2011年05月09日

中部電力浜岡原子力発電所運転停止による九州地方の電力逼迫

 番勝負としても第69期将棋名人戦への興味が薄れていたので、イランからチュニジアに至る「アラブの春」(イランがアラブ世界に属するのかは微妙ですが)の話を整理しようと考えておりました。突然、気でも触れたように、菅首相が中部電力浜岡原子力発電所の運転停止を中部電力に要請したので、電力融通は大丈夫でしょうねと気になりました。いわゆる「東西融通」に気をとられておりましたので、かなり毒気の強い「寝言」(それでもだいぶ抑えたつもりですが)を書きましたが、まさか九州にまで影響がおよぶとは想像しておりませんでした。『西日本新聞』が2011年5月8日付で自社サイトに配信した「九電、中部電から電力融通 浜岡停止なら困難に 九州の供給懸念」という記事の全文を引用しておきます。

 九州電力が5月に入り、電力の供給不足に対応するため中部電力から40万キロワット程度(一般家庭15万戸分相当)の電力の融通支援を受けていることが7日、分かった。中部電力は、政府による浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の全面停止要請を受け入れれば供給余力が一転して逼迫(ひっぱく)するため、九電への融通継続が難しくなることが確実。原発3基が同時停止する九州の電力不足への懸念がさらに強まることになる。

 関係者によると、福島第1原発事故を受け、九電は定期検査のため停止した玄海原発2、3号機(佐賀県玄海町)の運転再開を3−4月に予定していたが延期。一方で夏場の電力最需要期を控え、石油などの代替燃料の量的確保が見通せず、少しでも燃料の使用を抑えるため、5月初めから当面1カ月の期間で余力のある中部電力などと契約した。北陸電力からも数万キロワットの融通を受けているもよう。

 中部電力は東日本大震災後、東京電力への融通を始め、現在も続けている。だが突然の浜岡原発停止要請を受け、中部電力は「全面停止すれば供給力が不足し、一般論として他社への融通は難しくなる」(広報部)として中止する方針。九電への融通も予定通り続けるのは困難な情勢だ。

 政府は関西電力に中部電力への供給支援を要請したが、関西電力も美浜原発(福井県美浜町)などの運転再開のめどが立っておらず「むしろ需給は逼迫しており、支援する余裕はない状態」(電力業界関係者)といい、電力各社で供給不足が連鎖的に拡大する様相を呈している。

 九電は玄海2基に続き、今月10日から川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)も定期検査に入るため、原発6基中3基が停止する見通し。佐賀県などに再開の理解を求めるのと併せ、大口需要家などに大幅な節電要請を行う検討を本格化する。

=2011/05/08付 西日本新聞朝刊=


 九州電力玄海原子力発電所の2基が定期検査から運転再開の見通しが立たず、中部電力と融通を予定していたのは意外です。さらに川内原発も定期検査に入るとのことで、九州電力が原子力発電所を6基も保有していたこと自体、知らなかったのですが、かなり厳しい状態でしょう。原子力発電所が定期検査から運転を再開する際に、国と都道府県、自治体と電力会社の関係を理解していないのですが、震災後では運転再開に慎重になるのはやむをえないところでしょう。

 下の表は、九州電力のサイトから発受電電力量に関するデータをこちらのページからエクセルデータをダウンロードして加工してものです。率直なところ、九州電力の発受電電力量のうち、約4割が原子力発電で占められているのは驚きです。1999年度までのデータをたどっても、火力発電による発電量が原子力発電による発電量が上回ったのは、2010年度だけです(火力:377億1100万kWh 原子力:373億7500万kWh)。乱暴に表現すれば、定期検査とはいえ、原子力の発電能力が実質的に半減してしまうと、需給が逼迫するのはほぼ自明といってよいのでしょう。

 興味深いのは火力発電による発電量の推移で、減少している期間が、2008年度から2009年度にかけては、発受電電力量とともに減少しています。景気後退による電力需要の減少に火力発電の増減で対応していたと推測できます。また、2000年度には融通が33億5000万kWhほど他社へ融通していましたが、2009年度には600万kWhほど他社からの融通を受け、2010年度も他社への融通が上回っていますが、7100万kWhにとどまっています。融通の詳細はわかりませんが、震災とは無関係に減少傾向にあり、管内で供給能力に制約が生じた場合、融通を受電する側に回る可能性が高いことを示しています。

kyuden2006-2010

 なお、需要面から見ると、2010年度では業務用が販売電力量の約23.2%を、産業用が約34.7%を占めています。両者の合計は、2010年度の販売電力量の約57.8%を占めており、『西日本新聞』にあった「大口需要家」への節電の依頼を行うという趣旨の記述を裏付けているのでしょう。他方、業務用・産業用の節電が必至となれば、地元の企業への打撃も大きく、例えばトヨタ自動車などは九州に大きな生産拠点を置いていますから、電力不足が万が一、長期化した場合には、そうではなくても進んでいる海外移転をさらに加速させるでしょう。中部電力浜岡原子力発電所の運転停止は、中部電力管内だけではなく、他地域への波及も大きく、日本の経済に大きく水を差すリスクがあります。日曜日の繰り返しになりますが、「苛政は虎よりも猛なり」をしみじみ実感します。


 私が子どものときには、家族や親戚が電力会社および関連会社に勤めている人が多く、父親の転勤で浜松に住んでいた頃(1980年代前半)には、何度か中部電力浜岡原子力発電所に連れていってもらいました。当時は、「これからは日本のエネルギーは原子力が支えるんだよ」と発電所の方が語っていたのを思い出します。私自身は、原子力発電にアレルギーがないという程度で、とくに推進すべきとも廃止すべきとも考えてはおりません。非常に単純なオツムの構造ですので、原子力発電よりも安全で安価なエネルギー源があるのならば、それを活用すればよく、そうでないのなら、安全を保ちながら原子力発電を活用すればよいという程度です。昔の話ですが、静岡県内の公立学校では、全生徒が防災ずきんをいすの上に常備して、地震が起きた際の避難訓練では、防災ずきんをかぶって机の下にもぐり、教師の指示に従って避難するという訓練を行っていました。また、散々、東海地震の危険性について学校でも新聞でも刷り込まれておりましたので、浜岡原発を長期的に存続させるべきかどうかについては迷いもあります。

 ただ、言いにくいのですが、1980年代から30年以内に東海地震が起きると脅されて育った身としては、「まだかい」(もちろん外れてほしい「予測」ですが)という気分もあります。菅首相が浜岡原発の運転停止を中部電力に要請した際にもち出した「科学的根拠」は30年以上前から示されており、外れ続けているというのも率直な実感です。もちろん、今日や明日に東海地震が絶対に起きないと断言できる根拠もないと思うのですが、そうでなくとも全国的に電力の需給が逼迫している状態で、「トップダウン」でさらに悪化させるのは愚の骨頂ではないかと思います。
この記事へのコメント
 先日は丁寧なレスをいただきありがとうございます。
 実は,各電力会社の好評データのうち、他社からの買取部分が不安定で怖いんですよね。鉄鋼業の発電機は溶鉱炉の運用次第という部分もあります。
 首相は原発反対運動に長年携わってきましたから、電気業界のことなどロクにわかってないでしょう。中部電力から東電への融通はなくなるようですね。もう節電しかありません。パチンコも自動販売機もゲームセンターも禁止(笑)ラブホテルの昼間の営業はダメ。飲み屋は午後10時以降・・・。
 感情的な節電ファシズム到来で、クライバーをAVシステムで楽しことすら憚れるような夏が来ますよ。ウチはウィーンフィルのベト5,7がありますが、演奏がねちっこく感じてしまうのは、この御時世のためでしょうかね・・・。
 
Posted by SAKAKI at 2011年05月09日 20:56
>>SAKAKI様

こちらこそ過疎地にお越し頂き、ありがとうございます。ローカルネタで恐縮ですが、浜岡原発に関しては、6号機の増設計画を地元への根回しの前に中日新聞がスクープしたために、静岡県との関係がうまくいっていなかったという背景もあるようです。菅首相がどこまで知っていたのかはわかりませんが、結果的に、中部財界がまとまっていない状態をうまくついた側面もあるのでしょう。菅首相の資質には大いに疑問を感じておりますが、批判する政治勢力が、彼を侮っているのが、やや気になります。

他社受電はご指摘の通りだと存じます。このあたり、経済産業省の力が弱くなっているのが危険だと思います。代替エネルギーは10年単位の長期的な問題であって、現実的には、電気事業者とガス事業者の相互乗り入れが供給制約を解消するには必要だと思いますが、首都圏では東京電力に比べて東京ガスの規模が小さく、行政的な知恵がないと、今夏のみらなず、長期的に電力がボトルネックになってしまうリスクがあると思います。長期的に目指すことと、目先でまず解決すべきことを役所が提示して、首相が優先順位を明確にするという意思決定が麻痺している印象があります。

節電に関しては、日本のためとか被災地のためとか他人のためということを、メディアなどが主張しすぎると、疲れます。一市民としては、電力料金の支払いを減らすのを楽しむ程度がよいのだろうと思います。職場でも以前からですが、ラフな服装で出勤しているので、最近は省エネ・節電に協力しないんですかと、ビシッとスーツを着てネクタイをしめている人をからかっています。

クライバーではなくても、これからの時期にベートーヴェンはちょっと暑苦しいかもです。子どもの頃にピアノを習いたいといって母親に無下に却下されましたが、最近は熟年層が通うところがありますよと勧められておりまして、音感とリズム感が絶望的なのでハードルが高いのですが、それもありかなと考えたりしております。

やはり気になるのは、東北地方の電力復興です。ボランティアで現地に入った方の話を伺う機会もあるのですが、ライフラインに関する情報はあまりに断片的で、被災地が広範囲にわたっていることが大きいと思うのですが、全体像をつかむことが難しく感じます。電気事業の特徴として、電気が貯蔵ができないことを真っ先に上げる方が多いのですが、代替が難しいという当たり前のことが抜けていることが多く、困ったなあと。生活と産業、他のライフラインの復興には電力がないと困難なのですが、現場を見すぎた方は、失礼ながら視野が狭く、政府は夢を見ている状態で、このまま冬場を迎えることを危惧します。
Posted by Hache at 2011年05月10日 00:38
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