2011年05月30日

長期化する電力問題とエネルギー政策

 最近、昼間にコンビニに立ち寄ると、店外の照明はもちろん、店内の照明を半分ほど消している店が目立ってきています。そういえば、家電量販店やその周囲の店も照明を落としている状態です。石原慎太郎東京都知事のお膝元ではないのですが、外から見ていると、パチンコ屋でも外のネオンをつけている方が珍しい状態です。転機となったのは、やはり中部電力浜岡原子力発電所に対する菅直人内閣総理大臣の要請によって、運転停止が実現したことのようです。私の住んでいるところでも、もはや夏場の電力は綱渡り状態であり、非常に厳しい状態だということを、地元の電力会社の方からも聴きますし、実感もします。

 東京電力管区内で計画停電が生じた際には、全国紙や在京キー局がこれでもかと報道しました。もちろん、東京電力福島第一原子力発電所の事故による影響は深刻ですし、福島第二原子力発電所も停止している状態ですから、理解はできます。しかし、浜岡原子力発電所の運転停止が東海地方の電力需給や経済に与える影響にはやや冷淡だった印象があります。今でも、パソコンのポータルサイトの多くには東京電力管区内の電力使用量と使用率が表示されていますが、需給の逼迫の程度が異なるとはいえ、東京電力管区内の問題には敏感なのに対し、地方の電力問題には首都圏の各種媒体が無神経なのではないかと感じております。

 「なまもの」に属する報道ですが、『朝日』が2011年5月27日付で「玄海原発、想定以上の劣化か 専門家指摘『廃炉に』という記事を配信しました。東京電力福島第一原子力発電所の事故による「脱原発」の世論の高まりによって九州地方の電力逼迫は長期的な問題になる可能性があるという点で注目しました。

 九州電力玄海原子力発電所1号機(佐賀県玄海町)の原子炉圧力容器の劣化が想定以上に進んでいる恐れのあることが、九電の資料などからわかった。九電は「安全性に問題はない」とするが、専門家は「危険な状態で廃炉にすべきだ」と指摘。1号機は稼働中で、反原発団体は原子炉の劣化を危険視している。

 原子炉は運転年数を経るにつれ、中性子を浴びて次第にもろくなる。その程度を調べるため、電力各社は圧力容器内に容器本体と同じ材質の試験片を置き、もろさの指標である「脆性遷移(ぜいせいせんい)温度」を測っている。温度が上がるほど、もろさが増しているとされる。

 1975年に操業を始めた玄海原発1号機は九電管内で最も古い原発で、想定している運転年数は2035年までの60年間。脆性遷移温度は76年、80年、93年に測定し、それぞれ35度、37度、56度だった。ところが、09年には98度と大幅に上昇した。

 九電はこの測定値から、容器本体の脆性遷移温度を80度と推計。「60年間運転しても91度になる計算で、93度未満という新設原子炉の業界基準も下回る数値だ」と説明している。


 2011年5月9日に「中部電力浜岡原子力発電所運転停止による九州地方の電力逼迫」という「寝言」を書きましたが、九州電力玄海原子力発電所は、1号機と4号機が運転中で、2号機と3号機が定期検査中です(先の「寝言」で引用した『西日本新聞』の記事に2号機と3号機の運転再開が福島第一原書力発電所の事故によって延期になったことが記されています)。日本原子力技術協会のHPにある「運転状況&放射線関係モニタリング情報:原子力発電所」のページによると、運転中の1号機の出力は58.2万kWと1970年代に建設された福島第一原子力発電所1号機よりも出力が大きく、2号機よりは出力が小さいです。現時点で玄海原子力発電所の2号機、3号機の運転再開のめどが立たない状態で、万が一、1号機が廃炉を前提とした運転停止に追い込まれた場合、九州地方は石油をはじめとする代替燃料のめどが立っておらず、東京電力管内よりも電力需給の逼迫が厳しい状況に陥る可能性もあります。『朝日』が玄海原子力発電所1号機の問題を報道したのは、首都圏のメディアの中ではまだ視野が広いと思いますが、各地方の電力需給や経済への影響などの視点はなく、「東京目線」でしか物事を見ることができない限界をよく示している部分もあります(他社よりはマシな印象があるので、引用しているのですが)。電力問題はもはや東京電力管区内だけの問題ではなく、被災地である東北地方はもとより、東海地方や近畿地方、九州地方などでも既に顕在化しつつあると思います(中国電力や四国電力の実情がよくわからないのですが)。

 話が変わりますが、菅総理は、ドービルサミットで日本のエネルギー政策に関して3点ほど大きな方向性を示しました。首相官邸HPにある2011年5月25日に行われた「OECD50周年記念行事における菅総理スピーチ」(参考)に、その3点が示されています。第1に、原子力の平和利用に関しては、「最高度の原子力安全」を達成することです。第2に、化石燃料の効率性を高め、温室効果ガスの排出を極力、抑制するということです。第3に、自然エネルギーを社会の「基幹エネルギー」に高め、発電電力量に占める自然エネルギーの割合を2020年代のできるだけ早い時期に少なくとも20%を超える水準となるよう技術革新に取り組むことです。スピーチでは省エネも挙げられていますが、電力だけでなく水の節約まで各家庭で進んでいる状況で省エネにはかなり限界が多いと私が独断し、割愛しました。また、2011年5月27日の「G8ドーヴィル・サミット内外記者会見」(参考)では、質疑応答を含めて、自然エネルギーの問題に重点があり、自然エネルギーと並ぶ柱とされている省エネルギーは、相対的にはるかに低い優先順位が与えられているように感じるからです。ちなみに、5月27日のスピーチでは、孫正義氏の名前が出てくるのは、これほど政治と企業が癒着する典型例はないのではという問題はさておき、本業である通信事業でインフラストラクチャー整備に関して、「定評のある」人物が、電力という生活の根幹に関わる分野に総理の後ろ盾をえて参加することには恐怖を覚えます。ひどい話ですが、東京電力管内でのみ発送電分離を実行し、孫氏には利益が見込めるかもしれない東京電力管内でのみ事業を行って頂きたいと地方在住者としては切に願います。

 さて、ドービルサミットでの菅総理の発言は、大雑把にいって、次の二つの反応があるように思います。脱原発を積極的に進める方からすれば、自然エネルギーの比率を2割以上に高めるという目標を歓迎する立場です。他方、当面は原子力発電と付き合わざるをえないという方は、原子力発電の安全性を高めることには異論はないものの、自然エネルギーの比率を上げることには、主として実現可能性の点から批判的な立場です。菅総理の発言は、かならずしもエネルギー一般であって、発電設備の問題に限定されているわけではありませんが、電力の問題を念頭においていると思います。私自身は、自然エネルギーの比率を高めること自体には反対ではありませんが、懐疑的です。そんな私が、実は、データの取り方によって、菅総理の発言は、単なる寝言(「時の最果て」の中の者としてはあまり使いたくない表現ですが)ではないですよということを以下に見ていきましょう。

 まずは、東京電力のHPで「数表でみる東京電力」(参考)から31ページを見てみましょう。他社受電を含まない「(a)電源構成比の推移」では、新エネルギー等の割合は、小数点処理も問題が大きく0%ですが、水力は17%ほどを占めています。なお、新エネルギーの定義に関しては、経済産業省資源エネルギー庁に詳しい内訳が表示されています(参考)。東京電力のデータでは、2009年度以降は地熱発電を新エネルギー等に含めているので、資源エネルギー庁の定義とはやや異なる点があることにも注意が必要です。以上のことを踏まえて、水力発電が既に17%を占める状態ですから、自然エネルギーを「基幹エネルギー」に高めるのは実現可能性という点で懐疑的ですが、2020年代の早い時期に自然エネルギーを全エネルギーの20%に高めるという菅総理の発言は、私と似たようなスタンスの人がバカにするのとは異なって、荒唐無稽ではないと思います。

 次に、他社受電を含むデータでは、水力発電は全発電の実に19%を占めます。おそらく、電源開発などが運営する水力発電所が含まれるからでしょう。この場合、電力に限って言えば、新エネルギーを含む自然エネルギーを全体の20%に高めることは、はるかに実現可能性が高いでしょう。このスピーチの数字の裏付けを行ったのは環境省なのか、経済産業省なのか、あるいは他の菅総理に近い方なのかは知る由もありませんが、このデータに基づいて考えれば、自然エネルギーを20%に高めるという目標は、さほど野心的ではありません。

 実は、このデータは、図の注にあるように、認可電力です。電気事業連合会の電力統計情報(参考)では、他社受電を含まないデータに関しては最大出力です。発電電力量の実績値を見れば、光景は全く異なります。下に、電気事業連合会の電力統計情報から作成した発電電力量の内訳を示します。

表 発電電力量(含む他社受電)の推移(2000年度−2009年度)

hatsujuden2000-2009

 このデータによれば、2009年度の水力発電を含む自然エネルギー(水力発電と新エネルギーによる発電量の合計)は、全発電量の6.4%にすぎません。他方、原子力発電も、2000年度には、3億247万4,802MWhを記録しましたが、2005年度に2,450万2,083MWh2006年度と連続して発電量の増加を記録して以降は、発電量と全体に占める割合を減少させる傾向が続いています。ちなみに、2005年度には、前年度ではありますが2005年1月に中部電力浜岡原子力発電所5号機(定格出力138kW)、12月に東北電力東通原子力発電所1号機(定格出力110万kW)、2006年3月に北陸電力志賀原子力発電所(定格電力135.8kW)などが運転を開始した時期です。それにもかかわらず、2000年度から2009年度で3,636万4,450MWhほど減少しています。また、総発電量に関しては景気との関係が大きく、2007年度には10億353万3,215MWhと10億MWhを超えましたが、2000年度から2009年度の総発電量の増加は2,155万9,706MWhと2.3%の増加にとどまっています。

 実際の発電量から見た場合、菅総理が打ち出した「自然エネルギー」を2020年代に全エネルギーの20%を占める「基幹エネルギー」とするのは極めて困難でしょう。また、「最高度の原子力安全」を実現するのには、どれほど時間がかかるのかも明示すらされておらず、現実には福島第一原子力発電所を安定化させることが可能かどうかにも疑問が残る状態では絵空事でしょう。現政権の方針の下では、今後、少なくとも10年間ぐらいは、原子力発電に関しては福島第一原子力発電所の状況しだいで、各電力会社の原子力発電所の運転再開に地元の理解がえられなければ、ベース供給力として極めて不安定な状況が続き、自然エネルギーは原子力エネルギーを代替することはできず、長期間にわたってベース供給力不在が続くのでしょう。

(追記)2005年度の原子力による発電量に誤りがありましたので、抹消いたしました。また、下線部を加筆いたしました。(2011年5月30日)


 4月の下旬に藤和彦氏の『石油神話―時代は天然ガスへ』(文春新書 2001年)を読み返していました。仮に、今後10年間にわたって電力のベース供給力が不安定な状態が続くとすれば、天然ガスが占める役割が増加するでしょう。10年前に出版された本書では、石油神話の崩壊だけではなく、世界的には天然ガスの比重が高まっていることや、ガスタービンや燃料電池など当時の最先端の技術を紹介するとともに、LNGに依存している日本の現状の問題を指摘しています。2011年3月22日の「寝言」で、知識不足を露呈したので、読み返していたのですが、日本の地理では難しいのでしょうが、全国を結ぶパイプラインの整備が遅れているのは、現状でも変わらず、電力会社の問題だけではなく、仮に新規参入を促すとしても、ボトルネックとなると思います。また、ガス事業者は、東京ガスや大阪ガスのような大企業はむしろ例外的であり、地方では多くの場合、公共団体が経営しています。この点も、仮に発送電を分離して、新規参入を促すといっても、ガス会社やその他のIPPが参入する地域は限られていることを意味しているでしょう。首都圏や近畿地方はある程度、効果が見込める可能性がありますが、その他の地域では発送電分離を行ったところで、電力のベース供給力を補完するほどの効果を見込めないと思います。

 また、発送電分離は、送電会社に、送電、とりわけ配電網に投資するインセンティブをどのように与えるのかという問題を生むのでしょう。さらに、参入を促し、市場機構を活用して新規参入を目的とするなら、既存の電力会社に退出の自由を認めないというのは、論理的にも問題が多いと思います。この場合、公益性よりも収益性が優先させることを容認することによって電力市場を活性化させるわけですから、不採算の地域からの退出を認めないというのは、無理があります。他方、認めてしまえば、電化されていた地域がそうでなくなってしまうという二律背反に直面します。

 表にも示しましたが、電力の自由化は緩やかだったのは事実でしょう。他方、他社受電は2000年代を通して伸び、定着しています。部分的な自由化の効果を認めることが先であって、ベース供給力とはならないにしても、従来の電気事業者以外の参入を認めるためには、発送電分離が不可欠ではないというのが、「時の最果て」のスタンスです。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/45587636
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック