2007年09月18日

グリースパンの「暴露」? イラク戦争と原油「利権」

 なんだかいろいろ慌しいです。時事通信は、「『イラク開戦の動機は石油』=前FRB議長、回顧録で暴露」というタイトルの記事を配信しています。記事では、「17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露」とあり、イラク戦争の「本当の理由」が石油利権の確保であったと読める記事になっています。まず、回顧録のタイトルは、"The Age of Turbulence: Adventures in a New World"です。私は、この本を入手しておりませんし、531頁もあるそうなので、手が回りそうにありません。と言うわけで、超手抜きですが、Washington PostがネットでB.Woodwardによるインタビューを配信しているので、そちらをとりあえず訳してみましょう(うっかりしておりましたが、Washington Postが配信した記事はこちらです)。と申しますか、迂闊にも、アメリカの主要紙でまず話題になっていることを見落としていて、たまってくると面倒になって削除してしまう英字紙のメールで目に付いたのでざっと目を通しておいたら、日本語では、グリーンスパンがイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露したとあって、目を疑ったと言うところです。

 以下、ウッドワードによるインタビューを読むと、グリーンスパンの発言は、いわゆる「石油利権」そのものではなく、国際石油市場の安定に関するものであることがわかります。むしろ、驚くのは、ブッシュ大統領やチェイニー副大統領を中心に、グリーンスパンの進言に耳を傾けていなかったことです。これは、驚きと申しますか、イラク開戦前夜は、石油市場の混乱や世界経済の「カオス」はあまり考慮されず、純粋に安全保障上、地政学的な立場が戦争を主導していたことを、裏返して感じさせます。

 他方で、ウッドワードは、"Iraq: Goals, Objectives and Strategy"で"to minimize disruption in international oil markets"という項目が戦争目的に含まれており、石油利権に関する「疑惑」についても、全否定はしておりません。どうも、この部分だけが一人歩きしているのか、先週のグリースパンのあまりに不用意な発言が一人歩きしているのかわかりませんが、石油利権がイラク戦争の「本当の理由」だという報道が世界中を駆け巡っているようです。

 グリーンスパンの発言を注意深く読むと、彼が警戒していたのは、第1に、国際原油市場の混乱による世界経済の「カオス」であることがわかります。第2に、サダム・フセインがホルムズ海峡を支配して世界経済への脅威となることです。このインタビューを読む限り、グリーンスパンは、イラク戦争が石油利権の奪取だったと暴露しているのではなく、彼が世界経済の混乱を警戒しているのにもかかわらず、ブッシュ政権がそのことに鈍感だったことを「暴露」しているように読めます。このグリーンスパンの認識が正しいとして、問題は、そのことがその後の世界経済にどのような影響を与えたのかということですが、私の手に負えそうもありませんので、割愛いたします。

 それにしても、著名な方の発言というのはこれほどまでに影響力があると同時に、曲解されることがあるのだと驚きました。以下に、ウッドワードによるインタビュー全文の訳文を掲載しております。訳文がこなれておりませんので、誤訳等、お気づきの点がございましたら、ご指摘ください。それにしても、朝からヘロヘロ。今朝、1時間ちょっとで慌てて訳したので、原文を御覧になることをお勧めします。



 まず、記事のタイトルですが、"Greenspan: Ouster Of Hussein Crucial For Oil Security"です。記事のデータとして、'By Bob Woodward Washington Post Staff Writer Monday, September 17, 2007; Page A03'となっていることを記しておきます。

 アラン・グリーンスパン(連邦準備制度理事会元議長)は、インタビューでサダム・フセインを除去することは、世界の原油供給を確保するのに「不可欠であった」と述べた。これは、2003年のイラク進攻の以前に非公式の会話でグリーンスパンがホワイトハウスに強調したことであった。

 グリーンスパンは、ブッシュがイラク戦争を決定したときに、金融政策の最高責任者であった。グリーンスパンは、これまで広範囲な公式表明を控えてきたが、今日(2007年9月17日:訳者)、出版される新しい回顧録で、「イラク戦争は、大部分、原油と関連している」と印象的な論評をした。インタビューではグリースパンは、531頁にのぼる著作から一文を示し、原油の世界市場の安定が政権の動機ではなかったと述べた上で、フセインを除去することは世界経済にとって重要である理由をホワイトハウスに進言していたと述べた。

 土曜日のインタビューでは、フセインの除去が世界経済にとって重要であることが政権が戦争を決断した理由ではないと述べた。グリーンスパンは次のように述べた。「私はサダムを除去することがよいことかと尋ねられれば、私はそれが本質だったと答えるだろう」ということだ。

 グリーンスパンは、ブッシュ大統領やチェイニー副大統領との議論で、「私は二人が『世界の原油供給を守らなければならない』と述べるのを聞いたことがないが、それが私自身の動機だった」と述べた。グリーンスパンは、自らの経済上の議論をホワイトハウスの職員と行ってが、より下位の職員に「不幸なことに石油について話すことができない」と漏らした。チェイニーに明確にポイントを指摘したかを尋ねると、グリースパンはそれを認めた上で、「私はすべての人にこのことを語った」と述べた。

 グリーンスパンは、「戦争という手段にせよ、秘密行動にせよ、フセインの追放を支持していたと述べた。「私は、戦争それ自体を議論していなかった」と語った。しかし、「私の判断では、フセインを追放することは、西側諸国にとって重要であり、本質的だった。ただ、プランBは見たこともなかった」。プランBは戦争の代替案である。

 グリースパンが自著 The Age of Turbulence: Adventures in a New World について触れ、戦争は「大部分が石油に関連していた」という「政治的に不都合」と彼が呼んだ事実は、土曜日のワシントン・ポスト紙で報道され、論争をよんだ。

 昨日、R.M.ゲーツ国防長官はABC放送の番組、"This Week"へ出演し、グリーンスパンを批判した。「私は意思決定過程の、そのものを開始するときにも、戦争を始めるときにも蚊帳の外だった」。ただし、彼は次のことを付け加えた。「1991年の湾岸戦争時にも同様の主張がなされたことは承知しているが、私はそれが真実ではないと考えている」。

 ブッシュ政権への批判者たちは、ブッシュがイラク進攻の理由としてフセインが大量破壊兵器と独裁体制を追及していることを挙げているが、ブッシュの狙いはイラクの莫大な原油の埋蔵へのアクセスを獲得することだと議論してきた。公式には、このような見解を支持する証拠はない。しかしながら、"Iraq: Goals, Objectives and Strategy"というタイトルの最高機密である国家安全保障に関する大統領指令(ブッシュはイラク進攻の7ヶ月前、2002年8月に署名した)には数多くの目的が列挙されている。その中の一つに「国際的な石油市場の崩壊を最小限に食いとどめること」がある。

 グリースパンの著作の大部分はイラクに関して沈黙を守っている。しかし、他の問題については、ブッシュや共和党に厳しく批判的だ。とりわけ、大統領の財政規律の欠如と「機能不全の政府」という点についてだ。インタビューでは、グリースパンは、(出版以前に)ブッシュやチェイニーに事前に批判を述べていたと語った。「彼らは私の結論に驚いてはいない」と述べた。

 イラクに関して、グリーンスパンは、進攻時点で彼が、「サダムはそれほどにやましい様子で何かを保護しようとしながら、行動していた」ので、イラクには大量破壊兵器があったとブッシュのように信じていたと述べた。 「彼には原子力関連の兵器がなかったのを合理的に確信していた」が、彼は、「私の視点はわれわれが何もしないなら、結局、彼が兵器を支配するだろうということだった」と付け加えた。

 もっとも、グリーンスパンのフセイン追放の主要な支持は、経済的に動機づけられていた。 「サダム・フセインはイラクの代表であり、砂漠の下に原油が全くなかった」なら、「彼に対する私たちの対応は最初の湾岸戦争ほど強くなかっただろう。 第2次湾岸戦争は最初の湾岸戦争の拡大だ。私の視点では、サダムは、30年の歴史を通して、ホルムズ海峡を支配下におこうとしていることは明白だった。ホルムズ海峡は、1日あたり1700万から1800万、あるいは1900万バレルの原油が通過する」と述べた。

 グリースパンは、1日あたり300万から400万バレルの原油が途絶すれば、バレルあたり120ドルまで価格が上昇すると指摘した。これは、先週の直近での高値である80ドルをはるかに超える。そして、そのことは、世界経済の「混沌」である。

 グリースパンは、以上のことから「私は、サダムの追放は不可欠であったと言っている」と述べた。しかし、彼は、「戦争は原油を奪取することを意味するものではない」と付け加えた。

 「いや、いや、フセインの除去を達成したことは、既存の(石油市場)システムが機能し続けるという目的を、率直には私たちが他のエネルギー供給源を手に入れるまでという限定した期間で、達成したということだ」とグリーンスパンは述べた。
この記事へのコメント
ニュースを見る暇もないので、「ふーん、どうせ金融面での悪影響の懸念を誇張して報道してるんだろうけど、グリーンスパンのような人でも自分の立場から過大に評価することもあるのだな」とほんの少しだけ報道を信用してました。しかしフタを開ければこれこの通り完全な捏造に近いとは・・・・
とにかく日本国内の海外ニュースは一つ残らず原文に当たらないと駄目ですね。その事は良く分かっていたつもりだけども。
Posted by カワセミ at 2007年09月19日 01:53
>カワセミ様

とことん世間様からずれている私は、時事通信の記事を見て「ハァ?」となりました。Bob Woodwardのインタビューしか読んでなかったので、インタビュー中にでてくるWashington Postの別の記事は読んでいませんでした。今回の場合、「捏造」というよりも、米国内での「伝言ゲーム」がまず米国内で訳のわからない状態になって、日本国内でそのまま報道されてしまったのではないかと。WoodwardにGreenspanとベタすぎる組み合わせですが、やはり目に付くので読んでおいてよかったと思います。

……結局、連休明け早々、ヨレヨレになってしまいましたが。
Posted by Hache at 2007年09月19日 04:03
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/5481772
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック