2010年01月25日

民主主義諸国におけるリーダーシップの麻痺

 管理画面で記事一覧を見ると、「寝言」の割にずいぶんと壮大なタイトルをつけているなあと。だからこそ「寝言」にしかならないのかもしれませんが。メディアの遠回しの表現というのも大したもので、宇宙人との説明では説得力に欠くとか、言葉が軽いとか、定型的ではありますが、ボキャブラリーが乏しい私には参考になりますな。リアルですと、政権発足当初から鳩山政権について尋ねられると、「アホ、バカ、死ね」(発言なので伏字にできませんし、録画しているわけではないので音を隠すわけにもゆきません)という三語に要約できるので、観察の対象にもなっていません。まだ、低能とはいえ、麻生政権の方がネタにするぐらいの、末路特有の華やかさがありました。ただ、政権交代にもかかわらず、政治的リーダーシップの欠如という根本的な問題は解決していないように映ります。

 他方、日本よりも早く政権交代を実現したアメリカのオバマ政権も苦悩の最中のようです。最近では金融改革に関するオバマの演説に端を発する金融制度改革、あるいは金融規制強化が『日経』では連日、とりあげられていますが、単なるポピュリズムとしては片付けられないのでしょう。確かに、マサチューセッツ・ショックがあり、New York Timesは、オバマ大統領が民主党に対するリーダーシップの強化を図っていると報道しています(参照)。以前、「"Yes We Can"は変わらないことを演出できるのか?」という「寝言」を書きましたが、オバマに対する期待値が高い上に、経済状況は最悪という下では、成果を急ぐのが一番、危険だろうと。大統領選挙中、オバマ対マケインの討論の第1回を見て驚きました。ブッシュ前大統領は不評のなかでも、内心は穏やかではなかったのでしょうが、やはり米大統領にふさわしい忍耐強さを発揮したと感じておりました。討論を見た印象は、オバマはせっかちだなあと。もっと、ちゃんとした観察をされている方、それを読まれている方にはあまりにナイーブな感覚でしょうが、オバマは、アメリカ人、あるいは政治に限らないリーダーにある美点でもありますが、せっかちで、ちょっと危なっかしいというのが率直な印象でした。マケインの意地の悪い煽りにつられてしまうあたりはちょっと嫌だなと。話が完全に本題からそれていますが、どうも今回の金融規制の強化は、演説を読んでもロジックが整理できているという印象がなく、とにかく成果を出さなくてはという焦りを感じます。あくまで、「感じ」であり、したがって「寝言」でしかないのですが。

 先ほどのNew York TimesのJeffF Zeleny and Peter Bakerによる
"Obama Moves to Centralize Control Over Party Strategy" を読んで、記事の本旨とは関係がないのですが、ははんと思ったのが、今週の水曜日に一般教書演説(State of the Union address)が予定されているということでした。アメリカの日付で1月21日に"Remarks by the President on Financial Reform"が公表されたタイミングが気になっていました。内容がもちろん問題なのですが、やはり唐突な印象がありましたが、こちらは焦りというよりは、一般教書演説に向けてオバマが準備をしているのだろうと。公表された側としては唐突な印象ですが、オバマ大統領からすれば、多少はサプライズを起こそうという色気があったのかもしませんが、案外、予定通りの行動だったのかもしれません。

 ただ、演説の内容たるや、やはり首をかしげてしまいます。規制の眼目は、(1)"private equity funds"やヘッジファンドへの商業銀行の出資を禁止すること、(2)金融機関の合併などによる集中を抑止することです。確かにヘッジファンドなどへの出資ではレバレッジがあまりに高くて、信用収縮期には"deleveraging"をもたらしました。ちゃんとしたデータをもとにしていませんが、ヘッジファンドなど多くのファンドは解散に追い込まれました。次の「バブル」が発生する前に予防措置として最も強力な手段を選ぼうということなのでしょうが、はたしてバブルを防ぐことが現状の金融において課題なのかどうか。レバレッジを規制することが目的ならば、他に手段はなかったのか。演説では"Economic Recovery Advisory Board"のメンバーとしてポール・ボルカーの名前が入っており、オバマ自身はファンドへの出資規制を"Volcker Rule"と呼んでいますが、実質的に投資銀行が消滅した現在では、再び銀証分離を定めたグラス=スティーガル法を復活させた上で、商業銀行には厳しい規制をかけようという意図が現実と一致しているのだろうかと。

 また、金融機関の集中規制ですが、不思議なことに競争(competition)の欠如という点への言及がありません。JPモルガンチェースがベアスターンズを合併した際には救済という側面が強かったと思いますが、この種の合併も禁止されるのでしょうか。演説では原則とその説明にとどまっているので、これから具体的なルールが策定されるのでしょうが、2008年以降の金融機関の合併のプロセス自体を暗に批判しているようにも読めます。また、このタイミングではバーナンキの再任にも影響がでる可能性もあるでしょう。報道ではファンドへの出資規制の方が注目されているようですが、オバマの演説を読んでいると、ブッシュ政権下の金融危機への対応に対する暗黙の批判を行っているように映ります。演説の順番とは逆ですが、"too big to fail"という理由から金融機関を救済したことがアメリカの納税者に負担をかけたというロジックから金融危機における批判を導くのは違和感を覚えますが、この演説では金融機関の規模が小さい方が金融システムが安定化するということが前提になっているようですが、まるで理解できないです。さらに、このロジックでは、報道でしか確認しておりませんが、GMの実質国有化は正当化できないでしょう。事業会社と金融機関とでは異なるという反論はできそうですが、ブッシュ政権はオバマの要請を受けて、私自身は問題が多かったと思いますが、GMACへのTARP資金投入でGMの処理をせずにオバマ政権に引き継ぎを図りました。GMの実質国有化は"too big to fail"そのものではないのかと思いますが、オバマはそうは捉えていないようです。なおかつ、金融機関への公的資金の投入は、納税者には評判が悪いですが、システミックリスクが沈静化すれば、返済される確率が事業会社よりも高いでしょう。どうもこのあたりの説明をオバマは逃げているようにも映ります。

 話があちらこちらに飛びますが、New York Timesの記事では、次のような指摘があります。

  The long and messy legislative fight over health care is a leading example of how Mr. Obama has failed to connect with voters, advisers say, because he appeared to do whatever it would take to get a bill rather than explain how people could benefit.


 「説明責任」という言葉をどこぞの島国で聞くと寝言は寝てから言え(コメント欄では私以外はNGワードです)と感じることが多いのですが、ある政策を実施する際に、法案の成立自体が自己目的化して、世論に対してどのような利益があるのかを説明して説得し、誘導するということがオバマは苦手なようです。アメリカの国内政治で最大の争点は医療保険制度改革でしょうが、そこに金融規制強化などが加われば、政策の実施にあたって人々にどのような利益があり、説得し行動を誘導するという民主政治におけるリーダーシップという点で、オバマ大統領に最も重要な資質が決定的に欠けるという評価になるのかもしれません。また、ブッシュのように批判にじっと耐えるという資質もオバマには現時点では感じないです。ブッシュ政権下ではイラク攻撃を代表に党派性が強く出る決定が行われましたが、不思議なことに党派間の殺伐とした党争にもかかわらず、ブッシュの言い分の多くが通りました。しかも、任期後半は議会は民主党が多数であった時期が続いたのにもかかわらず。ブッシュとオバマの個人的資質の相違について論じることができるほど、アメリカ政治を観察しているわけではないので不思議でしかないのですが。

 ただし、ブッシュ政権のパフォーマンス(成果)の評価は微妙です。経済政策では減税によってクリントン政権下の果実を放出しすぎた感もありますし、対外政策では任期後半の対北朝鮮政策の混乱や対中国政策も安全保障などハードパワーの側面では大きな問題はなかったと思いますが、通商政策ではアメリカ国内の保護主義を抑制する中国との対話を成立させるには至らず、2008年のイラクの安定化という成果にもかかわらず、全体として機能不全も目立ちました。

 「時の最果て」らしくとりとめもなく書いてみましたが、どうも、戦後、民主主義諸国として先進国では、主として経済的パフォーマンスの低下が注目されますが、むしろこれから問題になってくるのは政治的リーダーシップの欠如かもしれません。どこぞの島国はその意味では世界の最先端なのかも。本当に宇宙人だったら、よその星にお帰り頂くか、宇宙塵として永遠に空間をさまよっていただく(以下略)。

えっ、最後のさぶいギャグが書きたくてこんな長々と「寝言」を書いたんだろうって?

訴追の虞はございませんが、黙秘いたします。


 「クルーグマンは保護主義を正当化しているのか?」という「寝言」を書いてから気になったので、Paul A. Samuelson, 1964, "Theoretical notes on trade problems"(Review of Economics and Statistics 23: 145-154)を読んでみましたが、時代がなにしろ固定為替相場制が前提ですので、理論分析とはいえ、モデルにも反映しています。クルーグマンのコラム自体は、不用意に中国の純輸出が米国内の雇用を奪っているかのような主張をしたので、保護主義的な主張だととられてもやむをないでしょうが。サミュエルソンのモデルではドルが過大評価されていることがモデルの核心部分になっています。他方、論文ではドルの切下げを主張しているわけではないので、クルーグマンがこの点では恣意的な引用をしている印象もありますが。他方、コラムでは明確には述べていませんが、米中の通貨問題を考える際には固定為替相場制を前提にしたモデルの方が適切なのかもしれません。

 問題は、中国が既に世界最大の輸出国となっているのにもかかわらず、実質的にはドルとの固定レートを変動の幅を認めているとはいえ、維持しようとしていることにあるのでしょう。データのとり方がわからないという恥ずかしい理由ですが、中国の外貨準備の増大は、単に貿易黒字の増加によるものではなく、ドルペグを維持するためにドルを買っているという現状が大きいのでしょう。中国の通貨政策に不案内ですので、不胎化を行って元を吸収しているのか不明ですが、仮に行っていないとすると、資源配分に相当の歪みを引き起こしている可能性があるのでしょう。仮に、不胎化を行っているとするなら、債券市場でのオペが主要な手段になりますが、そこまで中国の債券市場が成熟しているのかは疑問です。現状のドルペグは、まず、中国国内で資源配分を撹乱する要因となっている可能性があると思います。

 次に、世界の資金循環にどの程度、歪みが生じているのかという点ですが、他にもやることが多いので、手が回っていません。2兆ドルを超える外貨準備というのは巨額ですが、世界の資金循環にどの程度の影響があるのかは私の手に余ります。ただし、ドル安は中国の外貨準備に致命的なダメージを招くでしょうし、安定的にドルから他の通貨や資産に分散を図ろうとしても、常にドルを吸収して市場に吐き出すというのはリスクがあまりに大きいと思います。一見、よくできた通貨政策のように見えますが、ドルペグを続けるほど、維持が困難になるという自縄自縛に陥っているようにも映ります。中国の通商政策・通貨政策への批判は保護主義的な主張が混ざると、漸進的にせよ中国の通貨が変動為替相場制へ移行しない口実を与えるという点で好ましくないと思います。

 服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中公新書 2009年)を読み終えて、固定為替相場制下の移行経済という点でも示唆が多いと感じました。この書では服部氏の「世界で最も有能な日本銀行」という表現に象徴される日本人の誇りと現地における中央銀行総裁として通貨の安定とルワンダ経済の発展に奉仕するという職責が見事に調和していました。服部氏がルワンダ中央銀行総裁を務めたのが1965年から1971年ということもあって、固定レート制の下での二重相場制の廃止と公定レートの切下げがメインですが、外国人商人とルワンダ人商人との関係などルワンダ経済全体への目配りがきめ細かく、当時の大統領や閣僚、議会との関係などもよく整理されています。また、IMFと渡り合うあたりでは、アメリカ大使を信頼していたことが覗えることも興味深いです。

 中国のGDPが日本を超えるということで、ルワンダの事例とはかけ離れているように見えるかもしれません。私自身、ルワンダにおける服部氏の経験がそのまま中国経済へ適用できるとは思いません。ただ、中国経済は、目覚ましい成長にもかかわらず移行期の経済であること、他方で巨額の通貨準備が事実上の固定レートから生じていることは忘れるべきではないと思います。ただちに、中国が通貨の切上げやフロート制に移行すべきだと主張する気はありません。ただ、中国の経済成長は、服部氏が批判するアフリカでは停滞が当たり前という当時の認識と共通するアジア的停滞論への反証となっていると同時に、ルワンダと異なって、貿易財の価格や為替レートを影響を与えるという意味での大国に押し上げました。この中国経済を国際的なルールに順応させてゆく主要なアクターはアメリカであり、それは単にアメリカ国内における雇用の喪失という点から論じるべき問題ではないと考えます。
posted by Hache at 00:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 不幸せな寝言
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