2010年09月28日

外交政策における中国国内の権力闘争(後編)

 土曜に「寝言」を書く際に、ワードを利用しました。全部で7,540字と自分でも目を疑いました。今回、掲載分は、3,933字と長く、しかも、最初が異様な長さです。民主党の「ヘタレ方」とは比較にならないほど、様式美を欠いているブログではありますが、自分でも1つの「寝言」でスクロールするのが面倒になりそうです。以前、とてつもなく長い「寝言」を書きましたが、当時、ご覧頂いていたであろう人向けでしたので、あれはあれでありかなと。当時から過疎地ではありましたが、最近ではわれながら見事な過疎っぷりでして、先月の訪問者数(重複分を除く)が5,416、ページビューが5万2,843という「限界集落」になりつつありますので、数少ない、奇特な方への配慮を忘れることはできません。

 この「寝言」も本体部分は土曜日に書いておりますので、さすがに火曜日あたりには状況が変化しているのでしょう。「なまもの」の宿命で、書いた瞬間に過去形になることを恐れていると、手が出せない分野ではあります。他方、オピニオンなどで尖閣諸島をめぐる問題に限定すればPomfretよりも優れた観察がでてきそうですが、中国の対外政策と国内の組織との関係にまで踏み込んだものが出るのかなと思います。中国国内の意思決定過程に関する分析は専門家の論文を待たなくてはならないのかもしれません。


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2010年09月27日

外交政策における中国国内の権力闘争(前編)

 英字紙で今回の事件を通り一遍以上に報道している記事というのが、いつものごとく、John Pomfretぐらいとは。Washington Postが2010年9月24日付で電子版で配信した"Dispute with Japan highlights China's foreign-policy power struggle"という記事です。私の探索能力が低いからかもしれませんが、中国内部の権力闘争と対外政策の決定の関連に触れている文献が少ないので、単一のソースで論じるのは危険があります。ただ、この記事は、日本語でも人民解放軍への共産党のコントロールが弱くなっているという意見はみかけますが、ちゃんとした根拠に裏付けられていないものしか見当たらないのとは対照的です。もう一つの特徴は、視野が広い点が特徴でしょうか。どの道、今後数十年は中国外交に振り回されるのでしょうが、少なくとも、現時点で尖閣諸島だけではなく南シナ海でも攻勢を強めたのかを理解する一助にはなると思います。

 まず簡単にPomfretの記事を要約すると、(1)軍や政府各省、国有企業の高官や役職者の新世代は、経済成長の結果、過去にない自信に満ちている。(2)中国共産党中央の指導力が弱まり、軍や国有企業はそれぞれの利益を海外に求めている。(3)中国の対外政策は統一された戦略にもとづいているわけではなく、各アクターがバラバラに海外に権益を求めているが、現在のところ、それが結果的に中国の国益に資している。気分が落ち込んでいることもあるのですが、休日出勤が多く、物理的にも時間がとれない状態が続きますので、以下、Pomfretの記事のメモを残しておきます。

 それにしても思い出すのは、亡き江畑謙介さんが、2006年の岡崎研究所のパーティで文革以後の人民解放軍は合理的であり、スホーイなどせ正面装備の整備だけではなく、パイロットなど人材育成が要だということを理解しているという指摘です。内容は傍観者としてみれば、物騒な話ですが、岡崎久彦さんが心の底から笑顔を浮かべているのを見ながら、本当のことを語る機会というのは貴重なものなのだなあと。日本では観察ということは報われない作業ですが、それに徹するというのがやはりプロフェッショナルの一つのあり方なのだとあらためて感慨深いものがあります。希望的観測や願望を交えずに、いかにことがあるのかを観察し描写することというのは、一見、地味で受け身のようですが、強い精神がなければ持続しないことを実感します。ついつい、混乱した時代に江畑さんの観察と分析を伺いたいという詮なき願いをもってしまいます。

 そんなこともあって、Pomfretの種々のインタビューと事実の描写に引き込まれてしまいました。Pomfretの場合、江畑さんほど無私というわけではなく、色気もあって、大抵の場合、記事の最後でインタビュー相手に自分の意見を言わせていると感じる部分もあります。興味深いのは、一切、激越な表現が見当たらないのですが、事実関係の描写によって通常の中国脅威論とは異なる絵が浮かび上がってくる点です。それは、あえて詳細を略するなら、中国が大国として成長するにともなって「臓器」も増えているけれども、それがある一貫した戦略にもとづいているわけではないということです。政治体制の相違があっても、ひょっとしたら、大国の形成過程というのは似たようなプロセスをたどるのかもしれません。

 なお、当初の予定からすると、大幅に長い「寝言」になりましたので、2回にわけて配信します。土曜日に一気に書きましたので、かなり粗雑な「寝言」(粗雑じゃないのはどれというツッコミは甘んじて受けます)ですが、お暇な方、週明けでもなんともいえない脱力感に苛まれている方は「続き」をどうぞ。


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2010年09月26日

民主党よ、あと3年は踏ん張れ!

 『日経』のおかげで第58期王座戦が始まったのだなあと気がつきました。とってなかったら、見逃していたのでしょう。名人戦や竜王戦のように二日制だと気がつくのですが、一日で指し切ってしまうタイトル戦は見逃してしまうことが多いです。Ustreamで大盤解説があるなど、『日経』さんもいろいろ工夫されているなあと感心します。終局間際から見始めたのですが、その頃にははっきりと羽生善治名人がよいとわかる情勢でした。大盤解説も先手の藤井猛九段の玉をどう寄せるかという話題に移っていました。棋譜を見ると、金矢倉対片矢倉という見慣れない戦型でした。結果的には羽生玉には一回も王手がかからず、途中は互角だったようですが、手数も短く、素人にはずいぶんな差が開いてしまったように感じます。

 『日経』の「王座戦中継サイト」(参考)では、棋譜中継のコメント欄で羽生名人が「ちょっと攻めが細いかなと思いながら仕掛けた。ほかには分からなかったが厳密には無理かもしれない」と感想を述べているのですが、素人には難しすぎる感想です。年配の人に言わせると、プロ棋士は勝敗に生活がかかっているから本心をなかなか言わないものだよとからかわれるのですが、攻めきる成算があって仕掛けたわけではないんだなあとしか読めないです。対する藤井九段のコメントは、53手目の▲2四歩が敗着とのことで、確かに棒銀の顔を立てて銀交換に持ち込んだものの、その銀で飛車が無力化されているし、馬も消された後で、桂馬をとって成る手が飛車を走らせる上に、馬自体が利かない状態になってしまい、これは辛いなあと。片矢倉は、素人向けの解説書では角交換の後で角の打ち込みが少ない駒組みとして紹介されますが、大盤解説の森下卓九段が淡々と解説されていたように、先手の玉頭を支える駒が玉以外にはなく、薄い感じです。終局後には、羽生名人の言い分としては自陣が普通の矢倉(金矢倉)で、相手が片矢倉では負けるのは不自然だと解説されていました。森下九段は矢倉のスペシャリスト(最近は指さないのに、『現代矢倉の思想』を読んで素人が矢倉なんて指すもんじゃないなあと)だけになるほど。裏を返せば、藤井九段の言い分としては角交換を前提にすれば、角の打ち込みの隙がない分、主導権を握れるということなのでしょうか。結果的には、羽生名人の言い分がほぼ一方的に通る形になりましたが、素人としてはどちらの言い分が勝るのだろうかと。

 個人的には「森下システム」が出てきた時点で、矢倉は無理になりました。私の棋力では理解するというより、覚えることが多く、しかも細かい。ちょっと金が上がるタイミングを間違えるだけでひどい目に遭います。10年ぐらい前ですが、飲み会の待ち合わせにでかけて1時間ぐらい遅れるという連絡があったので時間を潰しにゲーセンに入ったものの、定番の上海がなく、将棋をやってみたら、矢倉で負け、飛車を振って負けとコテンパンにやられてムキになってしまい、これでどうだと横歩どりに持ち込んだら、びっくりするぐらい隙だらけで60手ほどでゲーム機が投了しました。機械が相手なので棋風も何もないのですが、駒得を異常に重視するというのに気がつきました。恥ずかしいのですが、ゲームセンターで諭吉さんを崩すというあるまじき失態でしたね(遠い目)。飲み会そっちのけで当時30歳のおっさんが必死に機械相手に勝とうとする姿は、私自身が想像したくないものです。


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posted by Hache at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ふまじめな寝言

2010年09月25日

中国漁船(私掠船)船長の釈放をめぐる報道のバカさ加減

 今日で歯の治療が終わりと思ったら、右の前歯もお手入れしましょうというので際ですかと思っていたら、こちらまで差し歯になさりたいご様子。「銭ゲバ」ではないかという疑念が生じますね。そうでなくても、とても悲しくて書けないぐらい歯の治療で預金残高が減っているのに、もっと減らしてやろうというわけで、やっと解放されるのかと思っていたら、ぐったりです。もう「寝言」も浮かばない状態ですが、中国漁船の船長釈放までに至る報道で笑うしかないなあと思う点が一点だけあったので簡単に記しておきます。

 尖閣諸島が日米安全保障条約の対象であるというクリントン米国務長官の発言をありがたがったり、南西諸島の施政権を握っていたから当然であるとか、もうね、「バッカかじゃかろかルンバ!」という感じですね。あのね、日本固有の領土ですというからにはまず自衛隊が守るのが第一ですがな。アメリカ様、助けてくれるんでしょうななどと疑念を抱く前に、さっさと離島防衛をしなさいということにつきますね。私掠船というのは由緒正しきイギリス様からすれば、「今回の漁船など生ぬるいは!」ときれられそうですが、まあ、本来、日本の漁業にとってもマグロなど豊富な漁業資源もあるわけですから、密漁に対する態度を明確にして、バックにいるであろうPLAN(People's Liberation Army Navy)をけん制すべしとうならわかりますが、アメリカ様、お助け下さいというのをバカかアホかと言わずにオロオロする報道を見ていると滑稽千万ですな。

 とはいっても、石原慎太郎都知事のように、剛棒でふすまを破るハードな立場ではなく、日米安保は頼りならんという話はどうでもよろしい。まず、自国の領土ですから、自衛隊(外国では軍隊として扱われる摩訶不思議な組織ではありますが)がわかってますよねと中国を睨んだ上で、尖閣諸島における密漁への海上保安庁の対応がこれまでどのように行われてきたのか、今回はなぜ拿捕にいたったのか、そういった経緯が報道されずに、アメリカ様が守ってくれるとか、いやいや信用できないとか、段々とバカらしい話になっていて、この問題は日本人って本当に変だわという感じでしょうか。

 本題からそれますが、自国を自分の手で守る努力を怠る国を代わりに守ってやろうという酔狂な国など歴史上、存在しません。まあ、アメリカは善意の国ですから、過去のいかがわしいもつれもあって、漁船で一々、尖閣諸島は日米安全保障条約の対象と言ってはくれますが。こんなものは、場合によっては自衛隊で対処しますから、今回はけっこうでございます。しかるに、これこれの場合には、誠に自国の防衛に関することで御厄介をかけますが、ここはお願いします(まあ、策源地の攻撃はお手の物でしょうけれど)というのはわかりますが、なんだろう、このスネ夫ちゃんという感じ。

 那覇地検が「日中関係への考慮」というのはお気の毒にという感じですが、普天間移設を滅茶苦茶にするわ、ややこしいことは那覇地検におしつけるわで、民主党政権の悪口を書くのはもう散々やっているので、弱腰だの、中国に強いことを言えなくなるとかね、メディアには言ってほしくないですね。あと、木曜日にNHKのニュース9を見てドン引きでしたね。特捜がどうたらこうたらがどうでもいいとは思いませんが、まるで中国漁船がなかったかのようなスルーっぷり。情報源としてNHKの価値は下がる一方なので(大河ドラマもまったく見なくなりましたしね)、CATVを解約して受信料をけちってやろうかと。一時期はテレビが邪魔なので押し入れにしまっていましたから、NHKの人が来て、受信料をお願いしますと言うので、うちにはテレビがありませんと言ったらぽかーんとしていましたね。嘘だと思うでしょ、本当に使ってないんですよ、どうぞ上がって確かめて下さいと言ったら、なにをされるのかわからないと怯えて逃げられましたね。

 政権は論外として、どの道、自衛隊を機能させるのを邪魔してきた連中が評論家、ジャーナリスト(自称も含む)として声を張り上げてきた末路みたいなものでしょうか。一晩明けて「ニッポン\(^o^)/オワタ」みたいな雰囲気ですが、バカじゃないのかね。尖閣諸島をめぐる報道を見ていて、あんなものは読む価値も見る価値がないノイズみたいなものだという点ではタレブさんに同意ですな。

 それにしても、右の前歯まで差し歯にされると、結婚式のお祝いが苦しい。せめて5本はと思っていましたが、3本も出すと、うっかり数ヵ月前に87円を切ったときに円預金の大半をドルに換えて凍結しているので参りましたね(FXとかレバレッジや信用取引は個人がするもんじゃないという感覚があるので借金をしてつなぐ必要がないのが不幸中の幸いですが)。実は憂鬱の原因は金欠であったという悲しい結論になります。ドル円相場も読めないので、私の経済に関する話は「寝言」(悪い冗談)どころではなく、デマそのものですので、お読み頂いている方にはご理解頂いているとは思いますが、念のため、お断りしておきます。なお、1万ドルを優に超えていた残高が1万ドルを切るというのは貧乏人には本当につらいものです。尖閣が日米安保の対象かどうかよりも、日米首脳会談でそろそろ円高介入はね、わかるよねとオバマに菅が釘を刺されること(という妄想)を想定していなかった私はあれだけ米紙を読みながら本当に「ばっかじゃなかろかルンバ」と自嘲するのみ。 
posted by Hache at 01:00| Comment(0) | TrackBack(3) | 気分しだいの寝言

2010年09月23日

覇権の移動の可能性(補論)

 簡単に言えば、私が前回書いたことは起きる確率は極めて低いけれども、起きてしまうと対応が難しいことをとりあげているということです。また、中国人の世論が仮に経済成長にもかかわらず実感がない(どこぞの島国の2007年あたりを思い起こしますが)としても、中国共産党の動向が問題であり、中共が仮に世論を無視できないとしても、経済成長の果実が実感できないことと、ナショナリズムが希薄なことは一致しないでしょう。とりわけ領土問題の場合(日本政府の立場は尖閣諸島には領土問題そのものが存在しないという立場であり、これを私も支持しますが)、経済とは別の次元で捉えておいた方が無難だと思います。アジアにおいてアメリカが行動の自由をえているのは、中米とは異なって、アジア諸国と領土問題を抱えていないという要素を無視できないからです。

 私自身は国際関係論や国際政治学の専門家ではないので、言葉遣いが相当に乱暴です。たとえば、「バランス・オブ・パワー」にしても、単に「力関係」という平易な言葉に置き換えても問題がない程度です。また、「覇権」という表現も、専門的な文脈からはかなり外れた意味で使っております。曖昧な意味でしかありませんが、あえて定義するなら既存の秩序を最終的に担保する外交的能力・軍事力・経済的資源を有し、担保する意思をもった国家という程度です。そうした点からすれば、中国とインドというパワーを包含していない、極東からインド洋におけるアメリカの覇権は、現状からして不完全ともいえると思います。言葉遊びのように響くかもしれませんが、国際関係を素人的に考える場合にも、なかなか難しい部分があります。それほど私自身が描写の際に用いている用語を整理できていないということです。

 本文中でも今回の対象は中国の「軍事的脅威」に限定しております。というのは、米中関係全体でいえば、オバマ政権の主たる関心は為替レートであり、経済問題というよりも貿易不均衡にあまりに偏っています。自国の状態を見るにつけ、他国の心配をしている場合じゃないなと思うのですが、『外交』から引用した部分はオバマ政権に対する見方だと思って頂ければと思います。先ほども、ワシントンポストが配信した"'Exhausted' Obama questioner has her headline moments"(参考)と"Two of Obama's closest advisers among those likely to leave in White House shuffle"(参考)という二つの記事を読みながら、日米でどうしようもない政権がまだ2年以上も続くのかと憂鬱になりました。今回の「寝言」でとりあげているのはもっと長期的なことですから、目先のことは忘れるべきでしょうが、私自身がそういう気分から自由ではないことは率直に申し上げておきます。しばらくの間、少なくとも時事問題では「寝言」を呟く気分ではないです。気分ですから、変わるときは変わってしまうものですが。

 中国脅威論に私が違和感を覚えるのはどちらかといえば、政策レベルです。簡単に言えば、冷戦期に軍拡競争で旧ソ連が耐えきれずに崩壊した「二匹目のドジョウ」を狙うのは危なっかしいということです。緊縮財政が主流のヨーロッパと異なってアメリカでは財政政策は拡張的ではありますが、軍事予算はアフガニスタンへの増派もあって、アジア太平洋地域への予算が抑制的になっています。率直なところ、オースリンの記事を読んで、ここまで窮乏しているのかと驚きました。

 ちなみに、"Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2010"(参考)では台湾海峡危機に際して米軍を含む第三者による介入を排除すべくanti-access"(アクセス拒否) と"area denial"(エリア拒否)の能力を向上させていることが指摘されています。まず、サイバー空間を含めて人民解放軍が米軍に対して情報での優位を確立しようとしていることがあらためて指摘されています。それとともに、西太平洋における"anti-access"(アクセス拒否) と"area denial"(エリア拒否)の能力として、(1)対艦弾道ミサイル、(2)ディーゼルおよび原子力潜水艦、(3)ミサイル駆逐艦、(4)空対艦ミサイルを運用可能な攻撃機の配備などを挙げています。同報告書では、人民解放軍海軍の水上艦が台湾海峡を超えて、いわゆる「第2列島線」(the second island chain)へ進出する能力を2009年に誇示したと述べています。核戦力や宇宙における戦力、戦力投影能力(ロシア、中央アジア、インド、南アジアなどの地域への人民解放軍の前方展開能力)なども拡大していると指摘しています。

 米中の軍事バランスを考える場合、中国がある軍事的アクションを起こした際に、米軍がそのアクションが見合わないほどの打撃を与えることが基本です。抑止自体は、素人的には、(1)やられたらやり返すだけの実力、(2)やられたらやり返すという意思、(3)報復があると相手が確信し、相手が確信していることを抑止する側も理解している(合理性)などの要素から成り立っていると理解しております。中国が米国本土を攻撃するケースは無視してよいでしょうから、アメリカが日本や韓国などと盟約している拡大抑止を中国が拒否できるかどうかが問題でしょう。中国脅威論の多くは、中国が米軍の拡大抑止を拒否する能力をつける可能性を重視しています。現時点では、人民解放軍に米軍の抑止力を拒否する能力はないでしょう。ただし、中国の軍拡は速度と規模の点で異質であり、アメリカを中心とする先進国の経済成長率が低下する一方で、中国の経済成長率が相対的に高い状態が続いた場合、中国が軍拡を続ける一方でアメリカが現状維持がやっとならば、拡大抑止を拒否することが可能になる確率をゼロとみなすのも危険があります。また、中国の軍拡が非常に不透明な形で進んでいることも、拡大抑止の信頼性に影響を与えます。拡大抑止の対象となる国がひょっとしたらアメリカがいざというときに助けに来てくれないかもしれないという疑念をもつだけで、利害計算が複雑になります。

 なお、国際関係論の分野では「同盟のジレンマ」という「囚人のジレンマ」と同じく、協調解が非協調解よりも個々のプレイヤーにとっても全体としても利得が大きいのにもかかわらず、非協調解を選んでしまうインセンティブが存在する状況が分析されています。裏切りのインセンティブとして見捨てられる恐怖と戦争に巻き込まれる恐怖がありますが、日米関係や日韓関係のように、実質的にはシュタッケルベルグ均衡と類似した形で、リーダーとフォロワーが固定化されているケースを専門的にはどのように扱っているかがわかりませんので省きます。

 問題となるのは、拡大抑止の対象となる国が見捨てられるかもしれないという疑念を抱く事態が、中国の追加的な軍事支出に対して、米国の追加的軍事支出(軍縮の場合はマイナス)がどの程度の水準にまで落ち込んだら生じるのかという点です。おそらくですが、現実的な政策的インプリケーションを与えるほど、強い値が理論的に定まらないのではと思います。簡単に言えば、仮に数理化できたとしても、下限と上限の幅が数千億ドル単位になってしまえば、政策決定者の嘲笑の的になるでしょう。他方、私自身の立場には不利ですが、レーガン政権におけるSDI構想やそれ以外の分野も含めた軍拡はソ連からすれば合理的な意思決定を超えており、訳がわからないまま軍拡に追従してみたものの、それが自国の制約を超えていると気がついたときには、既に時遅しであったという解釈も成り立ちうるのでしょう。私自身は、現在の先進国における経済成長率の低下が一時的なものではなく、長期的な現象であり、アメリカの国力をもってしても長期(20年ないし30年)の軍拡を、主導権を握りながら実行できるかどうかには懐疑的ですが。

 非常に回りくどくなりましたが、オースリンの論考は、オバマ政権は南シナ海などで東南アジア諸国の安全にコミットしているものの、裏付けとなる軍事力、とりわけ中核となる空母打撃群が財政的な裏付けが不十分であり、見捨てられる恐怖を東南アジア諸国に与える可能性があるという点を指摘していると思います。もし、アメリカのコミットメントがクレディブルではないと東南アジア諸国が感じた場合、中国の影響力が非常に強くなるリスクがあります。また、この場合の「覇権の移動」というのは、中国の軍事力が総合的にアメリカに優位に立つことを意味しません。アメリカの提供する拡大抑止に対して同盟国から疑義が生ずればよいのです。ただし、「アジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャ ―地域安全保障の重層的構造―」(参考)を読んで考えが変わるかもしれません。


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2010年09月22日

覇権の移動の可能性

 暇なわけではないのですが、月曜日はぐったりした状態でディスカバリーチャンネルのマヤ暦の話を見ていて、噴き出しそうになりました。下品な表現になりますが似非科学批判というのも、ある程度を超えると飯のタネになるんだなあと。太陽フレアにポールシフト、小惑星の激突など次々に仮説が出されて映像化され、科学者という肩書をもった人たちが否定していく。30分ぐらいすると、滅亡慣れしてしまうので、まあ番組の意図どおりに見ていたことになるのでしょう。50分ぐらいの番組でしたが、見終わって飽きてしまったので、速攻でHDDから消しました。この種の終末論は手を変え品を変えて出てくるのでしょうし、材料には困らないのでしょう。

 より現実的な脅威は、私たち自身であって、天文学的なスケールでは確かに小さな出来事であっても、私たちの運命を左右する。言葉遊びのようなものですが、「ポールシフト」から連想したのが、地磁気の変化と比較すれば、はるかに短期間で生じうる「覇権の移動」でした。中国の軍事的脅威の本質についてほとんど目にしないのがかえって鬱の原因なんだなあと。経済について初歩的な理解があれば、中国のGDPが日本のそれを上回ったということ自体にあまり意味がないということになりましょう。問題は、増える国内の富をどのように配分するのかという点になる。日本という国は変わっていて、戦後は臆病になって経済成長の果実をさらなる経済成長へと注ぎ込んだものの、それが例外的な事例だという自覚が日本人自身にない。むしろ、中国のようにアメリカの覇権に挑戦してやろうという方が普通なのかもしれない。そのような感覚をもった話が本当に少ないので、「中国脅威論」を読むたびにかえって憂鬱になるという状態でした。『世界の論調批評』の「米太平洋軍司令部における対中警戒論 」(2010年9月1日)という記事は、抑鬱の原因の本質を描写しているので、気分が軽くならないにしても、鬱のありかがわかる、そんな記事でしょうか。

 引用されているMichael Auslinの記事は、"China: The View from Hawaii"というタイトルで National Review Onlineに2010年9月1日に掲載されました。はっきり言って、想像以上に米軍の抑止力の低下は悲観的な気分にさせます。オースリンの記事は定期的に読んではいますが、最も重要な記事の一つを読み落としているので、『世界の論調批評』は助かります。ただ、9月の上旬は、体力的にもどうかなりそうでしたので、その時点で読んでいたら、体力と気力が追いつかなかったでしょう。

 オースリン自身がこの記事を一行で要約するならという感じで、"In Hawaii, the benign view of China often expressed in Washington political circles is all but absent. "と述べています。ハワイでは、ワシントンの政治サークルで表明される優雅な中国への見方は存在しない。中国の戦力に関する分析はありませんが、次の描写は重たいものがあります。

  Unfortunately, Washington, D.C., has become a growing obstacle to Pacific Command's ability to do its job. While Pacific Command's leaders publicly assert that they will continue to fulfill their mission, everyone looking at the issue knows that shrinking budgets, fewer ships in the Navy, and an aging Air Force will put severe stress on the force, diminishing its effectiveness. Shipbuilding plans show shortfalls in submarines, destroyers, and other surface ships over the next 30 years. Already, steaming time and flight hours are down, although officials avoid providing specifics. All of this cuts at the heart of operations in Pacific Command's 100-million-square-mile area of responsibility, stretching from the West Coast of the United States to the Indian Ocean, and containing half the world's population and 36 separate countries, including four of the most populous and powerful (China, India, Russia, and the U.S. itself).

 不幸なことに、ワシントンは太平洋司令部が任務を遂行する能力に対する障害物となってきた。太平洋司令部の指導者たちは、公的には任務を遂行できると強く主張してきたが、彼らはみな予算の縮小、海軍における艦船の減少、空軍の老朽化によって軍に負荷がかかり、有効性を減じることを理解している。造船計画は潜水艦や駆逐艦、その他の水上艦が次の30年にわたって不足することを示している。高官は詳細を示すことを避けているが、既に航行時間と飛行時間は減少している。この削減されている作戦行動は太平洋司令部の心臓部である。太平洋司令部は、アメリカの西海岸からインド洋にまで広がる100万平方マイルにおよぶ地域に責任をもち、人口が多く、活力のある4つの国(中国、インド、ロシア、アメリカ)を含む世界の人口半分と36の独立した国を含む。


 最後の一文は意訳というよりも、苦し紛れの雑な訳ですが、なんとも重苦しい気分になる描写です。もはや、現状維持は現状維持ではなくなることを実感します。アメリカの海上覇権は、経済的停滞による財政の逼迫、そして、ブッシュ政権下のイラク戦争、それに続くオバマ政権のアフガニスタン戦争で増強どころか、メンテナンスすら支障をきたしているのが現状でしょう。他の部分では太平洋の島嶼国家に中国が浸透してきており、アメリカの海上覇権に対して、中国がこれを覆そうとしているのが現状だと思います。

  While a number of administration officials--such as Assistant Secretary of State for East Asia and the Pacific Kurt Campbell and Assistant Secretary of Defense for Asian and Pacific Security Affairs Chip Gregson--seem to fully share Pacific Command's views on the threat posed by China's growing naval and air capabilities, diplomatic heft, and economic influence, the reality is they will increasingly be hamstrung on the security side by budget caps imposed by Secretary of Defense Robert Gates. Adding fuel to the fire, Rep. Barney Frank (D., Mass.) and Sen. Kay Bailey Hutchison (R., Tex.) have recently been questioning why the U.S. continues to base troops in Japan. Such comments only confirm the fears of those working in Hawaii that people on the mainland (including national leaders) don't understand how important it is to remain present in the region. To a degree little appreciated in Washington, every U.S. pronouncement and action undergoes extremely close scrutiny by Asian leaders and analysts, who seek to read the tea leaves regarding America's credibility and intentions.


 キャンベル国務次官補やグレッグソン国防次官補は太平洋司令部と認識を共有しているものの、ゲーツ国防長官は予算に上限を設けているのが現実だと。さらに火に油を注ぐように、下院のBarney Frank議員(民主党 マサチューセッツ)や上院のKay Bailey Hutchison議員(共和党 テキサス)は、日本に米軍基地を駐留させておくことに疑義を呈しています。このような地域における米軍のプレゼンスを維持することの重要性を理解しない米本土における指導者を含む言動は、アジアのリーダーと分析家によってアメリカが信頼性と意図を保つのか、精査の対象になるだろうと警告しています。また、クリントン国務長官の演説は、南シナ海へのコミットを表明したものの、疑念が多く、黄海上での演習に関して「二歩前進一歩後退」という印象をアジア諸国に与え、アメリカがアジアにおけるバランサーの役割を果たすのか、疑念を与えているとも指摘しています。

 この予算の制約からくる、アメリカのアジア・太平洋地域における軍事的プレゼンスの低下は、中国にとって大きなチャンスになるでしょう。米中の軍事バランスの評価は私の手に余ります。少なくとも、現状では、予算の制約が大きいとはいえ、南シナ海においては東南アジア諸国がアメリカを頼りにすれば、全面的な対決を避けようとする傾向が中国にあることは、太平洋方面で米軍が苦しいやりくりを続けているとはいえ、優位が失われたことを意味しないと思います。また、オースリンが最後に述べているように、この地域へのコミットメントをアメリカが放棄する可能性も低いでしょう。

 他方、アメリカの経済成長率が停滞し、中国が以前ほどではないにしても、1980年代の日本程度の経済成長率を保てる体制に移行することができれば、追加的な軍事支出は中国がアメリカを凌駕するでしょう。日本を含むアジア諸国にアメリカの軍事的プレゼンスを補完することはできても代替することは事実上、不可能でしょうから、時期は、率直なところ、わかりませんが、米軍の抑止力の低下傾向に歯止めがかからない限り、南シナ海や東シナ海は実質的に中国の「内海」となるリスクが生じるでしょう。リスクが顕在化した場合、あえて国際的な非難を浴びる危険が存在する台湾の武力併合を行う必要もないでしょう。武力による威嚇を背景に台湾政府を屈服させればおしまいでしょう。

 また、アメリカの軍事予算がアフガニスタンに偏った状態を是正すべく、全体として緊縮傾向が続いた場合、短期的にはアジア諸国の軍拡を促す側面があるでしょうが、10年単位で見た場合、それが維持可能かどうかも疑問が残ります。南シナ海の場合、当面は海上覇権をめぐる衝突でしょうが、中国側には国境を接するミャンマーやラオス、ベトナムなどに陸上からアクセスすることが可能ですし、タイもアメリカと中国を天秤にかけて小国らしい外交を行うインセンティブがあります。アメリカと東南アジア諸国の関係は、「合従」となり、中国が力で押してきた場合、「連衡」が勝る可能性もあります。対中国という点では東南アジア諸国にある種の共通の利害関係があるとはいえますが、この地域で地域的集団安全保障を機能させるためにはアメリカが相当の利害調整を行うことが不可欠でしょう。中国からすれば、これらの国をすべて圧迫する必要はなく、中国寄りの国を引っ張り込めば、アメリカをハブとする集団的自衛は機能することはなく、アメリカにとっては常に個々の国の利害が自国の利害とかならずしも密接ではないのにもかかわらず、その国の安全にコミットしなければならないという問題に直面するでしょう。

 現在の中国の行動は、非常に近視眼的で東南アジア諸国の緩やかな連携を招き、韓国がアメリカへ傾斜する傾向を強めています。その根底には、やはりバランスオブパワーが自国に有利になりつつあるという認識があるのでしょう。日本を含むアジア諸国の役割がアメリカの補完的な役割を出ない以上、アメリカが軍縮を行う状態が続けば、アジア・太平洋地域における覇権の交代の可能性も無視できない事態が生じ、長期間にわたるかもしれません。中国が、より洗練された外交と軍事の組み合わせを行った場合、この地域からアメリカの影響力が大幅に低下し、経済面でも、第二次世界大戦後に確立した自由主義が後退し、アウタルキーの側面が強く出てくることにも留意が必要でしょう。このような状態に至れば、第一次世界大戦から第二次世界大戦をへて、アメリカが確立した自由主義と民主主義を基調とする国際秩序そのものが大きく変容することを意味するでしょう。


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2010年09月21日

中国様からの菅政権へのエール?

 月曜日に『日経』の「核心」を読んで、とても不快でした。「時の最果て」など「寝言」ばかりですから論理性もへったくれもないのですが、これを英訳してベンサムに読ませたら泣くだろうなと(法人税率の引下げなんて功利主義的な発想そのものですから、そういう発想そのものがけしからんというなら、引下げ自体無理筋ですな)。陸奥宗光に読ませたら、「新・日本人」でも書いてくれそうですな。「ネット世論」(笑)の逆の意味での正確さにはびっくりでしたが、紙媒体を読んでも、中国様がキャンキャン騒いでいる理由がわからず、日曜日に、よほど国内世論が荒れているのか、中共の正統性が揺らいでいるのか、なんなんでしょと親中派の人たちと話をしていたら、国内は対外強硬一本やりで中共もグリップを握っているとは言えない状態の上に、次世代の予定だったはずの習近平は軍への影響力が胡錦濤よりもはるかに弱く、大変じゃないですかとのことでした。「親中というと売国奴と思っているんでしょ?」と尋ねられて、相当、フラストレーションがたまっているんだなあと。こちらの見解を出さずに今回の件に関して尋ねると、日本の領海で起きた事件は日本国内の法にもとづいて処理するのが当然でしょうねと突き放した感じでしたね。

 それはともかく、現在の中国の反応があまりに異様なのですが、わざわざ英語で読まないと確認したいことがわからないというのはどうなんでしょうね。結局、アメリカのYahoo!経由でAP電の"Japan urges calm after China severs contacts"という記事を読んで、なるほどと。尖閣諸島の帰属など背景は完全に省略されていますが、"Kan's spokesman, Noriyuki Shikata, told The Associated Press that China had not yet given formal notice of the suspension of contacts and exchanges."という一文が知りたかったあたりでしょうか。菅氏のスポークスマンとされている"Noriyuki Shikata"という方が漢字変換できないので留保付きですが、日本政府に対して公式には接触や外交を絶つ通告をしていないわけでして、やっていたらばかげていると思いますが、よほどのことがない限り、菅政権へのエールに終わるのでしょう。

 要は、中国側が「声と形の戦争」をしかけてきているので、柳に風とばかりに欧米に広報をした上で淡々と処理する問題だということになりますでしょうか。「声」にしても「形」にしても、本気ではないでしょうから、「気抜け」じゃありませんが、日本の領海で起きた公務執行妨害なのでそれで処理させてもらいますと淡々とこなすと中国があげた拳の降ろしどころに困るのでしょう。部屋を掃除機で片付けるような話なので、これもできないようですと、普通の会社だったら正規雇用も無理じゃないかなあ。あと先ほどのAP電には"the economies of the China and Japan, the world's second- and third-biggest economies"とあって中国にGDPで抜かれたということにショックを受けるナイーブな人には精神衛生上よろしくない記事かも。そんなに世界第2位の「経済大国」に執着するなら、円高誘導でもしましょうか。


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2010年09月17日

米議会の通貨政策における対中強硬への傾斜と国内世論の分裂

 めまいの原因というと、やはり高血圧なんですねと岩本先生の記事を拝読しながら、妙なところで納得してしまいました。困ったことに、10年ぐらい前に回転性のめまいを経験したときには血圧が上が90下が60、加齢で最近は110なんていう値を見るとびっくりします。頸動脈のエコーを検診を定期的に受けていますが、幸い、動脈硬化の兆候は皆無のようです。いつも担当して頂いている看護士さんいわくは、若くても動脈硬化がはっきり確認できることもあるそうで、もう若くはない、しかし、高齢化が進んでいる社会では若造扱いされる私からすると、怖い検査の一つです。動脈硬化の原因は食生活がやはり大きいようなので私などは危ないのではと不安ではありますが、大丈夫ですよ、とてもきれいですと言われてホッとします。他方、体重はまあ、そのおというところでして、「細すぎず、お太りでもないですから」と微妙につくった笑顔で言われると、かえって傷つきますなあ。「デブとかメタボとかでも全然平気ですよ」と返すと、苦笑いして逃げられてしまいました。

 相変わらず、体調が今一つではありますが、ドラめもんさんのところを読みながら、介入のタイミングを読んでいましたという「自己申告」。読んだ覚えがあるのですが、日銀文学よりも高度な文章なので、気がつかなかったです。失礼ながら、それ以上に噴いてしまったのが、官房長官の記者会見は禁止すべしというあたりで、恥ずかしながら、仙谷官房長官が82円が防衛ラインというのを示したというのを知りました。『日経』ではさらっとしか書いてなかったので読み落としておりました。ネットでは「異例」とあって、扱いに困ったんでしょうね。菅首相も代表選の最中に欧米の通貨当局に根回しをしていると漏らしてしまったそうで。まあ、それでも85円台まで押し戻すわけですから、官房長官のオウンゴールの割には現時点ではごく目先にすぎませんが、効果があるのがむしろ驚きでしょうか。官房長官の発言は痛くもなんともないよという感じで介入を行う財務省の中の人、政府のサポート役に徹する日銀の中の人と頭が下がります。

 米紙の報道で目につくのは、やはり元の問題でしょうか。Wall Street Journalが2010年9月16日付で配信したAndrew Batsonの"China's Yuan Gesture Could Backfire"という記事では、中国が米議会の元の切上げ要求に対する宥和的な態度がかえって米議会の反発を招いていると指摘しています。中国政府は米議会の勢いに押される形で元高を容認して、元高が進みました。しかるに、米議会の要求は元の20%の切上げであって、元が通貨バスケットを参照する形に移行してから最高の元高では米議会のみならず、ユーロ圏のかえって反発を招いている状況を描いています。

China's central bank faces a difficult balancing act: On a daily basis, it has to set a number for the exchange rate that not only is appropriate for the domestic economy, but also sends the right signals to global investors in the currency markets and keeps contentious trade politics in the U.S. and Europe under control.


 上記の指摘は平凡ですが、現在の中国の通貨政策が"narrow path"であることを端的に示していると思います。中国は通貨バスケットを採用することで個々の通貨との為替レートを適切に設定しなければならないわけです。その際、一方で国内経済に配慮するとともに、通貨市場における投資家へ正しいシグナルを送ると同時に、アメリカやヨーロッパに対して議論の種になる貿易政策を保たなくてはなりません。固定レートにこだわる限り、この3つの要請を満たすレートを中国の中央銀行が設定するのは非常に困難だと思います。

 やはりWall Street Journalが9月16日に配信したMichael Crittendenの"Geithner Calls China's Move on Yuan 'Too Slow'"という記事では、ガイトナー米財務長官が議会証言で、中国の人民元の切上げの速度が遅く、知的財産権など経済政策にも批判を加えた上で、中国を為替操作国として指定することには慎重であることが指摘されています。また、木曜日の公聴会では日本の為替介入には言及せずに、中国が元の過小評価を維持しようとしている点に焦点をあてました。日本の為替介入は、非常にデリケートなタイミングで行われましたが、日米間の政治的な関係もさることながら、やはり焦点は中国の為替レートなのでしょう。

 私自身、この問題に妥当と自分でも納得のゆく解があるわけではありませんが、中国が他の先進諸国と同じく、フロート制への移行を考慮しなければ、常に欧米との摩擦を招くのでしょう。現状では、中国の通貨切上げが焦点の状態が続くのでしょうが、国際経済へ中国を本格的に構成員とするためには、フロート制への移行が避けられないと思います。これは中国国内経済にとっては重荷でしょうが、中国自身が国際経済における先進国を目指すのかという点が問われるでしょう。変動為替相場制が各国にとってベストの通貨体制なのかは断言できませんが、1970年代以前のブレトンウッズ体制に戻ることは困難であり、変動為替相場制へ中国が適応できなければ、単に政治的な摩擦だけではなく、欧米の経済成長率の鈍化が長期化する事態に対応できないのでしょう。また、政治的摩擦は、国際経済における協調体制は暗中模索が続くとはいえ、中国の政治的発言権を極めて限定的なものにするという点でも、中国の経済成長になんらかの制約となる可能性があると思います。経済の本質が競争という一見、相反するプロセスをともなう互恵的な関係であることを理解しない国が長期的な経済成長を遂げることは難しいと感じるからです。


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2010年09月16日

「気抜け」の効用

 「ネット世論」というのはまるで秋の空のようなものですなあ。代表選直前まで化石のような反米論者が幅を利かしていたと思ったら、今度は対中関係で政府が弱腰だと批判したり、あっけにとられたのは、まだクリントンのCFRにおける演説で韓国にとってかわられたとか、「寝言」よりたちの悪い冗談を真顔で書いてあるのを見ると、あまり驚くことがなくなりましたが、ちょっと口が開いたままになります。中国の漁船の捕獲とその後の対応に関してはこちらの2010年9月15日の「不規則発言」で紹介されているアーミテイジ氏の捉え方が普通ではないかと。ついでに、クリントンのCFR演説についても笑いをとっていて、こちらで既に書きましたが、なんでこんなところで過剰に敏感になるのか理解しがたいです。ざっとしか読んでいないのですが、日本とドイツをアメリカの庇護の下で民主主義が定着した国として描写した後で(ドイツはともかく、日本についてはどうかなという歴史認識ではありますが実害はないから、アメリカ人から見ればこんなものだろうと)、韓国が日本とドイツ並みになりつつあるという認識を示しています。いまだにアメリカへの劣等感があるのかとびっくりしたら、今度は韓国にも追い抜かれるのかという私噴を感じて疲れました。

 なにをもって米韓同盟の格上げとするのかは難しいところですが、私の知り合いの韓国人の間では暗黙に地位協定をなんとか日本並みにしてほしいという願望がありますね。韓国人からすれば、日米同盟は羨ましいんですよ。韓国がベトナム戦争からイラク戦争まで米国が血を流しているところで日本はこれといってリスクを負わずに、いい地位を占めているように韓国人には映るのでしょう。日米同盟と米韓同盟が補完的な関係にある以上、米韓同盟の強化は日本の安全保障環境にとって歓迎すべきことと捉えた上で、鳩山政権下で破壊された日米同盟の修復を図る(といっても普天間飛行場の移転問題というのが泣けてきますが)というのがごく自然ではないかと思います。それは容易なプロセスではない。ここまでこじらせてしまうと、アメリカと意思疎通を図りながら、同盟の信頼関係を崩す事態にいたらないように、こまめに対処するしかないでしょう。

 対中関係では、中国の術中にはまっているという思い込みの方が危険でしょう。既に、宮古島海峡での横暴にくらべれば、隠微な話になっています。蓮舫氏の発言はお粗末としかいいようがありませんが、日本国としての意思表示ではない。憶測ですが、尖閣諸島も日米安保の対象というアメリカの意思表示を受けて、露骨に米軍が関与する危険を避けるために漁船(不正確な認識でしょうが、尖閣諸島はガスや油田だけではなく、漁場としても魅力があり、以前から中国の漁船が荒らし回っている)に対して、領海に侵入してもよいという中国政府の暗黙の了解があるのかもしれません。宮古島海峡では虚をつかれた形になりましたが、今回も政府内の対応が遅いとはいえ、致命的なミスというのは現時点ではないと思います。民主党政権の意思決定がひどく素人的であるという検証は必要でしょうが、現時点では竹島と異なって、尖閣諸島は日本が実効支配をしていますから、あまりキリキリせず、民主党政権に対してノーマルな対応を求めればよいのでしょう。

 率直に言えば、菅氏の再選のおかげでもう鳩山政権の8か月を繰り返す可能性は非常に低くなり、ホッとしました。国内メディアの政治関連報道はほとんどが再選後の人事に終始している印象ですが、「脱小沢」はやはり政策面が大きいでしょう。もちろん、政策の担い手の人事が大切だというのは理解できますが、「政治とカネ」とか「政治手法」よりも、政策面で2006年の「政権政策」(小沢氏の公式HPで読めます)から離脱することが要だと思います。

 その意味で、外国為替市場への介入は意表をつかれました。代表選で菅氏も単独介入も辞さずという方向に傾きましたが、欧米が通貨安を暗黙に容認している下で、単独介入の効果には疑問でした。これも憶測にすぎませんが、代表選の最中に水面下で財務省・日銀レベルで、協調介入は無理だとしても、単独介入に対して否定的な態度をとらない程度の合意はとりつけていたのではと推測します。アメリカの主要な関心はやはり元の為替相場であって、これを問題にする際に、日米で協調介入というのは無理筋でしょう。民主党政権になってから安全保障に限らず、意思疎通がどの程度、日米ではかられているのかという点に関しては不安がありますが、日本経済が苦境に立つことがアメリカにとって利得があるわけではなく、1990年代半ばのように日本を本気で潰そうという時代はとっくに過去のものになっていますから、支持も不支持もしないという状態なのでしょう。

 介入の効果に関しては、投機筋が政府・日銀をなめていただけに、代表選直後の介入は、少なくとも短期的には成果を収めているし、ある程度、持続するのでしょう。為替の水準はまったく予測ができませんが、巷間で言われているように、投機筋が1ドル86円あたりでドルをショートしているなら、この水準を超える介入を行えば、かなりの程度、ドル円相場で痛手を被らせれば、警戒心を与えるでしょう。円高の原因として日米金利差の縮小やアメリカ経済の先行き不安などが挙げられていますが、まったく出鱈目とは思いませんが、円を買う口実であろうと。理由なんて後付けなんじゃないですかね。とりあえず、ドルをショートにして儲けようというのが先にあるのではと。ただ、日本人という立場を離れると、最近のユーロ高はユーロ圏には重石でしょう。アメリカ、ユーロ圏の通貨安容認は国際的な協調体制を崩しかねないあやうさがあるだけに、新興国など外需に活路を求めるという先進諸国の行動は、それ自体は合理的ではありますが、ある程度の歯止めが必要になってくると思います。

 解析を見ていてある公的機関からユニークアクセスが多くてびっくりしましたが、「外国為替資金特別会計」に関する「寝言」が入り口だったようで、あれは恥知らずの私でも制度に関する無知をさらしたひどい「寝言」でもありまして、汗顔の至りですね。たぶん、頭の悪い人がバカなことを書いてるよと読まれていたのかと思うと、ちょっと複雑な気分です。

 本題からずいぶんそれてしまいましたが、新聞などのマスメディアやネットの記事にしても、「危機」の打開や「難局」への対応を説くのですが、たいてい、この手の論説は生き急ぎに終わると思います。国際関係にしても、経済にしても、数年で収まるような変化ではないのでしょう。なんの役にも立ちませんが、「気抜け」というのは解決策をもたらさいないでしょうが、予測不可能な事態に対して先入観をもたずに対処する心理的なゆとりを与えるでしょう。体調が相変わらずよくないということもあるのですが、ダイエットを焦ればかえって体重が増えたり、たばこ税増税で頭に来て無理やり禁煙するとストレスがたまるものです(後者は個人的な事情ですが)。

 『らんま1/2』の「獅子咆哮弾」は、不幸せなことを思い起こして「重い気を生じ、気を落とし、気が沈む」であり、極意は「気抜け」ですから、不幸せな状況には「気抜け」の効用というのもバカにできないでしょう(参考)。「時の最果て」らしく、まったく説得力のない「悪い冗談」になりましたので、おしまい。


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2010年09月15日

菅氏再選 前途多難

 先週の後半ぐらいから、めまいがひどくてすべてが停滞していました。たいしたことをしているわけでもないのですが、心身ともに疲れていたようです。心臓内科で月一の診断が終わり、別の内科でめまいの相談をするとストレスでしょうねとのこと。冷房が効いている部屋での作業が多いので、内耳も疲れるでしょうと。言われてみればなるほどでして、運動不足も加われば、血行は悪くなるし、季節も徐々に秋らしくなってきています。そんなわけで、可能な限り、手抜き状態が続きそうです。

 先々週ぐらいから、羽生名人の棋譜を眺めておりましたが、竜王戦の挑戦者決定戦第2局(対久保利明棋王)と、第58期王座戦第一局(対藤井猛九段)を見て、ギブアップでした。いまだに、角交換を厭わない振り飛車というのがわからないです。まあ、現代のプロの将棋にはついていけないだけですが。ただ、対久保棋王戦はまだ羽生名人の狙いがわかりやすく、飛車が自由自在にさばかれると困るので、詰めにいったというところでしょうか。そうはいっても実際に手にできるかといえば、難しく、手になるのが不思議ですが。今期の羽生名人の勝率は約81.5%と高いのですが(対戦している相手を考えるとちょっと信じられない値)、それでも挑戦者の地位までゆくのが大変というのは驚きです。当たり前ですが、これほどの競争が行われている世界で勝ち続けるというのはなんなのだろうと考えさせられるものの、答えらしきものは私にはさっぱりです。

 それと比較すると、今回の民主党代表選はあまり驚きがない結果でした。結果は散々、報道されているでしょうから、省略します。ちょっと意外だったといえば、党員・サポーター票で菅氏が圧倒したのはへえと思いました。上杉隆さんによると、「官報複合体」によってつくられた「世論」だそうですが、ネットで「人気がある(笑)」と報道各社の世論調査でどちらが信頼度が高いかといえば、後者であるのは麻生太郎氏が身をもって示しただろうにと。「アレルギー選挙」と捉えれば、結果はほぼ自明であろうと。率直なところ、政権与党でなければ、民主党の首などどうでもいいのですが、はたから見ても、小沢氏を選ぶのは死に急ぎでありまして、菅氏を選んだほうが「死期」が伸びるという感覚でしょうか。ただ、その寿命は民主党のそれであって、個人的には菅氏の方がごくわずかにダメージが小さい程度の差でしかありません。

 これからの見通しですが、お医者さんが小沢さんが民主党を割るかなとおっしゃるので、言下にそれはないでしょうと。権力とカネのない小沢さんと「情死」する酔狂な人はいないでしょとついつい本音を漏らしたら、あまりの表現に絶句されてしまいました。反省。政治に関することで政治的配慮を欠くと、「外道」と思われても仕方がないですね。露骨に言えば、民主党内にいるから、実質的には菅氏に匹敵するぐらいの票を集められるのであって、民主党から出てしまえば、衆議院はもちろん、小選挙区化が進む参議院ではまず勝ち目がないでしょう。下品な表現ですが、「滑り止め」の役割になる比例代表も、小政党では非常に厳しい。小沢氏に近い人で2005年の総選挙で選挙区で勝った人が思い浮かばないほどですので、評論家にでもなりたいならともかく、小沢氏が割って出るという確率はかなり低いだろうというのが率直な実感です。政局はさっぱりわからないのであてにならないのですが、「政界再編」というのもないだろうなあと。

 2006年当時の小沢代表の下で作成された「政権政策」が2009年の衆議院議員総選挙におけるマニフェストの骨格になっているので、これを修正するのが今後の政権運営の基本になるのでしょう。乱暴ですが、私が菅氏の助言者だったら、あのマニフェストは野党時代のもので、実現可能性を無視していたから、チャラにしてくれという最後のチャンスですよというところでしょうか。たぶん、菅氏にはそれだけの決断力とリーダーシップはないから無理でしょう。他方で、マニフェスト実現どころか、鳩山政権がまき散らした「糞害」の処理すらできるかどうか。それは民主党にとっても茨の道でしょうが、日本人にとっては苦痛に満ちた十年の二年目の始まりを意味するのでしょう。その次の十年? 痛いと感じる神経も死んで楽になるんじゃないのでしょうか。


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