2006年02月28日

「政治と経済の間」に関する考察2 古典とノーマン・エンジェル

 今回は、第1に、当初「政治と経済の間」でとりあげられている論点を提示します。第2に、経済的相互依存に関するノーマン・エンジェルの見解を簡単に紹介した上で「政治と経済の間」を貫く国際政治における現実主義との関係についてトゥキディデスの叙述を参考に散歩してみます。
 
 このシリーズを書き始める前に、次の5点に論点を整理しておりました。
(1)中台の経済的な深化は、必然的に統一をもたらす。あるいは統一の蓋然性を高める。
(2)経済的相互依存が戦争を抑止するという考え方は誤っている。
(3)国家の繁栄の基礎は、軍事力に裏付けられた安全の確保であり、経済的な「繁栄」や「衰退」は二義的な意義しかもたない。
(4)国際的な経済的な取引は公正原則にもとづくべきであり、外交問題と絡めてこれを政治的に歪めることは望ましくない。



以上が「政治と経済の間」で述べられている内容を論点として整理したものです。ノーマン・エンジェルの議論を考慮して次の論点を付け加えましょう。



(5)理念の対立は、国家間の対立を規律する問題ではなく、国内的な問題である。これは正しいのか。



 当初は、これらの論点を一つ一つ論じてゆくつもりでしたが、これはさすがに収拾がつかないと気がついた次第です。私みたいな素人でも、なにがしかのことを書き散らせるように論点を再整理しようとしていますが、ちょっと考えがまとまりません。とりあえず、手がかりとしてノーマン・エンジェルについて今の段階でお話できることを書いてみます。



 「政治と経済の間」で「ノーマン・エンジェルは後にノーベル賞を取った経済学者である」という記述があります。恥ずべきことですが、私自身は、ノーマン・エンジェルという人名を初めて知りました。ノーベル経済学賞受賞者にこの方のお名前を拝見したことがないので、ちょっとだけ調べてみました。ノーベル平和賞受賞者でした。詳細は、「続きを読む」をご参考ください。



 補足の引用元のサイトにThe Great Illusionの、ごく一部ですが、抜粋が紹介されています。エンジェルは、英国とドイツの対立関係の動機を次のように説明しています。「…英独は、次の普遍的な前提に基づいている。その前提とは、増加する人口、成長する産業、あるいは単に人々に最善の状態を保障するためには勢力圏の拡大と他国に対する権力の行使が不可避であるということである」。エンジェルは、国家が国際政治の主体であり、軍事力を保有することによって国際政治における対立で優位を保つという「命題」に反論してゆきます。「近代国家が勢力圏を拡大しても、人々の富を増やすことはできない」。エンジェルの主張の核心は、勢力圏の拡大ではなく、諸国間の通商が諸国民の状態を改善するのだから、軍備拡張に熱を入れる当時の為政者の現状認識は誤っているという点にあると考えました。さらに、理念の対立はカソリックとプロテスタントのように国家間の対立ではもはやなく、国内的な問題であるとも論じています。上記の引用は、エンジェルの著書をすべて読んだ上でのものではないことをお断りします。また、私の英語力ではエンジェルの叙述のニュアンスを十分に伝えていないことをおそれます。



 エンジェルの議論は、国家の力関係に重点を置く国際関係論における「現実主義」とは異なる「多元主義」の先駆のように思いました(無学なのでトンチンカンな感想だと思います)。多元主義のアプローチは、次のような特徴をもっていると理解しております。??国際関係において現実主義とは対照的に経済的相互依存を肯定的に評価し、重視する。??現実主義が国家が国益を定義し、行動する合理的な統一されたプレイヤーであるという前提に対し、政策決定過程における国家内部の意思決定に関わるプレイヤーの多様性を重視する。??以上のことから現実主義の立場は国際政治において国家、国家間の力関係を重視するのとは対照的に、多元主義の立場は国家の役割が限定されたものであると考える。私が国際関係論に関する文献をある程度まとまって読んだのは10年近く前なので理解不足や、誤りが多いと思います。ご指摘・御批判を頂ければ幸いです。



 トゥキディデスの叙述は、国際関係論の分野では現実主義の古典として扱われています。私自身、トゥキディデスの立場に深い共感を抱きます。トゥキディデスの叙述――「…アテナイ人の勢力が拡大し、ラケダイモン人に恐怖をあたえたので、やむなくラケダイモン人は開戦にふみきったのである」(久保正彰訳『戦史』上、77頁、岩波文庫)という古典的な考え方は今でも有効なのかどうか。『戦史』に登場する戦没者へのペリクレスの追悼演説(前掲、224‐234頁)に代表される異なる国家体制の理念間の相克という考え方は古くなったのか。この問いは、私の能力を越えるものです。岡崎先生の見解の理論的裏づけを与えるというのは、私には手に負えませんが、しばらくこのあたりのことを散発的に散歩してみたいと思います。まだ『戦史』全巻を読み直すにいたってはいないので、以降は気がついたことを折に触れて申し上げる予定です。気がついたら話が膨らむ一方で私自身は楽しいのですが、こちらを覗かれている奇特な方にはいきあたりばったりで申し訳ないです。

【補足】



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(引用開始)



Sir Norman Angel



1933 Norbel Peace Prize Laureate



Writer
Member Commission Ex?cutive de la Soci?t? des Nations
(Executive Committee of the League of Nations) and of National Peace Council
Author of "The Great Illusion".



Background
1874-1967
Place of Birth: Holbeach, Lincolnshire, England
Place of Death: Croydon, Surrey
Residence: Great Britain
Original Name: Ralph Norman Angell-Lane



(出典) http://almaz.com/nobel/peace/peace.html



(引用終了)
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