2011年04月23日

ありゃまの瞬間(その2) リビアをめぐる道義と打算

 本来は中東情勢全般に関する「寝言」を書こうと木曜日の晩は意気込んでおりましたが、連日の睡眠不足に加えて、気候の変化に体がついていけないのか、久しぶりに水曜日から38度を超える熱で、さすがに無理です。国内政治の混迷とは無関係に最近とみに感じるのは、無能というのは仕事を減らそうとして増やす管理者でしょうか。一度、システム化され、動き出してしまうと、予算や人員がついているので、削ることができなくなる。仕事が増えすぎて、本来の業務がすかすかになり、クラッシュするまで削減ができず、最悪の場合、どうでもいい仕事が残って、やらなければならない仕事が削られてしまう。民間の組織の場合、ほとんどは競争にさらされていますから、結果的にではありますが、ダメな組織は消えていく。それを進歩と呼ぶのか、変わらぬ光景と呼ぶのかは、主観に属する問題なのでしょう。

 それはともかく、まずはリビア情勢です。2週間ぐらい前でしょうか、リビアで「誤爆」が増えたという報道が米紙で多くありました。「反乱軍」(米紙ではほとんどが"rebels")が戦車を用いるようになってから、誤爆が増えたようです。笑えなかったのは、米軍がいなければ、NATO軍には止まっている拠点を叩く能力はあっても、動く標的を識別して爆撃する能力はないというアナリシスで、遅かれ早かれ、嫌々ながら米軍も引き込まれるのだろうと。結局、この数日でドローンの配備をするという報道が増えており、アメリカ政府は米兵を犠牲にする覚悟がないまま、深入りさせられかねない状況なのでしょう。「好戦派」の一部は、介入の目的はベンガジの虐殺阻止だったと言い訳をしていて(その前にはリビアの民主化というウォルフォヴィッツの無茶苦茶な意見に賛同しているのにもかかわらず)、非常に見苦しいのですが、人道目的の武力介入には他の目的以上に歯止めをかけることが難しく、振り上げた拳の降ろし方を誤れば(現状はアメリカの中東におけるプレゼンスへのダメージを抑えること自体が難しくなりつつあると判断しておりますが)、太平洋における勢力均衡にも影響がおよぶのでしょう。「論語読みの論語知らず」とはいいますが、『孫子』の冒頭部分にある、「兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり」は何度も読まれているのにもかかわらず、人類が学習しない典型的な事例なのでしょう。

 2011年3月19日の「寝言」で、「羹に懲りて膾を吹く」と言われて上等と書きましたが、問題はアフガニスタンやイラクで懲りたから、リビアに介入するべきではないということではなく、これ以上、中東で武力介入を行うことは、アメリカの能力の限界を超える(overextend)かもしれないという懸念に留まらず、2011年3月11日の「寝言」(この「寝言」を書いているときには、午後に東北地方太平洋沖地震という悲劇がやってくるとは全く予想しておりませんでしたが)で紹介したハースCFR議長が指摘している通り、人道という誰もが反対できない、もっともらしい理由が利害計算を不透明にしてしまうことでしょう。あらためて、ハースの論考を読み返して思うのですが、飛行禁止区域の設定によってベンガジでの虐殺を予防するという、一見、抑制的であるかのように映る戦争目的ですら、道義と現実政治の奇妙な混ぜ物にすぎず、リビア問題の外交的解決を妨げるという点では、非常に有害であったと思います。

 中東全体について考えるためには、アラブ人とペルシア人の歴史も一から勉強しなおさなくてはならず、当面は宿題状態で終わりそうです。それにしても、アメリカの不興を買ったので、アメリカの歓心をかうべく、陸自のヘリ部隊に無茶苦茶なミッションを課すというのもどうかしていると思うのですが。首相官邸の決断に批判ではなく、評価する向きが多いのにゾッとします。要は、東電を脅すなりして情報を出させて原発そのものを安定化させる方策がなにもないまま、実効性のないことに力を注いでいたということでしかないと思います。今回の事態に、適切かつ迅速に対応するのは非常に難しいとは思いますが、福島県における「計画避難」をめぐる混乱を見ていると、現政権の真の関心が、民生の安定と民心を安堵させることにあるのだろうかと疑念をもちます。もっとも、実情はそれなりに関心はあっても、実行に移す能力がないという点で無能だという評価にしかならないのかもしれませんが。

 話がそれましたが、太平洋の西側に位置する国際秩序に不満を抱き、現状を打破したいと考える勢力にとっては、有利な力関係の変化が生じているのが現状でしょう。現状維持勢力の政治システムがどの程度、壊れているのかを用心深く確認しながら、ことを進めるのなら、応分の「報酬」がえられそうです。名人戦の第2局ではありませんが、力関係がこれ以上、悪化しないためには、気に乗じて勢力打破を目指す勢力が性急に事を進めるという相手の悪手を待たざるをえないというのが実情なのでしょう。


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posted by Hache at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 気分しだいの寝言