2011年03月11日

アメリカはリビアに深入り無用?

 さっすが島国といったところでしょうか。アメリカの役人が講義でもにょもにょと沖縄の悪口を言ったらしいという程度で猛反発して、あわててキャンベル米次官補がKevin K. Maherの首を飛ばしたと。後任はNHKによれば日本通の方だそうで、まあ、アメリカさんも大変ですなあ。New York Timesが2011年3月9日付で配信したMartin Facklerの"U.S. Apologizes for Japan Remark"という記事が次のように始まっていて、なんともいえないけだるさをを感じました。

A senior American official apologized on Wednesday for comments attributed to an American diplomat that stirred charges of racism.


 "racism"かあと。Maherの発言が日本語で報道されている通りならば、なんだかなあという感じはしますが、こんな国を相手にするのも疲れるだろうなあと。むしろ、この記事を見たときに、パッと感じたのは、Kurt Campbellも"A senior American official"というあたりで、当たり前ですが、Assistant Secretary of Stateの一人なんだなと。3月10日の夜には米国務省のトップページにキャンベル国務次官補と松本なんとかという外務大臣との声明が3番目ぐらいにアップされているので、米国務省も今回の事態を重視したのでしょうか。しかし、この問題をアメリカと沖縄の関係に転化させてしまう政権が続く限り、普天間基地の固定化が既成事実になるのではと思うのですが。中東でお忙しい時期に大変だなあと(参照)。

 それはさておき、リビア情勢ですが、なにしろ目まぐるしく変化しますので、疲労感もあります。Wall Street Journalが2011年3月9日付で配信した Charles Levinson, Margaret Coker and Adam Entousの"U.S. Sees Stalemate Emerging in Libya"という記事を読んでいたら、膠着状態(stalemate)というよりは、だいぶカダフィ側が盛り返した印象でした。2011年3月10日付のAP電は、Paul Schemmの"Gadhafi showers strategic oil port with rockets"という記事を配信しており、当初はフランスが反政府組織との「国交」を樹立した日に手痛い敗北を喫したという趣旨の描写がありましたが、NATOが飛行禁止区域の設定に前向きなせいなのか、大幅に書き換えられているようです。フランスが前のめり気味なのは、やはりアメリカを引っ張り込んだ上で、難民の問題を極力、抑えたいのでしょう。日本だと原油の話に目が行くようですが、難民の増加はイタリアをはじめ、ヨーロッパ諸国にとっては社会の安定にかかわるだけに、深刻な問題でしょう。

 アメリカもどこまで関与するのか、現段階ではわかりません。CFRのハース議長のオピニオンがウォール・ストリート・ジャーナルに掲載されていて、正直なところ、私の素朴な実感に近いのでホッとしました。そのうち、日本版に全訳されるのかもしれませんが、とりあえず、メモでも。


 Wall Street Journalが2011年3月8日付で配信したRichard N. Haassの"The U.S. Should Keep Out of Libya"という記事のサマリーが非常に明快です。

Gadhafi might survive the current civil war. But the U.S. does not need the burden of another vaguely defined intervention in a country where American interests are less than vital.

カダフィは内戦を生き延びるかもしれない。しかし、アメリカは、国益が不可欠ではない国ではあいまいに定義されている、異なった干渉を負担する必要はない。


 論旨はこれに尽きている感もありますが、噛んで含めるように、ハースはリビアへの軍事的関与について丁寧に論じています。オバマ政権は、アフガニスタン増派の時と同じく、ハースの意見をあまり聞かないのでしょうが。ハースは、まず、飛行禁止区域の設定などについてとりあげて、次のように述べています。

Those making this case appeal to a mixture of morality and realpolitik. They argue that by intervening we will prevent the slaughter of innocents and at the same time demonstrate our willingness to make good on expressions of support for freedom and security.

Secretary of Defense Robert Gates has taken the opposite position. Testifying before Congress last week, Mr. Gates pointed out that the first step in establishing a no-fly zone that would ground Libyan aircraft and helicopters would be to suppress Libyan air defenses that could threaten U.S. or allied aircraft. This would entail attacking selected targets. In other words, to establish a no-fly zone would be to go to war.

 今回の事案で飛行禁止区域や通行禁止区域を求めることは、道義と現実政治の混ぜ物に彼らは干渉によって無辜の民の虐殺を防ぎ、同時に自由と安全を支援するという善意をしめすことができると議論している。
 ロバート・ゲーツ米国防長官は、反対の立場をとる。先週の議会証言で、ゲーツは飛行禁止区域を確立する最初の段階は、リビアの航空機やヘリコプターの飛行を禁止することになり、アメリカ、あるいは同盟国の航空機を脅かすであろうリビアの防空施設を抑えることになるだろうと指摘した。これによって、選択された目標物を攻撃しなければならない。言い換えれば、飛行禁止区域を確立することは、戦争へ突入することになるだろう。


 当たり前のことですが、カダフィの航空機やヘリを飛ばせない状態にするには、国連安保理決議にもとづいて、ここは飛んじゃいけませんよとお空に目印をつけるというようなお花畑のような話では済まず、リビアの防空施設を破壊することが前提だということですね。国内メディアの報道を斜め読みしていると、時折、意味が分かっていないのではと思うことがあります。

To begin with, there is no reason to believe a no-fly zone would be decisive. In fact, we have every reason to believe it would not be, given that aircraft and helicopters are not central to the regime's military advantages. The regime could defeat the opposition without resorting to attack planes and helicopter gunships simply by exploiting its advantages in terms of foot soldiers and light arms.


 長くなりそうなので直訳は省きますが、要は飛行禁止区域を設けても、陸上を使うだけで実効性が薄いという指摘です。さらに、このあと、陸路で通行禁止区域を設けることも検討されていますが、戦争まっしぐらというわけでして、非現実的なのは自明といってよいと思います。

There are political reasons to question the wisdom of the U.S. becoming a protagonist in Libya's civil war. It is one thing to acknowledge Moammar Gadhafi as a ruthless despot, which he has demonstrated himself to be. But doing so does not establish the democratic bona fides of those who oppose him. And even if some of those opposing him are genuine democrats, there is no reason to assume that helping to remove the regime would result in the ascendancy of such people.

 良識的に考えてアメリカがリビアの内戦の主唱者になることを疑問視する政治的な理由がある。一つは、ムアンマル・カダフィが、彼自身が示しているように、残酷な暴君だと認定することである。しかし、そうすることがカダフィに反対している人たちの民主的な誠実さを確立しはしない。さらに、たとえカダフィに反対している人々が純粋な民主主義者だとしても、体制を除去することを助けることによって、そのような人々が支配力をえる結果になると決めてかかる理由はない。


 このあたりは、エジプトでも問題になりつつありますが、反体制勢力がかならずしも、民主化勢力なのかどうかは疑問だという指摘は頷くばかりです。さらに、仮にそうであっても、介入によって、様々な思惑で反カダフィに回っている人たちのうちで、民主化を目指している人たちが支配的な地位を確立するかどうかは疑問だという指摘は、まともすぎて異議を唱えることに困難を覚えます。日本国内での報道では、暗黙に反体制派に正義であるかのようなことが多いのですが、アメリカでも同様の傾向があります。ハースは、反体制派の実態が寄せ集めであることを暗黙の前提にして、介入が欧米の価値観に合致する可能性があるケースに関してすら、その実効性を問題にしているわけです。

To the contrary. Removing Gadhafi and those around him could easily set in motion a chain of events in which a different strongman, with the backing of a different tribe, took over. Or it could create a situation in which radical Islamists gain the upper hand. Either way, significant areas of the country would be beyond any government control, creating vacuums exploitable by al Qaeda and similar groups.

 逆の場合を考えてみよう。カダフィとその取り巻きを追放することによって、異なった部族に後押しされた独裁者がとって代わる、一連の出来事の動きが始まるだろう。あるいは、カダフィを除去することはイスラム過激派が優位をえる状況を作り出すだろう。いずれかの方法では、アルカイダや類似の集団によって利用されうる真空をつくり、国の重要な地域は政府の支配が及ばなくなるだろう。


 言ってみれば、こちらが「バッド・エンド」ですが、リビアが民主的な勢力によって支配されるというシナリオよりも蓋然性の高い本筋の問題でしょう。カダフィを追い出したところで、そのあとにくる者がカダフィよりもマシだという保証がないというのは、身も蓋もないかもしれませんが、常識的な判断でしょう。

The wisdom of arming regime opponents is questionable for the same reason. Pre-9/11 Afghanistan offers something of an object lesson here, as the U.S. armed individuals and groups to defeat the regime backed by the Soviet Union. This policy worked in realizing its immediate goal, but in the years that followed it empowered individuals and groups who carried out an agenda hostile to U.S. interests. Arms transferred become arms over which control is forfeited.

 同じ理由から武装した反体制派がまともであるかどうかを疑問だ。アメリカの武装した個人や集団がソ連の支援を受けた体制を打倒する、9/11の前のアフガニスタンは実証例を与える。この政策は、目の前の目標を実現する点で機能したが、それに続く年月では、アメリカへの敵意ある政治課題を実行する個人や集団に実現する能力を与えた。移行期の権力は支配が失われる権力になる。


 冷戦期のアフガニスタンへのアメリカの関与はあまりにもほろ苦い経験でした。ハースのオピニオンは、アメリカといえども、軍事的介入が当初の目的とは裏切る結果に終わることが少なくないという点を明確に意識した、抑制的な分析にもとづいていると思います。アカデミックであるとともに、実際的な判断に裏付けられているので、安心感があります。

There are many reasons to avoid making Libya the center of U.S. concerns in the region. Libya is far from the most important country in the Middle East−both in terms of political influence and its impact on the oil market. American policy makers would be wiser to focus on what they can do to see that Egypt's transition proceeds smoothly, that Saudi Arabia remains stable, and that Iran does not.

Intervening militarily in Libya would be a potentially costly distraction for the U.S. military. It is already overextended in Iraq and Afghanistan. The last thing it needs is another vaguely defined intervention in a place where U.S. interests are less than vital.

To say that U.S. interests in Libya are less than vital is not to argue for doing nothing, but rather for making sure that the actions we take are commensurate with the stakes. In the case of Libya, asset freezes, arms embargoes, threatened prosecutions for war crimes, and the creation of humanitarian safe harbors inside the country or just across its borders would be appropriate.

 リビアを地域におけるアメリカの懸念の中心とすることを避ける多くの理由がある。リビアは、中東における最重要の国では決してない。政治的影響力と石油市場に与える影響力という見地から。アメリカの政策決定者は、エジプトの移行の結果を円滑にするにはなにができるかに焦点をあてるためにより賢明であろう。それは、サウジアラビアを安定した状態にし、イランを不安定な状態にする。

 リビアに軍事的に介入することは、米軍にとって、潜在的に犠牲の多い、注意をぼかすことになるだろう。米軍は、すでにイラクとアフガニスタンで手を伸ばしすぎだ。アメリカの国益が決定的ではないところでの別の漠然と定義された干渉を必要としている。

 リビアにおけるアメリカの国益が決定的ではないと主張することは、なにもしないと論じるためのことではない。むしろ、利害とつりあう行動を明確にする。リビアでは資産凍結や武器禁輸、戦争犯罪の訴追、リビア国内に人道的に安全な港をつくること、あるいは境界をつくることは適切であろう。


 アメリカから見れば、エジプトを安定化し、結果的にサウジアラビアの体制を不安定化しないことが政治的な影響力という点でも、原油市場の安定という点でも致命的であるというのは、自明と言ってよいのでしょう。また、私自身は2011年3月5日の「寝言」で、イラクにアフガニスタンとめどが立たない状態で、リビアまで介入するのはアメリカの能力を超えるのではないかという散漫な印象を書きましたが、ハースはイラクとアフガニスタンでも"over extension"だと指摘しています。リビアの内戦はきまぐれな天気のように変化していますが、イラクやアフガニスタンのように国の形成にまで深入りするのはあまりに危険でしょう。

 他方、ヨーロッパ諸国は、リビアへの石油依存も無視はできないのでしょうが、難民の増加は社会の安定性を損なう側面があります。フランスが前のめりになっているのは危険な印象がありますが、当面、軍事介入という選択肢が危険だという認識の下で、混乱を和らげる措置は不可欠なのでしょう。くどいようですが、ハースのオピニオンの冒頭にあったように、飛行禁止区域の問題が道義と現実政治の混ぜ物であるという状態は、アメリカが抑制的にふるまうことが困難になりつつあることを示しているのでしょう。
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