2010年04月25日

オバマ政権の理性崇拝へのNATOの賢明かつ慎重な留保(後編)

 帰ってきて『日経』の夕刊を見たら、「普天間移設 『現行の辺野古案受諾』」とありました。ほおと思って読むと、米紙、それもワシントン・ポスト紙の報道とのこと。嫌な予感ですね。あれかなと思って、リーダーで開くと、やはり、John Pomfretの"Japan moves to settle dispute with U.S. over Okinawa base relocation"という記事でした。『日経』の記事では電子版となっていました。Pomfretが伝えるところでは、オバマ大統領は"During the 10-minute encounter, Obama told Hatoyama that the two countries were "running out of time" and asked him whether he could be trusted."と語ったとのこと。日米両国は時間を浪費してきたと述べた上で、「信用できますかね」というわけで、かなり厳しいですな。この記事は、観測記事の匂いもします。

 辺野古への移設を概ね受け入れたとしても、それが交渉のスタート点にすぎないということが米政府関係者の話として示されているからです。向こうは、日本政府の手の内を知っていて、辺野古案以外ではまとめられないことを読み切っていると思った方がよいのでしょう。さらに中国の挑発にも触れています。

  Other events might also have pushed Tokyo to modify its tune.

  In mid-April, warships from China's navy conducted one of their largest open-water exercises near Japan. China did not inform Japan of the exercise, and during one of the maneuvers a Chinese military helicopter buzzed a Japanese destroyer, prompting a diplomatic protest from Japan.


 事前通告なしの演習だったわけで、アメリカさんと手が切れたらいつでも沖縄をとりに私たちが来るわよというシグナルを送って頂いていたわけですね(台湾より日本が先に一国二制度を適用されるのかもね。本州ぐらいかな、香港程度の扱いを受けるのは。沖縄は直轄領でしょうね。地図を見れば、太平洋の西側を支配するための要衝ですから)。ありがたや、ありがたや。止めを刺すようにPomfretは、"loopy"を一躍、流行語にしたAl Kamenのコラムと4月14日の党首討論の内容にも述べています。

 Hatoyama also has faced pressure from inside Japan. When Washington Post columnist Al Kamen deemed Hatoyama the "loser" of the summit in a column on April 14, it caused a media storm in Japan. On Wednesday, Hatoyama surprised many in the Diet, Japan's parliament, by seeming to agree with the thrust of the piece.

"As The Washington Post says, I may certainly be a foolish prime minister," he said, because he had sought to reopen the Futenma issue. "If I'd settled . . . last December, I can't say how much easier things would have been, but we weren't in a situation where we could work on reclamation work," he said, referring to long-standing opposition in Okinawa to Futenma's relocation to a landfill site on its east coast.


 「愚かな」が"foolish"になっているのがポイントですかね。『時事通信』がネットで配信していた「最近の首相発言のぶれ」という記事はコンパクトで、内外政ともに混乱していることを簡潔にまとめてくれています。

「全身全霊で、ある意味、当然命を懸けてという思いも含めて、職を賭すというのはそういう思いで連日努力している」(同日夜、記者団に)

 次の段階として矢印がついて「?」となっているのは異例ですな。正常な読解力があればわかるだろうってことでしょうか。それにしても、まあ鳩の首を使うとしたら、名護市で焦げ臭い鉄板の上で土下座でもしてもらうぐらいですかね。本当に、使えねー。

 そんなわけで、オバマ大統領のあやうさなんて書いていましたが、率直なところ、うらやましいですね。この政権と民主党が多数の国会で決まった子ども手当ても混乱だらけ。もちろん、政府は存在しますが、なんだか衆愚政を通り越して無政府状態に近いような。いや、トップがあのざまで、与党もでたらめで、それでも政府が一応、機能しているわけですから、日本の官僚というのは優秀なんだなあと、しみじみ感じ入ります。嫌みはまったくありません。事業仕分けという茶番で斬られ役までやっていただけるわけですから、公務員の年金は削減対象から外しても無問題です。グーグルでも「民主党 最悪 日本滅亡」(参考)が「官僚 最悪 日本滅亡」(参考)を上回りました。まあ、「自民党 最悪 日本滅亡」(参考)には両者とも勝てないのがなんともですが。

 日本政治をうっかり見ますと、めまいがしますが、気をとり直して、大西洋同盟とNPRです。チャーチルの胸像をイギリスに送り返すなど古女房に心ない仕打ちをしているオバマ政権ですが、NATOはさすがに核軍縮に「待った」をかけました。基地の外で基地外(くるっぽー)のせいで基地でゴタゴタしている日本の方がかまってもらえるという奇妙な状態になっているわけでして、なんとも悩ましいです。


 Washington Postからの引用が続きますが、たまたまでしょう。2010年4月23日に配信されたMary Beth Sheridanの"NATO seeks limits on plan for nuclear disarmament"という記事が手際よく、NATO側の事情を伝えています。ラスムセンNATO事務局長は、オバマ大統領の野心的な「核なき世界」を支持すると、4月22日に述べた上で、アメリカの核兵器がヨーロッパから撤退すべきではないと留保をつけました。NATOの内部事情も一枚岩ではなく、次のように、NATOの外相会議の内実を描写しています。

Some European politicians see withdrawal of the roughly 200 remaining short-range arms as a relatively easy way to support Obama's campaign to achieve "a world without nuclear weapons." The European Parliament recently branded the American bombs a "strategic anachronism," with little military value, and Germany has led an effort to remove them. Obama has called for putting the weapons on the table in the next round of arms-reduction talks with Russia.

But some European officials -- particularly in former Warsaw Pact countries -- worry that eliminating the weapons could send the wrong signal to Russia or other potential antagonists. U.S. officials acknowledged that Rasmussen's feelings are widely shared in the alliance.

 ヨーロッパの政治家の一部は、配備されている約200の短距離ミサイルが撤去されることは、オバマの「核なき世界」を実現するためには相対的に容易な手段だとみなしている。最近、欧州議会は、アメリカの核爆弾を、軍事的価値がほとんどない、「戦略的時代錯誤」だと決めつけた。また、ドイツは、アメリカの核兵器を取り除こうとしてきた。オバマは、ロシアとの軍縮対話の次の会合で短距離ミサイルを議題に乗せようとしてきた。

 しかし、他のヨーロッパ諸国、とりわけ旧ワルシャワ条約機構加盟国は、短距離核ミサイルの除去がロシアや他の敵国に誤ったシグナルを送ることになると懸念している。アメリカの政府関係者たちは、ラスムセンの感覚は同盟内で共有されていることを認識していると述べた。


 ヨーロッパとアジアで戦略環境が異なるという場合、主としてヨーロッパでも旧西側諸国を指しているのでしょう。旧ワルシャワ条約機構加盟国、あるいは東欧諸国は、ロシアに対する警戒心を解いていないのが現実です。ラスムセン事務局長は以上のことを踏まえて、オバマ大統領が進める核兵器の削減と核のリスクの低減に賛意を示し(理由がオバマがそういうから支持するというのがアメリカとNATOの力関係を象徴していると思います)、短距離核ミサイル削減についてもNATOは考慮する余地があると述べています。しかし、その上で、ラスムセンは、NATOの「中核の仕事」は加盟国を保護することであると述べました。その上で、次の発言が紹介されています。

"I do believe the presence of American nuclear weapons in Europe is an essential part of a credible deterrent," he said.

 「私は、ヨーロッパにおけるアメリカの核兵器のプレゼンスが、信頼できる抑止の不可欠な要素であると考えている」とラスムセンは述べた。


 NPR2010で示された、核拡散と核によるテロリズムへ最も高いプライオリティを置く発想からすれば、ラスムセンの発言はアナクロニズムでしょう。日本でも、「核なき世界」というオバマ政権のレトリックは理想主義の発露ではなく、現状の後追いにすぎないという見方も少なくありません。これは、伝統的な核抑止をあまりに軽視し、各国情勢を無視した単細胞的発想でしょう。

 他方、ヨーロッパは安全だがアジアでは中国をはじめ軍拡が続いているのだから、ヨーロッパの現状からアメリカの核抑止の役割を低下させることを低下させることは、アジアの不安定化を招くという主張もあります(参考)。私自身は、この意見に見るべきものが多いと思いますが、ラスムセンが"I do believe the presence of American nuclear weapons in Europe is an essential part of a credible deterrent."と述べたことが象徴するように、ヨーロッパ、とりわけ東欧諸国の安全保障環境をあまりに軽視していると思います。ベルリンの壁崩壊から20年以上、ソ連崩壊から20年弱が経過し、旧西側諸国の安全保障環境は大幅に改善しました。また、東欧諸国も自由と民主主義を獲得しました。しかし、東欧諸国とロシアとの間には東欧諸国のみではロシアの軍事力に対抗する力はなく、また、ロシアが軍事力を背景に東欧諸国に外交的な圧力をかけないという確実な保証をうるには至っていません。Washington Postで、2010年4月2日にCharles Krauthammerが"Obama's policy of slapping allies"というコラムで、次のように指摘しています。

  Poland and the Czech Republic have their legs cut out from under them when Obama unilaterally revokes a missile defense agreement, acquiescing to pressure from Russia with its dreams of regional hegemony over Eastern Europe.

 ポーランドとチェコは梯子を外されたのだ。オバマが、東欧における地域的な覇権という目標をもつロシアの圧力を黙認して、一方的にミサイル防衛に関する合意を破棄した。


 NPR2010では核拡散と核テロの脅威とセットでミサイル防衛を中心とする同盟国や友好国への拡大抑止の維持がうたわれていますが、現実には、核不拡散や核テロというアメリカの安全を優先する事態が進んでいます。もちろん、アメリカの核は、自国の安全を確保するのが第1でしょう。しかし、同盟国の安全を守るためには、「核なき世界」という理想を制限せざるをえません。冷戦期の思考がもはや時代遅れという発想が基調となれば、東欧諸国の安全はつねにロシアに脅かされ、冷戦期のように、直接的な武力行使(ハンガリー動乱やプラハの春)のリスクは低下しても、常にロシアの軍事的な優勢の下で東欧諸国は有形無形の圧力を受けるでしょう。

 また、NPRでは伝統的な抑止(やられたらやり返すという懲罰的抑止)よりも拒否的抑止(ミサイル防衛のように核攻撃をしてもムダな状態にして攻撃を抑止する)を重視する傾向が濃厚ですが、東欧諸国に対しては拒否的抑止すら提供しないというのは重大でしょう。オバマが提唱する「核なき世界」を実現に移す際には、実態は目先のイランや北朝鮮に目を向け、核不拡散のために中ロとの関係を重視する傾向が明確です。オバマの理性崇拝(内実は機械的に目的合理性を追っているだけなのかもしれませんが)の傾向は、意図せざる結果として、冷戦期の同盟国、冷戦後の新参国の利害が極端に軽視される傾向を生むリスクが高いことにも注意が必要でしょう。

 記事では、NATO側の懸念を受けてヒラリー・クリントン米国務長官が短距離ミサイルの撤去を急がない姿勢を示しました。また、伝統的な核抑止を維持することは根本的な問題だという認識を示しました。また、米軍関係者は弾道ミサイルで核抑止を維持できるという認識を示すと同時に、NATO諸国の懸念を認識し、NATO域外に核抑止の手段を配置することはないと述べたとのことです。しかし、これらの言辞も、これまでのオバマ政権の同盟国軽視の傾向を考慮すると、用心深く検証せざるをえないでしょう。

 NPR2010では図らずも、冷戦後の世界を再構築するという強い意思が示されています。しかし、このような「善意」が、冷戦期を支えた同盟国、東側陣営の崩壊後、アメリカの庇護下に入った国との関係を不安定化するリスクがあることを常に忘れるべきではないでしょう。合理的な行動が意図せざる結果を招くという、古代から人間を悩ませてきた難問にオバマがどのような認識をもっているのか。理性の限界というものに、オバマがどれほど自覚的なのか、やや懐疑的な感覚でみております。
この記事へのコメント
行政腐敗は、官僚と保守政党が、税金泥棒の集団であったことを明らかにしています。
国民を騙し愚民化し高額な給与と年金を取り、更に天下りして税金を盗みます。公益法人に親族を雇用し補助金を垂れ流し、親族企業に業務を発注し徹底的に国民を食い尽くしてきました。その結果が一千兆円の財政赤字です
騙されたと思って「おバカ教育の構造」(阿吽正望 日新報道)を読んでみて下さい。愚民化政策によって、子供を、不登校、引きこもり、ニート、失業者にされ、経済を破壊されたた日本人の悲惨で哀れな姿がはっきり分かります。すべての人が読むべき本です。
事業仕分けを無視しようとする利権メディアやCIA工作に騙されず、民主党を支援して国を改革しましょう。
Posted by 大和 at 2010年04月25日 08:27
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