2009年09月02日

米紙による政権交代への祝福

 今更ですが、テレビ東京の『週刊ニュース新書』8月29日放映分を見ました。御厨貴先生が出演しているからですが、(1)民主党中心の政権(以下、面倒ですので実際は連立政権になるのでしょうが民主党政権と記します)になるんだろうけれど、大混乱で大変だよという指摘がありました。次に、(2)混乱するのは目に見えているので国民が支えないと、先の見えない政治的混乱に陥るよというわけで、これまた至極、常識的で納得です。違和感を覚えたのは、話の順序を変えていますが、(3)今回の総選挙では郵政選挙の逆が起きているというあたりで、御厨先生や田勢康弘さんの方が正常なとらえ方かなと思いますが、やはり違和感があります。

 郵政選挙は、率直なところ、衆議院の採決で造反者が出るかもしれないという報道が出始めた2005年7月あたりから造反しろ、造反しろと思っておりました。当時の小泉首相が郵政民営化を実現したいという意欲が本気ではなかったということではなく、これで自民党内の権力闘争に選挙という形ではっきりと決着がつくだろうという感覚がありました。不安はどうでもいいといえばどうでもいい郵政民営化(小泉首相自身が「この程度の改革」とすら8月には言っていた)という争点にどの程度、他の意識をもつ人たちがついてくるのかなと。民主党には敵意はなく、失礼ながら脇役でしょうと。これを「劇場型政治」にしたのはマスメディアの役割が大きく、2005年の総選挙の本質ではないでしょう。後継者は苦労するかもしれないが、自民党の路線が明確になるという意義を私はあの選挙に見ておりました。御厨先生の『「保守」の終わり』に対する解の一つが小泉改革路線だった。そのように見ております。

 また、国内では民主党の外交・安全保障政策への不安が指摘されています。私自身も強い懸念をもっておりますが、小泉政権の負の側面として、小泉−ブッシュの首脳間のあまりに良好な関係に依存しすぎて、実務的なレベルで日米間の外交政策や安全保障政策をすりあわせる作業がないがしろになっていたことがあると思います。この点はブッシュ政権における対北朝鮮政策におけるアメリカ側の混乱もあり、現在に至るまで改善の兆しが見えません。他方、オバマ政権のアジア外交の布陣を見ると、日本重視の姿勢も見えますが、日本側の政治的不安定によってアメリカ側の失望に終わるリスクを無視できないでしょう。

 今回の選挙は、小泉政権後、三代にわたって路線を継承できなかったことに対する自民党政権をとりかえるしかないというところまできた不作為の結果でしょう。郵政選挙が自民党が改革政党としてしか生き残る道がなくなったのにもかかわらず、安倍、福田、麻生の各首相は決断力がなく、小泉改革への批判にぐらついてしまった。小泉政権後の三代に目立った失政がなかったというのは表面的には正しいのでしょうが、改革政党としてしか生き残ることができない自民党を継承することはできなかったという評価になります。結果として起きたのは、小泉政権によってお株を奪われた民主党による「反革命」といってよいのでしょう。あの執行部の顔触れを見れば、菅氏を除いて、小泉氏が自民党内で権力闘争をしかけた人たちと同じ出自であり、もっと速く自民党を出た人たちでしたから。小泉改革といっても、可塑的な部分が大きく、「市場原理主義」(鳩山氏のオピニオンのおかげで"market fundamentalism"という英語があるのを初めて知りました。知ったのですが、いまだに意味がわからないので困惑気味ですが)というほど単純な話ではなく、(1)経済のグローバル化(私自身はこの表現が嫌いだ。幕末・開港はグローバル化ではなかったのか? 市場経済は本質的にグローバルだ)へ成長の好機を見るという意味で積極的に対応する、(2)官邸機能の強化(民主党の国家戦略局は安倍政権の首相補佐官制度を想起させるもので総理大臣の内閣における指導力をむしろ曖昧にするという危惧を私はもっている)、(3)歳出削減を優先した上での財政再建(消費税率を未来永劫、引き上げるなとは思わないがあまりにタイミングが難しい)というところでしょうか。

 そんなわけでどうやら自民党本部が勝手にやっていたらしいアニメやパンフレットによるネガティブキャンペーンにも屈せず、耐えた私は民主党政権を冷ややかに見ておりますが、海外、主として米紙ですが、Googleリーダーで日本の総選挙がまずWall Street Journalの8月29日の社説("Japanese Protest Vote")でとりあげられているのを見て驚きました。まあ本当は医療保険制度改革が米紙を読んでもわからず、イライラしながらアフガン情勢の方に目がいっていたのですが、ほおという感じでした。Wall Street Journalらしく、突き放したような表現も目立ちますが、民主党による政権交代が実現しそうだという状況で、非常に好意的だと言って内容でした。選挙後にはNew York TimesやWashington Postも社説を掲げるので、びっくり。New York Timesは末尾で"A version of this article appeared in print on September 1, 2009, on page A28 of the New York edition."と断っているので、日本人ジャーナリストが関与した質の低い日本関連の記事とは異なるのでしょう。本題に入る前が例によって長くなりましたが、各紙の社説は、(1)日本の政治的意思決定プロセスの改革、(2)政府債務の制約と景気刺激策、(3)日米関係など全般にわたって論じた上で民主党政権そのものというよりは政権交代を歓迎しており、Kissingerの論考をきっかけに今後の政治と経済の「間」を考えたいと思っていましたが、中断して、とりあえず記しておきます。


 まずはWall Street Journalの"Japanese Protest Vote"という社説です(参照)。サブタイトルに"A step toward competitive two-party politics."にあるあたりで、社説が掲載されたのは総選挙の結果が判明する以前ですが、政権交代を肯定的に捉えていることが伺えます。

  Japanese voters go to the polls Sunday, and all indications are that the ruling Liberal Democratic Party's almost interminable grip on politics will finally be broken. This is a welcome step toward competitive two-party politics in East Asia's most important democracy.

 読んでいて日本人である私が気恥ずかしくなるぐらいの期待感です。「非国民」の私は政治システムの混迷の始まりとしか見ていなかったのですが、冷静な筆致とはいえ、東アジアにおける最も大切な民主主義国で、競争的な二大政党政治が定着する最初のステップとなるのなら歓迎するというのはごく自然なのでしょう。小泉政権をさらりと肯定的に評価した上で、小泉政権後の3人の後継者が"re-embraced factional backroom politics"(評判の悪い派閥談合政治)を行ったという批評は的外れな印象もありますが、予想以上に不出来な政権が連続してという点ではやむをえないところでしょうか。

  The question is what Mr. Hatoyama will do with that mandate. His most radical idea is to break the iron triangle of government, business and bureaucracy that has long dominated Japan, and instead put elected politicians in charge. If he succeeds, that would be a positive step toward making government more accountable to citizens.

 負託を受けて鳩山氏がなにを行うのかが問題だ。彼の最も急進的な考えは、政官財の鉄のトライアングルを破壊した上で選挙で選ばれた政治家が統治するということだ。成功すれば、政府を市民に対してより責任のある存在にする積極的な過程となるだろう。

 やや図式的な印象もありますが、Wall Street Journalの社説では、民主党の政治主導への改革に関する意欲を留保付きとはいえ、かなり高く評価しています。マニフェストや「政策INDEX」を読んで心が折れた私からすると、過大評価という気もしますが。

  Mr. Hatoyama also promises to rethink Japan's role abroad, which would be a good idea if only the policy specifics were better. He wants to distance Tokyo from the U.S. alliance and rely more on international institutions. He is also an environmental true believer and supports a nuclear-free world, without giving much apparent thought to the practical implications for a neighborhood that includes a nuclear China and North Korea.


 外交政策に関しては辛辣といってよいでしょう。対米重視からアジア重視へという問題にはそういう主張をしているという事実を指摘するだけで論評を加えずに、「核のない世界」を支持しているようだが、中国や北朝鮮など近隣諸国の核に関して現実的にどのような意味をもっているのかを理解していないという指摘は、現実主義的な外交政策は期待できないと主張しているように映ります。

  The DPJ's economic ideas could turn out to be the party's real undoing. The manifesto promises to cut spending and redirect public handouts—in this case, to parents, students and the elderly—rather than creating the kind of risk-taking environment Japan needs. Mr. Hatoyama has also shown a tendency to cater to the agricultural lobby that has been one of the LDP's political bulwarks.

  This is a risky strategy on many fronts. Japan has a huge fiscal deficit and the highest public-debt-to-GDP ratio in the developed world. Without a strategy for growth and with an aging population, there's no way to relieve these burdens. And without a strong economy, Tokyo can't afford a strong defense.


 まあ、小泉改革の「反革命」ですから、"creating the kind of risk-taking environment Japan needs"をしないという批判は酷かな。農家への個別所得補償制度は頭痛の種。成長にかかわる戦略がなければダメというのは国内外を問わないようですが、鋭いのは、強い経済なくして強い防衛力なしというあたりでしょうか。ワシントンと距離を置き、アジアに傾斜するのなら止めないけれど、軍拡が進むアジアでやってゆけますかねと。ここは辛辣ではなく、本気で心配しているのでしょう。日本の新聞ではアメリカ様がお怒りのご様子という表層的な報道で終始しているようですが、WSJは、日本を"East Asia's most important democracy"とみなした上で、互恵的な関係を維持するのは経済ではなく、安全保障が土台であると見ているのかもしれません。選挙後の他紙の論評と比較しても、懐が深く、本質的な考察だと思います。

  Mr. Hatoyama's tenure at the top may be cut short because of a political funding scandal that is currently brewing. With or without him, we may learn soon enough whether the DPJ would really change Japanese politics or simply replicate the current LDP. But a Japan no longer dominated by a single party is itself no small change.


 鳩山氏の政治資金の問題にも触れた上で、政権交代が日本政治を変える実現可能性について直接、論評せずに、DPJの品定めというのでもなく、日本の政治に活力がもどるのかを慎重に見極めようという態度が伝わってきます(今年の4月に海外留学から帰ってきた友人に日本の政治の話を聴かれて、こちらが「DPJの評判はどう?」と「DPJってなんですか?」と尋ねられて、英字紙ではやはりその程度の扱いかと実感しましたが)。自民党の「一党独裁」ではないこと自体は小さくない変化だというあたりは妥当でしょう。ただし、日本人、それも、いかれた「外道」には1990年代とは異なった政治的意思決定プロセスの麻痺となることをおそれます。

 次に、Washigton Postの"Shake-Up in Japan"(September 1, 2009)という社説ですが、こちらはWSJに比べると、選挙の結果が判明した後であるのにもかかわらず、印象が薄いです(参照)。WSJの社説と比較すると、選挙後ということもあるのでしょうが、東アジアにおける最も大切な民主主義国の変化という意識は希薄です。また、それなりに的確な指摘も、表現に皮肉が強すぎて、ちょっとなあと。例えば、"Can the Democratic Party of Japan, a mix of former LDP politicians, ex-socialists and civic activists, succeed where the LDP has failed?"という疑問はもっともなのですが、30代から40代の民主党議員は上記のいずれにも該当しない方が少なくなく、やや一面的な印象もあります。サブタイトルは"Two parties are better than one"で、全体としては肯定的に評価していますが、今回の政権交代とその後の日本の政治システムの改革の成否がもつ地政学的な意味については意識が希薄な印象です。

  The DPJ defeated the Liberal Democratic Party (LDP), which had ruled Japan with only 11 months of interruption since 1955. Japan under the LDP was hardly a dictatorship, but its political machine and its unelected allies in the bureaucracy had run out of ideas and energy. Japan's once-dynamic economy has been in stagnation pretty much since 1989. With its falling birthrate, even Japan's population of 125 million is not only aging but actually shrinking.


 WSJに比べて、字数が少ないのでやむをえないのでしょうが、かなり粗い描写ですね。若干、やっつけ仕事という感じもします。小沢氏がキーマンだというのはWSJよりも踏み込んだ論評ですが、予算編成など政治的意思決定過程の透明化を評価するとい程度で、それほど興味深い指摘はありません。

Japan needs further restructuring of an economy that depends heavily on exports to support less-efficient sectors such as construction and agriculture. Greater reliance on domestic demand would help both hard-pressed Japanese families and the United States, insofar as such a policy might reduce Japan's trade surplus: The DPJ has several pro-consumption proposals, from lower highway tolls to increased support for couples with children. Alas, the party has been less clear about how it will pay for these goodies, no small omission given that the national debt is already almost twice Japan's gross domestic product. Unfortunately, too, the DPJ bought the votes of Japan's farmers with promises of money and protection.


 経済の「構造改革」(restructuring of an economy)が必要だと指摘していますが、外需依存をなんとかしろという程度にとどまており、農家への個別所得補償制度を除く短期的・限定的な再分配政策を評価しているあたりは、アメリカ国内の経済政策に関する方向性のなさの裏返しかもしれません。オバマ政権発足以前から、景気刺激策の実効性についてオバマ政権下の「野党」になる覚悟で批判してきたWSJとの差が出ているのでしょう。

  The LDP stood for close U.S.-Japan relations, while Yukio Hatoyama, the inexperienced politician who leads the DPJ and will probably be Japan's next prime minister, has called for a more Asia-centered foreign policy, sometimes dressing this up with assaults on American "market fundamentalism" and other ills of globalization. There will no doubt be room for negotiation with the Obama administration, perhaps over such issues as the basing of U.S. Marines in Okinawa. But the threat of a nuclear North Korea makes Japan's neighborhood too dangerous, we think, for the government in Tokyo to seek a rupture with Washington or for the Obama administration to let one develop.


 この部分がよく引用されるようですが、鳩山氏のオピニオンが懸念を招いていること、北朝鮮の核に関する鈍さへの指摘を除くと、全般に甘い情勢認識だと思います。日米関係の「空洞化」は、既に小泉政権から始まっていたのでしょう。小泉政権後の3代の自公連立政権は確かにアメリカとの協力関係を破壊しようとはしませんでしたが、同盟関係といえるほどの政策やリスク、費用の分担という点でめぼしい成果を上げることはありませんでした。また、沖縄の米軍基地問題でオバマ政権と交渉の余地があるというのは"no doubt"という修辞があるのにもかかわらず、根拠がありません。裏がとれているのでしょうか? 粗雑な印象をもちます。本当に再交渉をするのなら普天間基地問題で沖縄を説得するに足るだけの政策パッケージを民主党が準備し、短期間で説得するという自民党政権が失敗してきた(単に失政と決めつけることはできないでしょう)ことをより上手にやれるという見通しはありません。既に、この問題は日米間の交渉というよりも、国内問題の比重の方が高い印象があります。北朝鮮の核開発・核保有問題に具体策がないというのはWall Street Journalとそれほど変わらないでしょう。全体としてはWSJよりも政権交代に好意的にも読めるのですが、現状認識が甘く、あまりよい社説ではないと思います。

 なお、鳩山氏のオピニオンが引用されており、それ自体への論評はありません。Washington Postの社説は一定の理解を示しているようにも読めますが、次期政権への期待がそれなりに高いだけに、「アメリカ離れ」と騒ぐのは自制しているようにも見えます。北朝鮮の核問題をとりあげることで、現実主義的な外交へ転換することを暗に期待しているのかもしれません。また、オバマ政権の対中関係と対日関係の優先順位はかならずしも明確ではなく、日本側の対応によっては対中関係重視の代表であるKissingerの見解が強い影響力をもつでしょう。『世界の論調批評』のコメントは正論だと思いますが(参照)、小泉政権後半からバカ三代の対米政策を考えると、「自由と繁栄の孤」のように日米安全保障体制を補完する政策であって単独では意味をなさない政策はアメリカから見て戦略的な価値がほとんどないでしょう(この点は以前書きましたが、面倒なので酔狂な方は探してください)。

【追記】

 眠い状態で書いたので読めておりませんでしたが、かなり感情的な反発も入った強烈な鳩山氏のオピニオンに対する批判ですね。雑に表現すると、「アホ、バカ、死ね」というのを婉曲に表現してますな(再度、読み直しましたが、最後の鳩山氏のオピニオンをぶったぎるために随分、感情を抑制している印象ですね。午前6時頃にリーダーで読み込んだアドレスにアクセスしたときにはずいぶん雑だなと思いましたが、なんのことはない、怒っているけれど、抑えるのに必死なだけなのかも。Washington Postの社説にしては変だなと思いましたが、これは怖い。英文を読むのが面倒な人に概要を40字以内でまとめると、「小沢でも十分、困るのだが、鳩山はキチ○ガイなのか、おい!」というところでしょうか。正解は宇宙人ですよで逃げたいなあ)。"rupture"というのは穏当ではない表現です。鳩山氏はぶら下がりで寄稿したものではなく、アメリカの新聞社が『VOICE』の論文から引用したと説明していますが、これも不可解。出版社と執筆者に確認をとらずにアメリカの新聞社が引用しますかね。元の論文を読んでいないので、鳩山氏の言い分を認めたとしても、あれが少なくとも抜粋であれば、金融危機で弱っているアメリカの識者に平手打ちをしたのは間違いなく、田母神作文よりも拙劣としかいいようがありません。まあ、前途多難ですな。(追記おわり)

 最後になりましたが、New York Timesの社説("Japan’s New Leadership", August 31, 2009 )です(参照)。公的債務のGDP比が先進国でも最悪であり、財政赤字がGDPの10%に上るという事実の一方で、景気刺激策が必要であることを指摘しています。また、その一方で一時的な景気刺激だけではなく、より長期的に家計が支出を増やすよう戦略的な経済政策が必要だと指摘しています。Washington Postよりはまだ具体的ですが、Wall Street Journalと比較して、経済政策の効果についての評価が甘い上に、経済政策の次元でとどまっているという点では視野が狭いと思います。さらにいえば、他紙と比べてお説教くさいですね。

 さて、どうも邦字紙の報道のソースは下記の部分のようです。

  Yukio Hatoyama, who is expected to be the next prime minister, wants a more equal alliance with the United States. Some of his policy proposals are reasonable, but others are cause for concern. We are eager to hear more details. The United States needs a responsible strategic partner committed to a strengthened alliance.

  One concern: Mr. Hatoyama’s suggestion that Japan not renew the mandate for its ships on a refueling mission in the Indian Ocean in support of United States military operations in Afghanistan. President Obama is implementing a new Afghan strategy. Japan should continue its risk-free mission, at least through next spring.

  One good sign: Mr. Hatoyama’s pledge not to visit the Yasukuni Shrine, a symbol of Japan’s wartime past. Visits by some of his predecessors stirred damaging tensions with China and South Korea.


 文字通り読めば、アメリカ離れを懸念しているというよりは、具体的にどのような政策を実施したいのかを語ってほしいというところでしょうか(まあ、現実的な人物かどうか確認したいというごく自然な欲求も感じますが)。"one concern"は、"risk-free"の補給支援でいいじゃないかという、お節介といえばお節介ですが、現実的な提案でしょう(これ自体は若干、耳が痛いのですが。この程度のことで反対していた政党が与党ですんでね)。NYTは政治プロセスの透明化には触れておらず、この問題に焦点を絞りたかったのかもしれませんが、概ね政権交代に好意的だといってよいでしょう。こちらはなぜか報道されませんが、"one good sign"で靖国参拝を控えることが中韓との緊張を緩和すると主張しています。この問題に関しては、安倍政権が胡錦濤と手を打ったと思うのですが、あまり認識されていないようです。靖国参拝の是非は神学論争、あるいはイデオロギー論争ばかりで興味がありませんので、New York Timesのスタンスは、中韓との緊張を避けてほしいという点がむしろ主ではないかと思います。その裏にあるのは、米中が決定的な対立に入るのを恐れる、アメリカの論調の主流を反映しているのでしょう。日中が対立関係に入ったら、アメリカは日本の方をもたないという論調が主流だと理解した方がよいと思います。もっとも、現状ではそのような可能性は低いと思いますが。

 Wall Street JournalとWashington Post、New York Timesと三紙の社説を読み比べてみましたが(「あらたにす」を真似たわけではありませんよ)、アメリカのマスメディアは全体として二大政党制が定着しているアメリカでは今回の政権交代を肯定的に評価しているとみてよいと思います。朝から疲れましたのでEconomist誌の"Banzai!"は省きますが、惨敗した自民党の再起を期す記事もあり、米メディアの主要な関心は、一部、邦字紙が伝えているような、単に「アメリカ離れ」への懸念ではなく、英米がそうであるように日本で二大政党制と政権交代が定着するのかどうかという点だということは抑えておいた方がよいと思います。また、政治的意思決定の透明化に対する期待も高いことも忘れるべきではないでしょう。この点で、繰り返しになりますが、国家戦略局は官邸と内閣の連携をむしろ弱めてしまう可能性もあり、安倍政権の失敗を踏まえて考え直した方がよいと思います。

 第2に、中国の国際経済における比重の高まりにもかかわらず(あるいはそれに対する警戒心の裏返しの可能性もありますが)、日本経済の再生への期待が強いことです。日本では成長戦略の議論が行われていますが、重点的に成長分野に政府が直接、関与することが容認されかねない議論が多いことに懸念をもちます。具体的な方策としては弱いのですが、Wall Street Journalが指摘している"creating the kind of risk-taking environment Japan needs"というすぐには効果がでないでしょうが、長期的に生産性を高め、利潤機会を増やす政策が好ましいと思います。逆に、派遣労働の規制強化や最低賃金の引き上げなどは成長率が低下している状態では痛み止めとして効果すら期待することは難しいでしょう。外国人労働者と日本人労働者の労働市場における競争を抑制するのがやっとではないかと思います。

 第3に、鳩山氏のオピニオン(ぶら下がりでは鳩山氏が寄稿したということではないようですが)への反発は、Washington Postに限られており、Wall Street Journalなどは、読み方によってはより辛辣ですが、極東のパワーバランスに日本が適応する現実的な外交・安全保障政策を明確に打ち出してほしいというのが率直なところではないでしょうか。日米安全保障体制の綻びは、既に1990年代の自社さ政権から目立っており、ナイ・イニシアチブで通商摩擦とあわせて一応の解決を見ました。しかし、その後も普天間飛行場の移設問題が象徴するように自民党中心の連立政権は国内における説得で成果を十分におさめすに現在に至っています。現時点で必要なのは、日米関係重視というお題目ではなく、極東において日本がどのような安全保障環境を望み、それを実現するためにどのような資源をどれだけ準備し、どのように活用するのかという本来の意味での政策でしょう。日本政府が明確な政策を明示せず、アメリカに言われてしかたなくとりかかり、結局、中途半端な状態で放置されるという事態を民主党政権が避けられない場合、日米安全保障体制は形骸化し、アメリカの対中傾斜へ拍車をかけるだけでしょう。

 最後に、安全保障政策でいわゆる「右派」の政策を「左派」とみなされている政権で実現するのが望ましいという見解もあります。確かに、今回の政権交代はその好機となる可能性もありますが、現状では小泉政権でも抜けなかった日米関係の刺を抜くのが第一だと思います。集団的自衛権の問題を優先すれば、あとは細かい刺ですので、一気にこの問題を解決するというのが奇策のように見えるかもしれませんが、手順としては最も速いでしょう(もっと乱暴な方法はそもそも自衛権があるのは自明であるのだから、この行為は個別的自衛権の問題、あの問題は集団的自衛権の問題などと一々、内閣法制局に言わせないことでしょう)。要は、日米安全保障体制から日米同盟にしてしまうということです。他方、内外政ともに政治的意思決定過程が機能しなければ、なにもできません。国家戦略局の構想は首相官邸の内閣における意思疎通を妨げるリスクが高く、その機能ならば内閣官房が既に存在するわけですから、後は運用の問題です。意思決定の混乱なら収拾がつきますが、麻痺となると、既に予見されている危機、予測不可能な危機への対応ができないでしょう。その場合、私自身はマニフェストを読んだ段階で投票する気がしなかったので他人事のようなところもありますが、民主党に投票した人たちがどの程度、政治の機能麻痺に耐えられるかによって、より長期的な政治システムの安定性が確保できるのかが決まるのでしょう。戦前の政党政治を見ても、党派間対立に歯止めをかけるしかけができなかったことを考えると、非常に難しいだろうと思います。
この記事へのコメント
英語力が中学生レベルの自分にはありがたい翻訳です(笑い
「政権交代したからってそんなに無茶はしないだろう」と、常識的に考えている海外メディアの思惑通りに進むのか否か。

もしも今回で何も変わらず、寧ろ悪い方向に行ったならば、国民の政治に対する不信(というか絶望)が危険水域まで行くのでしょうかねぇ。

今後日本の政治が超えなければいけないステップとしては、
1.確実に出るであろう鳩山内閣(与党民主党)の汚職・癒着・ポカミスに対し、国民はそれを乗り越えてでも改革を望むか
2.解党的出直しを自民党が行い、若手の総裁を選出し、民主党との対立軸を明確化する。また次の参院選挙で候補者の若返りを行う
3.「暮らし」を豊かにする自民党vs「暮らし」を守る民主党、で二大政党制の対立軸を明確化し、場合場合に応じて国民がどちらかの政党を選ぶ国を作る
といったところでしょうか。(寧ろそれなんて米共和党vs米民主党

靖国神社だの過去の歴史認識だのという「暮らし」とは関係ない神学論争はゴミ箱に投げ捨てて、マクロで「暮らし」に含まれる外交(FTA・安全保障)・国防(集団的自衛権・PKO)を論じてほしいものです。
Posted by ぬ at 2009年09月03日 02:03
>ぬ様

米紙で紹介されていた"A New Path for Japan"があったおかげで米紙の社説もやや混乱気味であったことは認識不足でした。アメリカ人の感覚からすれば、政権交代が可能な二大政党制が実現すること自体は歓迎するというのは向こうの感覚でしょう。「政権交代したからってそんなに無茶はしないだろう」のがアメリカのメディアでは普通の感覚だというのはご指摘の通りだと思います。他方、民主党のマニフェストにも「政策INDEX2009」にもない普天間飛行場の再交渉などが問題になる経緯がわからず、民主党政権の意思決定プロセスは自民党よりもはるかに不透明な印象もあります。私自身は、マニフェストを読んだ段階で、民主党政権への期待値がマイナス(災厄が起きなければサプライズだというぐらい厳しい評価です)だと評価しておりましたので、かなりバイアスがかかっていることをお断りします。

「もしも今回で何も変わらず、寧ろ悪い方向に行ったならば、国民の政治に対する不信(というか絶望)が危険水域まで行くのでしょうかねぇ」。

→その可能性は皆無ではないと思います。ただ、有権者の側もかなりの層で自制が効かなくなっており、自民・民主を問わず、政権に短期的な成果を求める層が無党派層から政治的無関心層になるのでしょう。

「1.確実に出るであろう鳩山内閣(与党民主党)の汚職・癒着・ポカミスに対し、国民はそれを乗り越えてでも改革を望むか」

→最も深刻な問題は、今回の民主党のマニフェストで掲げられている、「鳩山政権の政権構想」の5原則でしょう。とりわけ筆頭に掲げられている「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ。」というところでしょう。自公連立政権が果たして「官僚丸投げの政治」であったのかは疑問であり、それに代わる政治というのはまるでイメージができません。鳩山政権で懸念すべきは、「政治とカネ」の問題以上に、問題点も多い行政府内の統治機構を破壊してしまうだけで新しい統治機構の構想があまりに不明瞭な点です。「政権構想」の5策に掲げられている「官邸機能を強化し、総理直属の『国家戦略局』を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」などは内閣機能の強化と整合性をどのように保つのかが不明で、最悪の場合、行政府における意思決定の麻痺を招くリスクが高いと思います。「官邸主導」というお題目には異論はないのですが、「国家戦略局」と国務大臣の権能との関係があまりに不明瞭でおそらくよほど注意深く設計しないと、政治的意思決定過程が混乱するだけでしょう。民主党政権が失敗するとしたら、「ポカミス」ではなく、そもそもの政権構想に重大な欠陥があり、それが露呈する(現象面ではバラバラに見えるでしょうが)ことだと思います。

「2.解党的出直しを自民党が行い、若手の総裁を選出し、民主党との対立軸を明確化する。また次の参院選挙で候補者の若返りを行う」

→これは実は自民党だけの問題ではないと思いますが、小選挙区比例代表制に移行してから、若手議員を育てるシステムが急激に劣化した印象があります。政治で最も劣悪な施策の一つは制度、あるいはシステムが劣悪だから変えるということだと思います。制度やシステムの担い手を十年単位で育てる努力を自民・民主ともに行えない場合、二大政党制ではなく、二大弱小政党、露骨にいえば、自民党の「民主党化」が進むでしょう。今回の選挙で有権者は、政権をとっかえひっかえする程度の人が大半だということが明らかになったと思います。人材育成を長期で行うというのには最悪の環境といってよいでしょう。

「3.『暮らし』を豊かにする自民党vs『暮らし』を守る民主党、で二大政党制の対立軸を明確化し、場合場合に応じて国民がどちらかの政党を選ぶ国を作るといったところでしょうか」

→自民党寄りの私からすれば、民主党のマニフェストは実現可能性からすると、ほぼ絶望的だと思います。各種世論調査を見て唖然としましたが、民主党の政策への期待値が低いのにもかかわらず、民主党に投票するというのは、統治が麻痺する地獄への道を開いたといってよいでしょう。そのような投票行動をした人たちだけが災厄を被るのなら、我慢もできますが、自制した者にも等しく災厄は襲うのでしょう。政策で投票しない国民に二大政党の「対立軸」を政党側に提示すること自体、無理を感じます。おそらく、十年ぐらい、途中で再度の政権交代もあるのでしょうが、苦痛の時代が続くだろうと覚悟しております。対立軸ができる前提は、外交や安全保障など日本を取り巻く環境を考えれば選択肢がほとんどない問題に関して与野党間でコンセンサスがあることが前提です。共通の基盤があってはじめて政党間の単なる政治的主張ではなく、政策における対立軸が生じると思います。政治評論家の対立軸に関する議論は政治理念に偏っており、もともと理念政党が育ちにくい日本の政治風土にアメリカ風の議論を持ち込んでいるので、空回りしている印象があります。おそらく、十年ぐらい泥沼の権力闘争の後に、現実政治では論点そのものに選択の自由はなく、より国民にとってダメージが少ない政策はなにかというところまで成熟しなければ対立軸など主張のレベルでとどまるでしょう。問題は、十年の混乱をへても解が見いだせない可能性が高いことだと思います。

最後の点は同感です。
Posted by Hache at 2009年09月04日 23:07
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