2010年01月14日

中国とイランの枢軸?

 時間がとれません。左下肢が日・月とそれぞれ1万歩程度、歩いてから痛みます。1ヶ月に一度の診断では、むくみではないだろうと。ベテランの先生による触診ですので、信頼しているのですが、血管がぴくぴくするので気もち悪いです。2ヶ月前からワーファリンの投与を中止しているので、いつでも再発するリスクがありますし。ちょっと立ち止まって考えたいことが山ほどあるのですが、私の能力の低さと不安のせいで、落ち着かない日々が続いております。

 それにしても、財務省というのは世間では評判が悪いのですが、大したものだなあと。ほとんど整合性のないマニフェストを税制改正の方向性としてロジックをたてるのは並大抵ではない苦痛でしょう。時間がとれたら、こちらも考えてみたいと思います。小沢氏のゴタゴタでさらに民主党離れが進むでしょうが、この数年間は混乱するにしても、なにも生まなかったでは日本社会が内外の問題に対応する能力を失うでしょう。個人的な趣味では、消費税増税のような大きな話(税率を上げるべきだ下げるべきだという床屋談義にはいま一つ興味がわかないというひねくれ者ですが)よりも、租税特別措置に興味が向きます。

 世の中を捨てるほどの胆力もなく、英字紙を読みながら、向こう10年ぐらいは大変だろうなあと。2010年1月11日のWall Street Journal(Asia edition)の社説、"China and the Islamic Republic"(参照)はコンパクトですが、興味深いです。プリントアウトすると、左上のタイトルが"The Beijing-Tehran Axis"となっていて、こちらが本音なのでしょう。この社説の主張をごく簡潔に要約すると、中国は国内体制を維持するために非民主主義国家を支援しているということです。この判断が妥当かどうか、私自身は材料と力量が乏しいので断言はできませんが、中国脅威論としては読んでおいた方がよいと思いましたので、以下、自分用のメモです。


 まず、張業遂中国国連大使が、中国が安保理議長国になってから、対イラン制裁に慎重であることを指摘している。通常は、エネルギーなど通商上の利益から中国の行動を説明するが、そうではないというのがこの社説のキモになっている。

  But the Chinese leadership's deeper motivation is concern about its own power at home. The color revolutions of Eastern Europe and Central Asia have rattled Beijing, much like the collapse of the Soviet bloc 20 years ago. China's response has been to clamp down on dissent at home and seek to shore up friendly regimes abroad. A further rout of authoritarian regimes could encourage the silent majority at home who would like greater political participation.


 中国の指導層は、自国の国内権力維持への懸念に衝き動かされているという指摘は興味深い。東欧や中央アジアの「革命」が20年前のソ連崩壊と同じく、中国をあたふたさせているという指摘も、この指摘を実証するのは困難だが、中国の行動を考える上で有益だろう。中国が権威主義的な国家(以下では乱暴だが非民主主義国家と記す)を支援するのは、それらの国の体制変革が自国における共産党支配を崩す動きにはずみをつけるからだという観測は、憶測に過ぎないが、中国の行動を長期的視点で見る場合に有益かもしれない。キッシンジャーは権力の移行期という点から中国の行動を説明していたし、日本の報道もそれに近い。この社説の視点は指導層の交代に関係のない、より長期的な中国の行動を観察する上で有益だと思う。

 このあたりはうっかりしやすいが、社説が指摘するように、スーダンやビルマ、キューバ、ベネズエラと並ぶと、つい中国の外交を「資源ナショナリズム」の視点から捉えてしまうが、確かにジンバブエとの関係はそれでは説明が難しい。

  Support for North Korea is not only predicated on the need for a buffer state. Chinese leaders fear that the collapse of a longtime communist ally could have considerable domestic impact. We doubt this is true, but it does help to explain why China's support for tougher action against Pyongyang has been so limited.


 中国の対北朝鮮政策については、北朝鮮の崩壊が単に緩衝国の消滅にとどまらず、共産圏の同盟者の体制崩壊が中国国内体制をゆるがせるという説明に疑念を表明しているあたりも興味深い。疑義を表明した後に、その説明は社説の主張を補強するものだと続くが、中国と北朝鮮の関係については、社説から離れて別途、整理しておく必要がありそうだ。

  As for Iran, Time magazine reported last week that a state-owned Chinese company has shipped armored vehicles to the Islamic Republic for use against opposition protestors. One Chinese company, LIMMT Economic & Trade Co., is also under indictment in New York for allegedly selling missile components to the Iranian military. This is hardly the behavior of a responsible world power seeking to advance the prospects of peace and stability.


 イランに戻ると、Time誌が中国の国有企業がイラン政府に反体制派の弾圧に利用されるであろう装甲車両を売却したと報道している。また、ニューヨークでは中国企業がミサイル部品を売却したことで告発されたと指摘している。谷口智彦さんの記事で有名になった"A String of Pearls"の一環でもあろう。イランの反体制派を抑圧することが、中国の国内体制の維持という理由からのみ説明するのは困難な点もある。根拠として挙げられているのは、ツイッターというのは薄弱だ。ある国の外交政策を単一の動機から説明する必要はないだろう。むしろ、中国の外交・安全保障政策を考えるときに、ハードパワー・ソフトパワーの両面から、"G-2"論のような米中融合よりも米中の利害が対立する側面が上回るリスクを指摘する主張として評価したい。

  From the outside, such fears may seem overblown. Beijing has no problem rolling up the few dissidents who stick their head above the parapet, and the economy has not suffered the brunt of the global financial crisis, officially growing by over 8% in 2009. But regimes that lack democratic legitimacy always fear for their own survival, however powerful they may seem at any given moment. So it is with China today.


 この社説では自らの主張の根拠が薄弱に映る点も的確に述べられている。現状では、「民主化」が中国共産党一党独裁の後にくるのかは疑問だ。ソ連崩壊後のロシアが典型だが、ユーラシア大陸の大国は、地理的に周辺をなす、西欧や日本、韓国、インドなどを除くと、民主的な政体はなじまないのかもしれない。他方で、専制的な国家であっても、民主主義的な正統性(democratic legitimacy)の欠如は政体の不安定性を生み出す時代に入っているのだろう。この社説では中国の民主化については触れていないが(現実的な可能性は無視してよいからだろう)、共産党政権から民心が離れ、国内体制が不安定化する可能性は、その種の指摘は山ほどあるが、中国指導層の外交政策と交渉を考える際にも考慮に値するのだろう。

  The implication of all this for the Obama Administration is that it shouldn't wait for China to come around on sanctions, or pre-emptively water them down to meet Chinese approval at the Security Council. The better idea is to form a coalition of the willing outside the U.N. that, among other things, bars companies around the world that do business with Iran from access to Western capital markets. This is likely to get Beijing's attention in a way that more diplomatic pleading never will.


 政策上のインプリケーションは意外なほどシンプルだ。オバマ政権はイラン問題において対中宥和を控えて有志連合を結成すべきだというものだ。その背景には、オバマ政権の対中宥和ともとれる、中国に対する甘い姿勢への不満もあるだろう(あの訪中はあまりに素人的であったと思うが)。ただし、イランとの取引を禁じると、中国が付け入る余地が増大するだろう。価値観外交は容易ではない。それは、しばしば地政学的な計算の上で主張されるが、利害計算と一致するとは限らない。

 むしろ、この社説が意図しない結果として示しているのは、中国の経済における自由貿易と資本移動の自由の陰で進む資源の囲い込みと中国のインド包囲や(この社説では触れられていないが)反米的な政策につながる可能性をもつ台湾のとりこみなどの外交政策が中国国内の安定化という共産党支配の維持と結びついているという点だろう。見方を変えれば、国際市場を経由しない資源の確保や地政学的なインド包囲網、台湾海峡の制覇などは、中国が非民主主義国を束ねる「親玉」となる傾向になるということだ。さらにいえば、経済レベルでは米中は互恵的であると私自身は判断してきたが、最近の中国の政策を見ると、それが中国の専制的な政体によるのか、中国指導層が優秀でもあるにもかかわらず市場経済の本質への洞察を欠いているからなのか、区別がつかないが、米中が経済的に互恵的な関係を結ぶのは困難なのかもしれない。オバマ政権が対中宥和と米国内の保守層から批判された経済関係を重視した政策を実施しても、中国はそれに応える能力も意図もないのかもしれない。経済的な関係でも、中国の乗用車販売台数が米国を上回る状況や、中国の金融政策・通貨政策が海外への不安定要因になるリスクに鈍感な状況が続くと、米中が経済に限定しても、両者の補完関係よりも代替関係が顕著になってくるリスクがある。個々の問題のリンケージは濃淡があるが、中国が結果として非民主主義国家を束ねる結果、民主主義国が肩をよせあうインセンティブを高める側面がある。

 さらに、WSJアジア版の社説の主張は、中国の対外政策、やや単純化して資源ナショナリズムの側面にしても、中国の国内体制と密接に関係していることを示唆している。経済関係と外交・安全保障の両面で米中は長期的に対立関係に入るリスクが高いだろう。このことは決して、日本の外交政策を容易にはしない。率直なところ、米中融合ならば、日米関係と日中関係は米中関係の従属変数になる。米中が対立関係に入ると、利害計算はかならずしも容易ではない。

 まず、アメリカの経済的繁栄が終わったと感じる時期が長期にわたるリスクがある。さらに、オバマ政権下では実質的な軍縮が進んでいる。無人機の開発が進んでいることはアメリカの軍事技術の進歩を象徴しているが、世界の安定と秩序を命をかけて守るというアメリカの能力と意思に疑義を生じさせるリスクがある。以前ほど、日米関係が日中関係に優越するという優先順位はかならずしも自明ではなくなっているのが現状であろう。普天間基地問題ばかりが注目されるが、北朝鮮の核開発を許してしまったあたりはアメリカの影響力の限界を示している。

 小泉純一郎元総理が2003年3月20日の記者会見で述べた「アメリカは、日本への攻撃はアメリカへの攻撃とはっきり明言しています。日本への攻撃はアメリカへの攻撃とみなすということをはっきり言っているただ一つの国であります。いかなる日本への攻撃も、アメリカへの攻撃とみなすということ自体、日本を攻撃しようと思ういかなる国に対しても、大きな抑止力になっているということを日本国民は忘れてはならないと思っております」(参照)というコンセンサスは以前ほど自明ではなくなっているのが現状であろう。私自身は、アメリカの影響力がさらに低下し、数年程度は国際的なアナーキーが広がるように映る世界が生じることも考慮している。仮に、そのような事態にいたっても、やはり日米同盟が日本の安全にとって不可欠であり、経済的繁栄にも影響するだろう。現状では、中国が自国中心の秩序のなかで多くの国と互恵的な関係を結んでアメリカ中心の秩序を代替する能力はないと考えているからだ。

 WSJの社説は、やや中国の外交政策を体制と直接、結びつける傾向が目立つが、古今東西の大をなした帝国で、国内において私益と公共の利益を両立させる体制を築くことができなかった国は大国ではあっても、国際秩序を形成する帝国となることはない。例外はモンゴル帝国のように恐怖と隷属による支配だが、短期間で瓦解している。アメリカの真におそるべき力は国内における互恵的な関係を築く力を国外において秩序として構築する能力だろう。その底力は深く傷ついているが、決定的に衰退を迎える段階ではないと漠然とはしているが、感じている。ただし、この十年間程度でアメリカを補完する連合が再構築されないと、国際的なアナーキーが本格的に広がるのかもしれない。 
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