2010年03月16日

カンダハールの憂鬱

 『寝言@時の最果て』を書き始めたのが、2006年の2月13日だったんだなあと。感慨もないのですが、書き始めた頃には4年も続くとは思わなかったです。右サイドバーが異様に長くてみっともないなあと思って整理しました。カテゴリーを整理して減らしたり、過去ログの表示を減らしたりしましたが、意外と不便なので、過去ログだけは元に戻しました。なぜ、2月13日を選んだのかは覚えていないのですが。4年も「寝言」が続いているのも驚きますが、私自身が生きているというのも想定外でして、なんだか面倒くさいなあと。厭世とも異なる感覚でして、大した運動もしていないのにお腹が空いて食べるのも億劫ですし、仕事で目先のことに追われるのもバカバカしい。ただ、高校生時代に人間の営みや社会にも自然科学のような法則性があるのだろうかという疑問をもちつつ、なんの答えもえられないまま、くたばるのでしょう。この程度の見通しなら、確実です。4年前に書いた「寝言」からあまり進歩がないものだと苦笑します。

 国内の話はなんだか興味がわかないです。もう何年かぶりに『痛いニュース』を見ていたら、この記事がなんだか象徴的だなあと。よその都道府県のことと片付けられない光景が日本全体で起きているような感覚ですね。金融機関、とくに地銀は融資先がなくて国債を買っている国では将来はお世辞にも明るいとはいえないのでしょう。

 クルーグマン先生が"Taking On China"というコラムをNew York Timesに掲載しました。コラム自体よりもコメントや海外のブログなどの反応を見ていると、米中関係というのは経済の面でも補完的な関係になるのは非常に難しいのかもしれません。どうも最近、過度に悲観的に物事を見ているような気がしますが、私自身は米中対立というのは日本にとっては避けられるのなら、生じない方がよいだろうという感覚で見ております。米中関係を見るときに、経済では協調、安全保障では対立という図式では整理できず、現状では協調の余地が、少しずつではありますが狭まってきていると思います。"China's Swan Song"をとりあげたのは、一見、政治色が薄い、理屈っぽいコラムでも、元の切り上げという結論がありきになっている側面もあるからです。リベラルにもあこがれることがあるのですが、自分が愚劣だということもあり、世間の人はもっと怜悧なんだろうけれど、同じ程度に愚劣なんだろうなという「寝言」が浮かびますね。

 まあ、そんな「寝言」ばかりが浮かぶ日々ですが、オバマのアフガニスタン増派はなんとも重苦しいものを浮かべます。「オバマはアフガンに沈む」という「寝言」を書いたこともありますが、「イラクよりも『出口』が見えないアフガニスタン(続き)」という「寝言」で書いたカンダハール情勢が気になります。なんとなく憂鬱ですので、自分の思い込みを強化する情報ばかり拾っているのではと自分自身に懐疑的になりますが、Washington Postが2010年3月14日付で配信したKeith B. Richburgの"Kandahar slides into lawlessness as Taliban attacks force government to retreat"という記事を読みながら、重苦しい気分になりました。

 この記事は、Abdul Majid Babaiが2月24日に射殺されるに至った描写がメインになっていますが、以前の「寝言」でメモした"In Kandahar, a Taliban on the Rise"という記事の内容と酷似しており、ヘルマンド州での軍事作戦が開始した後でもカンダハールの治安が悪化していることが、新しいとすらいえると思います。米軍の作戦そのものは成果を挙げていますが、タリバン掃討戦が軍事行動としてどの程度の成果をもたらすのかはわかりません。この記事では、ヘルマンド州はカブール政府のコントロールが及んでいない地域だと指摘されています。対照的に、カンダハール市は、カルザイの甥の影響下にはありますが、治安は米軍の軍事行動の開始とともに悪化の一途をたどっていると指摘しています。イラク安定化に貢献した2008年の作戦は、イランの支援を受けたシーア派勢力を抑えるのに成功する一方、バスラの戦いにおいて"AL Quds"との休戦が成立するなど、武装勢力を単に掃討するだけではなく、妥協も成立しています。現時点ではタリバンは妥協に応じる姿勢を見せておらず、イラク安定化をアフガニスタンで実現するのははるかに困難だと思います。

 この記事で、最も重要な描写は最後のパラグラフです。

  Abdul Satar, a former Taliban minister of refugees and returnees who switched sides a year ago, estimates that there are 3,000 to 4,000 active Taliban fighters in Kandahar province, and he said people assist the Taliban not out of loyalty, but out of fear.

  "The majority of people say they are afraid of the Taliban," said Satar, who works as a paid adviser to the government's reconciliation commission in Kandahar. "But they are better than the government, because the government is so corrupt."


 Abdul Satarは、タリバンからカルザイ政権に立場を移した人物で、カンダハールの調停委員会のアドバイザーを務めているとのこと。彼によれば、カンダハールにおける活発なタリバン戦士は3,000から4,000とのことで、数だけ見れば、タリバン掃討は容易だとすらいえるのでしょう。しかし、Satarによれば、「カンダハールの住民は、タリバンへの忠誠ではなく恐怖からタリバンを支援している」と述べる一方で、「大多数の住民はタリバンを恐れているが、カンダハールの政府があまりに腐敗しているため、タリバンの方がマシだ」とも述べています。

 単に、タリバンを傷めつけるのなら、現状の作戦は成功するかもしれません。問題は、軍事行動がいかなる政治的な目標と合致しているかという点です。タリバンを傷めつけたら、アフガニスタンがどうなろうと撤退というのが米軍にとっては最も犠牲が少ないでしょう。米軍撤退後、アフガニスタンの統治や治安がどうなろうがタリバンさえ叩けば、「テロとの戦い」に、露骨に表現すれば、形づくりができるのでしょう。NATOも解放されます。あとは野となれ山となれというのがオバマによるアフガニスタン戦争のたった一つの「出口」なのかもしれません。なんとも無責任ですが、アメリカにとって最も傷が浅いというの率直な実感です。


 イラクの選挙後、様々な憶測や噂がとびかっているようです。New York Timesが3月15日付で配信した"Enigma Wrapped in Rumor: Maliki’s Hospital Visit"という記事などは、その典型です。軍事的にはイラク安定化に成功したものの、占領統治では言論統制が行われませんでした。言論統制を肯定すれば、現代の民主主義国では、危ない人物として抹殺されるのでしょうが、民主化のプロセスでは反米的な論調やアメリカの意を受けているとみなされている政権への誹謗中傷を抑えるために、最低限、事実とは反する言論へのチェックがなければ、コンセンサス形成は困難です。雑に言っても、シーア派、スンニ派、クルド人などを一つにまとめるのは困難であり、さらに、シーア派内部でも対立があるという状況では、ある程度の強制力がなければ、国としての成立があやうくなります。

 米軍の存在は、イラク人にとっておそらくそのような解を見出すための重石でもあるのでしょう。したがって、不満も生じることもあります。アメリカからすれば、イラクに疲れていることもありましょうし、悪名をおそれてイラクから撤退するというのも選択肢としてはありうるのでしょう。しかし、イラクが反発もありながらも、米軍の存在の元に部族や宗派間対立をへながらコンセンサスに至る過程で親米までゆかなくても、米軍の存在を許容する国家になれば、アメリカの中東戦略ははるかに選択肢が広がります。

 対照的にアフガニスタンの場合、アフガニスタンそのものよりもパキスタンの安定化と反米的な風潮の抑制が肝心でしょう。もっと、冷たく表現すれば、イラク安定化ほどアフガニスタンそのものに深入りする必要はないと思います。もっとひどいことを書けば、アフガニスタンではイラクよりもはるかに米軍は信頼をえています。ヘルマンド州での軍事行動によって、カンダハールの治安が悪化していますが、基本的にはタリバンとカルザイの対立です。米軍そのものに対する反発は強くないでしょう。しかし、道義の面からアフガニスタンにおける軍事行動を「テロとの戦い」と位置づけ、目標を「勝利」とする限り、カルザイ政権を支えざるをえず、深入りせざるをえなくなるリスクがあります。冷たく、アフガニスタンにタリバンを封じ込めた上で、アフガニスタンからの撤退の「出口」を徹する方が好ましいのかもしれません。
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