2010年09月01日

イラク失陥の始まり

 歯の治療も根気が要りますね。まあ、こちらはじっとしているだけで、作業は歯医者さん任せではありますが。上の左側の前歯2本の傷みがひどく、膿が骨を突き抜けて唇の裏側にたまっていたようです。仮歯の装着を含めて2時間を超える治療だったため、途中で寝てしまっていたようです。治療の初期の段階では炎症がかえってひどくなるかもしれませんからということで抗生物質と痛み止めを処方していただきましたが、痛みはまったくなく、安心です。仮歯を装着する前に違和感があったのですが、歯根を除いてほとんど削られていて、ああ、こうやって自分が自分でなくなっていくのだなあと老化の悲しみを覚えました。仮歯ということもあって噛み合わせは今ひとつですが、この数日はまずは快適ですね。驚いたのは、支払額でして、これだけの作業にもかかわらず、保険全体で6,100円、本人負担は1,830円でして、これは少ないなあと。本人としてはありがたいのですが。そんな心配をする必要もないのですが、子どもがいたら、医師・歯科医師は絶対、反対ですな。

 これだけ診療報酬を抑制しているのにもかかわらず、『日経』の月曜日の朝刊を社会保障関係費は伸びて、概算要求は96兆円を越すそうで。お茶目な『日経』だけあって公的年金が運用益を出したときには一面もしくは三面ぐらいにのるのですが、横に「公的年金 損失3.6兆円」とあって当然だろうと。まあ、あきれるほど金遣いの荒い政権を日本人というのは好きなんだなあとあきれますね。しかも、運用益が出る状態ではないのに積立金を取り崩す有様。2010年8月31日終値で東証一部の時価総額は273兆4,588億87百万円でして、とても経済成長が見込める状態ではありませんから、今後10年間ぐらい1986年の時価総額を越える水準で安定的に推移するとはとても思えないです。というわけで、不謹慎ですが、国民年金を納めない若年世代の行動は合理的ではありますなあ。無為無策の政党を選ぶ中高年者への消極的な抗議というところでしょうか。頭が誰になるかで世間ではバカ騒ぎをしているようですが、あんなものついてりゃ同じでありまして、債券市場がそれで動くとしたら、頭が腐っているのと同程度にたいした人が運用していないというだけのことでしょう。単に価格が上がったからいったん利益を確定して、リスク資産に回す状況じゃないからまた債券高という話だと思いますが。『日経』の夕刊を見て玄葉という人がまた補正がどうたらに加えてFRBの動きを「注視」して日銀は行動するようにと注文をつけていてうんざりしました。閣僚の「守備範囲」が支離滅裂ですなあ。これが民主党中堅の「優秀」な御仁だとすると、政界再編などせずに、野垂れ死にしてほしいものです。

 そんなわけでリーダーで読み込んでおりますと、バカみたいに民主党代表選挙に関する話ばかりでして、平和だなあと。平成最大のバカ予算(今後、新記録が出る可能性が大ですが)を組んで消費税増税という寝言は寝てから言えという「時の最果て」における禁句を薄ら笑いを浮かべながら言いたくなる候補とまだまだばらまくぞ、財源は将来に付回しだという候補の選択でしかなく、拒絶感の強い政党の筆頭に民主党がくる私にとっては無縁の世界です。他方、アメリカ発のニュースは、重苦しく、今後10年間、現状維持を図ることができるのだろうかという危惧の念を抱かせます。米中関係も大きいのですが、なんといっても、中東はアメリカから見て、最も影響力を行使することが難しく、常に紛争の種を抱えているだけに、米中の緊張関係と並んでイラク撤退は神経を酷使する問題です。リーダーで日本語のものは流し読みで終わりですが、Washington Postが2010年8月30日付で配信したAnne E. Kornblutの"Obama speech on Iraq has risks"という記事を読んで、前途の多難さに重苦しい気分になりました(現時点では2010年8月31日付になっています)。

 オバマ大統領は8月31日午後8時から執務室から15分から20分程度の演説を行うとのことです。記事では、この演説(この「寝言」を書いているときには未発表)に関してまず批判的な意見が紹介されています。まず、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロンは、部分的には勝利だと大統領は述べるだろうが、今はそのときではなく、また演説の作成過程で混乱があったと指摘しています。下院の少数派の指導者であるJohn A. Boehnerは「オバマ政権がイラクにおける『戦闘任務』が終結したという功績を求めるのなら、この変化はオバマ大統領とバイデン副大統領が反対した増派によって可能になったことを思い起こすことが大事だ」と述べたとのことです。退役軍人のPaul Rieckhoffは、「戦争が終わったのなら、来週、ブラックホークが撃墜されるなら、何が起きるというのか、断じてないだろうね?」と述べました。まったく異なる立場の意見で共通しているのは、イラクの治安が一時期に比べて改善しているとはいえ、全面的な撤退へ向かうほど安定している状態からは程遠いという認識でしょう。

 戦闘部隊がイラクを離れる一方で、数万の軍隊がイラクに残って必要に応じて防衛的な軍事行動に携わることとされており、特殊部隊はテロリストと戦いを継続することになっています。L. Paul Bremer(2003年から2004年にかけてイラク統治の責任者であった)は、「アルカイダは米軍ではなくて現地の治安部隊を狙っているようだ。実際、彼らの声明は、イラクの治安部隊が政府の最も基本的な任務すら遂行できないことを示そうとしている」と述べました。また、オバマ政権が戦闘が行われるであろうことを認識してきたと述べています。ブレマーは、オバマ政権がイラクに残っている5万人の兵士が帰還する2011年により大きな脅威が出現すると考ええています。「政治的リスクは、2011年にイラクの治安部隊が自分の手には負えず、米軍に留まるように望むことだ。オバマ大統領は、米軍が残るということについて曖昧さがない」と述べています。私みたいな下品な人間に言わせれば、イラクの治安が米軍の後ろ盾なしでは不安定な状態で、完全撤退の時期を明示すれば、イラクを混乱させようとしている勢力に明確な目標とタイミングを教えるようなものでしょう。バイデンのアドバイザーは2011年の完全撤退に関して法律家のように述べています。すべては契約どおりというところなのでしょう。前提条件であるイラクの治安が崩壊するリスクに直面したらという配慮はまったくありません。結局、イラクからの完全撤退が結論としてあり、それを淡々と遂行するという状態にもっていきたいのでしょう。

Some outside observers questioned the decision to stick so firmly to the 2011 deadline - and to describe the current moment as a watershed, given how slowly and unevenly Iraq has improved.

"I don't think moments of transformation are the right way of thinking about Iraq," said Stephen Biddle of the Council on Foreign Relations. "Everybody wants them. Both political leaders and analysts are looking for them as a way of organizing our thoughts about a long, complicated process. But the reality of the situation is Iraq had become an extremely violent ethnic conflict by mid-2006, not unlike the Balkans or Rwanda."

 外部の観察者は2011年の撤退期限に頑固にこだわることとイラク情勢が緩やかにそして思いがけず改善したことから最近の変化を分岐点のように描くことに疑問をもっている。

 「私は転換点がイラクについて考える正しい方法だとは思わない」と外交問題評議会のStephen Biddleは述べた。「すべての人がそれを欲している。政治的指導者とアナリストは 、転換点を長く複雑な過程に関する思考を組織する方法として探求している。しかし、現状はイラクは、バルカンやルワンダとは異ならない、2006年半ばまで極端に暴力的な民族紛争の状態にあった」 。


 2008年にはイラクの治安はペトレイアスの指揮の下、好転しました。他方、ビドルが指摘しているように、それ以前は事実上の内戦といってもよい状態にありました。したがって、治安情勢の好転後、それを定着させ、イラク人自身の国家を建設するには時間がかかります。イラク戦争の是非に関しては議論がわかれるところでしょう。ただ、現状ではイラクの治安部隊は米軍から一人立ちしてイラク人自身の安全を確保する能力に欠いています。この状態で、イラク情勢が劇的に改善したのだから撤退するのだという話では撤退するために情勢判断を歪めることになるのでしょう。

 イラクからの撤退そのものはオバマ大統領の既定方針です。他方、オバマはアフガニスタンに増派を行っています。記事では、イラクからの撤退がアフガニスタン増派の軍事的負担を和らげ、財政負担をも軽減すると指摘しています。率直なところ、私自身は、アフガニスタンにおける軍事行動にあれほどオバマ政権が肩入れした戦略がまるで理解できないのですが、イラクから撤退した後、アフガニスタン情勢の改善が見られないとなると、アメリカの内向きの傾向が強まる可能性があるのでしょう。中東におけるアメリカの同盟国はイスラエルのみといってよく、イラクを失えば、アメリカの中東におけるプレゼンスは大幅に低下するのでしょう。米兵の死者は数千、イラクの民間人の死者は10万人にもおよんだ戦役の帰結が混乱したイラクであるというのはあまりにも残酷な結末のように思います。