2009年11月15日

中国経済は台湾経済を飲み込むのか?

 オバマ大統領のアジア歴訪で、日本が玄関になれてよかったですね。訪日そのものはまるで期待できませんでしたが、オバマさんが神戸ビーフとマグロがお好きというのは意外でした。日本のマスメディアはオバマさんから言質を引き出そうと必死だったご様子ですが(参照)、このあたりはさすがにアメリカのエリート。日本国総理なら簡単に炎上してしまいそうですが、北朝鮮の核武装の話をもってくるあたりは、やんわりと日本国総理と内閣、代表者として彼らを選んだとされる日本国民(私自身は心外ですが)へ、日米同盟の意味を理解してますよねと釘を刺しているように響きました。あとは、プラハ演説の基本線は核拡散防止であって、核のない世界というのは、究極的核廃絶というレーガン以降の歴代アメリカ大統領がコミットしてきた問題をオバマ流に表現しただけであろうと。

 それにしても、お互いにファーストネームで呼び合う仲というのはレーガン大統領以降のような気がしますが、オバマさんはあまり重視していないご様子。それを共同記者会見の冒頭にもってくる鳩山首相はなんとも気の抜けたビールみたいで、早めにAPECにお出かけされたのは鳩山氏なりの見識なのか(どうせ話が合わない)、外務省の知恵なのか、悩ましいところです。

 本題ですが、今回のオバマ大統領訪日はアジア歴訪の出発点であって、メインは対中関係であろうと。日本は最初に来ないとうるさいから立ち寄ったという程度でしょう。非国民なので、妥当な扱いかなと思います。で、問題は中国なのですが、なにせ国がでかいだけに議論が難しいです。とりあえず、台湾との関係はどうなっているんだろうと思ってみますと、『読売』が「中台自由貿易、年内に公式交渉開始で合意」という記事を配信していて、ECFAとは一体、何の略なのかが気になったので、こちらを検索したら、"Economic Cooperation Framework Agreement"の頭文字をとった略語でした。参考にしたのはTaipei Timesの" Executives largely upbeat on ECFA plan"という記事なのですが、どうも中台関係では単純に経済的相互依存が進んでいる結果としてECFAの締結へ向けた準備が進んでいるというよりは、馬政権が前のめり気味に進めていて、ビジネスサイドには懸念もあるようです。まあ、日本のように、付加価値で2%に満たない農林水産業のおかげでFTAが進まないというのはいかにもどんくさいのですが、悪いことばかりではないようです。

 台湾の大企業500社へのアンケートですので偏りがあるのかもしれませんが、ECPAの締結そのものには300人の役員のうち76%が支持しているとのことで、やはり中国と台湾の経済的相互依存が基調だと見るのが普通なのでしょう。他方、他の数字は、馬政権が前のめり気味でビジネスサイドが警戒心ももっていることを象徴していると思います。

 まず、馬政権が詳細を示していないと答えている割合が74%で、驚くのは協定そのものがよくわからないと答えている割合が51%にも上るという数字です。うーん、企業が利潤動機で中国との関係強化を望むという単純な話ではなく、馬政権が、動機に関しては憶測しかできませんので省きますが、対中経済関係強化という結論ありきで台湾企業とのコミュニケーションや情報公開をしているのだろうかと疑問に感じます。

 中国としては台湾企業が中国へ進出することを、政治的な文脈を無視しても、利害関係から利益だと見ているようです。他方、台湾のビジネスマンからすると、やはり他の国と同じく、技術移転にともなう知的財産権の保護に中国政府があまりに鈍感なことに警戒心が強いようです。回答者の72%は台湾政府に中国のおける知的財産権の保護を最も高い優先順位を与えるよう求めています。馬政権は、中国では知的財産権はおろか、通常の意味でも財産権に関する法の支配が確立していないことを理解しているのでしょうか。ASEAN諸国は既に痛い目にあっているために、アメリカ抜きの「東アジア共同体」など中国主導の経済秩序にしかならないことを理解しているように映りますが、台湾は前例に学ぶことができるのでしょうか。どうも、経済全般で中国との関係強化は望ましいけれども、台湾のビジネスサイドはシビアにECFAを見ている印象を受けます。

 特許権侵害関係で、期間が明示されておりませんが、7万3,000ドルの補償金が台湾企業に支払うよう中国の司法では判決がでたとのことですが、台湾側は研究開発投資などを考慮すると、不十分だという反発があるようです。そもそも、中国では三権分立が確立していませんし、補償金自体を台湾企業にちゃんと支払うよう強制力をもって実効性を担保したのか、疑問です。このあたりは、中国の特異な政治体制によって、自由貿易や資本移動の自由が基本的には互恵的な関係であるという基本が対中関係では制度上の前提が整っていない印象を受けます。そのような状況下では、企業側に単純に中国がビジネスチャンスだから中台経済関係を強化するべきだというインセンティブがはたらかない側面があるということも留意した方がよいと思います。

 また、回答者の54%がECFAの締結によって中国からの輸入によって台湾の地場産業や地域経済に悪影響を与えることを懸念しているのも興味深いです。さらに、48%が協定締結によって台湾の失業問題を悪化させるという懸念をもっていることも注目に値します。台湾の産業構造に詳しくないので、踏み込んだ分析ができないのが残念ですが、大企業の役員でも、自分の会社さえ儲かればよいという狭い視点でECFAの問題を見ているわけではないようです。自由貿易は全体としては需要側では消費者余剰を増大させますし、供給サイドでは国際的な競争にさらされることによって生産性の向上をもたらすという好ましい側面が基本ですが、やはり競争によって退出する企業とそれに伴う雇用の喪失などの問題があり、このような側面に十分な配慮がなければ、自由貿易の魅力が損なわれてしまうことも留意する必要があるのでしょう。

 現代の世界では経済では相互依存が基調となっております。ただし、二国間では単純に自由化だけでは解決しない問題も多いでしょう。とりわけ、中国は三権分立自体が否定されているので、法の支配といっても、中国共産党が容認する範囲での法の支配にすぎないのが実態のようです。安全保障の問題抜きでも、馬政権が成果を急いでいるのが実態であって、台湾企業の立場からすれば、中国との経済関係強化自体には賛成であっても、種々の前提を整えてほしいのが実態でしょう。したがって、もし、中国が台湾を飲み込むとしたら、それは安全保障の問題を考慮しない台湾企業の視野の狭さ(この点も台湾企業が実際にそうであるのかに関して留保が必要なのでしょうが)よりも、馬政権の対応の問題だと思います。


 安全保障関連のサイトを見ておりますと、一部のサイトでは経済の問題というのは理解されないものだと嘆息します(それなりの地位の方が書かれているところの方が無神経な印象すらあります)。どうも、経済と軍事というのはそりがあわない部分が目立ってしまいます。正確には戦前(より正確には昭和期かもしれません)からの日本軍の伝統は市場経済を否定するところまで介入するところにあり、全体主義国家よりも経済、より平たく表現すれば国民生活全般への感覚がまるでない印象を受けます。

 中村隆英『昭和経済史』には昭和前期の描写に多くを割いていますが、興味深い指摘があります。岩波現代文庫版では132頁に戦時統制のために民生部門における中小企業を戦時統制下で整理して軍需生産に回す計画が商工省を中心に生じた経緯が描写されています。また、146頁から「大東亜共栄圏」という小見出しがついているところでは軍票の発行によって占領地でのインフレーションが進んだことが指摘されています。大東亜共栄圏が幻だったのは、単に狭い意味での戦争における敗北だけではなく、結局、民族解放という美名の下で民生の安定が肝心であることを忘れた結果なのでしょう。

 太平洋戦争における戦時統制の無能さを厳しくしているのが151頁です。同じ頁に示されている「各種の生産指数」を見ると、米以外の食料品や繊維などが日米開戦以前からひどい落ち込みを示していることが伺えます。「軍部の暴走」というのは一面的だと思いますが、軍事優先の統治は控え目にいっても、日中戦争の段階から他の枢軸国と比較しても最悪のものであったといってよいのでしょう。

 工業生産にしても、食料品、繊維、紙パルプ、化学などは、いずれも一九四〇年代の初めから急速に落ちていく。南方からのものが入ってこなくなったために、軍需生産がだめになるというのはもう最後の段階であって、その前に一般の工業生産は崩壊していた。ナチス・ドイツでさえ、消費財生産を昭和一八(一九四三)年ごろまではあまり減らさないようにして国民生活に配慮していたのにくらべて、日本の軍需への傾斜ははじめから極端で、国民生活や占領地の人たちの生活を無視していたといえます(151−152頁)。

 さらに156頁では、中村先生には珍しく、軍人の横暴が人命を多く奪った点も指摘されています。
 結局最後の一年間はもはや絶対に見込みがない戦であった。それを陸軍があきらめるまで一年間かかった。血気の軍人までがあきらめるためのコストが、取り返しのつかないほどの惨たる戦争被害だったといっていいかもしれない。

 一部の安全保障関係のサイトでは経済畑の人間は安全保障を無視して利潤動機で動く市場経済への不信感があるようです。金融危機の後では、多くの経済人が市場経済が自壊に陥らないようにどのように市場機構を補完してゆくのかへ、実際には金融危機以前から、テレビや「論壇」を除けば、そのような論点が主だったと思います。また中国の経済成長に関しても、大きなトレンドに関してはそれなりのコンセンサスがありますが、単純に中国経済の成長ばかり強調するエコノミストは控え目にいっても、怜悧ではない。一時期は、安全保障と経済という相性の悪い、しかし国の安全と繁栄という大きな論点に興味がありましたが、なぜか安全保障が専門のはずの方から、専門分野で的確だと素人ですら感じない話ばかりで、経済の人間はバカ扱いをされるのを見ると、ちょっと醒めた目で見てしまう今日、この頃です。それなりに私の方から持ち出してお付き合いもしましたが、そろそろ潮時ですかね。

 それにしても『文語の苑』には驚きました。私みたいな無教養なものが会員になるのは遠慮があったのですが、この数年、半年に1回ぐらい、会員になるよう振込用紙が送られてきたので、2009年1月14日に会費5年間分の1万円を振り込みましたが、それ以来、音沙汰なし。あまりの対応のひどさに一度、メールを差し上げましたが、返信すらなく、呆れております。それにしても、この国の高齢者の方の一部は、現役世代へ年金・医療のツケ回しをするに飽き足らず、日教組世代だの「ゆとり世代」だのと精神的に劣勢に追い込んだ上で、様々な形で平気でぼったくりを行うようで、感心します。後期高齢者医療制度は「姥捨て山」とは程遠いとしか思えませんが、本来の「姥捨て山」、すなわち65歳以上の医療費は控え目でも現役並みにしたら、民主党政権の強固な支持者になるかも(「姥捨て山」というなら国費投入や他の健保からの繰入金などゼロになるでしょうに)。

 最近は、別に日本の伝統文化に接する機会が増えております。残念ではありますが、この10年ぐらいのお付き合いしてきた方たちの劣化ぶりを見るにつけ、これからの国のあり方にちゃんとした考えをもって実現しようされている努力している同世代を期待値を控え目にしながら、ささやかながら応援することにしました。
この記事へのコメント
毎日のように質量圧倒的な文章を掲載されて頭が下がっています。笑

ファーストネームですが、小泉総理も阿倍総理もやってましたね。ジュニチローって言うのでJun'ichiroと書いたものもありました。阿倍総理はジョージジョージ連発しすぎるので笑ったおぼえがあります。こんなの米国人からしたら何でもないですもんね。総理がやりたければやるだけで。福田総理はさすがにキャラが違ったのかと。笑
Posted by やじゅん at 2009年11月15日 13:33
>やじゅん様

質をわざわざ付け加えて頂いて恐縮です。例によって、ネットでも出不精になっておりますので、誠に恐縮です。

最近、気がついたのですが、文章を書いている際に、主語は意識しているのですが、整理できていないものですから、述語で収めるところで迷っているから、長くなるんだなと。ちょっと、反省です。私自身の感覚ではやはり質と量は反比例するような気がします。例外的に長くならざるをえないものを除いてですが。

ジュニーでもよい気がしますが、なかなか外交の場というのは律義なものだなあと。福田総理におかれましては、是非是非、小泉、安倍の両元総理と鳩山総理を前に、「あなた方とは違うんです」とやって頂けると、妙なべたついた話が吹き飛びそうな。

個人的には、外交のプロトコル上はちょっとどうなんでしょと思いますが、オバマ大統領の意外とベタな好みがわかって楽しいことが多かったです。ご要望の神戸牛はちょこっとにしてじらした上で、小泉さんが大トロのステーキをもってでてきたら痛快かなと。抹茶アイスの製造・販売業者には干天に慈雨かなと変なところに目が行ってしまいます。
Posted by Hache at 2009年11月15日 23:03
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