2010年03月30日

レガシーコストの増加とプロテクションレントの上昇

 どうでもよいのが国内政治という「寝言」ですべて終わりです。あんなものを真面目に考えようという人が少なくないことに、民度が高いのか、他に楽しいことがないのか、頭を悩ませてしまう程度には「外道」ではありますが。そんな私でも『日経』の一面ぐらいは斜め読みをするわけでして、ああ、やっぱり大変だなあと。まずは、トップの厚生年金基金で想定はしておりましたが、データをどこでとればよいのかわからないので留保付きではありますが、運用収益の悪化で基金の4割程度が積立金を崩すという状態だそうです。

 この手の話はだんだんとバカらしくなって、若者に向かってご高説をのたまう高齢の方から給付の削減もやむなしという主張がまったくといってよいほど見当たらないのが象徴的だろうと。『日経』の記事は「運営経費を賄うため保険料率を上げる基金も出てきそうだ」と結んでいますが、過去に積み立てた分よりも給付が上回る事態もそう遠くはないんだなあと。露骨に言えば、年金改革は給付ができなくなるまで追い込まれない限り、絵に描いた餅にしかならないので、論じるのもバカバカしい。はっきりしているのは、JALの再建をめぐる議論が残してくれた教訓というのは、よほどのことがない限り、年金受給者というのは自らの権利のみを考慮して、その費用にはまったくといってよいほど鈍感だということでしょうか。というわけで企業の事業活動と国と地方の財政が破綻に追い込まれるまで、この国の高齢者は食いつぶして下さるのでしょう。まさに焼け野原が残るというわけです。さすがにタイトルでは控え目に「レガシーコストの増加」としましたが、「孫子の世代にツケを回さない」とかおっしゃるのだったら、さっさと二葉亭四迷(以下略)。

 てなわけで、論じることが難しいので「寝言」なんですが、現行制度の下では、現役世代が自由に使える資源がますます乏しくなる一方でしょう。他方で、政治がこれを変えるという兆しはまったくなく、お金の使い方を知らない、働いていない人たちの生活を賄うために現役世代が働くという状態が10年程度は続くのでしょう。いってみれば、日が照っているのにまったく気温が上がらないような気候でして、これで現役世代がダメだから日本社会はダメになるとか言われるのは笑止千万というところでしょうか。

 そんなわけで年金一つでも動脈硬化が著しい日本社会ですが、それでも外敵への備えがきちんとしていれば、寿命を延ばすことも不可能ではないのでしょう。『日経』の「日米安保50年」という左上の連載を読んでいましたが、副題が「同盟の寿命」とありまして、こちらもそろそろいつ切れてもおかしくないかなと。日英同盟が廃棄されたような形での日米安保廃棄はないだろうと思いますが。周囲が中国を筆頭に軍拡に走る中、防衛費の漸減が続く日本というのは日米安保がなければ、真っ先に攻撃して下さいとお願いしているようなもので、なんとも滑稽ですなあ。自分では血の犠牲は嫌でございます。米軍がなんとかして下さい。でも基地はどこも嫌がりますときますと、専門的な議論などしなくても、日米安全保障条約が紙切れ同然になるのは必然かと。まだ基地問題でアメリカ側が話し合おうという姿勢をもっているのを見ると、アメリカ人というのは辛抱強いものだなあと。確かに、日本は朝鮮半島と台湾海峡という地政学上のリスクを抑えるには適所で米軍がここを捨てることはないといってよいのでしょう。他方で、日本防衛の義務は間違っても口には出さないでしょうが、米軍からするとバカバカしくなってくるかもしれません。糖尿病に心臓発作をしている人が、車にはねられたらどうなるか。健全な状態でも大変ですが、かなりの確率で死ねそうです。

 というわけでとりとめもなく、日本社会が直面し、なんらかの解を見出さない限り、社会の存続が困難になる問題はレガシーコストの増加とプロテクションレントの上昇であろうと。その上で、頓死を避けようとするのなら、やはりプロテクションレントの上昇に対応することに高い優先順位をつけるのが望ましいのでしょう。あまりに大雑把ですがMD関連を含めて防衛費を倍増するには消費税率2%の引き上げで済みます。他方で、消費税率の引き上げ分を防衛費に回すというのは政治的に説得することはほとんど不可能でしょう。北朝鮮がミサイル実験と核開発を行っても、防衛力を高めることがコンセンサスには至りませんでした。単に防衛費だけではなく、ミサイル防衛に関連する集団的自衛権の行使を可能にすること(これは最低のラインでしょう)や防衛というハードとともに中国の台頭へ関与と抑止(要はアメとムチですが)で日米が共同で外交的に対処することなどが含まれるでしょう。

 現政権ではこの問題でも害をなすだけでしょうが、安全保障へのコンセンサスが生まれるための一時的な混乱ならば、耐えられないというほどでもありません。他方、北朝鮮という、中国よりもはるかに軽率な国家の脅威でさえ、コンセンサス形成ができなかったことを考慮すると、民主党中心の政権であろうが、自民党が再生しようが、その他の合従連衡であろうが、安全保障に関する優先順位を高めるコンセンサス形成は非常に困難でしょう。「武備を忘れざる者は良く成るを守る」というのは至言だと思いますが、それを実行するには高い政治的リーダーシップとともに、それを受け入れる被統治者の理解、あるいは諦念が不可欠でしょう。どちらも欠いた国の運命は、偶然に委ねられるだけであろうという「寝言」が浮かびます。


 高坂正堯先生は1980年の冷戦期にプロテクションレントの上昇に警鐘を鳴らしていましたが、冷戦期以降、1990年代には一時的にその傾向が収まった時期がありました。また、1990年代は日米が主として経済面で対立した時期でもあります。この時期に米軍と自衛隊の関係にはさほど影響がなかったのかもしれませんが、ヨーロッパでの緊張が大きく和らいだことから、アメリカ側の対応に経済面での利害対立を安全保障上の利害の一致を優先させる傾向があったことも否定できないと思います。日本に至っては「景気との戦争」に「戦力」を逐次投入して安全保障への優先順位は、現代の民主主義国ではかならずしも特異なことではないと思いますが、非常に低い状態が続きました。

 流れが変わったのはやはり小泉政権からでしょうか。それは、むしろ小泉政権の「構造改革」によるものというよりも、高齢化にともなう年金の問題でした。いわゆる「年金不安」の発端は資産価格の低迷による運用実績の悪化でした。いつの間にか年金未納や「消えた年金」へと焦点がぼけてゆきました。両者の問題が決してどうでもよいというわけではありませんが、小泉政権で「景気との戦争」への過剰な資源配分が終わった一方で、年金制度をはじめとする社会保障制度の再設計が、小泉政権下では他の論点が目立ったいたために地味な扱いでしたが、進められようとしていました。

 他方、安全保障に関しては小渕政権下における周辺事態法や小泉政権下における武力攻撃事態対処法などの有事関連法が整備されました。この時期には、日本がアメリカとの協力関係があれば正面装備などの整備は現状維持であっても、極東における紛争を抑止することができるという暗黙の前提があったのでしょう。また、テロとの戦いは古典的な国家間紛争の問題を曖昧にする部分があったと思います。9/11がなければ、「アジア2025」に沿って中国への抑止の問題へより重点が置かれていたのでしょう。ただし、アフガニスタンやイラクでの自衛隊の活動は、海外での武力行使を避ける形であったとはいえ、日米関係を強固にしました。他方、その間に中国は経済成長を遂げただけではなく、成長の果実を、実態はヴェールに包まれているとはいえ、軍事に注ぎました。小泉政権の末期には、中国との軍事バランスが微妙な段階に入ったことは意識されていたと思います。

 社会保障と安全保障の間には直接の関係はありません。一方は、基本的に財政トランスファーの問題であり、他方は、経済からみれば公共財への資源配分でしょう。しかし、財政支出という面からみれば、明らかに両者はトレードオフの関係にあります。もちろん、財政に余裕があれば、トレードオフの関係は緩和されます。現状では、トレードオフの関係が前面に出ており、政治的リーダーシップがなければ、おそらくは社会保障の問題が安全保障の問題よりもはるかに高いプライオリティを与えられるでしょう。

 この点を説得するロジックがなければ、どんなに高踏的なレトリックを用いても、社会保障関係費が増えるばかりで防衛関係費は圧迫される一方でしょう。安全保障の問題に戦後の反戦平和主義の主張が妨げになったことは否定できないと思いますが、1980年代にはイデオロギーの問題が現在よりもはるかに濃厚であったのにもかかわらず、F-15や対潜哨戒機、イージス艦の導入などが進みました。今日、イデオロギーの問題が希薄であるのにもかかわらず、安全保障へのコンセンサスが広がらないのは、結局のところ、社会保障にプライオリティが置かれている現状を理解した上で説得する現実的な感覚の持ち主が皆無だからなのでしょう。
posted by Hache at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 気分しだいの寝言
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