2006年09月21日

安倍新総裁 小泉的なるものの継承と否定

 安倍新総裁が誕生しました。安倍新総裁については、様々な観測や憶測がメディアやブログでも流れていて、「いかれた外道」の「寝言」を綴る「時の最果て」で取り扱うテーマにふさわしくありませんが、「ずれた人」から見た小泉政権から安倍政権への道のりを考えてみます。

 安倍政権の課題はいくつもありますが、他を圧倒しているのが日米関係です。小泉−ブッシュ関係の終わりを危惧する向きもあるでしょうし、安倍さんの手腕を危ぶむ観測も多いです。結論から言えば、日米同盟強化という小泉的なるものは継承する他ないでしょうし、継承すべきだと思いますが、首脳どうしの信頼関係が両国間の問題を先延ばしする小泉的なるものは否定されてゆくでしょう。以上で述べたことは平凡かもしれませんが、安倍さんの資質というよりも情勢、それも日米関係で相手となるアメリカの事情によるところが大きいと思います。

 国際秩序を担保するのは軍事力です。この点で、アメリカは、核戦力でも、通常戦力でも他の主要国が束になったも、匹敵できない力をもっています。最悪の事態を想定しても、アメリカの軍事力は依然として卓越しています。イラクの占領統治の迷走に悲観的なるあまり、この現実を見失ってはならないと思います。「多極化」といっても、イラク問題でアメリカが手を縛られているから他の国の選択肢が多くあるかのように見えるだけで、現状ではアメリカ中心の国際秩序の基礎は相変わらず堅牢です。長期的な国益と同時に、朝鮮半島と台湾海峡という二つのわが国の安全保障にとって致命的な問題を抱えている現状では日米同盟の強化をさらに進めることが最大の懸案でしょう。

 安倍総理に期待する人たちも、批判する人たちも、簡単なことを忘れていると思います。問題は、いくら日本がアメリカを必要としていても、アメリカが巨大である以上、日本自体が動かすことができる諸変数はきわめて限定的であり、アメリカを動かす力はほとんどないという現実です。結局、外交というのは、国と国との関係であり、相手がいる以上、相手の事情を考えなければ、無意味だという、ごくごく平凡な話です。露骨にいえば、国際秩序がどのように変化してゆくのかは、アメリカの国内問題によって多くが決まるという現実です。たとえば、アメリカにおける日本の好感度は、現時点では極めて高い。中国の好感度上昇に神経質になる方もいるかもしれませんが、あまり問題ではないと思います。アメリカの対外政策は、現状では日中への好感度ではなく、イラク問題がやはり中心であり、世論、議会の動きによって左右されるという点が肝要だと考えます。

 中岡望先生は、「アメリカ中間選挙を予測する:民主党が両院あるいは一院で過半数獲得も」という記事でこの点に関する非常に有益な分析をされているので、この記事を元に現状を考えてみます。問題は、(1)ブッシュ政権の国内での説得力の低下、(2)議会選挙での共和党の苦戦、(3)外交問題での党派性の高まりです。

(1)ブッシュ政権の国内での説得力の低下

 まず、(1)は、ブッシュ政権への支持率の低下と9.11以降、テロからは安全になったものの、「副産物」であるイラク問題への不満です。ブッシュ政権は、保守派からも、パシフィストからも嫌悪される傾向にあるようです。イラクからの「出口政策」は、私には現状ではまるで見えてきません。ラムズフェルド国防長官への個人的な評価は別として、彼の言うとおり、いま撤兵するのはあまりに無責任だと思いますが、イラクが安定した民主国家になるという見通しはほとんど立っていません。現状のままでは、イラクが分裂状態になり、アメリカが「名誉ある撤退」をどこかの時点で図るというのが現実的な見通しだと思います。この手詰まり状態の下では、イラク戦争の善悪是非などという「空理空論」が盛んになるのも、やむをえないことと思います。今更、イラク戦争をすべきでなかったというのはバカバカしい限りで、その後の占領政策とイラクへの主権譲渡のプロセスが問題だと思いますが、問題が複雑になれば、空理空論が盛んになるのはアメリカも同じなのでしょう。いずれにせよ、ブッシュ政権の国内的な説得力、とりわけ議会に対する影響力が低下するのは当然だと思います。ただし、現在のイラク問題を抜本的に解決することは、政権が交代しても、非常に難しいでしょう。

(2)議会選挙での共和党の苦戦

 議院内閣制とは異なるアメリカの議会選挙は、ブッシュ政権の不人気振りがただちに反映されるかどうかは微妙な部分があります。話がそれますが、小泉人気のおかげとはいえ、内閣支持率が自民党支持率を20ポイント前後、上回る状況というのは、やはり普通の政権ではなかったと思います。本題に戻りますが、中岡先生の記事では2006年8月7−10日のギャロップ社の世論調査で中間選挙に関して「もし今投票するとすれば、どの党の候補者に投票しますか」という設問に共和党に投票するとした回答が41%にすぎず、民主党候補に投票するした回答が50%に上るという結果が紹介されています。3月時点では共和党が39%、民主党が55%で、この約半年で差は縮まっているものの、民主党が優勢な状況のようです。アメリカの議会選挙は単純小選挙区制なのでこの調査結果がストレートに選挙結果に反映するかどうかは、わからないのですが、中岡先生は上下両院で民主党が過半数を制する可能性を指摘されています。議院内閣制をとっているこの国とは対照的に、ブッシュ政権の支持率が議会選挙に影響をおよぼしているのでしょう。私自身は、立法・行政の共和党が両方を握る期間が長かった上に、期待したほどのパフォーマンスがえられず、イラク問題はとどめにすぎないのではないかと思いますが。仮に、共和党が上下両院で過半数を維持したとしても、ブッシュ政権の議会への影響力はさらに低下すると見たほうがよいと思います。なぜなら、「逆風」にもかかわらず、当選した共和党議員は、おそらくブッシュ政権と距離を置くというよりも、親近感をもたないだろうと考えるからです。

(3)外交問題での党派性の高まり

 かんべえ師匠も「不規則発言」で2006年8月に行われたコネチカット州の民主党予備選でリーバーマン候補がレモント候補に敗れた事態をとりあげて、アメリカ政治の党派性の強まりに懸念を示しています。中岡先生も、この問題を重視し、『ウォール・ストリート・ジャーナル』を引用して左派勢力が有権者と共鳴できる問題をイラクにおいて見つけたという評価をされています。さらに、「ムーブオン(MoveOn.org)」の活動の内容や背景を詳しく分析されています。この点は、中岡先生の記事をお読みください。中岡先生は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』から議会選挙で民主党の優勢と同時にイラクとブッシュ政権が過去のものとなったときに民主党の方向性に疑問を呈するクラウサマーの分析を引用されています。外交問題での党派性の高まりへの懸念は、もっともだと思います。

 以上、3点ほど論点を検討してきましたが、冷たい見方をすると、中間選挙の結果にもよりますが、海外から見れば、アメリカの対外政策がどの方向に向かうのかは、アメリカの有権者が選ぶ議会しだいであるという、現実です。これは、アメリカの同盟国であるわが国にとっては非常に悩ましい問題です。露骨にいってしまうと、外交問題での党派性の高まりというのは、アメリカ国内の気分しだいで対外政策が変わってしまう事態を意味するからです。他方で、中岡先生の記事の最後で分析されているように、左派勢力はアメリカが国際秩序を担保するという現実を理解しているようには思えません。さらに、複雑なのは、右派も伝統的な孤立主義的な傾向に戻りつつあることです。イラクの占領統治と主権委譲の不首尾は、アメリカ国内に多いな亀裂をもたらしました。この亀裂は、容易には埋まらないでしょう。議会選挙の結果に関わらず、アメリカの対外政策は、孤立主義的な方向に傾く確率が高いと思います。

 問題は、2008年頃から、台湾海峡は微妙な時期に入ることです。また、朝鮮半島も複雑な情勢になる可能性が高いでしょう。冷たいかもしれませんが、これらの問題にわが国が単独で対処することはほとんど不可能に近いと思います。他方で、アメリカは最悪の場合、孤立主義的な傾向を極端に強める可能性が高いでしょう。右派・左派問わず、アメリカの孤立主義は根深いものがあります。日本側の動かせる変数は限られています。アメリカの対外政策に影響を与える力はありません。しかし、限られた変数を最大限、動かす努力をしなければ、アメリカの動向に単に振り回されるだけになるでしょう。好ましくない事態を想定しつつも、最善をつくすしかありません。

 安倍新総裁は、集団的自衛権の行使に関する見直しで政府解釈を一気に正常化する、いわば「トップダウン・アプローチ」をとらずに個別的に検討してゆく「ボトムアップ・アプローチ」を採用するようです。これは、国内外の情勢を考えると、現実的なアプローチだと評価します。「トップダウン・アプローチ」は、いずれ必要になるのでしょうが、よい政策でも、タイミングや国内で多数のコンセンサスをえなければ、定着させることは困難になります。野党は、きたるべき安倍政権と扇情的なほど対立する姿勢を見せると同時に、侮っているように見えます。安倍新総裁に期待することは、第1に、日米同盟の強化という「小泉的なるもの」を政策として明確に継承することです。この点は、私自身はあまり不安はありません。それ以上に、大切なことは、アメリカの世論がぶれたとしても、同盟が揺らぐことがないよう、首脳間の友情に過度に依存しない実務的なアプローチで「小泉的なるもの」を否定することです。
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