2006年12月27日

イラク戦争の「本当の理由」

 ふう。残っていた書類を無理やり押し込んで、事実上の御用納めとあいなりました。現金なもので、一気に気が楽になりました。読み返すと、あれこれ書きたいのはわかるが無理して書いているのを自分自身で感じてしまいます。イラクに台湾海峡、集団的自衛権と並べると、これは無理ですね。何を書いているのかが、怪しくなってしまう。核武装に関する報道もあって、こちらも書きたいとか、紛れることばかりやっていて、仕事の能率も悪いわけです。

 実は、この記事を書いている途中で寝てしまい、起きたらパソコンの電源がONになったままになっていたので、書き続けていたら、正真正銘のフリーズでダウンしてしまいました。テキストエディタで下書きしているので、バックアップは全くありません。最初に書いたことの一部を忘れてしまいました。言い訳で申し訳ないのですが、以上の事情で文章のつながりが悪いことをお許しください。

 恥ずかしながら、かんべえ師匠の示唆のおかげで、Thomas Friedman,"Because We Could"(New York Times, June 4, 2003, Wednesday)を漸く入手しました。私自身が、イラク戦争前には当たり前だと思っていたことを置き去りにしていたことに気がつきます。開戦前には、アメリカ人の命が重いことをテロリストやそれを支援している国家に示すためには、徹底した武力攻撃が必要だと考えておりました。T. Friedmanのコラムは、この点を明快に述べています。既に、内容についてはM.N.生様が述べられているので、蛇足になると思いますが、まず、最も大切な点である"real reason"について述べます。

 9.11では、テロリストが一方的に市民を標的に大量虐殺を行いました。フリードマンは、「本当の理由("real reason")」は、テロリストが自爆も辞さない覚悟でアラブ世界と西側の力関係を変えようとしているのに対抗して、中東の心臓部に米兵を送り込んで、アメリカが命を捨ててでも、テロリストを殺す覚悟があることを示すことだと明快に述べています。なぜイラクかといえば、サウジ(当時はアメリカに睨まれていましたから)やシリアでもいいんだが、イラクは攻撃しやすいからだとあまりに赤裸々に述べています。対テロ戦争の延長線上にイラク戦争を位置づける場合(これだけでは、かならずしも、イラク戦争そのものを説明するのには不十分だと考えておりますが)、この肝心の部分があからさまに語られることは少ないのです。フリードマンは、まず、核心部分を提示しています。

 その上で「正当な理由(right reason)」をフセイン体制崩壊後、進歩的なアラブの体制を築くことだと論じています。本当の「大量破壊(mass destruction)」はミサイルではなく、アメリカを憎む若いアラブ人やムスリムだと指摘しています。"decent Iraq"を築くことは、他のアラブ諸国のモデルとなり、さらに、イスラエルとパレスチナの和解に貢献し、アメリカにとっての真の脅威である「大量破壊」を除去すると論じています。

 まず、感じるのは、"decent Iraq"という柔軟性をもたせた表現は、「民主化」にこだわったいわゆる「ネオコン」よりも視野が広いことを感じさせます。"decent"では曖昧なように聞こえるかもしれませんが、狭く言えば、自爆テロの温床となったり、鼓舞するような体制ではないことであればよいわけで、アラブの人たちに選択の余地が残ります。このあたりは、ざっくばらんな表現なようで懐の深さを感じます。また、この時点でイラク戦争が中東和平とリンケージしていることは、アメリカの識者のある範囲内ではコンセンサスになっていたことを感じさせます。「バグダードからエルサレムへ」という直截な表現は用いられていませんが、イラク戦争を見るときに中東和平から切り離してしまっては、戦争の意義が見えなくなってしまうと思います。

 フリードマンのコラムに戻ります。彼は"moral reason"としてフセイン体制が先に述べた反米的なアラブ人の温床となるという意味で大量破壊の温床となっていることやジェノサイドを挙げています。フリードマンは、ブッシュ政権が「本当の理由("real reason")を述べてしまうと、「正当な理由(right reason)」や「倫理上の理由(moral reason)」への支持がえられないがゆえに、「本当の理由」を述べずに、"stated reason"、すなわち、サダムが大量破壊兵器を保有してアメリカへの切羽詰った脅威になっていると主張していると指摘しています。2003年6月の時点で彼は、既にサダムが大量破壊兵器をもっていないことやアルカイダとの繋がりがないことを指摘した上で、戦争に反対するのではなく、"stated reason"(「公式の理由」、あるいは建前論、露骨に言えば、口実・因縁)ではなく、「正当な理由」と「倫理上の理由」で戦うべしと論じています。さらに、イラクで大量破壊兵器を見つけることは、ブッシュ・チームやネオコン、ブレア、CIAにとって信用を守るという意味で必要だろうが、戦争に勝つにはイラクの再建が必要だとまで断言しています。彼の見解は、卓見の一つでしょう。

 彼が指摘している戦争に際しての不手際(大量破壊兵器やインテリジェンスなど)は、多くの戦争で生じる類のものです。また、民主主義国家では「本当の理由」をあからさまに述べることには、他の政体とは異なる困難がつきまとうでしょう。戦前ならば、通州事件などによって民衆が「暴支膺懲」に流れ、「本当の理由」に歯止めがかからなくなった例もあります。「本当の理由」を政府が「隠す」のは、民衆を煽ることなく、説得の手段を確保しておくための手段なのかもしれません。このあたりは、デリケートすぎて私の手には負えませんが、フリードマンの凄味は、このあたりをけれんみなく整理しているところです。対テロ戦争の延長としてイラク戦争を位置づけるのならば、フリードマンの説明で「本当の理由」は、ほとんど語られているでしょう。

 イラクの占領統治は、最悪といってもよい状態にあります。現時点で、"decent state"の具体像は、まるで見えない状態です。イラクからの「出口」は、"decent state"の国家像が見えた時点から始まるのかもしれません。もっと言えば、中東政策を考えると、イラクの占領統治は「入口」であって「出口」ではないのかもしれません。過度の反米感情をアラブ諸国からなくしてゆくには、途方もない時間がかかるでしょう。「時の最果て」の「中の人」はお下劣なので、反米感情ですら、なくす必要はなく、要は程度問題だと思います。

 占領統治の不首尾に乗じてアメリカを嘲笑したり、悲嘆するのはたやすいことです。しかし、アメリカの真におそるべき点は、2歩退いたと思ったら、いつの間にか5歩も6歩も進んでいるという特性にあります。アメリカは、ときに救い難いと映る失敗を犯します。並の国なら失敗から学習する程度でしょう(もっとも、これでも十分に世界史に残る国ではありますが)。アメリカは、自ら、なかば滅んで蘇るという驚くべき力をもっています。もちろん、彼らが、そうなるように合目的的に行動しているわけではないのでしょう。アメリカという国は、100人いれば、100人の意見があって、てんでバラバラです。100人が100人、自分の好きなことをやっているだけだといえば、そうでしょう。しかし、このような徹底した分権的な社会が生み出す、分権的な社会のみが有するダイナミズムを忘れてしまっては、ナチスや戦前のこの国や旧ソ連と同じ過ちを繰り返すだけでしょう。

 イラク占領統治の不首尾は危機的な状態です。この2、3年で適切な解がでてくるのかさえ、疑わしい。ようやくここで今日の「寝言」の核心ですが、アメリカ人自身が、アメリカの一極支配に適応していないことをイラクで露呈してしまいました。私は、イラクの占領統治をめぐるアメリカ国内世論の混乱は、アメリカ人自身がアメリカの一極支配に適応してゆく過程での挿話に過ぎないという感覚をもっています。「寝言」の極みですが、アメリカ人は自分たちが「帝国」であるという自覚がないまま(そうであるからこそ)、帝国をつくってゆくという予想をしております。アメリカ国内の世論が分裂し、妥協し、また分裂するというのは、まさに分権的社会が機能していることを示しているでしょう。もちろん、このまま、アメリカが迷走する可能性もあるでしょう。しかし、分権的社会の驚くべき復元力を軽侮することは、アメリカが事実上の帝国である現状を鑑みると、取り返しのつかない過ちにつながる判断をしかねません。あくまで、アバウトな認識と「男の勘」にもとづく、仮定に仮定を重ねた話ですので、「『寝言』というより『妄言』だね」という感覚で読み流して頂ければ、幸いです。
この記事へのコメント
付け加えること無し。(笑)

ひとつ気がかりなのは、アメリカは蘇りの過程で、一時こもる傾向があります。そのとき、日本がアメリカ頼みに足らずと思ってしまうこと。これ、最悪のシナリオです。そうならないことを、切に祈ります。問われているのは、アメリカでなく日本の成熟さです。
Posted by M.N.生 at 2006年12月27日 16:55
 本当に勉強になりました。原稿を仕上げるときにM.N.生様のコメントを御覧になったと思しき方が

いらっしゃるかもしれません。私のあてずっぽうなので、私一人の分だけ御礼を申し上げます。

御紹介頂いた文献が未見だったのは、恥ずかしいばかりです。

 まさに、コメントで御指摘の点がポイントです。月火の記事は、そこを攻めてみましたが、どうも

弱いというのが実感でした。この記事で、どこまで補足できたのか、自分でも自信はないのですが。

ネットでは、既にこの手の議論が出ていますし、民間レベルではやむをえないと思っております。

イラク戦争のときも、日本人は、他の先進諸国と比較しても、自己抑制が効いていたので

反動がくることは、やむをえないと思います。論壇あたりでどんちゃん騒ぎをするぐらいは、

織り込んでおくしかないと思います。

 問題は政府レベルで、現時点で言えば安倍総理が間違えないということにつきると思います。

現在はあまり心配しておりませんが、国民を説得するとなると大変だなと思います。欲をいえば、

小泉さんに駄目を押しておいて頂きたかったのですが、安倍さんに「宿題」を残してしまいました。

この「宿題」が片付くまでは「時の最果て」にも「終わり」はこないのです。複雑な心境ですが、

しばらくは「寝言」を綴ってゆくしかないのかなと考えております。
Posted by Hache at 2006年12月27日 21:48
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