2008年10月18日

アメリカの「金融再生」の芽?

 経済危機の現状と危機への対応策についてばかり「寝言」にしてきました。他方で、今回の金融危機の「震源地」となったアメリカでは、「危機の克服」が目立たないように進んでいるようです。始まりは、やはり2008年3月のベア・スターンズの破綻の危機だったようです。問題が明らかになってくることによって解決の道筋が見えてくる。CDSの扱いをどうするのかという点については私自身、お手上げでしたが、徐々に方向性が見えてきているのでしょう。


 ブルームバーグの「マガジン」から「CDS市場に潜む 崩壊リスクの恐怖」(PDFファイル)という記事が読めます。この時期は、ベア・スターンズがJPモルガンによって救済された前後の状況をCDSのカウンター・パーティ・リスクの異常な上昇を軸に描いています。このドキュメンタリーの内容は非常に幅が広いのですが、私自身が目に付いたところを簡単にメモしておきます。

(1)CDSは、信用リスクへの保険であるが、売り手が債務不履行が生じた際に、支払うだけの資産を準備しておく必要なく、また、その資産を保有しているかどうか監視するメカニズムが欠けていた。このため、CDSの価格を投資家がリアルタイムで把握することが不可能だった。カウンター・パーティ・リスク(CDSの売り手が契約を履行できないリスク)が生じると、CDSのプライシングは、一応の値がつくにしても、投資家に共有されるにはあまりにコストが大きく、市場メカニズムが機能しない可能性があった。

(2)FRBは、「CDS市場のカウンター・パーティ・リスクを十分に監視してこなかった結果、どこに巨大なリスクが存在し、どの金融機関に融資すべきなのかを判断できなかった」。

(3)米通貨監督局(Office of the Controller of the Currency:OCC 米財務省の部局)は、JPモルガンがCDSの最大の売り手であると同時に借り手であることを認識していた。ベア・スターンズの救済よりもJPモルガンの救済が問題だった。ただし、OCCの監督の対象は商業銀行であり、投資銀行のCDSを把握することができなかった。

(4)3月16日にJPモルガンがベア・スターンズの株式を1株につき2ドルで買収した。買収の結果としてベア・スターンズの株主は責任を負い、ベア・スターンズの債券を保有していた者が救済された。その後、JPモルガンはFRBによって、部分的ではあるとはいえ、CDS市場の監視をFRBの代理して行うようになった。

(5)スワップ市場が不透明な方が、銀行にとっては有利で他の買い手や売り手よりもより多くの情報をもっているので、取引で利鞘が抜ける。他方で、事業会社の債務不履行が増えてくると、カウンター・パーティ・リスクが異常に高い水準になり、CDS市場が崩壊する可能性がある。そのような事態に至る前に、CDSを市場化し、価格が市場参加者の共有知識とする場を設ける必要がある。シカゴ・マーカンタイル取引所は連邦政府の下でCDS取引所を創設したものの、銀行は相対取引の維持を望んで参加しないため機能していない。

 他方で、Bloombergの"Fed, Dealers to Meet on Default Swaps Clearinghouse"という記事では、ニューヨーク連銀は、この事態が生じた頃から、カウンター・パーティを集約し、CDSを清算する構想をもっていたようです。また、シカゴ・マーカンタイル取引所は昨年からCDSと類似した先物商品を提供してCDSの発行残高を減らすことに成功したとのことです。ベア・スターンズの衝撃が生じてもCDSの市場化に乗ってこない金融機関を市場形成に統合する努力以外にも、JPモルガンによるベア買収以前からCDSを他のより透明度の高い商品へ誘導する努力を行っていたことは、出遅れた、口やかましい日本のエコノミスト連中がCDSをなんとかしろと騒ぐだけでなんの役にも立たないのと対照的に、アメリカの実務家がはるかに先見性をもっていたことを示していると思います。

 また、CDSが今回の金融危機の原因ではなく、この数年の多様な金融商品の混乱がCDSに反映されているという指摘もあり、以前、CDSを"Doomsday Machine"とした「寝言」を書きましたが、どうも認識が整理できていなかったようです。引用した記事に沿って、モーゲージなどを売却する"deleveraging"があり、それをCDSが加速するという流れにはなっていますが、CDSが金融市場においてリスクを配分する機能を軽視していたように思います。

 まだ、ニューヨーク連銀によるCDSの清算市場の創設が、(1)そもそも可能なのか、(2)可能だとしても十分に機能するのか、など不透明な部分はいくらでもあります。金融システム不安は今週に入ってかなり落ち着きを見せておりますが、ほぼ沈静化したといってよいとまで断言するのは若干、躊躇があります。ただし、アメリカが金融危機を克服する過程は、市場メカニズムの否定ではなく、市場化されていなかったCDSさえも市場メカニズムに包摂し、金融機関の「欲」を公的部門が律するという、自由放任とは異なった市場メカニズムの機能を前提に「暴走」に歯止めをかけるというオーソドックスな方向に向かう可能性があるのでしょう。

 それにしても、金融派生商品が金融の「デジタル化」を進めた結果、金融の原点が失われたというバカらしい議論にはとてもついてゆけませんね。「アナログ」時代(アナクロの間違いではないのか?)であった1980年代から90年代の日本の金融機関の"nepotism"がどれほど恣意的で、でたらめな結果を招いたのかをお忘れのご様子。「人を見て」貸した象徴は尾上縫という人物なのでしょう。俺は人を見る目があるから客観的なデータなどいらぬと言われると、戦前の軍部を思い浮かべますなあ(要するに、俺は勘がいい。批判は許さん!みたいな)。また、「デカップリング」で「大東亜共栄圏」を目指す方もいらっしゃるようですが、ご苦労な話ですね。そんな与太話をしていたり、日本のメディアやエコノミスト連中が「効率的な規制を!」と叫んでいるうちに、アメリカが「とっくにやってますよ。ところで、いろいろご注文があったようですが、日本はなにをされていたのですか?」と言われないことを願いますね。私が見ている部分はごくわずかですし、ミクロレベルにすぎませんが、アメリカの市場メカニズムの信頼は、同時に用心深い規制によって補完されているように見えます。アメリカの事業会社もとてつもなく貪欲でしょっちゅうやりすぎきて、あまりにもえげつないのでそれを修復する力が、こちらもゆきすぎることが多いのですが、働くという感覚があります。

 アメリカのみならず、ヨーロッパや日本の実体経済が冷え込んでくれば、悲観的な時代になるのかもしれません。また、金融危機を克服するコストはあまりに大きいという印象を拭えないのも率直な実感です。それにもかかわらず、アメリカでは危機の発生とともにただちにそれを克服する試みが行われていることは、10年以上かけてようやく金融危機の「出口」を見つけることがやっとだった国とは大きく異なるということにも注意を払う必要があると思います。うまく表現できませんが、アメリカといえども極端に走ることはありますが、それを抑制する別の力が働くところがあって、分権的社会の成熟度がこの国とはまるで違うというところでしょうか(肉食の方たちの行動は激しいのですが、「均衡」を見出すのも速いのかも)。
posted by Hache at 08:00| Comment(4) | TrackBack(0) | まじめな?寝言
この記事へのコメント
あの...「人を見て貸す」のは、法人に貸し出しを行う際に、財務諸表や担保だけでなく、経営者を見て最終決断するということで、個人に対する融資は含まれていないと思いますが。尾上縫さんへの融資は、確か金融債(ワリコー)が担保だったはずです。
何しろ自然人は客観的な財務データがないうえ、法人と違って交通事故などで突然死んでしまう可能性があるから、人を見ただけでは貸せません。あくまで何らかの担保をとるか、スコアリングカードなどで貸し倒れになる可能性を織り込んだ利ざやを確保し融資を実行します。
なお、規制という面でもアメリカは長い歴史を持っており、また金融機関に限ったわけでもないようです。つまり、70年代に企業経営者の不正が多発したため(ロッキード事件もこれに含まれているとか)、その是正の必要性が認識され、徐々に内部統制が整備されてきた経緯にあります。SOX法はそのひとつの帰結です。資本主義の暗黒面を何とか制御しようと苦闘している歴史なのですね。そういった面において、アメリカは引き続きThought Leaderなのでしょう。
Posted by M at 2008年10月19日 00:01
>M様

実務に疎いところを正していただいて、恐縮です。「元ネタ」が住宅ローンだったので、個人相手も含む話なのかと勘違いをしておりました。コメントを拝読しますと、融資業務というのは、高いスキルを要求される難しい仕事なのだなあと感じます。世間では貸し手の立場が強いと思われがちですし、それ自体が間違っているわけではないのですが、例外も無視できない程度にはあり、このあたりは一般化するのがかなり困難な印象があります。蛇足ですが、「アナログ」か「デジタル」かという問いを立てること自体が、問いを立てる方自体が批判的な「デジタル」の発想だということに気がつかないのが不思議なので、かなり刺激的な表現になってしまいました。

規制の範囲や態様にもよりますが、アメリカにおける経済的規制は少なくとも反トラスト法の成立までさかのぼることができると思います。政府による経済的規制というと、どうしても個々の事業や市場への直接的な規制に目が行きがちですが。問題は、規制もゆきすぎるわけで、たとえば再販でも当然違法という明文上の規定があまりに厳しく、1950年代後半から60年代は事実上、法として機能していない状態でした。民間部門がやりすぎる、あるいは自由な活動が資源配分の効率をもたらさないことは決して例外ではなく、そこに政府が関与する余地がありますが、政府の関与はしばしば実際の経済活動への無理解から理想主義的になりがちですし、うまくワークした規制が市場や事業の変化に対応しなくなることも生じます。さらには、行政機関どうしの権限争いは日本に限った話ではなく、アメリカでも存在します。もっとも、アメリカで主として問題になるのは連邦と州の関係だという印象がありますが。アメリカの強みは、立法・行政・司法がバランスを保つように三権分立が徹底しているというところにあると思います。州政府が連邦政府と対立した場合、司法の場で解決するというのは珍しくありません。

ご指摘の中で鋭いと思うのは、アメリカといえども、規制の強化が民間部門の不備に即時対応しているというわけではないという点でしょうか。政府規制の強化、あるいは緩和・撤廃は、多くは市場の変化の後追いに過ぎません。しかも、タイミングがずれるために、かえって混乱を招くことすらあります。SOX法の評価は私にはできませんが、また、アメリカに限らないと思いますが、市場も政府も失敗する。ただ、やはり彼我の差を感じるのは、失敗を検証して行動に反映させてゆく、国全体の力です。これとて現実の後追いにすぎませんが、どうもこの国では責任者探しという点で単なる後追いに終わってしまう傾向が強いように感じます。

Posted by Hache at 2008年10月19日 12:44
大変失礼しました。エンロン事件の源流をたどって70年代まで遡ったのですが、不正との戦いの歴史はもっと古いのですね。浅学を恥じ入るしだいです。
仰るとおり、政府の失敗についても自ら正すことができる体質はアメリカの美点の一つで、これが失われない限り、アメリカの本格的な衰退はないのでしょう。
翻って、我が国では60年前の敗戦の総括も十分できているとは思われず、まして10年前のバブル崩壊後の対応や、この前の小泉・竹中改革の分析についてもうやむやで終わる危険性があります。責任を厳しく追及しないのは狭い国土で肩寄せ合って生きていくための知恵かもしれませんが、なかなか民族としての経験が蓄積されず、同じ失敗を懲りずに繰り返してしまうリスクが残っているように思われます。
Posted by M at 2008年10月19日 23:08
>M様

コメントを賜り、恐縮です。私の方が、頭が下がります。修行時代にアメリカの電話産業ウォッチの真似事をしておりましたので、19世紀から20世紀初頭に制定されたシャーマン法やクレイトン法の基礎知識がある程度、必要でした。言いにくいのですが、20世紀前半のアメリカ企業というのは本当にえげつなく、まさに資本主義を実感させてくれるので楽しく、また、それに対する強烈な反発もあり、なおかつ、双方とも「暴走」するので、肉を食べる人たちは違うなあと感心しながら勉強したのを思い出します。スタンダードオイルによるmonopolizationは、現代なら悪の限りをつくしていてすさまじいです。この話をしだすと止まらないので、止めます。こちらに断片的ですが、電話について記しておりますので、お暇なときにご覧下さい。

http://the-end-of-time.sblo.jp/article/1090452.html

日本への懸念は、本当にそう思います。「民族としての経験が蓄積」されるプロセスは脆弱だと思います。ただ、今回の金融危機をアメリカが克服するプロセスはアメリカ一国ではとどまらないでしょうから、私が見ているような個別の産業における話が通用するのかは私自身、懐疑的です。昨年、「『グランドデザイン』のない国際経済」という、読み返すとしみじみとりとめのない「寝言」を書きましたが、アメリカの「復元力」だけで収拾できる事態なのかは、相変わらず確信がもてないでおります。

http://the-end-of-time.sblo.jp/article/8656865.html
Posted by Hache at 2008年10月20日 06:45
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