2010年04月19日

混迷する普天間飛行場移設問題とグアムへの海兵隊の移動 問題を複雑にするルーピー鳩山の混乱

 米中は一時休戦というところでしょうか。中国はベネズエラに20億ドルほど突っ込むそうで("China Gives Venezuela $20 Billion", Wall Street Journal April 18, 2010 (参照))。おまけに、Petroleos de VenezuelaとChina National Petroleumが6対4の出資比率で合弁企業もつくるそうです。中国の資源外交は、アメリカの裏庭まで到達しつつあります。その対象の多くは、非民主主義国であり、反米色が強い国でしょう。対イラン制裁に関する中国の協力は、たぶんに行動の自由をえるための方便でしょう。中国共産党の意図は知りませんが、やっていることは結果として反米色が強い国との協力になっています。あえて割り切った表現をすれば、米中は事実上、勢力圏争いをしていると見た方がよいと思います。

 以下は、一国の首相に対して非礼を多く含む表現が出て参ります。それでもご不快にならないという方だけ、お読みください。


  そんな状態で国内情勢を見ること自体、苦痛ですが、普天間問題は暗礁に乗り上げた状態であることを確認せざるをえません。核セキュリティ・サミットにおける日米首脳会談でのオバマ米大統領の発言を時事通信が配信し、ルーピー鳩山(正直に本来の肩書を打つこと自体が苦痛だと申し上げておきます)が打ち消す発言をしました。『読売新聞』が4月18日にネットで配信した「『実現できるのか』米大統領、鳩山首相に疑念」という記事ではルーピーの耳にも聞こえたであろう、"Can you follow through?"というオバマ大統領の言葉を引用しています。自国の首相ではなく、同盟国とはいえ他国の元首の言葉を信用せざるをえないという事態そのものが苦痛ですが、もう言い逃れはさせませんよという雰囲気ですね。キャンベル国務次官補も4月の訪日を取り消すそうで、ほぼ普天間飛行場移設問題は凍結したとみてよいのでしょう。同じく『読売』ですが、「米の鳩山政権不信、頂点…5月決着『期待せず』」という記事も補足の説明をしています。まあ、アメリカ側が合理的なら下記の話はごく自然でしょう。

 米政府が鳩山政権と距離を置く姿勢を示しているのは、実現不可能な案と知りながら協議のテーブルにつけば、鳩山政権が普天間移設問題を決着できない責任を米側に押しつけようとするのではないか、と懸念しているためだ、との見方も出ている。


 アメリカ側の意向はわかりませんが、普天間飛行場を固定化させようという予断はないのかもしれません。問題は、相手がルーピー政権であり、話し合うほど日米関係がこじれるという大人の判断とルーピーの相手をするのはもはやオバマの忍耐力をもってしても無理という状況なのでしょう。この件に関しては、発端はルーピー鳩山の持論である「常駐なき安保」が根源であり、ルーピー鳩山が去った後の解決が現実的なのでしょう。

 アメリカ側の主張は、1996年の「SACO最終報告」(いわゆる「SACO合意」 参照)、2006年の「再編実施のための日米のロードマップ」(参照)、2009年の「在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定」(参照)などを踏まえたものでしょう。1996年の「SACO最終報告書」では普天間飛行場の返還・移設をはじめ、沖縄における米軍基地の施設・機能が移転されることが日米で合意されています。それから2006年の「再編実施のための日米のロードマップ」では「日本及び米国は、普天間飛行場代替施設を、辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置し、V字型に配置される2本の滑走路はそれぞれ1600メートルの長さを有し、2つの100メートルのオーバーランを有する」としています。同時に、代替施設の完成は2014年を目標とすると定められています。これに加えて、約8000人の海兵隊のグアム移転が定められました。なお、2009年の「在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定」では、「移転は、ロードマップに記載された普天間飛行場の代替施設の完成に向けての日本国政府による具体的な進展にかかっている。日本国政府は、アメリカ合衆国政府との緊密な協力により、ロードマップに記載された普天間飛行場の代替施設を完成する意図を有する」とあり、グアム移転は普天間飛行場の代替施設と切り離すことができないことが明記されています。

 普天間飛行場の移設や海兵隊のグアム移転は、ブッシュ政権下でラムズフェルドが進めた「米軍再編」の一環ではありますが、その文脈だけでは理解することは一面的なのでしょう。『世界の論調批評』の「米韓の戦時作戦統制権移管」(2010年3月3日)という記事では次の論評があります。

 翻って、沖縄についての合意にも似たような背景があります。伝え聞くところによれば、ラムズフェルド訪日の際、沖縄県知事が、米軍駐留は沖縄県の負担だと訴えたところ、それに対してラムズフェルドは、米軍は日本防衛のためにいるのに、それが負担だと言うなら出て行くと言って、海兵隊の一部グアム移転が決まったということです。ただし、発端の経緯はどうあれ、いったん上部で決定された以上、米国の国防省、国務省の事務当局は心血を注いで西太平洋全体の米軍再編の大計画を書き上げ、予算まで計上しており、今はその実施の成否が今後の日米関係にも大きな影響をもたらすような状況になっています。


 ラムズフェルドのやや粗暴な決断が現在の事態を招いている側面もあるのでしょう。他方で、上記の論評で指摘されているように、ラムズフェルドの独断から始まったとはいえ、政権交代前までは普天間飛行場の代替施設となる辺野古への移転作業は、順調とはいえないまでも、進んでいました。むしろ、問題は、海兵隊のもう一つの移転先であるグアムです。Washington Postが2010年3月22日に配信したBlaine Hardenの"On Guam, planned Marine base raises anger, infrastructure concerns"という記事では、受け入れ先のグアムの状況を描写しています。記事では普天間飛行場だけではなく、米軍の諸施設を受け入れるための道路の改善や病院の建設など、インフラストラクチャーの整備とその財源の問題で停滞していることを描写しています。また、グアムでは当初、経済振興という点で歓迎されたものの、移転作業のプロセスでアメリカによるグアムに対する古臭い植民地支配ではないかという反発も生じています。さすがに最近は普天間飛行場の国外移転という意見は目にしなくなりましたが、グアムへの移転というのはアメリカ国内におけるグアムの独特の地位を無視した、単なる空理空論といってよいでしょう。

 やや話がそれますが、『読売』の記事では「過去の日米首脳会談では、90年代の貿易摩擦などの際、大統領が日本の対応を批判するなど双方の主張がぶつかったことはあるが、大統領が首相個人に対する不信感を口にするのは、極めて異例だ」と論評しています。私自身は、1970年代以降の貿易摩擦においては日本側に非がなかったとは思いませんが、アメリカ側の対応はあまりに問題が多かったと思います。自動車における自主規制などは自由貿易の原則からの明らかな逸脱であり、これを日本側がのんでしまったことは、当時の日米関係を考えれば、外交当局を責めるのは酷な印象もありますが、「無理が通れば道理引っ込む」というアメリカ側の姿勢を抑えることはできず、自由貿易体制に管理貿易を持ち込むという惨めな状態が続きました。『読売』の記事では1990年代の貿易摩擦となっていますが、この段階では日米経済摩擦といってよい段階でしょう。ブッシュ政権の日米構造協議に始まり、クリントン政権下での日米包括経済協議は岡崎久彦さんの『繁栄と衰退と』を思い浮かべるぐらい、強者が弱者を威圧する醜悪なものでした。

 対照的に、今回の普天間飛行場移設をめぐる混乱は、会う人に心地よいことばかりを述べるルーピー鳩山の異常な人格による部分が大きいといってよいでしょう。確かに、日本国内にある米軍基地が沖縄に集中している現状は決して好ましいものではありません。それを軽減することが可能ならば、私自身は歓迎すべきことだと思います。しかし、昨年の衆議院議員総選挙でルーピー鳩山は沖縄県民にとって心地よいことばかりをお題目として述べ、日本の安全保障をいかに担保するのか、その観点から沖縄に対して負担を求めるという耳障りなことは避けました。このことは単に場当たり的であっただけでなく、より根源的には、ルーピーらしく、「駐留なき安保」という理想論に根があるのでしょう。現実に政権を担えば、そのような理想は幻想にすぎず、連立パートナーの社民党と理念的には近かったために、混乱を招きました。ルーピー鳩山の下では普天間飛行場の移設問題の解決は、ほとんど困難な状況に至っています。

 問題は、ルーピーが退陣して他の人物が首相になれば収まるのかという点です。ルーピー鳩山は、私の記憶の範囲では比較するべき対照すら思い浮かばない、最悪の首相です。しかし、ルーピーが退陣したところで、現在の混乱を収めるだけの指導力を発揮できる人物が連立与党にいるとは到底、思えません。現内閣の閣僚は、今日の事態に責任が大きいとはいえ、その点を免除しても、現在の混乱を収めるだけの力量を感じさせる人物はいないというのが実感です。これまで防衛政務官へ期待をしていましたが、小泉進次郎氏の衆院安全保障委員会において、ヘラヘラと笑っていたり、バカにしたように私語をする姿を見て、政権獲得前はご立派なご託宣を言っていたが、この程度の人物かと失望しました。ここで迂闊にルーピー鳩山が退陣しても、次の人物がルーピーと同程度か、悪くするとさらに混乱を招くリスクが高く、そうなれば、アメリカ側は普天間飛行場問題で民主党中心の連立政権への信頼を完全に失うでしょう。おそらく、普天間飛行場の問題に限らず、日米安保体制全般にも影響がおよびかねません。これまでのオバマ政権の対応を見ている限り、アメリカ側が腹に据えかねることが連続しても、日米安保を切ることはないと思います。しかし、日米関係が不安定な状態では互恵的な側面以上に敵対的な側面が、経済でも安全保障でも目立っている米中関係をマネージすることに困難が生じるでしょう。このことはアメリカの問題というだけではなく、日本の安全保障環境も悪化することを意味するでしょう。

 したがって、現状ではルーピー鳩山がどんなに悪いとしても、当面、続投する以外にないと思います。問題は、日米の首脳間の不信感が続いている間に、現状の政権の枠組みを変えないのならば、日米同盟を重視するコンセンサスを与党間で構築し、指導力の発揮できる人材を場合によっては現在の連立に参加していない政党からお願いするしかないのでしょう。この半年間、ルーピー鳩山政権が破壊した関係を修復するのは容易ではないのでしょう。安直にルーピー鳩山が退陣すれば済むという段階を超えていると思います。もちろん、個人的には今日にでも退陣して頂きたいのですが、次にくる人物がまたしてもloopyならば、日米関係は危機に瀕するでしょう。小泉−ブッシュ時代に築いた首脳の信頼関係は完全に失われました。また、小泉政権時代の日米蜜月は、首脳間の特異な関係に依存していたとはいえ、ナイ・イニシアチブ以来、日米の外交・安全保障当局が築き上げてきた信頼関係によるところが大きいでしょう。ルーピー鳩山の糞害は、首脳間の信頼関係とともに、事務レベルでの信頼関係をも浸食しているのでしょう。これを修復するためには再び10年近い歳月が必要かもしれません。当座は、やはり単なる首のすげ替えではなく、民主党をはじめとする与党が、前政権までの遺産(多くは失われてしまったかもしれませんが)を受け継ぐ態度を明確にすることでしょう。ほとんど絶望的ですが。
この記事へのコメント
岡崎久彦にしろ櫻田淳にしろ経済学を理解していないから、彼らの使う国益は定義が曖昧だ。
ブッシュのイラク侵攻に反意を示したカナダしろ、米軍の領域通過を拒否したトルコにしろ08年までは順調に経済成長している。むしろ日本一国が95〜08のあいだ名目成長していない。
これは小泉構造改革が不徹底だったからではない。単に日本一国がデフレだったからだ。
その意味で日本がアメリカを多少怒らそうと国益には殆ど関係ない。

アメリカが日本にいるのはアメリカの好意ではなく、メリットが多いからだ。この当然の事実が鳩山首相の愚行により、炙り出されれば日本の国益になる。
Posted by まぐ at 2010年04月21日 21:54
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