2006年06月19日

台湾の戦略的価値 訳文全文

【訳文の自己採点】
 今回は、"The Strategic Value of Taiwan"の全訳をエントリーいたします。各節の訳をエントリーしてから、若干ですが、修正をしております。3回の記事に分割されていては読むのにお手を煩わせてしまいます。また、できましたら、私の訳文で明らかな誤訳は当然として、理解不足な点をご指摘いただければ幸いです。基本的に私個人の勉強用のメモなので、内容を検討されたい方におかれましては原文を読まれることをお勧めします。

 主たる目的は、訳すこと自体ではなくて、きちんと全文を読んで理解することですが、訳しながら、私の英語力のなさをあらためて感じました。本題に入る前に自己採点をしてみます。

(1)大意理解 24/40点
 ちょっと甘いかもしれませんが、まあ大要は外してはいないと思いますのでこんなところでしょうか。自己評価が低すぎると感じた方もいらっしゃると思いますが、この論考で書かれている内容は、断片的には日本語になっておりますので、大意をつかめて当然です。

(2)語彙・文法その他、個々の表現の理解 12/40点
 たとえば、上海コミュニケの引用などは国内で定着している訳でよいのに、あえてこだわって自分の役にした結果、「…ことを認識している」ではなく、「認めている」と訳しています。このあたりは、大差がないといえば、そうかもしれませんが、微妙なニュアンスであるため、紛れがない表現の方が優ります。その他、第2節の"local Government"などの訳も、混乱があります。

(3)訳文が日本語としてこなれているかどうか 2/10点
 これはひどいです。原文を読んだ方がはるかにマシでしょう。

(4)その他、裁量点 1点/10点
 訳すことで原文の理解に貢献できたことといえば、"seaplane"など原文の誤りを見つけた程度でしょうか。それ以外はありません。

計39点

恥ずかしい限りですが、「不可」です。

 訳文のノートが全部でA4で5頁強あります。このため、「続き」に載せました。

(追記) 訳文のうち、下線部を修正いたしました(2006年6月23日)。


【訳文全文】

台湾の戦略的価値

岡崎久彦

第1節 戦略とはなにか?

 台湾の戦略的重要性を論じるのは,細心の注意を要することだ.戦略を公に論じること自体が,扱いに注意を要することである.戦略は,むきだしの国益の計算に基づいている.そのことは,現代の規範や国際的な行為の倫理,あるいは倫理そのものからすれば不適切である.倫理的ではないとしても,戦略を公に議論することは,不躾かもしれない.「彼は,お金持ちでもないし,前途有望でもないわ.だから,彼との結婚は考えないのよ」.女性はみなそのように考える権利はある.しかし,それをあからさまに口にだしてしまうのは,上品なことではない.

 だが,戦略について論じなくなれば,戦略的思考の大切さを忘れてしまう.日露戦争後,軍事教育において戦略を教えなかった.それは戦略が最高機密であるとみなされたからである.軍事教育では戦場における戦略(battle field strategy)だけであった.しだいに,誰も大戦略(grand strategy)について語らなくなった.軍人は,日英同盟が果たした決定的な役割を忘れてしまった.なおかつ軍人は戦争に勝つのは日本人の,敵を震え上がらせるほどの敢闘精神によるのだと考えた.かくして,軍事的指導者はみな戦略的「白痴」(strategic-idiot)になった.以上は,壊滅的な敗戦後,戦時下の日本に関する苦い反省である.

 外交も同様である.外交官は,総理や外務大臣に現況を説明するためのポジション・ペーパー(position paper)を書くことに労力のほとんどを集中した.同時に,儀礼や世論の反応にも注意を払ったが,その先にあることについて考えることをやめてしまった.

 私は,最近のアメリカの台湾政策もポジション・ペーパーになって形式化しているという印象をもたざるをえない.そのような文書を読んでも,アメリカの台湾政策の根底にある哲学または戦略を理解するための手がかりもえられない.国務省政策企画室長(Director of Policy Planning Staff at the US Department of State)であるリチャード・ハースの最近の声明から引用してみよう.この声明は,とりわけ内容が悪いのではなく,典型的な例なのである.

「合衆国は,長年の台湾関係法にもとづく義務だけでなく,『一つの中国』政策にコミットしている.合衆国は,台湾の独立を支持しない.合衆国は,海峡間の相違の平和的解決に持続的な利益を有している」.

 この見解を中国の戦略的思考から説明はできるが,アメリカの戦略的思考から説明することはできない.むしろ,過去における中国とのアメリカの外交的接触の背景から完全に説明することができる.

 アメリカの立場は,1972年の米中コミュニケによって表明され,過去30年間の両国間で何度も繰り返し確認され,しだいに修正された.その過程で,中国人は自国に有利になるように徐々に表現を修正してきた.合衆国は自国や第三国へ「合衆国が既に言明してきたことから本質的な変化はない」と説明しながら,「ソビエトに対する共通の防衛」や「米中関係の悪化を防ぐこと」,「大統領の訪問を成功させること」などの理由で中国に一方的に譲歩を繰り返した.

 その過程でアメリカは,「合衆国は,台湾海峡の両側のすべての中国人が,中国はただ一つであり,台湾は中国の一部であると主張していることを認識している」という上海コミュニケの際の状況を客観的に反映した立場から,「アメリカは『一つの中国』を支持し台湾の独立を支持しない」という立場へ変化した.

 これが,「基本的姿勢に変化のないこと」と「中国との不要なあつれきがないこと」の積み重ねの結果である.これはアジアの長期的な平和と安定に対する合衆国の哲学または戦略的思考からは明らかに説明できない.

 戦略は,長期的に考えること,生じうる,ありとあらゆる偶発的な出来事を考慮することを要する.お勧めできるアプローチの一つは,極端なケースをまず想定して次により現実的な状況を想定することだ.直近のことがらから始めてしまうと,長期的な展望をもつことが困難になる.典型的な事例は,戦後の日本の国防に関する論争である.「戦争の場合には」という状況を考えることは,戦略家すべてにとって基本的な想定だ.しかし,戦後の日本では,「平和的解決こそがまず探求されるべきであるとか」,「なぜ最近の国際関係がそんなに危険だと考えるのか?」など様々な議論に圧倒されてきた.(こんなことでは)結局のところ,まず防衛戦略の論議に到達することなどなく,戦略を検討する暇(いとま)すらなどないだろう.

 戦略家とは,極端な場合を常に考えている人たちであると定義できる.哲学者あるいは宗教家が生と死の問題について日常生活ですら考えているように,戦略家は不必要なまでに常に広く深く考える.

 中国が台湾を手中にし完全に統制するという極端な場合を考えることから始めよう.

 台湾を併合する方法として,軍事力を直接,行使することは排除できるだろう.なぜなら,直接の武力行使は米中間の戦争を意味し,中国による台湾併合が成功しないからである.蓋然性が高いのは,併合が政治的かつ心理的圧力の結果である場合だ.確かに,その背後に軍事力の脅威が存在するはずだが,この場合,合衆国は,干渉が必要であると世論を説得することが難しいような形になるであろう.あるいは,最初は直接的な併合の形をとらずに香港型の「一国二制度」の形からしだいに完全な併合へ進むかもしれない.いずれにせよ,中国が台湾を完全に支配下に置くという極端なケースを想定する.

第2節 中国の台湾併合による影響

 第1節で想定した事態が生じた際,日本の第一の関心は,東アジアにおける海上交通路(sealanes of communication)であろう.このことは,日本にとって当然の受け止め方である.日本は食糧をはじめ他の生存に不可欠な原材料を自給できない.

 冷戦の間,日本は,ソビエトの潜水艦や長距離爆撃機の恒常的な脅威の下で北方と東方のシーレーンに不安を抱いていた.他方で,南西方面のシーレーン(これが日本にとって最も重要なシーレーンである)は,極めて平静を保っていた.これは,台湾の地理的条件が理由である.

 中国周辺には深海がない.とくに東シナ海の海岸線は,中国の生産能力に支えられた重要な海軍基地が立地しているが,深海はない.それゆえ,中国の潜水艦は,太平洋で活動するためには,相当の距離を海面で航行し,琉球諸島で潜水しなければならない.その結果,中国の潜水艦は,現時点では深刻な脅威ではない.対照的に台湾の東岸は,太平洋の最も深い海に面している.もし中国が台湾を支配下におくと,中国は,台湾の港湾を潜水艦が西太平洋の至る所で自由に航行するよう利用するだろう.

 シーレーンの問題は,南シナ海ではより深刻だ.中国は,南シナ海において領海に関して広範囲にわたって要求している.台湾の占拠は,東シナ海の北部の入り口を支配下に置くことになる.そうなると南シナ海の大半は,中国のある種の内海になるだろう.中国が南シナ海で排他的な管轄権を主張すれば,緊急時には,日本にとってアジアにおける唯一,安全なシーレーン(原文ではseaplane:訳者)は,インドネシアのロンボク海峡を通り,フィリピン東岸を通るルートだけになるだろう.

 だが,日本の利益にとって致命的なのは,中東への原油のルートの問題だけではない.なぜなら,極端な場合,日本の船はオーストラリアの南を航行して湾岸地域に到達できるからである.

 より重要なことは,中国の台湾併合が東南アジア諸国に与える政治的影響である.東南アジア諸国は,日本の経済的な「牙城」(stronghold)となってきた.東南アジア諸国のなかでも,タイ,ベトナム,カンボジア,ラオス,ブルネイは南シナ海を除いて海への出口がない.マレーシアの港のほとんどは南シナ海に面している.このため,これらの諸国は南シナ海に致命的な利益をもっている.

 1980年代にタイのチャチャイ総理は,かつて南シナ海への中国の進出に懸念を表明し,公式に日本とタイの合同海軍演習を提案した.例によって日本はこれを黙殺した.この消極的な反応によってタイは,しだいに他の選択,すなわち中国との和解を行う気になった.東南アジア諸国(のうち,とりわけ南シナ海へのみ海岸線を有する諸国)の南シナ海へのアクセスの道を完全に支配することは,中国にとって東南アジア諸国をフィンランド化するための有効な手段である.中国による東南アジア諸国のフィンランド化は,日本の生存にかかわる利益を浸食するだろう.

 さらに重要な問題がまだある.東南アジアにおける華僑は,今では北京系と台湾系,中立的なグループに分かれている.だが,中国が台湾を支配するようになれば,この分断は消えるだろう.これは,一時的な「一国二制度」,すなわち台湾を完全に支配しない状態の下でも生じうる.

 東南アジア諸国は,華僑を統治するために、この分断を利用するのが常套手段であった.しかし,(台湾が濃淡はあれ中国の支配下に入れば)もはやこれが利用できなくなるだろう.これまで中国は,華僑の利益を守ることに強い関心を示す一方で,中国の干渉による逆効果を考慮して非常に用心深かった.中国による東南アジア諸国政府のフィンランド化が進むにつれて,中国は従来よりもフリーハンドをえるだろう.また,各地域の華僑は,より自由に地方政府の現存する差別的な政策に抵抗することができると意識するだろう.

 インドネシアでは華僑が経済を牛耳っている.彼らの経済的な影響力を反映して政治的な影響力も強まると考えなければならない.マレーシアにおいて中国は,地方政府の人種差別に不満をとなえる華僑により強い共感をあらわにしている.

 シンガポールの形勢も変化するだろう.シンガポールは,独自の法令順守の社会と高い生活水準を実現しながら,中国から独立した政策を維持してきた.他方で,シンガポールは頻繁に親中の姿勢を示してきたが,これは民族的な親和性を反映している.シンガポールの基礎的な地理的条件は,マレー人の海の中における孤島であり,近隣諸国の感情を害することに注意深くなければならない.もし,中国の影響力が南シナ海と東南アジア諸国に拡大すれば,シンガポールはもはや地域における控えめな役割を演ずる必要がなくなるだろう.もし,シンガポールが親中に傾けば,北は台湾,南はシンガポールを抑えて中国の南シナ海の支配は完成する.

 最後に,台湾が中国の支配下におかれるであろうという,どのシナリオも合衆国は何らかの理由で介入しなかった,あるいは介入することができなかったことを意味する.このことが意味するのは,アメリカの信頼性の崩壊である.この状況の下で予想できることは,東南アジアの世論全体が親中に傾斜することである.

第3節 歴史的意義

 上記の事態が進展すると,1965年以前の状態に戻ってしまう.1965年以前は,第2次世界大戦が終結以来,東南アジアは共産主義者による暴動の脅威の下にあった.カンボジアのシアヌークは明らかに親中だった.インドネシアは,共産主義者による政権転覆の一歩手前の状態だった.1965年,アメリカの海兵隊はベトナムの地に上陸した.アメリカの作戦は結果的には失敗に終わったが,アメリカの行動は東南アジア諸国を共産主義に抵抗するよう鼓舞するものであった.9月にはインドネシアで共産主義者のクーデターが失敗した.1967年に東南アジア諸国は,ASEANを発足させた.これが東南アジア諸国の現在の安定と繁栄の始まりであった.要約すると,アメリカが台湾から手を引くと,ベトナム戦争の間に生じた途方もない犠牲を含む1965年以来のアメリカの努力はすべて無に帰する.

 中国の脅威についてしばしば議論が行われてきた.中国の脅威を否定する人たちは,将来における中国の経済力や軍事力を予測し,来るべき数十年間に中国がアメリカに匹敵することなどないという結論を導いている.彼らの主張は正しいのかもしれない.しかし,もし中国が,産業が発達し豊かな台湾を併合し,東南アジアを完全に支配下におき,かつその影響力が西太平洋とインド洋に及ぶようになれば,中国はアメリカの覇権に対する手強い挑戦者となるだろう.

 このことが歴史的な意義であろう.中国は,過去何千年にわたって世界でも最も巨大な帝国であり続けてきた.弱体化したのは近代である.その原因は17世紀から19世紀にかけて西洋の帝国主義によって後背地を奪われたことにある.ロシアはシベリアを奪った.西欧の列強は,南アジアと東南アジアを支配した.日本と合衆国は,それぞれ台湾とフィリピンを植民地化することによって中国の太平洋への出口を支配した.それゆえ,中国による台湾併合とその必然的な帰結である東南アジアへの中国の影響力の増大は,中国の世界的な規模での帝国が復活することを意味する.

 日本に関していえば,過去半世紀,東南アジア諸国と経済的な関係を確立するために膨大な労力と資源を投入してきた.だが,前述のように日本は東南アジア諸国の安全保障上の必要に応えなかった.そして貿易と投資に集中していた.このように日本のこの地域への影響力は,はかなく,脆弱である.東南アジアを失えば,日本経済は,大きな打撃を被るだろう.

第4節 戦略的な意味とは?

 これまで述べてきたように,中国による台湾併合の結果は,広範囲に及ぶだろう.アメリカと日本は,この台湾の戦略的重要性を常に心に留めておくべきである.しかしながら,中国が台湾の戦略的重要性を理解することの方がより重大なことかもしれない.

 世論は,通常,現実の危機に直面するまで戦略的価値を無視する.だが,世論が突如として戦略的意味を理解したときの世論の反応を過小評価することはできない.中国は大きな外交的な成果を達成してきた.上海コミュニケ以来,中国はアメリカ外交を言葉の上でずるずると後退させることに成功してきた.上海コミュニケに調印した際には,合衆国は「一つの中国」にコミットしていなかったが,ついには,合衆国は,「一つの中国」政策にコミットするようになった.しかし,中国は,「一つの中国」を実現することを実際に試みるならば,アメリカの反発を心しておくべきだ.反発は,合衆国だけにとどまらない.日本や東南アジア諸国も,中国がある種のフィンランド化を実現した後ですら,この戦略的な真実に直面すれば,同じように激しく反発するだろう.

 中国は,百年前の屈辱の歴史を引き合いにだしながら,台湾併合に関する民族的・国家主義的な権利を主張するだろう.中国は,法的な権利を,近年の国際法における種々の諸原則からのみならず,アメリカの言葉の上での「一つの中国」へのコミットをすべてもちだしてくるだろう.それにもかかわらず,戦略的な現実に直面すれば,中国の主張は,突如として無力になるだろう.

 過去400年間,アングロ諸国の覇権に挑戦して成功した国はない.スペイン人やオランダ人は自らの帝国を失い,フランス人はインドとカナダを失った.ドイツ人は,領土の半分程度を失い,日本人も帝国を失った.最後にロシア人は,ピョートル大帝以来,獲得してきたすべてを失った.もし中国がアングロ諸国の覇権に挑戦して失敗すれば,帝国を失うだろうと予測できる.

 中国は,台湾の併合が単に中国のナショナリズムの最終的な目標を達成することだと考えているのかもしれない.だが,台湾の併合は,世界の覇権に対する,全面的な,おそらくは死に至る対決の始まりとなるであろう.
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/1090558
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック