2009年11月16日

オバマ大統領のサントリーホール演説は歓迎

 日米共同記者会見でちょっとドキッとしたのは、APの記者の質問でした。アジア歴訪後、9/11の裁判でオバマ大統領が大忙しなのは自明で、アフガニスタン増派も難しくなってくるでしょう。この時期にアジア歴訪に1週間程度かけること自体、オバマ大統領のアジア重視の姿勢は、その成否の見込みは別として、本物だなと思います。

 それにしてもホワイトハウスは仕事が速いのでびっくりです。お昼過ぎには、サントリーホールでの演説がアップされていて、なおかつ中国語訳、インドネシア語訳、日本語訳、韓国語訳も同時にアップされていました(参照)。読んでみての全体としての感想ですが、ブッシュ政権の最後の2年間で混乱したアジア太平洋政策が大枠として示されたと思います。全体像を示しただけに、つまみ食いで終わりそうですが、可能な限り、オバマ大統領の政策を追ってみたいと思います。

 その前に、鳩山首相がこの国の代表と思うと本当に憂鬱になるのですが、なにがこのお方の癪に障ったのだろうと演説を読んでおりますと、これですかね。「成否の見込み」は別としてと留保せざるをえないのは、鳩山政権がアジアにおける最大の不安定要因ではないかと感じる部分が大きいのですが(私自身は鳩山首相を盧武鉉前韓国大統領と比較すること自体、盧武鉉氏に失礼であろうと。統治後半の乱れは目を覆うものがありましたが、彼はイラク戦争でさえ、工兵を500人程度、派兵しました。私は韓国人ではありませんが、鳩山首相にそれだけの決断力があるのでしょうか?)。下記の文言を読みますと、既に普天間移転の再検討というだけで米国との合意を破棄したとられてもおかしくないと思いますが、会談の直後に掌を返す相手と交渉が可能なのか、私自身は非国民ですから、大いに疑問に感じます。

We've agreed to move expeditiously through a joint working group to implement the agreement that our two governments reached on restructuring U.S. forces in Okinawa.

沖縄駐留米軍の再編に関して両国政府が達成した合意を実施するために、共同作業グループを通して迅速に進めてゆくことで合意しました。


 この話題はバカバカしいので、本題に戻します。まず、訳が4バージョンもあることで、主たる聴き手はアジアの広い地域にわたるとみてよいでしょう。ある程度、アメリカ国内を意識しているのは対中政策を述べる冒頭部分で"Now, as with any nation, America will approach China with a focus on our interests"あたりぐらいでしょうか(国益に基づかない外交など意味がないわけですから、単純な対中宥和と国内で非難されるのを意識しすぎている印象があります)。

 述べられている内容が包括的ですので、わかりにくい印象もありますが、大雑把な構成を見ますと、鎌倉の大仏(抹茶アイスは噴きました。神戸牛やマグロなど食べ物の話が多いのがちょっとだけ楽しいです)やインドネシアでのなどを引き合いに出しながら、現実政治を語る際にはまず、ハードパワー、軍事同盟がアジア・太平洋地域安定の基礎であることが明確に述べられているのは、当然といえば当然ですが、まず、抑えておくべき点でしょう。というのは、演説全体の構成が、ハードパワーに関する言及から始まり、経済外交の基本で中国にも触れながら成長戦略について述べています。その上で、ちょっと驚きましたが、"Now, let me be clear: So long as these weapons exist, the United States will maintain a strong and effective nuclear deterrent that guarantees the defense of our allies -- including South Korea and Japan"と核抑止へのコミットメントを行っていて、まるでソナタ形式のように、ハードパワーが基礎であるという主題が提示され、途中でソフトパワーについて触れて、再度、ハードパワーに触れて最初の主題がより強く明瞭に提示されています(北朝鮮に関しては拉致問題まで触れられているのは更によい意味で驚きですが)。

 興味深いのはミャンマー(ビルマ)を最後にもってきて、異なる価値観とどのように接するかというアジア・太平洋の最も難しい問題へのアプローチを示している点です。日本語訳があるおかげかもしれませんが、これほど明瞭な演説はオバマにしては珍しく、構成もわかりやすく、おそらく、オバマ政権の間はこれがアメリカの対アジア太平洋地域外交を理解する基本になる演説なのでしょう。演説に酔っているわけではありませんが、米軍のプレゼンスがアジア太平洋では致命的であるという基本と経済協力関係についてこれほど整理された文書はなく、アジアの片隅に住む者としては率直に歓迎します。ちょっと気になるのは、教科書的なぐらい整理されていて、それだけ入念に準備された演説だということだとは思うのですが、ちょっときれいすぎるかなという点は気にしすぎだとは思いますが、やはり気になります(「白か黒かはっきりしないか!」と自分でも思いますが)。

 核抑止に関して驚いた理由は、ことが起きてから日本や韓国を宥めるためにでてきた抑止の問題を米国のコミットメントとして大統領が明確に述べたことです。前政権のライス国務長官、現政権のクリントン国務長官が繰り返し表明してきましたが、北朝鮮のアクションとは直接の関係がない状況でこのコミットメントを大統領が行った意義は大きいと思います。どこぞの鄙びた島国の与党支持者と野党支持者などは自前の核武装が安く済むのか算段でもしていればよいでしょう。当然、同盟関係にあることが前提なのですから、それを壊す行為がなにを意味するのかは、オバマ大統領の本意ではないでしょうが、明確になったと思います。

 さらに、興味深いのは、二国間関係と多国間関係について、かならずしも明確な優先順位をつけてはいませんが、両者が補完関係にあるということを明示した演説だという点も目をひきます。また、軍事については基本的に二国間関係、あるいは同盟が基本であり、経済に関しては多国間関係で行うという、ASEAN諸国がほしがるであろう部分にも目がゆき届いた上で、骨格がしっかりと整理されています。APECを意識しているは当然として、経済関係で強調されているのはG20とドーハラウンドであり、ついで自由貿易協定の順になっています。ちょっと気になるのは経済危機への認識自体は正確そのものだと思いますが、本当にアメリカが貯蓄を増やすことができるのだろうかと。バカにしているわけではなく、これは現実にはなかなか厳しいだろうと思いますが。

 というわけで各論には踏み込まずに総花的に眺めただけになりましたが(「また長い」と言われると苦笑しつつも、痛いところを突かれてしまいますので)、複雑なアジア太平洋地域においてオバマ大統領は現実的で、なおかつアメリカの価値観を代表するのにふさわしいと思いました。対中貿易摩擦が頻発するなか、アメリカの貿易政策の本質を「開放的」とした上で、それを進める努力へコミットしたことは経済に偏した見方かもしれませんが、一つ間違えると、まさに、"competing spheres of influence"(勢力圏)の争いになりかねない(あるいは既にそうなりつつある)地域においてアメリカのコミットメントは本質的だと思います。この演説で述べられていることがworkするか否かは、この島国にとっても致命的でしょう。朝、チラッとつまらないテレビ番組を見ましたが、対等か否かというよりも、アメリカの外交政策が日本にとって利益か否かを考える方が致命的な問題でしょう。私自身は、アメリカの指導者は日米両国がほとんどの点で利益を共通しているとこの演説で表明したと感じましたが。私ごときが申し上げるのは躊躇いもありますが、一国の指導者たるもの、アメリカに異議ありなどという見栄などのようなケチくさい勘定ではなく、国民の利益を代表して冷徹に動いて頂きたいものだと心より願います。


 外務省経済局国際貿易課は「WTOドーハ・ラウンド交渉メールマガジン」を発行しています。勤務先のメアドで受けとっている唯一のメールマガジンですが、内容が濃く、忙しいときには目を通す程度の好ましくない読者です。2週間ぐらい前ですが、勤務先のメールをバックアップをとってかなり整理しました。私個人にではありませんが、メールを整理するようにとの指示があり、よく見ると、1MG近くあるPDFファイルが添付されたメールを200通以上、溜めこんでいて、頭を掻きました。2009年7月31日号は「世界金融経済危機の際のWTOによる保護主義に対する取り組み」をテーマによく整理されていて、感心しますが、あえて引用するのは「編集後記」です。

編集後記
 天然資源が少なく、輸出主導型の経済構造を持つ我が国は、過去の成長において、GATT・WTO体制による自由貿易システムのもたらすメリットを享受してきました。将来においても、一部伝統的農業産業等で守るべき分野はあるものの、我が国の成長シナリオは自由貿易システムの下で達成することができます。世界経済にマイナスの影響を及ぼす保護主義の台頭はなんとしても防がねばならないとの決意のもと、我が国も積極的に情報提供に関与するなど今回のWTOの活動を支持していきたいと思います。(まさ)

 今、日本の戦後の産業を振り返っておりますが、まったく同感です。敗戦の結果、獲得した、ひょんな幸運を実力にまで高めるにはこのような地道で目に見えない不断の努力が不可欠だと感じた次第です。

 気がついたら一日で二つも「寝言」を書いてしまいましたので、こちらは11月16日付に改竄しました。ちょっともったいない感じがするものですから。
この記事へのコメント
ご無沙汰いたしております兄貴。

ここしばらくの世論の流れを見ていると自民党は本当に国民に嫌われていたんだなぁと感じます。民主党政権のgdgdのうち政策の混乱を民主党の支持者が我慢するのはまだ分かるのですが(私は我慢できませんが)、首相の失言だとか(「恵まれた家庭に育ったものだから」とか「日本国民もブルネイに移住したいと考えるだろう」とか、麻生前総理の失言なんて比較にならないと思うのですが)、閣内不統一だとか(社長と営業部長と工場長で言うことが全く違う会社と誰が商談したいと思いますか)、金銭絡みの疑惑とその対応だとか、どれ一つとっても自民党時代なら内閣が吹っ飛んでいるレベルのものだし、そもそも組織として人間として駄目でしょという話なのに、支持率は60パーセントオーバー。

これだけの支持率は困難なテーマでの国民の合意形成のために使ってくれよと思うのですが、出てくる行動は悪い意味でのポピュリズムを反映したものばかり。今やるべきかという議論はあるにせよ、医療保険改革に真正面から取り組むオバマ大統領との違いとか、考えるのも憂鬱になります。

結局これが今の日本国民のレベルということなんでしょうね。その昔ソ連がまだ存在していた頃の、確か呉智英氏の文章の中で「左翼は自分たちは政治的な力を持っていないと言う。それは事実と異なる。労働組合などの組織力や資金力、メディアでの発言力など世の中を動かしうる力を持っている。持っていないのはそれらの力を結集して行動に結びつけるための思想の力だ」という意味の一節があり、当時学生だった私はへぇと感心したのですが、今のような状況になってこの一節の意味があぶりだされたように感じます。もちろん、この一節と表裏の関係にある、右翼の側の思想の力の無さも。
Posted by mitsu at 2009年11月16日 20:57
>mitsu様

いつもお越し頂いて恐縮です。出不精ですのでご容赦ください。コメントを拝読しながら、「左」が現世利益、「右」が観念的というのはなんとかならないものかと思いました。問題は、「左」が公的地位において現世利益をマネージする能力に欠けるということが今後、「実証」され、支持しようがしまいが、災厄が等しく襲うであろうことに理不尽を感じつつ、『老子』を読みたい気分になります。

まず内閣支持率ですが、少数派に入れた身としては、この程度で不支持に回るようでは一票の価値も下がるというものです(私自身はダメージを最小限に食いとどめるためにはどうしたらよいのだろうと思案するしかないのですが)。御厨貴先生は我慢を説かれておりましたが、まあ、日本国民の大半は、なかなかよく辛抱している方ではないでしょうか。私のような国籍上は紛れもない日本人ですが、「日本人じゃない!」と上の世代に散々言われてきた非日本人からしますと、とてもとても真似のできない話です。端的に言えば、現政権を支持している方々は私みたいな外道には単なるど×ム(自粛)にしか見えませんが。

鳩山総理の人物像ですが、指導者としては論外だと感じております。メディアや他のサイトでも『産経』以外は報道していないのが不思議なのですが、国債増発関連で世論調査の結果を指針とする旨の発言があったという報道がありました。ちょっと迂遠な話で恐縮ですが、議会制民主主義では国民が主権を行使できるのは代表を選ぶ段階だけです。それも数年に一度です。その間は代表として選ばれた方々が、どの党派にも主観性を排除することはできませんが、国民にとって利益になる政策を実行することが前提になっています。実行された施策には実際のところは事後的に選挙でしか明確な判断を下すことができないという制度です。世論調査の結果では評判の悪い政策を実施せざるを得ないこともあるでしょう。世論調査の結果を指針とするというのでは、そもそも議員というレベルでも国民の代表としての資質を欠くといわざるをえません。ネットで読んだと思いますが、目を疑いました(リアル「寝言」てな感じ)。ご指摘の点も問題があるとは思いますが、鳩山総理を信用も信頼もしないのは、世論におもねっているようにしか見えないからです。

マスメディアやアカデミズムから「ポピュリズム」と称された小泉元総理の場合は対照的でした。当初、デフレ下で構造改革というのは無理筋でしょうと見ておりましたが、1年ぐらいすると評価が変わりまして(元々、総理になって頂きたいと思っていた方ですのでバイアスが入っていると思いますが)、意図せざる結果として、景気対策への期待値を下げているなあと。あるいはそこまで読まれていたのなら、脱帽です。世論調査では景気対策が最も高い優先順位を与えている状況で、それをやらなかった(完全に無視したというわけではないのでしょうが)小泉政権は、御厨先生(さすがにポピュリズムという評価は苦しいのでニヒリズムと評する以外なかったのでしょうが)あたりにはずいぶん低く評価されていますが、民主制におけるリーダーシップとしては相当のものだと今でも私自身は評価しております。

オバマ大統領の評価は難しいです。今回の演説と日米関係では好意的な評価ですが、小泉政権の始動時と同じく、政策メニューを乗せすぎて、内政では泥沼をはわざるをえないでしょう。外政はアフガニスタンはやはり悪手で出口が見えない状況ですから、それ以外の部分が手当てされているのが報道されるとホッとします。ただし、オバマ大統領の資質如何の問題以前に、アメリカが覇権国として要求される能力と割ける資源の制約のタイトさを考えますと、国際情勢は視界不良がさらに増すものと覚悟しております。よって、リスクをどのようにヘッジするのかが課題ですが、わざわざリスクを自らとるというよりも増やすというのはバカバカしい限りです。

いずれにせよ、普天間基地移設問題で鳩山政権にも理があるという主張にはついてゆけないです。民主党の施策では県外移設だけではなく、国外移転まで目指しているのを理解しているのなら、日米同盟を基礎から壊そうという確信犯でしょう。この問題でも右も左も無関係だと思います。要は、虹を追いかけるのか、今ある利益が追いかける虹にならないように努力するのかという区別ぐらいでしょう。また、この問題が長引くほど、1995年の状況と世論の動向が変わらなくなるリスクも存在します。情緒的な沖縄だけに負担を押し付けるなという議論が高まり、本来なら政権が国内世論を説得するべき問題が外交問題に変質してしまうことを恐れます。中国が脅威なのなら、沖縄に米軍基地の存在は前方展開を考慮すれば、当然、抑止の不可欠な要因であることに変わりはないのですから、結局、2006年の合意がギリギリのラインとなるのは自明でしょう。また、中国が日米のいずれにとってより安全保障上の脅威となるのかは自明ですから、単純な算術をした上で、身も蓋もない議論では説得できないでしょうから、利害計算をオブラートに包んで、説得するのが政権の責務だと思います。

「愚者は経験に学ぶ。賢者は歴史に学ぶ」と主張する方が暴支膺懲という世論を抑えられなかった戦前の政治的リーダーシップの欠如こそが帝国の破滅を招いた遠因だという子供でも知っている話を忘れていることに、軽蔑とともに、哀れみを覚えます。「本当にバカね」てな感じでしょうか。
Posted by Hache at 2009年11月17日 01:20
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