2009年10月09日

幻に終わった外国為替資金特別会計を利用した米政府系金融機関の救済

 『毎日』が2009年10月6日に配信した「外貨準備:政府が米金融2社救済案 08年8月に支援検討」という記事がネットで話題になっているようです。某巨大掲示板ではこれが福田首相(当時)の辞任の背後にあったという思い込みの下で憶測がとびかっています。私自身は、この種の深読みは苦手です。他方、米紙の配信するアフガニスタン情勢やオバマ政権の意思決定の混迷、パキスタンの不安定化などはるかに憂鬱な話よりも、表現は悪いのですが、お手軽な部分もあるので雑感だけでも書いておきます。

 ふと思い出したのは、まずはいわゆる「埋蔵金」論争でした。率直なところ、高橋洋一氏の著書を一冊も読んだことがないので、この論争自体への当時の関心が低かったことを告白せざるをませんが。本当に「埋蔵金」が存在するのなら、政府債務と相殺するのが筋であって、これを他の使途に活用するというのはつい鼻で笑ってしまいます。『毎日』の記事で話題にならないのが不思議ですが、記事の末尾にある外貨準備の説明です。邦字紙はネットに記事が短期間しか残らないので「時の最果て」ではあまり取り上げる気がしませんが、話題になっている本文よりも、こちらの方が関心をもてます。

【ことば】外貨準備

 為替介入に備えて通貨当局が保有する外貨や金。資金は国債の一種「政府短期証券」を発行して調達しているため、運用損や為替差損が出れば税金で穴埋めする必要がある。日本の外貨準備残高は8月末で1兆423億ドル(約93.5兆円)で、円高により6月末時点で20兆円規模の為替差損がある。日本の外貨準備は87年に西ドイツ(当時)を抜いて世界一になったが、06年に中国に抜かれた。


 この記事で述べられているように、2009年6月末で20兆円程度の為替差損が生じているとしますと、ただちにかどうか、私の理解力を超えますが、2009年6月末のドル円相場はだいたい1ドル96円程度でしたから、現在のように1ドル90円を割る水準では為替差損が拡大しているのでしょう。「埋蔵金」どころか隠れ借金状態ですよというシグナルすら読み取れます。

 なお、財務省HPの「財務省所管 特別会計に関する情報開示」から外国為替資金特別会計の項目では(参照)、概要が示されています。外国為替金特別会計の歳入は3兆4,197億7,600万円、歳出は1兆6,431億6,300万円です。外国為替資金特別会計の目的は、下記の通りです。

 
外国為替資金特別会計は、本邦通貨の外国為替相場の安定を実現するため、政府が実施する外国為替等の売買(為替介入等)等の円滑化に資するため設けられています。


 このあたりは外国為替に疎いので誤解している可能性がありますが、「政府が実施する外国為替等の売買(為替介入)」(下線:引用者)とあるとあることから、為替介入が行われていなくても、外国為替の売買が実施されているとも読めるのでしょう。さらに、外国為替資金特別会計の歳入と歳出の差額は下記のように処理されるとのことです。 

 これら外国為替資金の運営から生じる収入(外貨の利子収入等)・支出(政府短期証券(為券)利払等)については、外国為替資金特別会計の歳入・歳出にて経理されます。また、歳入と歳出の差額である毎年度の利益(決算上剰余金)については、積立金として積み立てる金額を除き、一般会計への繰入れの対象となります。


 平成21年度の予算であれば、歳入と歳出の差は1兆7,766億1,300万円に上ります。決して小さな金額ではありませんが、『毎日』の記事が指摘している外貨準備における為替差損が20兆円の赤字は円安にならない限り、解消しないでしょう。この赤字を年度ごとに処理するのか、また外国為替資金特別会計の決算上剰余金が充当されるのかは不明ですが、為替相場の変動によって運用結果が大きく左右されるという点ではリスクの高い運用をしているようにも見えます。ここでは明確には触れられていませんが、運用による決算剰余金は一般会計への繰入金の対象となるとありますが、対照的に積立金を上回る損失が生じた場合、逆に一般会計からの繰り入れが行われることがあるのかはわかりません。「埋蔵金」論争を知らないので、この積立金が「埋蔵金」に相当すると主張されていたのかは不明ですが、財務省の資料を読む限り、外国為替資金特別会計においては仮に積立金が存在しても、運用の原資となると同時に、損失が発生した場合、極力、一般会計へ負担が生じないためのしくみであるようにも読めます。下記では平成18年(2006年)に以前の特別会計の枠内で改革が進んだという記述がありますが、残念ながらリスク資金の取り扱いについては明確には触れられていないので、私の想像の域を出ないのですが。

 「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年6月2日施行)第39条において、「外国為替資金特別会計において経理される事務については、その執行に要する費用の節減その他の合理化及び効率化を図るものとする。」「外国為替資金特別会計法(昭和26年法律第56号)第13条の規定による一般会計の歳入への繰入れについては、同条に規定する残余のうち相当と認められる金額を繰り入れる措置を講ずるものとする。」とされています。


 いわゆる「埋蔵金」と並んで、「日本版SWF構想」という与太話議論もありましたが、今となってはバカバカしい限りです。この件に関してはこちらの「寝言」でごく表面的にバカにしましたが、いまだにある種のリスクを内包している資金でさらに博打をするという感覚が信じられません。さらに、信じがたいことは、政権交代以前から単に決算剰余金があり、積立金があるというだけでなにか財政余剰が生じているかのような幻想があり、万が一のために備えているとはいえ、財政資金のリスクを減らす方向での改革が十分に検討された痕跡があまりにないことです。

 小泉政権下では特別会計の改革がある程度、進んだようですが、財務省管轄下はともかく、他の省庁などはどこまで進んでいるのか、ウェブで公開すらされていないようです。民主党その他連立政権は特別会計を含む総予算の見直しをなさるそうですが、各種積立金を単に財源としてだけではなく、各種リスクや非効率を減少させるようにセットで改革を行わないと、場合によっては一般会計から特別会計への補てんを行う事態も生じうるのでしょう。まったくバカげた話だと思いますが。


 財政のことはさっぱりの人が書いた「寝言」ですが、ふと思い出すのがドッジラインです。適当な記憶で書いておりますが、確か総予算の均衡という原則が反映したのが1949年度予算からだったと思います。見方によっては乱暴な政策ですが、復興金融公庫という、いわば裏口から公的部門から民間部門へ無暗に資金が流れていたのを絶つためには占領軍という強力な権力を背景にした改革が不可欠だったのでしょう。このことは、財政改革には絶対的な権力かよほど強固なコンセンサスが不可欠なことを示唆していると思います。

 『毎日』の記事からずいぶんと離れてしまいましたが、この問題では単に日米間の特殊な関係としてのみ割り切れないことが多いように思います。端的に表現すれば、戦後、急速にお金を稼ぐ能力を身につけた島国が稼いだお金をどのように活用するのかという方向へ転換することに1980年代から七転八倒し、今日に至っても解決しないまま、国際経済の急激な変化に直面しているというところでしょうか。たまに見る日本語の雑誌では民主党その他連立政権は財務省主導とか書かれていますが、財務官僚が優秀であることを否定するつもりはありませんが、消費税導入のプロセスを考えても、やはり政治的リーダーシップを役所が代替することは困難でしょう。過去の自民党政権、あるいは自民党を中心とする政権でも、肝心の部分では政治家が肚をくくって重大な決断が行われてきました。いまさら、「政治主導」というスローガン自体が既に時代錯誤の印象すらあります。

 それにしても内需拡大のために円高ですか……。政権が交代しても、天然資源や原材料を海外へ依存せざるをえない状態が変わるとも思えず、戦前のように関税収入で入超を和らげることもできない時代になんともはや。うっかり長生きすると大変ですな。昔は裕福な国だったんだけどねえと愚痴をこぼす老いた自分が思い浮かび、とりあえず目先に仕事に専念するしかないなあと諦念しますね。

(追記)

 この記事を読んだ素朴な感想を書き忘れておりました。『毎日』の記事が信用できるならば、少なくともこの時期まではアメリカも本当に困ったときには日本に相談するという関係だったんだなあと。たぶん、これが最後でしょう。"G-2"が基軸となるのは日本人としては複雑な心境ですが、アメリカの対中傾斜に少なくとも経済のレベルで歯止めをかけるのはもはや不可能かつ不可逆な時代なのでしょう。
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