2010年01月31日

米中関係を最終的に決定するのはやはり台湾海峡か

 一晩ぐっすり眠ったら、機嫌が直ってオバマの演説を自宅でプリントアウトしました。もう10年近く同じレーザープリンターを使っているので、給紙口でトラブルが増えているのですが。A4で15枚を打ちだそうとすると、いっぺんに4、5枚の用紙を吸い込んでしまうので、トナーの予備が切れたら退役でしょうか。それにしても長いので、辞書を引かずにざっと読んでみると、不思議な演説ですね。ブッシュも話が具体的すぎる印象がありましたが、オバマも同じ。ただ、オバマの方がやはり話がうまいなあと。文脈を読み切れていないので、気になるところはといえば、対中政策ですが、ついつい次のあたりは、基本的には経済に関する言及ではありますが、深読みしたくなります。

  But the truth is, these steps won't make up for the seven million jobs that we've lost over the last two years. The only way to move to full employment is to lay a new foundation for long-term economic growth, and finally address the problems that America's families have confronted for years.
  We can't afford another so-called economic "expansion" like the one from the last decade –- what some call the "lost decade" -– where jobs grew more slowly than during any prior expansion; where the income of the average American household declined while the cost of health care and tuition reached record highs; where prosperity was built on a housing bubble and financial speculation.
  From the day I took office, I've been told that addressing our larger challenges is too ambitious; such an effort would be too contentious. I've been told that our political system is too gridlocked, and that we should just put things on hold for a while.
  For those who make these claims, I have one simple question: How long should we wait? How long should America put its future on hold? (Applause.)
  You see, Washington has been telling us to wait for decades, even as the problems have grown worse. Meanwhile, China is not waiting to revamp its economy. Germany is not waiting. India is not waiting. These nations -- they're not standing still. These nations aren't playing for second place. They're putting more emphasis on math and science. They're rebuilding their infrastructure. They're making serious investments in clean energy because they want those jobs. Well, I do not accept second place for the United States of America. (Applause.)

 乱暴に要約してみましょうか。雇用に関連する法案を数多く通したけれど、この2年間に失った700万の雇用を戻すものではないよ。唯一の方法は長期的な経済成長なんだ。「失われた十年」のように、経済的な「拡大」では意味がない。職に就いてから、散々、野心的すぎると言われたけれど、外野はわあわあ言うだけさ。私は非難に向かってこう尋ねたい。私たちはいつまで待てというのか?アメリカは未来に向かって進むべきではないのか?中国もドイツもインドも待ってはいない。彼らは二番手に甘んじるつもりはない。中国やドイツ、インドは数学や科学に力をいれている。雇用確保の目的でクリーンエネルギーにも投資している。私はアメリカ合衆国が二番手に甘んじることを受け入れない。


 基本的には雇用と経済成長に関することですが、二番手に甘んじるつもりはないよというわけです。これが安全保障の問題として露骨に論じられると、さすがにひきますが。アメリカが「内向き」になるという懸念は常に存在しますが、この演説を読む限り、その心配はなかろうと。外交・安全保障では核拡散の問題で北朝鮮とイランが槍玉にあがっていますが、これとてアメリカ一国では片付く問題ではなく、ブッシュ政権とは異なる多国間アプローチをとらざるをえない以上、目標自体が野心的ではありますが、少なくともオバマ大統領は内向きならないように腐心するでしょう。全体として、この演説の狙いは、目の前にいる上下両院の議院、とりわけ共和党の議員なのでしょう。オバマは主として医療保険制度改革で超党派のコンセンサス形成に失敗しました。中間選挙を前に、超党派のコンセンサスを再度、形成するのは困難でしょうが、説得力は確保しておかなくてはならない。今年はオバマが大統領に"change"できるのかが問われるのでしょう。状況が状況だけにおそらく容易ではないでしょうが。幸運は、少なくとも短期的には極端な景気の落ち込みは想定しなくてすみそうだということでしょうか。これを持続的な経済成長につなげるのは容易ではないでしょう。

 一般教書演説ではテロや核拡散の問題(それ自体は重みを増していることは否定できませんが)に触れる程度で、伝統的な外交や安全保障についてはほとんど無視といってよいぐらい言及がありません。おそらく、述べることができなかった、あるいは避けたのではないかと。オバマがあえて語らなかったことを、Washington Postに2010年1月30日に掲載されたJohn Pomfretが"U.S. sells weapons to Taiwan, angering China"という記事で伝えています。ちょっと面倒ですが、私がプリントアウトして読んだのが、こちらの版です(メールで送られてくるリンク先でした)。ネットではこちらの版もあって、微妙に内容が変わっていますが、論旨は大きくは変わらないので、気にするほどではないのかもしれません。メールで配信されている版は紙媒体に掲載されたもので、ネットにアップする際に書き加えられただけなのでしょう。

 台湾への武器売却(記事ではパトリオットミサイル防衛システムおよびヘリコプター、掃海艇、通信設備)は、当然ではありますが、中国側の反発を招きました。Pomfretの記事では、反発の内容として興味深いのは、中国側の言辞や胡錦濤の訪米中止だけではなく、以前の「寝言」でもふれた、ロビイングの一環として、台湾に友好的な議員の選挙区で中国と取引をしている企業に圧力をかけようというあたりでしょうか。こうしてみると、対中外交では政経分離の原則など踏みにじるためにあるという国が相手なのだと実感します。逆に、中国側からみれば、オバマのように、経済重視の大統領はかえって話が難しいかもしれません。もちろん、米中関係は経済的関係に限定すれば、基本は互恵的な関係だと思うのですが、中国のインターネット事情をとりあげた際にも感じましたが、かつての日米通商摩擦とも異なる政治体制の相違が顕著になってきます(もっとも、日米経済摩擦では日本異質論に代表される体制の相違が問題にならなかったわけではないのですが、米中間の懸隔は比較にならないでしょう)。これらが台湾をめぐる米中の対立とリンクすると、どこかで抜き差しならない敵対的な関係に米中が陥るリスクがあることをPomfretは示唆していると思います。

 Pomfretが台湾海峡問題の周辺として米中の利害が対立する第一に挙げているのは、対イラン制裁です。記事によると、クリントン国務長官は、パリのEcole Militaireにおける発言で、「中国は核武装したイランが湾岸を不安定化することを理解しなければならないだろう。中国は、原油の供給に関して多くの割合をこの地域に依存している」と述べたそうです。パイプラインでどの程度、海上輸送を代替できるのかはわからないのですが、基本的には警告ですが、かなり厳しい指摘でしょう。

 第2に、ロック商務長官は中国の開放性と法の支配に関して警告しています。Pomfretはグーグルの活動についてふれていますが、ここは留意が必要でしょう。前の「寝言」の続きはグーグルになりますが、まだ撤退すると決め打ちはできないと思います。第3に、オバマがダライ・ラマと会見する可能性があることを指摘しています。率直なところ、オバマに失望した大きな理由の一つは、ダライ・ラマとの会見を延期したことでした。延期ですから、どこかで会えば済むといえばそうなのですが、無期延期ではないかと失望していたところで、オバマ政権が水面下で会見を実現しようとしていることがうかがえます。

 上記のことを指摘した上で、Pomfretは台湾が中国にとって最も注意を払っている問題だと述べています。記事で紹介されている「(台湾への武器売却は)内政干渉だ」という中国外務次官の発言は典型でしょう。この記事では、中国の言い分は言い分として紹介した上で、"The United States says weapons sales to Taiwan help to maintain stability in East Asia by making it more difficult for Beijing to bully Taiwan"(「合衆国は台湾への武器売却によって、北京が台湾を弱い者いじめすることをくじくことによって東アジアの安定が維持することに資すると述べている」)と赤裸々といってもよいぐらい台湾海峡をめぐるバランス・オブ・パワーの視点を明確にしています。さらに、"The United States is legally obligated to provide weapons for Taiwan's defense, under the Taiwan Relations Act"と指摘して、台湾への武器援助の根拠となる台湾関係法を指摘して、今回の武器援助が単にブッシュ政権下の決定を実行しているだけでなく、中国の内政干渉だという主張に反駁しています。

 さらに驚くのは、F-16 C/Dの売却に関して、これが現時点で実施されなくとも、老朽化しつつある台湾の航空戦力の近代化をオバマ政権が拒否しているわけではないと指摘していることです。国防省は、F-16の売却を根拠づけるために、中台の制空権に関する分析レポートをまとめていると指摘しています。

 最後に、1989年の天安門事件までアメリカが中国にブラックホークを売却していたことを指摘しています。興味深いことに、四川大地震の後、中国政府はヘリ部品の購入を要請しましたが、アメリカは拒否したと指摘しています。これがブッシュ政権下の話なのか、オバマ政権下の決定なのかははっきりしませんが、台湾海峡が東アジアのバランス・オブ・パワーの中心であることはブッシュ・オバマ両政権で変わらないことを実感します。


 記事の紹介で手一杯になってしまいましたが、New York TimesもAP電の"China Suspends Military Exchanges With U.S."という記事で中国側の反応を伝えています。この一事で米中が決定的な対立関係に入ったと述べるつもりはありません。本音をいえば、米中対立よりも米中が友好的な方が日本人にとって得でしょう。また、中国も今回の反発にもかかわらず、必死にアメリカと決定的な対立関係に陥ることを避けようとするでしょう。しかし、台湾海峡にこだわる限り、経済においても互恵的な関係を築くのは容易ではなく、常に米中が後戻りができない対立関係に入り込むリスクがあることを忘れるべきではないと思います。私のあてにならない見通しでは、経済の次元では利害が一致する側面と利害が相反する側面のどちらが優位に立つのかは、より政治的な、台湾海峡問題、それも戦争をも含む軍事的要因が決定的だと思います。『戦略の本質』を読み返したせいかもしれませんが、経済というのは社会を動員できる資源の可能性と効率の側面から捉える視点であって、社会の動き全体は、やはり政治の役割が、決定論的な見方には与しませんが、より強い方向性を与えるように思います。

 中国の今回の反発は自分にとって不利な外国の行動に対してとにかく声を大きく上げるという、中国の流儀を反映しているのでしょうが、やはり台湾を諦める用意がないことを示していると思います。同時に、中国側からすれば、オバマ政権を試している側面もあるのでしょう。アメリカの歴代大統領は、タフな決断に堪えてきました。冒頭で紹介したオバマの演説は、台湾海峡問題とは直接の関係はありません。しかし、二番手に甘んじることをよしとしないことはアメリカの大統領に共通する性向でしょう。中国の圧力をしのぎ、ときにははねのけながらオバマは進むことができるのか。金曜日にはずいぶんと断定的なことを書きましたが、現段階では撤回です。ただし、オバマが大統領に"change"した場合の決断はけっしてこの国の立場を容易にするわけではないことにも留意すべきでしょう。連立政権はたかが普天間基地問題で右往左往していますが、日米同盟の強化というお題目を離れて(同盟強化を図るべきではないという意味ではないですよ)、自国の利害を冷徹に見極めてゆけば、この国の選択肢はあまりないことに気がついてほしいと願います。
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