2010年07月19日

アメリカの「平常への回帰」

 Washington Postが2010年7月15日付で配信した Karen DeYoung and Rajiv Chandrasekaranの"Afghan President Karzai approves plan for local defense forces"という記事によると、ペトレイアスはアフガニスタンの「ベトナム化」を着々と進めているようです。「ベトナム化」といっても、アフガニスタンにおける軍事行動が泥沼化することではなく、カルザイ政権からも独立した地方軍を設けて、徐々にアフガニスタンの人たちによる「自治」の基盤を整備して、アフガニスタンからの撤退を準備するというところでしょうか。リアルだとどぎついことばかり言っておりまして、「どうせ米軍が撤退したらケ○畑だらけになるのだから、さっさと撤退したらいいんじゃない」という程度。イラク戦争の泥沼化が囁かれた頃には、アメリカの内向きの「エゴ」への批判もあったようですが、なぜかオバマのエゴは批判の対象にならないようで。アフガニスタンから手を引いたら、アジア重視になるかといえば、むしろ内向きの傾向が露骨に出てくるのではないかと。もう、そろそろ2001年のテロの効果は賞味期限が来ていると思います。

 もっとも、すぐにアメリカが全世界から手を引くという事態も生じないでしょう。戦略的思考という点でブッシュ政権よりもはるかに劣るオバマ政権の下では、アジア重視といったところで具体策があるとも思えず、憶測と偏見にすぎませんが、単純に図式化すると、ブッシュ政権よりも対中政策は経済面では強硬であり、安全保障面では不満をもちつつも、宥和的な傾向が強まるだろうと見ております。言ってみれば、仮にアジア重視の傾向が強まったとしても、それは2001年のテロによる海外への関与から「平時への移行」、あるいは「平常への回帰」の色彩が濃くなるでしょう。オバマ政権の政策に関する選好も大きいのですが、昨年9月の米主要紙の報道は、9月11日こそアフガニスタンでの「主戦論」が強いものの、その後、アフガニスタンの現状に関する悲観的な報道が増え(事実報道自体はバイアスが少ないと思います)、当時、策定中だったアフガニスタン増派をめぐるオバマの迷いが前面に出てくる状態でした(参考)。「オバマはアフガンに沈む」という「寝言」を書いた頃には、オバマがアメリカの対外政策をアフガニスタンですってしまうのではないかという危惧の念が強かったので、今、読み返すと、オバマの柔軟性(悪くいえば首尾一貫性のなさ)を過小評価していたと思います。安全保障面で、アメリカ優位の勢力均衡が大きく崩れるリスクは、対中関係を除いてほとんど無視してもよいのでしょう。他方、2001年以前の状態に戻ろうというモメンタムがオバマ政権内だけではなく、広くアメリカ国民の中に生じてくると、太平洋戦争前夜までの孤立主義とも異なった、内向きの政策指向が強まるのかもしれません。

 また、いわゆる"double dip"、あるいは「二番底」への懸念が強まってくると、安全保障に割ける経済的資源はもとより、アメリカ国内における勢力均衡を維持するための方策に関する政治的説得が困難になる可能性が高いでしょう。アジアにおける同盟国への任務と負担分担の交渉は、とりわけ対日関係で困難を極める可能性が高いと思います。私の身近なところでは、中国の経済的な脅威への警戒心は強いのですが、安全保障上の脅威には関心が高い状態ではなく(これ自体はいつものことですが)、「脳死政権」が連続しそうだという政治情勢を捨象しても、おそらく調整コストが非常に高くなるでしょう。仮に、消費税率を10%に引き上げたところで、そのうち2%程度(約5兆円)を恒常的な防衛関係予算の増大に回す政治的な説得は、社会保障へのプライオリティが群を抜けて高い状態ではほぼ不可能であるといってよいでしょう。日本の場合、社会保障関係費の増大が他の費目とトレードオフの関係にあり、なおかつ高いプライオリティが置かれている現状ですので、そのあたりを説得するロジック(露骨に言えば社会保障関係費を抑制するコンセンサス)がなければ、危機を指摘しても、政治的影響力は皆無といってよいと思います。


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