2006年12月19日

イラクからの「出口」

 イラク問題を考えると、憂鬱になります。もっとも、「ベトナム戦争の末期だ」という評価には同意できない部分が多いです。第1に、フセイン体制の打倒という点ではイラク戦争は成功したということです。第2に、ベトナムより困るのは、占領統治で誰が「敵」なのかということが明確ではないということです。まず、治安を安定させるよりほかないのですが、ベトナム戦争のように、特定の勢力を叩けば済む話ではないので、「出口政策」が見えにくい印象があります。イラク研究グループの報告書の前文を読んでいないので適当な話ですが、提言の中身よりも、アメリカ国内において超党派でこの問題に関してコンセンサスを形成するしかけとして重要なのだろうと考えております。

 イラクの占領統治に関しては、私は「タカ派」です。簡単に言えば、民主化までゆかなくても、イラク国内の治安をある水準まで回復するまでは粘るしかないだろうと。ここで頭が痛いのは、治安の回復にはこれという妙案はありませんし、時間をかけてもこれまで3年前後を費やしてこのありさまですから、実現可能かどうかも怪しいという点です。さらに、イラクに米軍が駐留している間に北朝鮮やイラクの核開発の問題が進行し、最もこの国の安全保障にとって致命的な事態になりかねない2008年から10年程度は台湾海峡が微妙な時期にさしかかることです。イラク以外の地域情勢を見ていると、強気になりきれない部分もあります。

 そんな「ああでもない、こうでもない」という話をしていたら、ある知人が「ここで(イラクからの)撤退はありえません」というのでちょっと驚きました。ブッシュ大統領には好意的でもなく、イラク戦争も反対でもないけれども、諸手を挙げて賛成というわけではない、どちらかといえば批判的な人なのでちとびっくり。「営業でも、会社の出処進退でもそうですけど、手を引くタイミングが一番、難しいです」。まあ、このあたりはそうでしょう。「いまは、撤退する秋ではありません。ここまで深入りすると、とにかく成果を挙げるまで粘るしかないでしょうな。そうでないと、犠牲になった人たちがすべて無駄だったということになりかねません」。それはそうなんですが、「成果」が長期にわたってでないので苦労しているのですがと話をふりました。「この程度で『損切り』をしてしまうと、戦争に勝ったという成果まで無に帰すでしょう。どんな些細なことでもよいから、成果を挙げてから矛を収めればよい話です」。

 私がしばらく考えて「2010年前後に台湾海峡に中国がでてきたら、どうしますか?」と尋ねると、あまりに素朴ながら、明快な返答が帰ってきたので困惑しました。「イラクよりも台湾が重要ならば、撤退の好機です。もっと重要な問題が生じたら、イラクから撤退するしかないでしょう」。この知人は、外交・安全保障に関しては私以上に素人ですが、細かい線を省いているだけに話の大筋を語るので、興味深く問答をしておりました。私自身の「出口政策」に関する考えがまとまっていないので、今回は述べずに控えます。

 大きな問題ほど、細かい枝葉をおさえた上でバッサリと筋を考えたほうがよいのかもしれません。
posted by Hache at 08:52| Comment(3) | TrackBack(1) | まじめな?寝言
この記事へのコメント
ご無沙汰しております。と言うよりほとんどコメントしてませんが、いつも拝読しております。イラク戦争の目的については、2年ほど前に、別のブログ(やじゅんさん)で、トム.フリードマンの記事を引いてコメントしたことがあります。要するにイラク戦争には、表向きの目的(大量破壊兵器廃棄)と本当の目的(テロリストがイラクを乗っ取る前にアメリカが乗っ取る)、そして正しい目的(イラクの民主化)があるということです。世評では(アメリカの世論も)イラク戦争は旨くいっていないというのが大方のご意見で、もっともなことですが、表向きの目的は結果的には(皮肉な形ではあるが)達成され、本当の目的も現状では達成され、正しい目的が達成できるか疑わしいというところでしょう。結局イラクがどうなるか、これは20世紀の大事件と同様に、最終的にはアメリカの世論にかかっていますね。アメリカ世論が見捨てれば、イラクも(ブッシュも)見捨てられる。アメリカが始めたんだから責任持てよ、そりゃそうなんですが、そうはいかない。岡崎久彦先生おっしゃるとおりアメリカ世論は世界の独裁者なんですから。私の個人的な予想(何の力もないですが)は、期限を定めた撤退は未だ早い。むしろ周辺国を巻き込んで、長期駐留を前提に戦略を練り直す。そんなところじゃあないでしょうか。イラクの民主化が成功したら?何も撤兵する必要ないでしょう。日本が民主化して60年、アメリカ軍は未だ居りますよ。
Posted by M.N.生 at 2006年12月19日 13:27
イラク侵攻の本当の目的は言うまでも無く「石油」に決まってます。これは先日講演を聞いたビル・トッテン氏がいつも言ってることですが、米軍の展開しているところと石油産地を重ね合わせれば歴然だそうです。
Posted by 笛吹働爺 at 2006年12月19日 14:46
Hacheさん、はじめまして。

 ISGレポート、前半の現状分析は極めて興味深いと思いました。絶望的な気持ちになれますよ。特に、PP12-13 Iraq Army及びIraq Police あたり。要員、装備、指揮命令系統、兵たん、全て罰点。治安維持体制のイラク化ってのは、もう2年もやってるんですけどね。賽の河原に石を積むが如し。

http://www.usip.org/isg/iraq_study_group_report/report/1206/iraq_study_group_report.pdf

P31にresponsible transitionという言葉が出てきます。イラクからのdisengagementを前提として、その過程をどう(米国的に)正当化するかを考えさせ、受け入れさせるためのconceptual deviceなんだろうなあ、というのが感想でした。

 米世論は、各種調査を見る限り、もうイラクから出たくてしかたがない、って風に見えますね。

http://www.pollingreport.com/iraq.htm

 イラク選挙と言われた11月中間選挙の結果は、その世論を明確に反映したと思います。上下両院で民主党が過半数奪還(上院はジョンソン議員の病気で風向きが怪しくなってますが)ですから。選挙直前のAPとのインタビューで「信任してます」と明言したラムちゃんを、選挙直後に切らざるを得なかったのも、そうしなければ政権そのものが持たんという判断でしょう。この環境で粘るといっても、なかなか厳しいと思いますよ。まあ、ジョージ君は抵抗するでしょうが。

以上、長々と失礼しました。
Posted by harmoniker at 2006年12月24日 02:25
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