2007年06月12日

「視界不良」の向こう3ヶ月の国際情勢

 「死のロード」、あるいは「月月火水木金金」状態でヘロヘロです。平均睡眠時間が4時間では「寝言」も浮かばず、ただ寝たい。それだけです。とりあえず、記憶の範囲内で岡崎所長の情勢判断のポイントをメモしておきます。細かいところは自分で裏をとってから掲載する予定でしたが、いつになるのか自分でもわからないので、簡単に要点のみ。頂いているコメントへのリプライは、睡眠時間を確保してからということでお許しください。なお、既に数日をへておりますし、疲労した状態でしたので、不正確な点が多いと思います。公開しておいて恐縮ですが、基本的に私自身のためのメモということでお許しを。

 まず、情勢判断の大半がイラク情勢というよりも、アメリカ国内の行政府と立法府の関係に集中していたのが印象的でした。議会が期限付き撤退を要求しても大統領には拒否権がありますし、逆に増派を要求するとなると予算が不可欠で議会の承認が必要。イラク情勢を治安の回復という面からコントロールしようとする際に最大の変数は、当然ではありますが、アメリカの動向。イラクの治安情勢そのものも大切でしょうが、これが実に把握が難しい。まったく個人的な感想ですが、ブッシュ後の対イラク政策の成り行きを見る上でも、この1年前後は重要な時期になると感じました。

 もう一つ、珍しく思ったのが、イラク情勢を中心に国際情勢の大半は9月、10月ぐらいまでわからないことが多いし、逆に9月、10月あたりには大筋が見えてくるでしょうというお話でした。「一寸先は闇」の世界ですから、もともと予測自体が私のような素人には難しく感じますが、岡崎先生はいくつか留保をつけながらも、大筋の見通しを立てられるので、私が的確ではない印象を受けただけかもしれませんが、「視界不良」な3ヶ月が待っているという印象をもちました。

 最初の点ですが、議会の言い分はブッシュ大統領の拒否権でブロックされ、下院(?)で民主党から大量の「造反議員」がでて共和党の「造反組」は2人どまり。とりあえず、ブッシュ大統領の言い分が通ったということです。私の理解力では、ブッシュ大統領の指導力が大なのか、超党派でコンセンサスができるプロセスなのか、わからないです。ポスト・ブッシュ政権が期限付き撤退をのむような政権になると、イラクはベトナム以上に悲惨でしょう。期限を明記してしまうと、イラク国内で混乱を望む勢力の「スケジュール」が立てやすくなってしまう。これまでのことのなりゆきを考えると、ある程度、治安が確保されるまでは撤退を言うのは無責任な印象があります。ただ、これがアメリカ議会のコンセンサスとまでなっているのかはわかりません。

 興味深いキーパーソンは、Petraeus司令官。アメリカ国内で評価が高く、議会でもブッシュの言うことは嫌でもPetraeusならOKみたいな雰囲気のようです。印象に残っているのが、ラムズフェルド前国防長官のもとで遠ざけられたインテクチュアルズを抜擢していて、これが高く評価されているということでした。ラムズフェルドに責任をすべて負わせるのは酷だと思いますが、国内世論、もっといえば議会を説得してイラクの治安回復に米軍が関与し続けるにはラムズフェルド色を消さざるをないでしょう。もちろん、実力を評価しての人事でしょうが、政治的にも賢明だと思います。

 さらに、岡崎先生が「数字を見るのが怖いのですが」と率直に語られていましたが、ここ最近で米兵の死者が増えているようです。バグダードでも治安状況の変化がめまぐるしいようですが、これまで米軍が踏み込めなかった危険な地域で作戦を展開しているという読み筋が成り立つようです。Petraeus司令官が有能ならば、「背後」から銃を浴びせられることがないよう、用心深く議会の信頼をえながら、治安確保のために血の犠牲を払う作戦を行っているのでしょう。大統領の信頼は当然として、治安回復のためには一時的に犠牲が増加することを覚悟せざるをえないのですが、議会を敵に回しては予算でゆきづまってしまう。ただし、この読み筋が的確だとしても、犠牲は短期で数字で出るのに対し、効果は長期でしか確認ができない。表現が悪いのですが、必要性が高いけれども、同時にギャンブル性が高い作戦を行うというのは、かなり胆の据わった司令官なのかもしれません。

 肝心なことは、ブッシュ政権のプライオリティに関していえば、イラクの安定化が最も高く、そのための作戦が進んでいるということでしょう。同時にそれは議会を誘導し、ときに拒否権行使など強硬な態度にでるなど複雑なプロセスとなるでしょう。

 イラクの安定化に資源の多くを割くということは、他の対外政策のプライオリティの低下を意味します。端的にそのことが露呈しているのが、朝鮮半島情勢。岡崎先生は、「あれは醜態ですね」と表現されていました。恥ずかしながら、2500万ドルを北朝鮮の偽札で返したらどうだという声がでているという話をはじめて知りました。3月頃に、北朝鮮とヒル国務次官補との間で「密約」(凍結した資金を「返還」して北朝鮮がある範囲で「譲歩」したふりをする)があるとの推測を耳にいたしましたが、そのような「補助線」をひかないと理解不能な話が多すぎるので「裏」がとれておりませんが、そのような目で見ておりましたが、それにしても、確かに「醜態」としかいいようがないです。資金の凍結自体は、核開発への制裁ではなく、BDAが北朝鮮の違法な金融活動に関与していたことが問題になったのであって、金を返すから、もう事実上、使えなくなった寧辺あたりを「閉鎖」するとかで「譲歩」したことにして、北朝鮮が一方的に荒稼ぎをしている状態になりそうです。イラク安定化を重視する代償と割り切りたいのですが、やはり割り切りきれない部分があります。

 中国は日本に低姿勢でゆくしかないようです。李登輝さんの訪日、靖国参拝も日本国内が一部例外はどうしてもありますが、冷静ですし、中国政府自体、ことを荒立てると、薮蛇。こちらは、日中関係というより、国内の反権力志向の方たちと中国と波風を立てないのが「日中友好」というレベルの政治家の問題だということがはっきりしてきているように思います。

 ずいぶん雑ですが、私の印象に残った大筋は以上です。はあ、また寝る時間を削ってしまいました。もう限界なので、正真正銘の寝言をいうモードに移行いたします。
この記事へのコメント
ご無沙汰してます。岡崎氏の情勢判断は、私にとって、自分の考えが誤っていないかの、文字通り「試金石」です。今回のコメントを拝読して、私なりに充分納得でき、且つ安心できました。エントリーを拝読して、ちょっと考えさせられたことを・・・。

硫黄島で米軍は1ヶ月強で3万人の死傷者を出した。それでも戦争を止めろという世論は起こらなかった(本土決戦を避けるという戦略転換の契機とはなりましたが)。ベトナムでは、強い反戦世論の結果、敗北とは言えないが勝てずに撤退した。前者は真珠湾の延長にある民主主義と全体主義の戦いと米国世論が判断し、ぶれなかった故で、後者は民族解放戦争だから所詮勝ってもアメリカの名誉にはならずと世論が判断したからだと思います。つまり、戦争をめぐる世論は、単に犠牲者の量によらず複雑であると。そこで思うのは、「テロとの戦い」とは太平洋戦争型なのかベトナム戦争型なのか。4年前から考えるが、未だ判らず(苦笑)。どちらでもないとすれば何なのか。岡崎節を聞きたいものですね。

Posted by M.N.生 at 2007年06月12日 16:30
1年ぶりに伺った岡崎大使の情勢判断でしたね。米軍死者の急増の原因がテロリストからの攻勢に無策ということではなく、何らかの作戦が進行中の可能性があるという判断に、やや安堵しました。
とはいえ、これが原因で北朝鮮問題は袋小路ではありませんか。BDAにあるおカネはロシア経由で北朝鮮に渡されるようですが、その後は自由に決済できる保証が欲しいとヤツらは要求をエスカレートさせています。核開発を放棄させるまでに更に時間稼ぎの口実を与えてしまい、日本でも対抗上強硬論が勢いづきそうです。今の日本は、世界の最貧国にいいようにあしらわれても暴発するほど民度は低くないので安心していますが、経済制裁の効果が目に見えて顕れていないのが気に掛かります。
Posted by M at 2007年06月13日 23:39
>M.N.生様

知的刺激のあるコメントを賜り、恐縮です。なかなか重たいテーマですが、ベトナムとは明らかに異なると思います。今回、記事で紹介させていただいたお話は、研究所のフォーラムでの情勢判断ですが、個人的にうかがった範囲では、ベトナム戦争は民族解放という大義にアメリカは勝てないとはっきりおっしゃていて(著作でも戦後の「不可避的な」傾向として植民地独立や民族解放を挙げられていておりますが)、少なくとも、イラク戦争はベトナム戦争とは異なる性格だと思います。『外交』でも、テト攻勢に関するキッシンジャーの評価を「メランコリック」な「追想」と評されていたように、ベトナム戦争ではアメリカは負けるべくして負けたという評価をされていると私自身は考えております。

9.11は真珠湾以上の効果をもたらしたことは間違いなく、アフガンまでは「電車道」だと思います。問題は、イラク戦争まで「電車道」とは断言できない部分があるというところでしょうか。このあたりは、私には整理できそうにありませんが、「イラクへの『寄り道』」で考えてみます。

>M様

お久ししゅうございます。あの場は、いろいろな立場の方々とお話できて楽しいです。メインはもちろん岡崎大使の情勢判断ですが。米兵の死傷者数の増加に関してはまったく同感です。記事では書かなかったことも多いのですが、数字の背後を総合的に判断される岡崎大使にはいつも感嘆してしまいます。

北朝鮮の要求がエスカレートしているとの御指摘、ありがとうございます。おそらく、先日のお話とあわせると、核開発の放棄は非常に難しい段階に入りつつあるように思います。実務に疎いのでわからないことが多いのですが、場合によっては軍事的オプションもありうるという強制力をともなわない限り、厳しい部分があると思います。とにかく、北朝鮮相手にはアメリカはやられっぱなしで、金正日はタフだと思わざるをえません。北朝鮮の体制は軍と治安機関の関数であるという岡崎大使の指摘が理解されるとよいのですが。

最悪の場合、nuclear sharingまでゆくしかないのかなと思ったりいたします。それでも、かなり怖い状況ですが、日米同盟が固まるほど、北朝鮮の選択肢も狭くなってゆくと思います。彼らが意図せずに、そのようなことをしていることも注意しておく必要があると思います。

御多忙のことと存じますが、お手すきの際にコメントを賜りますよう、お願い申し上げます。
Posted by Hache at 2007年06月14日 00:36
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/4346719
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

北朝鮮問題と米国と安倍政権
Excerpt: 雪斎殿もこちらのエントリで取り上げておられるが、今月の「中央公論」に掲載されたシーガル氏の「拉致敗戦」という記事は興味深いものである。これを機会に北朝鮮関連と安倍政権に関するエントリを書いておく。私..
Weblog: カワセミの世界情勢ブログ
Tracked: 2007-07-12 02:04