2011年04月10日

全電源喪失 無視されたシミュレーション

 今週は本業で疲れ気味です。土曜日ぐらいから立ち直ってきて、公園を散歩しながら花見をしました。なんとなく思ったのですが、昼間から酒を飲んでいる人たちとすれ違うと、息が臭くて、震災がなくても自粛してほしいなあなんて、気が利かない「寝言」が浮かびます。それはともかく、満開になると白さが増して、美しいなあと。今週は、月曜日から歩数計で測ると、毎日1万歩を超えていますが、肉体的にはたいして負担ではなく、精神的な疲労が多いので、土日に桜を眺めて心が休まりました。午前中に投票を終えて、お昼を食べて、お腹いっぱいでの散歩というのは心が安らぎます。

 自粛ムードの中、どうなるのかなと思っておりましたが、第69期将棋名人戦も、自粛気味ながら始まって、土曜日に棋譜を眺めておりましたが、あまりに難解でした。BS中継の録画を見ながら、渡辺明竜王の解説がわかりやすいのですが、それでも難しい。たとえば、先手の森内俊之九段が42手目に指した▲4六歩あたりは素人には後手の羽生善治名人から△4五桂とはねるのを防いでいる狙いはわかるのですが、先手から▲4七銀と上がる手順も含みにしていて味がいいというのはなかなか思いつかないです。羽生名人が指した32手目の△2三銀も、普通は叩かれて上がるところを自分から上がるというのは変わっているというのもなるほど。午後の中継では後手もちの棋士が多い中で、渡辺竜王だけが先手もちというのも興味深いところでした。

 本当は将棋の話で終わりたいのですが、あまりに難解すぎて感想も浮かばないので、とりあえず、『朝日』に記事が残っていたので、こちらのメモだけ残しておきます。『朝日』が3月31日付で配信した「原発の全電源喪失、米は30年前に想定 安全規制に活用」という記事ですが、全文を引用しておきます。

 東京電力福島第一原子力発電所と同型の原子炉について、米研究機関が1981〜82年、全ての電源が失われた場合のシミュレーションを実施、報告書を米原子力規制委員会(NRC)に提出していたことがわかった。計算で得られた燃料の露出、水素の発生、燃料の溶融などのシナリオは今回の事故の経過とよく似ている。NRCはこれを安全規制に活用したが、日本は送電線などが早期に復旧するなどとして想定しなかった。

 このシミュレーションは、ブラウンズフェリー原発1号機をモデルに、米オークリッジ国立研究所が実施した。出力約110万キロワットで、福島第一原発1〜5号機と同じ米ゼネラル・エレクトリック(GE)の沸騰水型「マークI」炉だ。

 今回の福島第一原発と同様、「外部からの交流電源と非常用ディーゼル発電機が喪失し、非常用バッテリーが作動する」ことを前提とし、バッテリーの持ち時間、緊急時の冷却系統の稼働状況などいくつかの場合に分けて計算した。

 バッテリーが4時間使用可能な場合は、停電開始後5時間で「燃料が露出」、5時間半後に「燃料は485度に達し、水素も発生」、6時間後に「燃料の溶融(メルトダウン)開始」、7時間後に「圧力容器下部が損傷」、8時間半後に「格納容器損傷」という結果が出た。

 6時間使用可能とした同研究所の別の計算では、8時間後に「燃料が露出」、10時間後に「メルトダウン開始」、13時間半後に「格納容器損傷」だった。

 一方、福島第一では、地震発生時に外部電源からの電力供給が失われ、非常用のディーゼル発電機に切り替わったが、津波により約1時間後に発電機が止まり、電源は非常用の直流バッテリーだけに。この時点からシミュレーションの条件とほぼ同じ状態になった。

 バッテリーは8時間使用可能で、シミュレーションと違いはあるが、起きた事象の順序はほぼ同じ。また、計算を当てはめれば、福島第一原発の格納容器はすでに健全性を失っている可能性がある。

 GEの関連会社で沸騰水型の維持管理に長年携わってきた原子力コンサルタントの佐藤暁さんは「このシミュレーションは現時点でも十分に有効だ。ただ電力会社でこうした過去の知見が受け継がれているかどうかはわからない」と話す。

 一方、日本では全電源が失われる想定自体、軽視されてきた。

 原子力安全委員会は90年、原発の安全設計審査指針を決定した際、「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又(また)は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」とする考え方を示した。だが現実には、送電線も非常用のディーゼル発電機も地震や津波で使えなくなった。

 原子力安全研究協会の松浦祥次郎理事長(元原子力安全委員長)は「何もかもがダメになるといった状況は考えなくてもいいという暗黙の了解があった。隕石(いんせき)の直撃など、何でもかんでも対応できるかと言ったら、それは無理だ」と話す。(松尾一郎、小宮山亮磨)


 悪態を先についておくと、松浦祥次郎氏は土曜日のNHKスペシャルでは最悪の事態を想定しなくてはと最後の談話と正反対のことを述べていたと思うのですが、コロコロ発言が変わりますなあ。放射線量のデータからいきなりチェルノブイリを越えたと発言する人も出たり、根拠が不明なまま、安全を宣言したりと、この分野で信頼できる専門家というのはいらっしゃるのだろうかと。脱原発の人は、線量がゼロでなければだめとのたまうので、バックグラウンドは無視ですかとツッコミを入れたくなります。小中学生向けの図鑑程度でも自然界で放射線を浴びるよという程度のことは乗っていたと思うのですが。

 話を戻しますが、全交流電源喪失後、なにが起こるかという点に関しては、バッテリーの持ち時間によって結果が変わりますし、あくまでシミュレーションにすぎないので、そのまま今回の事故に適用するのは無理があります。他方、予期される事態として、現状では、燃料棒溶融までは公認ですが、炉心溶融にとどまらず、格納容器の損傷に至っている可能性が高いということでしょう。首相官邸HPの「東日本大震災への対応」(参考)を下にスクロールすると、「直近の政府発表」一覧に、「 平成23年(2011年)福島第一・第二原子力発電所事故について」というPDFファイルがあります。今回、参考にしているのは、「平成23年4月10日5:00現在」の文書ですので、最新の文書と比べると、ページ数がずれている可能性があることを、最初にお断りしておきます。3月29日の「寝言」ではベントのタイミングには関心があまりないと述べましたが、今回も同じです。下記は、同文書の7頁からの引用ですが、全交流電源停止から、約29時間後に1号機への海水の注入が行われており、専門家ではないので、いい加減な話ですが、格納容器が損傷している確率はかなり高いように素人目には映ります。3月29日の「寝言」では東京電力と経済産業省原子力安全・保安院、首相官邸・内閣官房で情報共有ができていたのかどうかという点に関心がありましたが、今回は、まずは、起きた事態がどの程度なのかという点です(今更の感はありますが)。

3月11日
14:46 三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の地震発生。運転中の1号機、2
号機、3号機が地震により自動停止
15:42 1号機、2号機、3号機に関し、原子力災害対策特別措置法(以下「原災
法」)第10条通報(全交流電源喪失)
16:36 1号機、2号機に関し、原災法第15条事象発生(非常用炉心冷却装置注水
不能)
16:45 1号機、2号機に関し、原災法第15条通報

3月12日
01:20 1号機に関し、原災法第15条事象発生(格納容器圧力異常上昇)及び通報
10:17 1号機に関し、ベント開始
15:36 1号機で水素爆発発生
16:17 原災法第15条事象発生(敷地境界放射線量上昇)※敷地境界付近で500
μSv/hを超える放射線量を測定
20:20 1号機に関し、消火系ラインを使用して、海水およびホウ酸による原子炉
への注水を開始
20:41 1号機に関し、格納容器は破損していないことを確認(官房長官発言)
(注)「20:41 3号機に関し、ベント開始」との記述は、13日08:41のベ
ントを誤って二重に記載したものであることが判明したため削除。


 次に、以前も引用した経済産業省原子力安全・保安院の予測です。2号機に関しては、3月11日20:30の時点で全交流電源喪失から全電源喪失に至ったと仮定すると、『朝日』の記事で紹介されているシミュレーションと比較すると、2時間程度燃料溶融に至る時間が遅れていますが、生じたであろう事象がシミュレーションと同じというのはそうなのでしょう。

22:00 福島第一2号機の今後のプラント状況の評価結果(放出される放射性物質の量は解析中)
(実績)14:47 原子炉スクラム(RCIC起動)
(実績)20:30 RCIC停止(原子炉への注水機能喪失)
(実績)21:50 水位計復活(L2:燃料上部より約3mの水位)
(予測)22:50 炉心露出
(予測)23:50 燃料被覆管破損
(予測)24:50 燃料溶融
(予測)27:20 原子炉格納容器設計最高圧(527.6kPa)到達
原子炉格納容器ベントにより放射性物質の放出


 上記で引用した『朝日』の記事にある「原子力安全委員会は90年、原発の安全設計審査指針を決定した際、『長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又(また)は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない』とする考え方を示した」という記述が事実ならば、全交流電源喪失時に対する備えはないのが現状でしょう。私自身は、この点を、東京電力以外の電力会社の人に確かめたことはありません。最近、○○電力さんは同じような事故への備えをしていると耳にする機会が増えていますが、この記事を目にしてから、あまり信用していません。不信というよりも、電力会社の人に聞いたという人に、それは全交流電源喪失事故ですか、それとも全電源喪失事故ですかと尋ねると、ぽかーんとしているからです。言葉を知っているかどうかという問題ではなく、即冷却材喪失事故になりかねない事態なので、東電がひどいとはいえ、他の電力会社が大丈夫という保障はありません。2011年4月7日深夜の宮城県沖地震では女川原発も交流電源を喪失しかねない事態に、一時的とはいえ陥りました。外部電源であるディーゼル発電機を、ムダになる確率が高いのでしょうが、各発電所単位だけではなく、今回の地震や津波にとらわれずに、2時間以内に空輸も含めて輸送できる体制がなければ、今回の事故から日本の原子力が立ち直るのは非常に難しいと思います。


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