2010年09月28日

外交政策における中国国内の権力闘争(後編)

 土曜に「寝言」を書く際に、ワードを利用しました。全部で7,540字と自分でも目を疑いました。今回、掲載分は、3,933字と長く、しかも、最初が異様な長さです。民主党の「ヘタレ方」とは比較にならないほど、様式美を欠いているブログではありますが、自分でも1つの「寝言」でスクロールするのが面倒になりそうです。以前、とてつもなく長い「寝言」を書きましたが、当時、ご覧頂いていたであろう人向けでしたので、あれはあれでありかなと。当時から過疎地ではありましたが、最近ではわれながら見事な過疎っぷりでして、先月の訪問者数(重複分を除く)が5,416、ページビューが5万2,843という「限界集落」になりつつありますので、数少ない、奇特な方への配慮を忘れることはできません。

 この「寝言」も本体部分は土曜日に書いておりますので、さすがに火曜日あたりには状況が変化しているのでしょう。「なまもの」の宿命で、書いた瞬間に過去形になることを恐れていると、手が出せない分野ではあります。他方、オピニオンなどで尖閣諸島をめぐる問題に限定すればPomfretよりも優れた観察がでてきそうですが、中国の対外政策と国内の組織との関係にまで踏み込んだものが出るのかなと思います。中国国内の意思決定過程に関する分析は専門家の論文を待たなくてはならないのかもしれません。


U.S. reaction

  The U.S. government is trying to adapt to this new China with a mixture of honey and vinegar.

  In July, Secretary of State Hillary Rodham Clinton talked tough with China about its claims to the whole of the South China Sea, joining with Vietnam and 10 other Southeast Asian nations to criticize China's recent aggressive behavior in that strategic waterway.

  That message - that China should ensure freedom of the seas and negotiate disputed claims peacefully - is expected to be reinforced Friday when President Obama meets in New York with leaders from Southeast Asian nations. Several U.S. officials said the People's Liberation Army and China's state-owned oil companies had been driving China's more forceful claims to the sea.

  U.S. officials have also moved to establish more personal connections with Chinese officials. Last month, Deputy Secretary of State James B. Steinberg, the second-ranking U.S. diplomat, spent a full day with Cui Tiankai, one of 12 assistant Chinese foreign ministers, taking him to the Inn at Little Washington, a restaurant in Virginia. The entourage proceeded to a 30-acre farm belonging to a senior State Department official, where Cui took a ride on a tractor. And in an attempt to engage more Chinese stakeholders than in the past, Clinton and Treasury Secretary Timothy F. Geithner led the largest-ever delegation of U.S. officials to Beijing in May.

  Several factors account for the rise of competing interests. President Hu Jintao has led the Communist Party for eight years, but it is not clear that he has ever been fully in control. After Hu took power in 2002, his predecessor, Jiang Zemin, stayed on as chief of China's military for two years. And Hu was the top man in a nine-member Politburo standing committee, but at least five of the seats were occupied by Jiang's allies.

  "This is a time when the Chinese government is weak," said Shen Dingli, the executive dean of the Center for American Studies at Fudan University in Shanghai. "As a result, different interest groups have been unleashed in a less coordinated and less centralized way."

  Simultaneously, the influence of China's Foreign Ministry is waning. Dai Bingguo, the current foreign policy supremo has no seat on the powerful 25-member Politburo; the military has two, and the state-owned sector has at least one.

  While there is competition across ministries in China, U.S. officials have focused on the gap between the civilian side of the government and the People's Liberation Army.

  In recent months, military officers have begun to air their views on foreign policy matters, seeking to define China's interests in the seas around the country.

  Gen. Ma Xiaotian, deputy chief of the army's general staff, has blasted the United States for its involvement in the South China Sea. And in August, Maj. Gen. Luo Yuan lashed out at the United States for reportedly planning to deploy the aircraft carrier USS George Washington in the Yellow Sea for joint exercises with South Korea. (The George Washington was subsequently sent to the Sea of Japan, farther from China.)


アメリカの反応

 アメリカ政府は、新しい中国に対して蜜と酢で適応させようとしている。
 7月にはヒラリー・ロダーム・クリントン国務長官が、中国の最近の戦略的水路における攻勢を批判するベトナムと他の10の東南アジア諸国と接触して、中国に対して南シナ海全体に対する中国の主張に対して厳しく論評した。
 このメッセージ(すなわち中国は公海の自由を保障し議論されている主張を平和的に交渉すべきである)は、金曜日にニューヨークでオバマ大統領が東南アジア諸国の指導者と会談する際に強化される予定である。アメリカの複数の高官は人民解放軍と中国の国有石油会社は南シナ海に対する要求をさらに強めてきた。
 また、アメリカの高官は、中国の高官とより個人的なコネクションを築こうとしてきた。先月には、James B. Steinberg国務次官(アメリカでは2番目に格が高い外交官)は中国外交部長の12人の補佐官の一人であるCui Tiankai をヴァージニアのレストラン、リトル・ワシントンのインに招いてと丸一日をすごした。随行員は国務省高官が習有する30エーカーの農場に赴いた。そこでは、Cuiはトラクターに乗った。さらに、中国を過去よりもより密接な利害関係者とする試みでは、5月にクリントンとティモシー F. ガイトナー財務長官が北京へと史上最大のアメリカ職員の訪問団を率いた。
 いくつかの要因が、利益が競合することが増大する原因となっている。胡錦濤国家主席は8年間、共産党を指導してきたが、完全に掌握してきたのかは明白ではない。2002年に胡が権力を握った後も、前任者である江沢民が2年間は中国共産党中央軍事委員会主席であった。同時に胡は中共政治局常務委員会の席次トップであったが、少なくとも5人は江の同志であった。
 「これこそが、中国政府が弱いときだ」とShen Dingli復旦大学アメリカ研究センター副学長は語る。「結果として、異なった利益集団が調整もなく、集権化もされずに解き放たれてしまった」。
同時に、中国外交部の影響力は弱体化している。外交政策の最高責任者である戴秉国は、影響力のある25人の委員からなる中央政治局に席がない。軍は席を2つ、国有企業は少なくとも1つの席をもっている。
 中国国内で部局間の競争があるとき、アメリカの高官は政府の文民側と人民解放軍の差に注目してきた。この数カ月、武官は、中国の周辺海域に関する利益を定義しようと、外交政策に意見を述べ始めた。
 Ma Xiaotian人民解放軍総参謀本部副参謀長は、アメリカの南シナ海における関与を公然と批判した。また、8月にはLuo Yuan少将が、韓国との合同軍事演習で黄海へ空母ジョージ・ワシントンを参加させる計画を理由にアメリカを激しく非難した(ジョージ・ワシントンは、その後、中国から離れた日本海に送られた)。


 この前半部分の描写は、南シナ海における強硬姿勢の裏で涙ぐましいまでにアメリカが中国に対して頭を低くしてきたことを実感させます。しかも、"honey"は、おそらく、中国からすれば、アメリカの寛大さではなく弱さとして映った可能性すらあります。外交部が中国国内で弱い立場にあることは(旧ソ連でも同じ傾向がありましたが)、中国が外交軽視というよりも、旧共産圏の統治機構を名残がいまだに根強いことを示しているのかもしれません。旧ソ連の場合、西側陣営との交渉で失敗したり、国内で受容しがたい妥協を行ったりした場合、簡単に罷免できるよう、外務大臣ですら、党内で枢要の地位に就くことは稀でした。ただし、中国における外交官の地位の歴史には不案内ですので、旧ソ連との相似というのは「寝言」でしかありませんが。

 Shen Dingliの指摘は鋭いと思います。通常、最近の中国の外交政策の武人的傾向が強くなっている要因として、党内での後継者争いや党の軍への統制が弱くなっていることを挙げる程度で終わります。習近平と李克強がどうたらこうたらと書いてあるだけで権力闘争がどのような効果をもたらすのかという考察や分析が、せいぜい中国が単に混乱しているという書き手の印象以外、まったくといってよいほどない。Pomfretの記事は国営企業というアクターを含めている点で視野が広く、なおかつ江沢民の影響もあって、秩序だった形で独立性をもたせることができていないという指摘は興味深いです。国内の不統一を表面化させないために、中国外交部に対外強硬の傾向を強めるように作用する可能性があることにも注意が必要でしょう。中国が本気でアメリカとの覇権争いを目指しているのか、中国の「意図」を議論しているうちに手遅れになるのかもしれません。

Countering military

  Not all of the military statements went over well in China. In recent weeks, the Foreign Ministry has begun to push back against the military. In recent interviews in Beijing, officials and senior advisers to the government excoriated the military for making policy pronouncements.

  "For me, it is surprising that I'm seeing a general from the People's Liberation Army making a public statement regarding foreign policy, but this is China today," said Wu Jianmin, a former ambassador who helps run a think tank and advises China's leadership on foreign policy.

  "This is not something the military should do," said Chu Shulong, professor of international relations at Tsinghua University. "These people don't represent the government, but it creates international repercussions when they speak out."

  China's media is another factor in the fracturing of China's foreign policy. Another foreign policy player, the Ministry of Propaganda, has allowed the state-run press to criticize foreign governments as a way to bolster the Communist Party's position at home. As a result, China's newer publications, such as the mass-circulation Global Times, cover international affairs - in particular relations with the United States and Japan - with all the verve that People magazine pours into the adventures of Paris Hilton.

  "We are not happy about many of the stories published today," Wu said. "We Foreign Ministry people have told them you shouldn't do that, but they say, 'So what? Let the Americans hear a different voice.' "

  Shen, the American studies scholar, said some in China's leadership may support the idea of sending mixed messages on foreign policy as a way of testing the United States or Japan.

  "The civilian government may think it does no harm," he said. "After all, if they succeed, it may advance China's interests."


軍への反発

 軍部の声明のすべてが中国でうまくいったわけではない。最近の数週間、外交部は軍に対して押し戻し始めた。北京で行った最近のインタビューでは、高官や政府の主席顧問は軍が意見を述べることに対して激しく非難した。
 「私にとって、人民解放軍の将軍が外交政策を考えて公式声明を作成するのを見るのは驚きだ」とシンクタンクの設立を助け外交政策に関する中国のリーダーシップに助言する元大使Wu Jianminは述べた。
 「これは軍が行うべきことではない」とChu Shulong 教授(精華大学 国際関係論)は述べた。「軍人は政府を代表しないが、軍人が意見を述べると、国際的な反発が生じる」。
 中国のメディアは、中国の外交政策を骨折させるもう一つの要因だ。他の外交政策に関するプレイヤーである中国共産党中央宣伝部は、国営新聞が国内で共産党の地位を強めるように外国政府を批判することを認めてきた。結果として、中国の新しい刊行物、たとえば、大量に流通しているGlobal Timesは、国際問題を、とりわけ日米関係を、大衆紙がパリス・ヒルトンの騒動に注ぐ情熱をすべて傾けるように、報道している。
 「われわれにとって、今日、話の多くが出版されていることはうれしいことではない」とWuは述べた。「われわれ外務省の人たちはそのようなことをするべきではないと説明してきた。だが、メディア関係者は、『それがどうしたというの? アメリカ人に異なる声を聞かせなさい』と主張する」。
 アメリカ研究者のShenは、中国のリーダーシップはアメリカや日本を試すようなやり方で外交政策に関する複合したメッセージを、送ることを支持しているのかもしれないと述べた。
 「文官の政府は、それが害になると考えていないのだろう」と彼は述べた。「結局、成功すれば、複合したメッセージを送ることが中国の利益を増進するのだろう」。


 元大使や精華大学の教授は正論ですが、最後のShenの見通しが、当面は正しいのでしょう。このインタビューを最後にもってきているのも、Pomfret自身の意見と合致するからだと思います。胡錦濤は国内のプレイヤーのグリップを握りきれていないものの、プレイヤー間の競争が中国の国力を超えない範囲では容認するのでしょう。当面は、米中関係でアメリカが致される局面が多いことに腹を立てていては身がもたないかもしれません。なお、この記事の最後に登場する"Shen"のみが肩書きもファーストネームもなく、やや異質な扱いをしていることが気にはなります。Shen Dingli復旦大学アメリカ研究センター副学長は、胡錦濤が権力を掌握することができないうちに、軍や国有企業が独自の発言権をもつようになったことの危険性を指摘するとともに、現在の党中央の移行とは独立して、各利益団体やメディアが各自の権益や主張を追求することが、結果的に中国の利益にかなうと指摘しており、その意味では、金融危機後の経済成長の落ち込みにもかかわらず、中国の経済成長率が先進諸国に比べて相対的に高いことが、経済にとどまらず、バランス・オブ・パワー、より局所的には資源などへのアクセスなど、中国にとって有利に働くと理解し、それを党中央も理解しているという見通しをもっているのでしょう。

 次世代の指導者は競合するプレイヤーをまとめる能力がない可能性が高いのでしょう。あり余る国力を海外に向ける結果、一時的には「力による支配」が勝利するかにみえる時期がくる可能性をまったく無視することは危険だと思います。剥き出しの力が崇拝される世界ではアメリカの権威は大きく低下するでしょう。

 漠然とした印象ですが、アメリカ外交もウィルソン主義などによって国際秩序を破壊する試行錯誤を繰り返しました。その代償はあまりに大きかったとはいえ、アメリカの比類ない国力は、善意を基調とする外交を可能にし(保護主義という病弊が常につきまとっていますが)、ナチスドイツや日本、ソ連などによる挑戦を退けて、地球規模にまで秩序を拡大しました。金融危機が、直接的には経済的な側面からこの秩序に疑問を生じさせ、アメリカの威信を殺いだことは否定できないでしょう。他方、互恵的な秩序そのものが崩壊したわけではありません。アメリカの地位低下にもかかわらず、剥き出しの力をもってアメリカに対抗する勢力が出現しない限り、経済における互恵的な関係が支配的になる、いわば時間稼ぎが可能でしょう。他方、剥き出しの力でアメリカに対抗する勢力が出現し、アメリカの、軍事など経済以外の優位が損なわれれば、互恵的な関係は混乱し、最悪の場合、崩壊するのでしょう。

 Pomfretが挙げている、人民解放軍、国営企業、排外主義的なメディアの動向は、外交政策へ他国との互恵的な関係を築きながら、国益を追求するという影響を与えることがなく、一方的に力づくで自己の利益を主張する影響を与えるという点で共通する部分があります。その意味で、中国の外交は、外交政策の決定に関わるプレイヤーの多様性にもかかわらず、本質的には力の信奉者であり、専制的かつ排他的な傾向を強めるのでしょう。現在の中国外交には、巨大な「帝国」たるための互恵的な関係を築くという資質を欠いているように見えます。

 民主党政権の失態は、力の信奉者に「正統性」とさらなる自信を与えるという点で極めて危険な行為でした。これがきっかけとなって、仮に一時的とはいえ、アメリカの「覇権」が修復不可能な地点にまで後退することもけっしてありえないことではないでしょう。しかし、仮にアメリカが秩序を形成する能力と意思を喪失したとしても、中国がその正統な後継者となる確率はほとんど無視できると思います。むしろ、アメリカの方が世界史的には異端者であり、中国の方が「古典的な帝国」として振舞う可能性が高いでしょう。

 また、この島国は、戦前に惨憺たる失敗を重ねたとはいえ、それ以後、アメリカという異端の「帝国」に順応してきました。アメリカが覇権を失うところまでゆかなくても、力の信奉者の地位が向上することは、そのような戦後の資産の価値が大きく減じることだということは理解しておいた方がよいのでしょう。

 雑駁で悲観的な話が続きましたが、私益の追求が互恵的であり、結局は社会全体の利益の増進につながる不思議な秩序をつくりだした国の底力を侮るべきではないでしょう。もっとも、私益の追求が、残念ながら社会全体の利益には、なかなかつながらない、重苦しい時代が続く可能性があることにも覚悟が必要なのかもしれません。
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