2009年11月06日

経済活動別国内総生産の推移が物語る戦後日本経済の来歴と行方(続き)

 今回の「寝言」が900回目になります。正直なところ、あまり感慨めいたものもなく、自分でも、よくもまあ、「寝言」をこんなにたくさん呟けるものだと苦笑します。コメントに触発されて、前回、書ききれなかったことがいろいろと頭に浮かびましたので、記しておきます。

(お断り:経済統計はあくまで概数ですから「約○○○○億円」と表記しておりましたが、冗長になりますので以下では約を省略しております。為替レートが関連してくる場合など例外もありますが。)

 経済活動別国内総生産の産業分類は日本標準産業分類の大分類よりもかなり粗くなっておりますので、コンビニエンスストア業界の伸びなど個々の業種・業界の動向があまり反映しないという憾みはあります。また、付加価値ベースですので、売上から見た感覚とも異なってくると思います。売上(粗生産)から見ると、製造業は40%近くになります。売上で見ますと、製造業のように、他の企業・産業から原材料や部品を仕入れて加工する産業の比率が高くなりますが、二重計算が避けられませんので、付加価値ベースで見ております。通常は、産業の市場規模という場合、売上高の集計ですので、ちょっと特殊な表ではあります。

 小売業は景気の波をよく反映します。1998年には-5.6%と大幅に減少しています。もっとも、アジア通貨危機を受けたこの年には10%以上、付加価値(概ね企業の粗利益に相当します)の減少を経験した産業が製造業を中心にあります。繊維、鉄鋼・非鉄、家具などの産業です。小売業にはコンビニエンスストア以外の総合スーパー(売上で見ますと、郊外型以外の「主婦の店」タイプが意外と比率が高いようです)や百貨店などが含まれますので、仮にコンビニが伸びていても、他の業態の不振ですと、小売業全体では付加価値が減少することがあります。なお、2007年の場合、小売業の付加価値が23兆5,819億円ですが、卸売業の付加価値は45兆3,745億円と倍近い規模になります。実質ですので加工が入ったデータですし、あくまで目安程度ですが、私自身も生活の実感から遠い数字でもあり、たまにはこういう表も作ってみるものだと思います。

 建設業をあえてとり上げたのは、産業自体の規模がかつて大きかったことがやはり第1の理由です。また、今日では景気対策の手段としても、地域間格差の是正の手段としても生産面からは建設業、需要面からは公的固定資本形成に分類される公共事業ではもはやかつてほどの効果は見込めなくなっているという現実を見た方がよいだろうという点です。付加価値ベースではしきりに補正予算が組まれた1990年代ですら、1993年以外は前年比でマイナスです。再度、プラスに転じるのは小泉政権下で景気回復が鮮明になった2004年だけです。あえて、挑発的な表現をすれば、建設業はあくまで民間の事業者であり、公共事業の受益者というよりも、経済成長の受益者なのです。高度経済成長期に建設業が実額で見ても国内総生産に占める割合でも増加していることと逆のことがこの20年近くに生じたと考えた方がよいのでしょう。他方、付加価値で見ますと、2007年でも31兆3,930億円と小売業をはるかに上回る規模です。この産業が縮小傾向を続ければ、とりわけ地方における雇用にも影響が大きいでしょう。したがって、単純に公共投資がムダなのだからやめなさいというのはやはり乱暴な印象もあります。ただし、ここでは公共投資の費用・便益などは無視した、付加価値だけでのみ議論に終始しておりますので、政策を評価するには不十分な根拠しかありません。やや筆が走りすぎておりますように私自身が感じますので、あくまで「寝言」として読み流して頂ければ、幸いです。

表1 日米の実質国内総生産の推移


                                 (日本:10億円 米国:10億ドル)

    1955年 1970年 1980年 1990年  2005年

日本 8,369.5 73,344.9 240,175.9 430,039.8 468,062.3

米国 414.8 1038.5 2789.5 5803.1 12,422

(円換算)
米国 149,328.0 373,860.0 631.682.3 840,753.1 1,369,028.6
円相場 360 360 226.45 144.88 110.21


表2 日米製造業の付加価値額の推移(実質)


                          (日本:10億円 米国:10億ドル)

1955年 1970年 1980年 1990年 2005年

日本 2,381.0 26,402.3 70,232.3 102,619.2 125,108.5

米国 115 235.5 556.6 947.4 1480.6

(円換算)
米国 41,400.0 84,780.0 126,042.1 137,259.3 163,176.9
円相場 360 360 226.45 144.88 110.21


表3 日米製造業の付加価値が実質国内総生産に占める割合


         1955年    1970年    1980年     1990年     2005年

日本 12.8% 24.6% 25.9% 23.4% 23.1%

米国 27.2% 22.7% 20.0% 16.3% 11.9%


(出所) 日本:『新版 日本長期統計総覧』第1巻、『国民経済計算確報 平成19年度版』
米国:商務省経済分析局HP

 やはり気になるのは製造業の動向でしょうか。2007年は実質で130兆円を超える産業が衰退傾向(大企業は海外生産比率を高めて生き残るだろうと思いますが)にはいったときに、経済規模(GDP)だけではなく雇用や税収など広範に影響がおよぶでしょう。アメリカの実質国内総生産のデータは商務省経済分析局(BEA: Bureau of Economic Analysis)の推計によると2007年にはアメリカの製造業が国内総生産に占める割合が11.7%にまで低下しています(参照)。1980年にはアメリカの実質国内総生産に製造業の占める割合は20%であり、この年以降、国内総生産に占める割合が20%を超えていた年はありません。ただし、アメリカの場合、実質で見ますと、1980年のアメリカの製造業の付加価値は5,566億ドルであり、2007年には1兆6,168億ドルまで成長しました。実質GDPの金額が1980年の2兆7,895億ドルから2007年の12兆8,080億ドルと5倍近くまで成長していますから、アメリカで製造業の地位が低下したといっても、製造業の付加価値の伸び率が生産全体の伸びにくらべて低かった結果にすぎない側面もあります。

 他方、日本の製造業の規模との比較は為替レートの問題がありますから比較が困難ですが、1980年の日本の製造業の付加価値が実質ベースで70兆2,323円です。『平成21年度版 経済財政白書』の長期経済統計から円ドル相場のデータ(『白書』の注には「円相場は、インターバンク直物中心レート(但し、70年までは固定レート360円/ドルとした)。03 年以降は、月次計数の単純平均、02年以前は営業日平均」とあります)を参照しますと、1980年のレートは1ドル=226.45円ですので、1980年におけるアメリカの製造の付加価値は日本円で約126兆421億円に上ります。貿易摩擦が本格化する1980年代の初めの年でも、付加価値ベースで比較しますと、アメリカの製造業は日本と比較すればはるかに巨大だったといえるのでしょう。ただし、同じ為替レートを用いてアメリカの実質国内総生産を評価しますと、約631兆6823億円になります。同年の日本の実質国内総生産が240兆1,759億円ですから、両国の経済規模の差と比較して相対的に製造業の差は小さいことになります。ただし、この数字はあくまで参照程度にしかなりません。まず、名目値をデフレートした実質値であり、さらに為替レートも実勢相場がよりよい近似を与えるのか、購買力平価がよりよいのか、あるいは貿易財のみで評価するのがよいのかなども見解がわかれるところでしょう。くどいようですが、円換算したアメリカの実質国内総生産や製造業の付加価値額は、実質値を計算する段階と為替レートでバイアスがかかったり、無視できない誤差が生じる可能性が高いので、ごく大雑把に比較するための目安程度に見てください。

 表1を見ますと、あらためてアメリカの経済規模の大きさを実感します。最も日米の差が縮まったのが1990年前後でしょうが、1990年で日本の実質国内総生産は430兆398億円、アメリカの実質国内総生産は5兆8,031億ドル(1ドル=144.88円で評価すると840兆7,531億円)です。当時の人口データがないので本当に大雑把な話ですが、当時のドル円相場で評価しますと、日本のGDPがアメリカの2分の1以上になった時期です。為替レートに翻弄された感もありますが、1990年代は真剣にアメリカでは日本脅威論が盛んになった結果、「ジャパン・バッシング」が生じました。2005年のデータを見ますと、日本の実質国内総生産は468兆623億円に対し、アメリカは12兆422億ドル(1ドル=110.21円で評価すると約1,369兆28.6円)にも上ります。1990年から2005年までの15年間で、日本の低成長に対し、アメリカの経済規模は2倍以上に成長したのでした。「ジャパン・バッシング」自体は経済からのみ説明できる問題ではなく、むしろ、ソ連崩壊後のアメリカの標的として日本が狙われ、口実、あるいは因縁として国内総生産などの経済規模や対日貿易赤字などが利用されたのが実態なのでしょう。1990年から2005年の日本経済が縮小したわけではありませんが、「ジャパン・バッシング」が終わり、小泉政権下でブッシュ政権との特殊な関係の時期には既にアメリカの経済規模は概ね日本の3倍近くの規模に達していました。

 もっとも、高度経済成長期の起点を1955年とみなしますと、当時の日本の実質国内総生産が8兆3,695億円であったのに対し、アメリカの実質国内総生産は4,148億ドルでした。当時の為替レート(1ドル=360円)でアメリカの実質国内総生産を円換算しますと、約149兆3,280億円、当時の日本の実質国内総生産の実に約18倍にのぼります。経済の面からみれば、確かに日本の戦後は夢物語のような成功物語だったのでしょう。それが、旧ソ連という仮想敵国が崩壊した後に、警戒すべき国の筆頭はアメリカの識者に映ったことは容易に想像できます。成功したが故の問題に1990年代は内外ともに苦しんだ時期とも言えましょう。

 その象徴となるのがやはり製造業です。同じく、あくまで目安にすぎませんが、1955年における日本の製造業の付加価値は2兆3,810億円でした。当時のアメリカ製造業の付加価値が1150億ドル、円換算で約41兆4000億円(日本の約17.4倍)であったことを考えますと、1955年当時は日本の製造業はアメリカと比して実に矮小な存在でしかなかったことを実感します。それが2007年には1955年と比して約52.5倍、実質国内総生産が約56倍になったの比して、長期時系列データで見ますと、成長率よりも若干、低いとはいえ、アメリカの製造業の付加価値額が日本のそれと比して約1.3倍程度までに近づいたのでした。経済規模と比して、日本国内の製造業の規模ははるかに大きいとみなしてよいのでしょう。付加価値から見た場合、決してアメリカの製造業は「衰退」したわけではありません。1955年から2005年の50年間で4倍前後に成長しています。それを上回る成長を日本の製造業が達成したからであり、アメリカの経済的地位の低下は、かならずしも絶対的な水準から生じているのではなく、戦後のアメリカ以外の西側諸国が復興・成長を遂げた相対的な結果であったことに注意が必要です。産業の付加価値における構成のみで議論はできないのですが、製造業の比率を考えれば、現在の日本の製造業はアメリカのオイルショック以前の水準です。

 今後、乗用車に代表される機械製造業の海外生産がいっそう進めば、日本経済もアメリカ経済と同じく、製造業が雇用や付加価値に占める比重がさらに低下するでしょう。他方、天然資源に乏しい島国が果たして「外需依存」から「内需主導」へと転換できるのか、私自身は疑問に思います。素朴ですが、仮に第三次産業の比率が雇用に留まらず、付加価値において比重が増したとしても、天然資源は海外に依存している状況には変わりなく、輸出すべき製品が失われれば、輸入を賄うために必要な外貨を獲得することが困難になるでしょう。素朴すぎる発想かもしれませんが、内需、あるいは医療や介護に象徴されるサービス業を中心とした産業構造への転換は、おそらく生活水準の大幅な低下とともに進む苦痛な過程となると思います。

 今日では、かつて「先進諸国」と呼ばれた国だけではなく、中国やインド、ブラジルなども高成長を遂げつつあり、経済においては「多極化」が進行しています。1980年代から1990年代に日本は経済大国になったと言われましたが、現在では国際経済に占める比重は過去20年間と比して低下傾向にあるといってよいのでしょう。このことを過度に悲観する必要もないと思います。わが国が島国であり、経済の面でも政治の面でも「海洋国家」であること、戦後に蓄積された物質的な意味での富と各種のノウハウなどの無形の富など活用可能な資源がまだ多く残っていることを忘れるべきではないのでしょう。必要なことは、私たちが60年以上、あるいは戦前も含めれば何百年とかけて蓄積してきた有形・無形を問わない資産をいかに活用するのかという知恵だと考えます。


 最近は、「なまもの」には興味がわかないです。オバマがいまだにアフガンに関して決断を下さいないのが予想外でした。難しい問題ではありますが、迷うほどの選択肢があるのだろうかと。強いていえば、州知事選でニューハンプシャーとヴァージニアで両州とも共和党候補が勝利したことが米紙の報道では大きく扱われていたことが目を引く程度でしょうか。こんな「寝言」を書いたときと比較すると、はるかに内政におけるオバマ政権の混迷は複雑ですが、これは大変だなと。単にメニューを並べすぎただけではなく、個々の政策が市場を代替する傾向が強くて、無理が多い印象です。国内に関しては、無能だろうなと思っておりましたが、実際に政権交代が実現してやっぱり無能なんだなという程度です。まあ、こんな戯れ歌を声を出して唄うので、周りがドン引きしておりますが。

ぽっぽっぽ 鳩ぽっぽ
金がないのか ほらあるぞ
死人の名前を 書いておけ

ぽっぽっぽ 鳩ぽっぽ
椅子が心地よいか 座ったら
さっさと宇宙へ飛んでゆけ


 さて、大雑把というより粗雑なデータで戦後の日本経済を主として生産、あるいは産業の側面から眺めてきました。GDPの限界を指摘する話は私が中高生だったころからありました。他方で、経済活動をよりよく反映する統計のあり方というのは存在しないのが現状です。「幸福度」という数値化が困難な要素を無理に反映させようという新しい手法よりも既存の手法で不備があるなりに活用してみようというのが私の好みです(そもそも幸福度という主観に属する問題を公的部門が定義し、さらに比較可能な数値として表すことに抵抗を覚えます。GDPならば金額ベースですから、数値が2倍なら規模が2倍と考えるのは差し支えないのですが、幸福度を数値化した値が2倍だからといって人々の幸せが2倍になるのでしょうか)。また、GDPは付加価値で経済活動の状況を描写するのであって、GDP成長率が幸せをもたらすか否かというのは経済問題というよりも、もっと広い文脈で捉えるべき問題だとも感じます。物質的な富が精神的な幸福をもたらすのか、いかなる政策を行うべきかは経済学の範囲を超える問題であり、消極的かもしれませんが、そのような問題をあえて問わずに、描写に徹することが、今日のように観察が不足したまま、不毛な政策論争ばかりが行われる現状を見ておりますと、はるかに大切だと私の好みでしかありませんが、そのような感想をもちます。

 直近の金融危機、経済危機に直面して感じるのは、市場機構の不備をどのように補完してゆくのかという問題に、おそらく正しいというよりも、概ね妥当な、あるいは「このあたりでしょ」という解がなかなか見えないことです。やや危惧の念を覚えるのは、金融危機と経済危機に際して日米双方で市場機構を政府による「見える手」によって代替する傾向があり、そのことがむしろ危機を深化させてしまうことです。もっとも、このような、ある種の錯誤さえも、危機においてはやむをないのかもしれないとも感じますが。中村隆英『昭和経済史』(岩波現代文庫 2007年)には次のような記述があります。

 あらためて気づくことは、経済学の第一の原則である需要供給の関係から生ずる価格の変化が経済を動かすという原則が、この六〇年を貫いて働き、それが経済を動かしてきたという事実です。それは短期の特定の財について説かれますが、もっと幅広く、奥深い作用を及ぼしてきた。
 戦前において、重化学工業は、為替レートが高く、輸入品が安い間は伸びられなかったが、高橋財政期以後、輸入品価格が上昇し、国内景気がよくなってくると、急に発展しはじめた。戦後のエネルギー革命も、二度にわたるオイル・ショックも、すべて、価格――正確には相対価格といった方がいいかもしれませんが――の激変から生じた。それは、石炭から石油へ、あるいは石油から石炭へという代替だけではなく、エネルギーをたくさん使う素材産業を勃興させたり、逆にそれを停滞させて高加工度の産業を発展させるなど、産業構造をも大きく変えた。経済成長の過程で、労働力が過剰から不足に変わったとき、賃金が上昇しただけでなく、労働節約型の技術を普及させ、中小企業の技術革新をうながした。
 戦時戦後の計画経済は、逆に需要供給の原則を否定しようとした。そこに無理が生じ、採算割れの産業ができて補助金を必要としたり、一部に異常な高利潤の企業を生んだりした。そして全体の効率は決してよいとはいえなかった。価格機構の働きの大きさに、あらためて目をみはる思いがします(375−376頁)。


 上記の記述は、なにか特定の政策を肯定したり、否定するものではないのでしょう。ただ、市場機構を否定する試みは昭和経済史に限定しても長期的に成功を収めることはなく、市場機構の働きから経済の動きが説明できるという平凡な事実を指摘しているだけです。『昭和経済史』は1986年に初版が出ました。ソ連崩壊以前に、日本経済史の大家が歴史的な考察の上で上記のような市場機構の評価を行っていることは、ソ連崩壊後、内外を問わず、浅薄な言論が溢れたことを思い起こすと、日本人の歴史への感覚が決して海外よりも低い水準ではないことを感じさせます。今日のように、一見、混乱したように見える時代に頼れる常識というのは、このような一見、地味ではありますが、誠実な観察なのでしょう。 
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