2009年09月21日

ワシントン−モスクワ バザール商人 ウラジミール・プーチン

 オバマ大統領の演説にJoe Wilson下院議員が"You lie!"と野次を飛ばしたのにはひきました。しっかし、外野から"Racism!"とカーター元大統領が火事場にガソリンを注いで激萎えですなあ(頭の悪い味方は始末に負えない)。結局、オバマがそういう問題じゃないと引き取って収めたわけですが、これはなんとも損な役回り。分断された、殺伐とした雰囲気を感じます。

 中東と言いますと、イメージとしては、脳内妄想平和主義の日本人はお断りだよ(カネはよろしく)、こちらはリアルドンパチなんて怖くないからというところですが、さすがにイランの核武装はおっかないです。オバマも窮したかと思いきや、Wasington Postが2009年9月18日付でMichael D. Shear and Ann Scott Tysonの"Obama Shifts Focus Of Missile Shield"という記事を配信していて、ちょっと驚きました。2006年にブッシュ政権が推進していたポーランドとチェコでの地上配備型MDを2011年までに地中海東部にイージス艦に配備したSM-3で置き換えるとのことで、第2段階は2015年までに地上配備型SM-3の展開、第3段階は2018年までにはICBMにも対応とのこと。ブッシュ政権が予定していた陸上配備型MDよりも費用対効果がよいとか枕詞はありますが、サブタイトルにもあるようにイランを睨んでの話であるのは明白です。いかれた「外道」からすれば、核開発してもドンドン無効化するよという意外とお気に入りの発想ですが、微妙なのはこれだけですと、イランが核開発を実施することが前提になってしまうあたりでしょうか。このあたりが神経戦の「主戦場」ですが、それは後回しにします。

 記事ではイランの100発前後の短距離ミサイルに対抗しうる戦力が必要とのことで、ICBMよりもイランのミサイル、そして核武装に対抗する戦力を優先する方針のようです。ゲーツ国防長官の発言は、イランのShahab-3などの短距離および中距離弾道ミサイルの脅威がブッシュ政権下での計画よりもより差し迫った問題だと指摘しています。Shahab-3の射程距離が約1,280kmとされているので(参照)、東欧にとっての差し迫った脅威というのはレトリックでしょうが、地中海東部に目をつけたのは興味深いです。この海域ならば米海軍が政治的な摩擦も少なく、ほぼ安全に展開できるでしょうから、現実的ではあります。もっとも、マケインまでこの問題では東欧の安全を見捨てるものだと反対していて、ブッシュ後も党派間対立の収拾ができないオバマ政権の現状をよく表しています。イランがICBMを既にもっている、あるいは公開されたオバマ政権のMD配備よりもイランのICBMの開発が進んだ場合は的外れとは断言できない部分はありますが。

 この記事は、今回の東欧におけるMD配備計画の変更は、ロシアの反発を抑えるだけではなく、イランの核開発でロシアがアメリカと協調することを促すものだと指摘しています。ロシア外務省報道官のAndrei Nesterenkoは"So far, I can say that a possible review of the U.S. position on missile defense would be a positive signal"と発言したとされており、この記事では概ね好意的な反応だとされています。わざわざ裏取引はないと断りをいれるあたりがお茶目で、いつもはやっているんでしょうねとツッコミをいれたくなるところですが。


 ここで、モスクワがこれで歓迎するほどナイーブですかねと続報を待っていたら、こちらもRSSリーダーでタイトルから拾ったのですが、New York Timesが"Russia Says It Won’t Deploy Missiles Near Poland"というAP電の記事を配信していました。クレムリンはアフマディネジャドイラン大統領のホロコースト否定発言を非難したものの(このアフマディネジャドの発言は本当にゾッとしますが)、オバマ政権の変化にイランでの協調路線へ転じるかは不透明だと伝えています。まず、東欧MD配備計画の変更が実施されれば、カリーニングラード地域にイスカンダルミサイルを配備する計画をよりやめるだろうと伝えています。このあたりは妥当な「見返り」でしょう。ここから、さらに進んでアメリカと協調してイランへの圧力となると、メドヴェージェフの賛辞やアフマディネジャドのホロコースト否定発言への批判などにもかかわらず、はっきりしないようです。

 ロシアはイランの核開発(ウラン濃縮)に強い影響力を行使しうる能力をもっているとこの記事では描写されています。簡潔ですが、次の部分はわかりやすいでしょう。

  Officials from the United States, Britain, France, Russia, China and Germany are to meet Iranian diplomats in Turkey on Oct.1, for the first time since a 2008 session in Geneva foundered over Iran's refusal to discuss its uranium enrichment program.

  Russia, which has close commercial ties with Iran and is building its first nuclear power plant, has condemned similar Ahmadinejad's statements in the past. Saturday's statement didn't necessarily mean that Moscow was prepared to toughen its stance on Iran in response to Obama's move to scrap the missile defense plan.

  The U.S., Israel and the EU fear that Iran is using its nuclear program to develop weapons. But Tehran says the program serves purely civilian purposes.


 イランのウラン濃縮計画に関する米英仏ロ中独の会合がトルコで行われる10月1日がタイムリミットであることやロシアがイランへ最初に原発を建設し強い結びつきをもっていること、モスクワの声明がかならずしもイランにより圧力をかけることを意味しないことなどが述べられています。テヘランの核利用は民生用だという主張は、まあ単純な嘘でしょう。

 では、ロシアがイランへより強硬な、あるいはより実際的な影響力をおよぼす気がないのかといえば、プーチン露首相は次のように語っていると指摘しています。

  Medvedev's predecessor and mentor, Vladimir Putin, who is widely believed to be continuing to call the shots as Russia's prime minister, has praised Obama's decision but challenged the U.S. to do more by canceling Cold War-era restrictions on trade with Russia and facilitating Moscow's entry into the World Trade Organization.


 冷戦期の通商制限を撤廃し、WTO加盟を推進するというのが条件とのことですが、これで済むのかはわかりません。他方、このあまりに赤裸々な、アメリカの足元を見たプーチンの冷徹な条件をオバマがのみ、アメリカ国内で説得できるのか、この条件ですら、難しかもしれません。手詰まりの局面を打開すべく、オバマは勝負手を放ちましたが、しみじみアメリカの選択肢は中東では限られていることを実感します。それにつけても、プーチンは冷徹なことよ。
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