており、その影響もありそうだとのこと。

 "acute"ではなくても"chronic"というのは大変ですなあと。バークレイズ・キャピタルのAksuは以下の可能性があると述べたとのことです。

  First, while markets have become less panicky recently, investors remain nervous about European bonds. They're not selling, but they're not buying either, limiting the so-called liquidity of the market. That, in turn, is exaggerating the impact of even small price moves, leading to jerky market movements based on trading rumors that are themselves pushing insurance costs higher.
  The European Central Bank's emergency bond-buying program may be creating its own distortions. While the ECB has calmed some segments of the market by buying Greek, Portuguese and Irish bonds, investors don't know how far the central bank will go with its purchases, making it hard to participate in the market. Some ECB policy makers like top German central banker Axel Weber even publicly oppose the effort, making things more blurry.
  In a way, the ECB faces a no-win-situation: Worsening market conditions are already prompting calls for the ECB to act more aggressively to buy bonds. But if it does just that, worries about the future of Europe's market may keep investors away by increasing uncertainty.

 第1に、市場が最近になって平静を取り戻してきているのに対し、投資家はヨーロッパの債券に弱気のままだ。投資家は売りはしないが、同時に買いもしない。いわゆる市場の流動性が限定されている。それが、今度は、価格のごくわずかな変動の影響を誇張し、取引にまつわる噂をもとにした市場の発作的な行動を導いてしまう。結果として、保険に要する費用が高くなるよう押し上げる。
 欧州中央銀行による緊急の国債買入計画はそれ自体が歪みをつくりだしているのかもしれない。ECBが、市場の特定の部分を鎮めようして、ギリシャやポルトガル、スペインの国際を買い入れるが、投資家は中央銀行がどの程度まで買い続けるのかを知らない。この結果、市場の期待形成が困難になる。ECBの政策決定者のうちドイツ人の中央銀行家Axel Weberのように公然と努力に反対する者がいると、ことはさらに不透明になる。
 このようにECBは勝者がいない状況に直面している。市況の悪化は既にECBに対してさらに積極的に国債を買い入れるように促してきた。しかし、ことがそのように行われると、ヨーロッパ市場の将来への懸念によって、投資家は去ってしまう。不確実性の増大によって。


 この予測が正しいのかは私の理解の範囲を超えるのですが、ヨーロッパの国債市場で売買が閑散としているという指摘が事実なら、噂やハンガリーのバカ正直なスポークスマンがやらかすだけでソブリンCDSが荒れるというのは理解できなくもないです。持久戦に持ち込む条件の一つは、時間とともに景気が回復することですが、ヨーロッパの各国が緊縮財政に取り組む状態ではどうなることやら。「ユーロ本位制」は、加盟国の誰をも満足させないシステムとしてしか残らないのかもしれません。


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