2006年06月17日

台湾の戦略的価値(4)

 今週、拝読していた論稿は、2003年のものです。直近の論稿として岡崎久彦「台湾の将来」があります。こちらは、より事態が悪くなっていることを反映した内容です。ただ、中国が台湾を併合することがもつ意味を理解するには"The Strategic Value of Taiwan"の方がよいと思います。



 第3節では、まず台湾併合とそれに続くであろう東南アジア諸国の「フィンランド化」によって1965年以来、アメリカが,ベトナム戦争などで払った犠牲も含めて、この地域の安定と繁栄のためにおこなってきた努力が無駄になることが指摘されています。同時に、それが中国の帝国としての復権とアメリカの地球的な規模での覇権への挑戦を意味することが指摘されています。



 第4節では、中国の思惑通りにことが進んだ場合、民主主義諸国の反応について分析が割かれています。基本的には、北京に読ませるために書かれた文章と読めます。深読みをすると、現在のアメリカの対中政策は、意図せざる米中対立に中国を誘い込む、非常にまずい状態にあるとも読めます。日本については、あまり書かれておりませんが、論外だと思います。



 まず、軍拡に対して軍縮で対応するというのは、「恭順」の意を示すようなものです。しかるに、日米同盟を廃棄して中国と「友好」関係を保つというわけでもない。洞ヶ峠を決め込むわけでもない。要は、自民党とお役所の得意技であるすりあわせと先送りが最悪の形で出ている状態ということでしょう。薄情な私は、「どうせ言ってもやっちゃうんでしょうけど、やめたほうがいいと思いますけどね」と「寝言」をつぶやきながら、まず、集団的自衛権の行使に関する解釈を元に戻した上で、F22をちゃちゃっと揃えんかいと思ってしまいます。そうそう、当然ですけど機密保持のための法律整備も不可欠ですね。気がつくと、戦後民主主義はほとんど同じことを議論してきていまだに解をみていない。自白剤をのまされなくても白状しますが、ずるずる大陸に深入りしてゆき、対米戦争で止めをさされた時期と大差がないことを50年以上も続けていると感じざるをえません。米ソ冷戦の時代には致命的な事態には至りませんでしたが、中国の台頭は、日本の安全保障にダイレクトに影響するだけに、この鈍さは異常だと思わずにはいられません。



 第2に、もう何度も同じことを書いているので自分でもうんざりしますが、集団的自衛権の行使に関してちゃんとしてほしいということです。万が一、最悪の事態が生じた場合、日本がアメリカ側につくのは自明なのでそれをあらかじめ中国側にシグナルを送るべきでしょう。もっとも、だんまりを決め込むなら話は別です。ただし、その場合には日米同盟を廃棄する覚悟が必要でしょう。国会におかれましては、日銀総裁の首より、こちらの議論を継続的にやっていただきたいものだと思います(われながら、言いたい放題でいい気なもんですな。まあ、何の影響力もありませんけどね)。



 最後に、事態の戦略的意味を世論が理解するタイミングが問題になるでしょう。実際の台湾併合プロセスは、微妙な形をとる可能性も十分にあります。どの時点で何が起きているかを民主主義国の世論が気がつくのか。当たり前ですが、早いほどよいのですが、抵抗するのにおぞましいほどの努力が必要なタイミングになる可能性は否定できないでしょう。日本人としてはFDRは最悪の大統領ですし、個人的には独裁者気質の指導者というのは好みませんが、やはりFDRのような政治的リーダーシップを発揮できる指導者が日本にもほしい。



 なんだかないものねだりばかりしてしまいました。来週は、予定が立て込んでおりますので、不定期更新になります。正直なところ、毎日、更新すること自体に意地になっていた部分があります。定期的に読んでいただいている方も、実数はまるでわかりませんが、安定してまいりました。「時の最果て」の名にふさわしい、ほどよい過疎ブログを維持できる状態にはなりました。できますれば、よりよい情報発信ができるよう、今後、さらにこころがけてゆきたいと考えております。定期的にお読みいただいている、おそらく150から200ぐらいの方々にあらためて感謝いたします。



第3節 歴史的意義



 上記の事態が進展すると,1965年以前の状態に戻ってしまう.1965年以前は,第2次世界大戦が終結以来,東南アジアは共産主義者による暴動の脅威の下にあった.カンボジアのシアヌークは明らかに親中だった。インドネシアは,共産主義者による政権転覆の一歩手前の状態だった.1965年,アメリカの海兵隊はベトナムの地に上陸した.アメリカの作戦は結果的には失敗に終わったが,アメリカの行動は東南アジア諸国を共産主義に抵抗するよう鼓舞するものであった.9月にはインドネシアで共産主義者のクーデターが失敗した.1967年に東南アジア諸国は,ASEANを発足させた.これが東南アジア諸国の現在の安定と繁栄の始まりであった.要約すると,アメリカが台湾から手を引くと,ベトナム戦争の間に生じた途方もない犠牲を含む1965年以来のアメリカの努力はすべて無に帰する.



 中国の脅威についてよく議論が行われてきた.中国の脅威を否定する人たちは,将来における中国の経済力や軍事力を予測し,来るべき数十年間に中国がアメリカに匹敵することなどないという結論を導いている.彼らの主張は正しいのかもしれない.しかし,もし中国が,産業が発達し豊かな台湾を併合し,東南アジアを完全に支配下におき,かつその影響力が西太平洋とインド洋に及ぶようになれば,中国はアメリカの覇権に対する手強い挑戦者となるだろう.



 このことが歴史的な意義であろう.中国は,過去何千年にわたって世界でも最も巨大な帝国であり続けてきた.弱体化したのは近代である.その原因は17世紀から19世紀にかけて西洋の帝国主義によって後背地を奪われたことにある.ロシアはシベリアを奪った.西欧の列強は,南アジアと東南アジアを支配した.日本と合衆国は,それぞれ台湾とフィリピンを植民地化することによって中国の太平洋への出口を支配した.それゆえ,中国による台湾併合とその必然的な帰結である東南アジアへの中国の影響力の増大は,世界的な規模での中華帝国が復活することを意味する.



 日本に関していえば,過去半世紀,東南アジア諸国と経済的な関係を確立するために膨大な労力と資源を投入してきた.だが,前述のように日本は東南アジア諸国の安全保障上の必要に応えなかった.そして貿易と投資に集中していた.このように日本のこの地域への影響力ははかなく,脆弱である.東南アジアを失えば,日本経済は,大きな打撃を被るだろう.



第4節 戦略的な意味とは?



 これまで述べてきたように,中国による台湾併合の結果は,広範囲に及ぶだろう.アメリカと日本は,この台湾の戦略的重要性を常に心に留めておくべきである.しかしながら,中国が台湾の戦略的重要性を理解することの方がより重大なことかもしれない.



 世論は,通常,現実の危機に直面するまで戦略的価値を無視する.だが,世論が突如として戦略的意味を理解したときの世論の反応を過小評価することはできない.中国は大きな外交的な成果を達成してきた.上海コミュニケ以来,中国はアメリカ外交を言葉の上でずるずると後退させることに成功してきた.上海コミュニケに調印した際には,合衆国は「一つの中国」にコミットしていなかったが,ついには,合衆国は,「一つの中国」政策にコミットするようになった.しかし,中国は,「一つの中国」を実現することを実際に試みるならば,アメリカの反発を心しておくべきだ.反発は,合衆国だけにとどまらない.日本や東南アジア諸国も,中国がある種のフィンランド化を実現した後ですら,この戦略的な真実に直面すれば,おなじように激しく反発するだろう.



 中国は,百年前の屈辱の歴史を引き合いにだしながら,台湾併合に関する民族的・国家主義的な権利を主張するだろう.中国は,法的な権利を,近年の国際法の種々の諸原則からのみならず,アメリカの言葉の上での「一つの中国」へのコミットをすべてもちだしてくるだろう.それにもかかわらず,戦略的な現実に直面すれば,中国の主張は,突如として無力になるだろう.



 過去400年間,アングロ諸国の覇権に挑戦して成功した国はない.スペイン人やオランダ人は自らの帝国を失い,フランス人はインドとカナダを失った.ドイツ人は,領土の半分程度を失い,日本人も帝国を失った.最後にロシア人は,ピョートル大帝以来,獲得してきたすべてを失った.もし中国がアングロ諸国の覇権に挑戦して失敗すれば,帝国を失うだろうと予測できる.



 中国は,台湾の併合が単に中国のナショナリズムの最終的な目標を達成することだと考えているのかもしれない.だが,台湾の併合は,世界の覇権に対する,全面的な,おそらくは死に至る対決の始まりとなるであろう.

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