2012年07月25日

進行するユーロ危機 ギリシャ(2)

 あまり時間がないので、早速、本題です。WSJが2012年7月19日付で配信したMarcus Walker and Marianna Kakaounakiの"Greeks Brace for More Pain on Wages"から引用が続きます。以下の指摘は目新しいものではありませんが、あとででてくるIMFやEUの見方と対比すると興味深いと思います。

Greece, Spain, Portugal and Italy all face the same arduous route to recovery as Mr. Petsas's business. They must push down wages and prices at the same time as they labor to pay down heavy public or private debts.

There is hardly any successful precedent. In advanced economies, wages generally fall only amid long recessions and mass unemployment, and even then, only slowly. In Greece, the public backlash against such immiseration has brought the nation to the brink of ungovernability.

To make matters worse, the more incomes fall and economies shrink in the crisis countries, the less confidence financial markets have in their ability to repay their debts, adding to capital flight from banks and government bond markets.

If the euro zone unravels, the deeper reason won't be fiscal indiscipline or political dithering. It will be because struggling nations' euro membership, coupled with Germany's approach to its own economy, leaves them with a route to recovery that some economists say is barely feasible−socially, politically or financially.

 ギリシャやスペイン、ポルトガル、イタリアはすべてPetsas氏の事業と同じように、困難な回復への道に直面している。これらの国々は、重い公的負債または民間の負債を返済すると同時に賃金を引き下げなければならない。

 成功した先例はほとんどない。先進国では、賃金は、一般的に長期の景気後退と大量の失業が生じている最中でのみ、ごく緩慢にしか低下しない。ギリシャでは、そのような窮乏化に反対する社会の反発が、国家が統治できないという危機を招いた。

 問題を悪化させているのは、所得がより減少し、危機に陥った国々の経済が収縮すると、金融市場でこれらの国軍の債務を返済する能力に対する信頼がさらに失われてしまうことだ。加えて銀行や公債市場から資本逃避が生じる。

 もし、ユーロ圏を解体すれば、財政的な規律が乱れていることや政治的混乱がより深い理由ではないことがわかるだろう。より深い理由は、ユーロに参加している諸国が、ドイツの自国経済へのアプローチに連結されていることである。ドイツのアプローチに関しては、経済学者の中には社会的に、政治的に、あるいは金融の面から実現可能性がほとんどないと述べる者もいる。


 実際に紙にノートしているだけなら不要のお断りですが、私は上記の見解に近く、ギリシャの財政規律などを無視してもよいとまでは思いませんが、ドイツのユーロ圏における失政がユーロ危機の原因の主たる要因であり、南欧諸国自体の問題は従だと考えております。これは、一般的とはいえない特定のスタンスで、私の知る限り、アメリカの経済学者でも支配的な見解ではないと思います。ただ、日本と比較すれば、クルーグマン先生はちと極端すぎてついていけないのですが(案外、こういう変態(失礼!)の方が異常な時代には物が見えている可能性があるのではと思うこともありますが)、ドイツの緊縮財政がユーロ危機の主たる要因として捉える立場の専門家が存在するように思います。

 この点に関しては、だから日本の専門家はダメだというつもりはまったくなくて、IMFやドイツ流のアプローチ、すなわち危機が生じている国の財政規律を回復して、労働市場などで構造改革を行うという方法は、通常の事態であれば、排斥するほど問題のあるアプローチではないと思います。また、私自身はちゃらんぽらんなので、WalkerほどIMFやドイツのアプローチに批判的ではない部分もあって、財政規律の回復や構造改革などは危機の解決の本質的な手段ではないけれども、ドイツを宥めておくにはあるレベルまではやむをえない部分があるだろうと。これは不純な政治的理由ですが、ドイツの言い分を完全にシャットアウトしてしまうと、ユーロが本当に壊れる可能性が高いでしょう。これは避けたいということですね。寄り道はこれぐらいにして記事に戻りましょう。

Germany could help these nations recover, many economists say, by increasing spending to boost domestic growth and imports, or by tolerating significantly higher inflation so that Mediterranean wages become more competitive in relative terms. But Germany isn't prepared to take either step because it fears for its own hard-won stability and competitiveness.


 上記引用では、要はドイツが財政刺激でまず自国の内需を拡大して地中海諸国の競争力を回復させるべきだが、そんな気はないと指摘しています。この点は、前回ちょっと疑問ですねと書いた部分です。ドイツに同情するというより、反論としては弱いのですが、ドイツが財政支出を拡大して地中海諸国の需要を補おうとしても、輸入先として地中海諸国の財貨やサービスのみが選択されるわけではないでしょう。また、債務危機は金融市場の問題で実体経済が仮に多少でも回復すれば、地中海諸国の犠牲は軽減されるかもしれませんが、根本にある信用不安そのものは財市場から切り離すことはできないとはいえ、財市場だけを見ていては解決しないだろうと。もっとも、ドイツは緊縮財政を実施しているおかげで低金利という恩恵を被っているのだから、その恩恵を地中海諸国の救済に回すべきではないかという主張に反論を考えているのですが、なかなか難しいです。現実のドイツの政策は救いようがないというのが率直な実感ですが。

 想像以上に長くなってしまいましたので、労働市場に関する部分は「続き」に回しました。内容的には素人が、根拠薄弱なまま「寝言」を呟いているだけですし、お暇な方だけでよかろうと。十分な検討がないまま、ずいぶん大胆なことを書いてしまったなと思いますが。なお、この「寝言」のタイトルを「進行するユーロ危機 ギリシャ(2)」としたため、前の「寝言」のタイトルを「進行するユーロ危機 ギリシャ(1)」としました。


 続く記述はPetsasの工場で働く従業員の窮状を描いていますが、非常に興味深いです。賃金の下方硬直性に関しては、理論的に決定的な説明がないというのが私が習った頃の話ですが、現実問題としてある水準まで名目賃金が下がってしまうと、労働市場そのものから供給側の退出が生じるというのは当たり前なのかもしれません。他方で、売るべき資産も持たない貧困層や若年層は本当に未来がないと感じます。

Thus the burden of adjustment is overwhelmingly on Europe's indebted south, and on workers such as Voula Koutsoula, a 50-year-old who has worked at Mr. Petsas's underwear factory for 28 years. Her salary has fallen to a level that barely covers her mortgage payments, and she fears more cuts will come. "How much more? How can you make ends meet?" she asks, lamenting that "there are no other jobs."

Ms. Koutsoula and her husband, a retired teacher whose pension has been slashed, have a fallback plan: If their income declines much further, she says, they will sell their main house and retreat to rural subsistence on their acre of land by the sea, where they grow tomatoes and peaches and breed rabbits.

 このように、調整の負担は、圧倒的に債務国である南欧とVoula Koutsoulaのような労働者にのしかかっている。Voula KoutsoulaはPetsas氏の肌着工場で28年間働き続けてきた50歳の女性である。彼女の給料はモーゲージの支払いをまかなうのがやっとの水準にまで低下した。彼女はさらに賃金が切下げられると不安に感じている。「どのぐらいの金額がもっと下がるの? どうやってやり繰りすればいいの?」と彼女は「ほかに仕事がない」と嘆きながら尋ねる。

 Koutsoulaさんと夫(彼の年金は大幅に削減された)は代替案がある。もし収入がさらに下がったら、二人は自宅を売り払って、海辺の土地でトマトや桃を育て、ウサギを飼育して、田園生活へ引退すると彼女は言った。


 不謹慎ですが、年金の根本的な改革、あるいは年金給付の削減の条件はやはり財政破綻ですかと思いました。それはともかく、IMFとEUのアプローチは、ある意味でさすがだなあと。金貸し、かくあるべしと痺れます。

Greek employers and labor unions are arguing over pay cuts that would reverse a long inflationary spiral. Unions are threatening a new wave of strikes that could reignite the mass protests that hobbled Greek politics before the country's tumultuous elections in May and June.

In February, Greece's main creditors, the International Monetary Fund and the European Union, forced the government to cut the national minimum wage by 22%−32% for young workers−and made sector-specific pay deals between unions

The IMF and EU were frustrated that Greek wages weren't declining faster, despite unemployment of around 22%. The hugely unpopular measures boosted voter support for parties that oppose Greece's tough international bailout.

 ギリシャの雇用主と労働組合は、長期間のインフレーション・スパイラルを逆転する賃金カットについて議論を続けている。労働組合は、ストライキの新しい波を起こすと脅している。ストライキは、5月と6月の騒然とした国政選挙の前にギリシャ政治を引っ掻き回した大規模な抗議となりうるだろう。

 2月には、ギリシャの主要な債権者である国際通貨基金とヨーロッパ連合が、ギリシャ政府に若年労働者に対する全国の最低賃金を22%から32%引下げるよう強制し、個別産業部門における労働組合と民間の雇用主との間の賃金協定をより速く終わらせた。

 IMFとEUは、失業率が22%前後であるにもかかわらず、ギリシャ人の賃金率が低下しないことに不満を持っていた。非常に不人気な政策は、ギリシャに対する厳しい国際的な救済策へ反対する政党への有権者の支持を加速させた。


 ざっくりとしたまとめですし、Walkerはギリシャに対して甘い印象もあるのですが、まあ、大筋はこんなところですね。ここで興味深いのは、ケインズが古典派経済学の公準として批判した労働市場の捉え方と実質的にIMF・EUの立場が酷似していることでしょうか。あるいは、もっと平たく、失業率が高止まりしているのにもかかわらず、賃金率が低下しないのは市場が機能していないからだと捉えた上で、最低賃金制度の不備や労働組合と雇用主との契約の問題を市場が機能しない理由とみなしていることでしょうか。この捉え方は、やはり労働市場を財市場と同じようにみなすという点であまりにも一面的なのでしょう。他方で、Walkerの立場からすれば、ドイツが財政政策でユーロ圏全体へ波及する景気刺激を行うべしという政策提言になるのはほぼ自然流れですが、これも問題が多く、今の緊縮財政よりはまだ延命できるかもしれませんが、ユーロ圏が最終的に解体を免れるのは難しいと思います。

 なお、最後の部分は来週になるかもしれません。今月末が締め切りの仕事がまったく進んでいない上に、金曜日と土曜日が午前から予定で埋まっています。来週も同様の状態で厳しいですね。
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