2008年04月19日

経済から見る日中関係あれこれ

 なんだか珍しい体験をしました。メールの後で電話があって「君だったらなんとかなるだろう」と言われて、「はあ」。「中国経済について話してもらいたいんだけど」。「え!私、ど素人ですよ」。「いいんだよ、話のネタふりさえしてくれればいいんだから」。「でも、全然わからないですよ」。「若い人の話が聴きたいっていう人が多いから、多少、粗くても大丈夫」。てなわけで、とある小さな集まりでしゃべる機会に恵まれたと申しますか、「災難」にあったと申すべきか。

 ちゃらんぽらんなので、旬のネタは伊藤洋一さん記事がメインでした。最初は1時間ほど話せとのことでしたが、こちらからお願いして30分程度に圧縮して頂いて、質疑応答の時間を長めに。あとは、世銀データでちょっと強引なぐらい引っ張ってゆこうと。会議室を開けてびっくり。全体で20人たらずでしたが、50代から60代ぐらいのご婦人が半分ぐらいいらっしゃっていて、地は神経質で内向的な私は緊張しちゃいました。あとでわかったのですが、みなさん、株や外為投資をされているとのことでこちらが教わる側かなと。主宰者の方が冗談を交えて紹介してくださったので、こちらも少しだけ硬さがほぐれました。

 資料は時間がないので、基本的なデータにとどめて、まず、ナイーブな中国脅威論は意味がないですよというあたりから入りました。控えめにみても、中国の経済規模は日本の2分の1を超えてはいるけれども(2006年の日本のGDP:4兆3,684億35百万ドル 中国のGDP2兆6,446億81百万ドル)、一人当たりのGDPでは日本は落ちたものの世界で19位(38,630ドル 2006年)に対して中国は130位(2,000ドル)で中国の生活水準は大雑把に言えば日本の約20分の1程度で経済成長の水準自体がまるで異なるというあまりに素朴な話です。日本に格差がないわけではないが、一人当たりで2,000ドルの国で東京のど真ん中で裕福な生活をしている人と同程度の生活水準がいるということは、粗い話ですが、かの国の格差のすさまじさを示しているだろうと。こんな話はあまりに素朴すぎてどうかなと思いましたが、意外と反応がよいのでびっくりしました。

 そんな状態で物価上昇率が8%を超えると、農村部にまで市場経済が浸透している現状では都市部のバブルも大きいけれど、金融を引き締めざるをえませんね。為替レートも切り上げざるをえない。憶測にすぎないけれども、為替レートに関してはアメリカと相談しているでしょう。コミュニケーションをとっていなかったら、あまりにもまずいですが。他方で、金融政策と通貨政策で金融引締めと人民元の切上げをしているようでは、中国は先進国の経済レベルの国際協調体制には入ることができない。世間ではチベット問題で反中機運が高まっているようですが、経済の視点から見ると、中国が日本のように高度成長の結果、先進国の仲間入りをするという絵を描くのは難しいでしょう。それが日本にとって好ましいのかそうでないのかは判断が分かれるところですが。そんな粗い話をして質疑応答をしました。若い人たちと異なる点は「狂乱物価」という表現をリアルタイムで経験した世代の方たちだったので、非常に楽でした。そうはいっても、私自身はインフレを実感をもって体験していたわけではないのですが。

 意外だったのは中国の一人当たりGDPの低さに驚く方が多くて、こちらが驚きました。念のため、日中の差がはるかに小さく描写されるであろう購買力平価で評価した値(日本:32,840ドル 中国:4,660ドル)も示しましたが、それでも約7分の1という数字は意外と知らない方が多かったようです。年配のご婦人が多いので韓国と比較しても約5分の1程度ですよと申し上げると、さらにびっくりされたご様子。中国の「バブル崩壊」に関しては質疑応答にとっておきましたが、こちらは知っている方が多くて、ちょっと残念。やはり相場を見ていれば、こういう話はどこかで耳に入るようです。中国経済が不況になったら日本は大丈夫でしょうかという、素朴ではありますが厳しい質問もあって、実は対中貿易では日本は出超ですよと申し上げると、これまた驚く方が大半で、「難問」はちょっと腰がひけました。もちろん、影響がないわけがないのですが、どの程度かというところまでは計算する準備ができなかったので、問い詰められれば、わからないとお答えするしかないのですが。

 コーヒーを頂きながら、あとは雑談でした。今度はこちらが驚く番に。おそらく、同世代では福田総理の評判は前任者の辞め方がひどかっただけに安定感を求めて失望している方が周囲では大半なんですが、女性は厳しいですね。「もう、一日でも早くお辞めいただきたい」。「時の最果て」で散々こき下ろしておいてリアルの世界では弁護に回りましたが、日銀総裁のゴタゴタもどっちもどっちと映っているようで、こちらが「撤退」せざるをえませんでした。男性陣がニヤニヤしながら見てましたね。どうも、きれさせた要因は物価上昇に「しょうがない」の一言だったようで、そういえば、若い世代でも女性の反応はシビアだったなあと。そうはいっても市場経済の国で物価を中央銀行が完全にコントロールするのは無理ですよと無駄な抵抗をしてみたものの、「そんなことはわかってるわよ。だけど、『しょうがない』じゃあまりに無責任」と一蹴されてしまいました。ふと思えば、消費税の導入の際に敏感に反応したのは女性でありまして、有権者の約半数は女性であることを考えると、これは怖いなと。「お茶会」では圧倒されるばかりでしたが、最後は今日の話は勉強になったわと言って頂いたので、無事、スピーカーの役目を終えました。意地悪な主催者の方が「次もどう?」とか底意地の悪そうな笑顔で尋ねてこられるので、素で絶句してしまって、「今日は助かったよ。ドタキャンされて慌てていたところだったから」と一礼されて、こちらもお辞儀をしてあとにしました。討論ではあまり話題にならなかったのですが、先進国間の国際協調体制の蚊帳の外に中国が置かれるとしたら、彼らがどう振る舞い、この国はどのように対応するのだろうととりとめのないことが浮かびました。


 帰り道でふと考えていたのは、胡錦濤来日でチベット問題に関して国民レベルでのブーイングを期待する方がネットでは少なくないようですが、どうなんだろうと。欧米諸国のように人権をふりかざす国でもなく、共産党政権がひどいことをしているという印象を与えているのは間違いないのですが、ちょっとした「ずれ」を感じます。まさに「寝言」ですが、イギリスを含むヨーロッパの国々は植民地支配からの撤退で相当苦労をして、現在でもEU内部で民族問題を抱えています。他方で、日本は戦争で負けたおかげで韓国と台湾から手を引くことができました。歴史教科書問題で日教組がどうとか左翼がどうとかやってましたが、私自身の知的水準が低いせいか、周囲の若い人の感覚は、「いろいろあったみたいだけれど、全部、僕たちが生まれる前の話でしょ?」という感じです。歴史への無理解はどうかと思いますが、素朴な感情レベルではそんなものかなと。聖火が長野にやってきてどうなるのかは予想もつかないのですが、もし、チベット問題で若い人たちに期待している方が裏切られるとしたら、それは人権感覚の浅さではなく、善悪は別として、この国の植民地支配からの撤退があまりに幸運であったがために、民族問題への対応に楽観的なのではと思いました。

 それにしても、経済から見る対中関係と政治から見る対中関係は、今は対中強硬がどちらでも強いのですが、両者が一致している時期は意外と短いのかもしれません。経済の面から見れば、短期では波乱があっても相互依存の互恵的関係が深まってゆく傾向が変わらないなら、基本的には日中関係は互恵的な側面が強くでるのでしょう。もちろん、中国から輸入する財貨の安全性や環境の問題など利害が対立することも大きいでしょう。他方で、先進国間の国際協調体制に中国が加わらない状態が続くなら、市場レベルでの緊密な結びつきにもかかわらず、対中関係は疎遠になってゆくのではないのか。そんな「寝言」が浮かびます。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/14177138

この記事へのトラックバック