2011年02月13日

エジプトの騒乱とオバマ政権の外交

 2009年の総選挙以来、政治的混乱のなかにいる身としては、手放しでデモクラシーを評価する気にはなれないのですね。そんな目でついついエジプト情勢を見ているので、かなりバイアスのかかった情報ばかりを拾うことになるのでしょう。ムバラクが辞任して、デモが落ち着くだろうかといえば、否定的でしたが。一度、「壁」が崩れると、後始末はなかなか大変だろうと。

 英字紙のオピニオンで共感できたのは、Wall Street Journalが2011年2月4日付で配信したEdward N, Luttwakの"A Quick Mubarak Exit Is Too Risky"ぐらいでしょうか(インドが民主主義国から外されているのは違和感がありますが)。有料なので直接リンクを貼るのは避けますが、経済状況や貧困の問題から入って、安全保障上の要注意点を手際よくまとめているなあと。冷徹さを感じるあたりは、アメリカ化されたエジプト軍が、ただちにイスラエルの敵となることはないだろうと。アメリカからの供給なしでは戦争できないという指摘はなるほどでした。また、アメリカ以外の国の装備に切り替えるにしても、200億ドルもの資金と10年もの年月が最低でも必要だろうという指摘も興味深いです。西側諸国のエリート連中は全員一致で"Mubarak must go now!"と確信しているだろうというあたりも、マイノリティとしてはそんなところでしょうなあという感じです。どうも高等教育が本当に役に立たないというのは日本だけではないようで、断崖絶壁から身を投げるときには目をつぶったときという簡単なことすら理解できずに、一生を終えるエリート様を量産しているようにしか見えなくなる時もあります(これだからどこぞの島国は自殺者が多(以下自粛))。

 話が変わりますが、Washington Postは、先日の報道以来、取り扱い注意扱いです。英字紙といえども、信用しているわけではなく、いつもグーグルの検索結果をリンクするようにしています。疲れているときについつい筋の悪い記事を拾ってしまった2011年2月6日の「寝言」で引用した記事に関しては、グーグルの検索結果に修正前の記事がトップにきていて、やはりエジプト国営通信の誤報を基に記事をネットで配信して、後で断りなく修正したようです。ちょっとひどいなあと思ったので、WaPoのエジプト関連の情報については、当該記事を流した記者を中心に要注意とみておりますが、2011年2月12日配信のCraig Whitlockの"Elated protesters 'staying put' in Tahrir Square until democracy demands are met"という記事はさすがに出鱈目ではないだろうと。これも外すようだったら、エジプト関連のWaPoの記事は読まないでしょう。デモの中心人物は、まるで『ドラえもん』の世界のように民主主義を望めば実現すると思っているようで、ムバラクが退いて軍が前面にでてきたときに、急進化しなければよいなあと思います。

 床屋で今回の騒乱は、実質的には軍部のクーデタなんですかねと尋ねられて、ほおと思いました。穿った見方は好きではありませんが、1月末の段階ではその線を考えなかったわけではないのですが、軍部の側に明確なリーダーがいて、ムバラク追放に向けて布石を打っていたにしては手際が悪い印象だったので、それはないでしょうと。「時の最果て」らしく、ここはやはり「気分」をもちだしたくなるところでしょうか。デモそのものは、それ以前と同じくある種の「はずみ」から生じたものの、たいていはムバラク指揮下の治安警察が大規模化する前に鎮圧してきたのが、今回は失敗してしまった。便利な表現としてはタレブさんの「ブラックスワン」みたいなものでして、ある閾値を超えてしまうと、雪だるま式に騒乱が拡大して、軍が事前になにか計画をもっていたというよりも、対応が後手に回ったのではと思います。といっても、群衆に向かって発砲できる軍隊というのは現代ではほぼ限られているので、軍が先回りしていたとしても、あまり打つ手がなかったのではと思いますが。40年近く戦争がない状態では、軍事的英雄が生まれる機会もなく、他方で規律そのものは保たれているようでしたから、挑発されても暴走はないだろうと。この辺は、事実によって裏打ちされている話ではなく、事が大きくなるときにはなにか必然性に導かれているわけではなく、「気分」とか「はずみ」が大きいと見る「時の最果て」らしい、いい加減で、すちゃらかな見方を臆面もなく書いているだけですが。

 床屋でまったりと話していたのは、広場に集まっている人たちはどうやって食べているんですかねえという話でした。日本みたいに炊き出しでもしているのだろうかと。職がなければ、就活でもして探せばいいのにと完全に他人事状態ですね。だんだん本当にどうでもいい話(「寝言」)になってトイレも大変そうですねとか、あんなことやっているから経済的に豊かになれない(ryとか、放言状態で、ああ、すっきり。ついでに帰りにドラッグストアで鼻セレブが3個セットで498円と爆安だったので、買って大満足でした。花粉の季節はこれがないと鼻が真っ赤になるので、助かります。まあ、平和ですなあ。

 「寝言」ついでにさらに外道なことを書いてしまえば、立憲体制を維持しつつ、多党制への改革を行うとなれば、急進的な分子は徹底的に弾圧するに限るでしょう。今回の件では、軍にそのような政治的感覚をもった指導的な人物がいなかったことを示しているのではと思います。エジプト国内ではどの程度、「刀狩り」ができているのかがまったくわからないのですが、現状では武装勢力が内戦に持ち込む確率は低いのだろうと。こうしてみると、西南戦争後、立憲政治を開始し、国会を開設し、政党政治を定着させるプロセスというのは、明治期の政治家のリーダーシップと明治維新以前の様々な蓄積があってのことなんだなあと思ったりします。

 それはともかく、Wall Street Journalが2011年2月12日付で配信したSummer Said, Sam Dagher and Shereen El Gazzarの"Egypt's Military Rulers Suggest They Will Honor Israel Treaty"という記事は、少しホッとする内容でした。Luttwakは、用心深く能力の面からエジプト軍がイスラエルと敵対関係に入るのは困難だと指摘していましたが、この記事は意図の面からエジプト軍に過去のイスラエルとの和平を破壊することはないと指摘していまして、まあそうだろうなと思う反面、ムスリム同胞団の扱いは面倒だなと。ムスリム同胞団を別としても、平常への回帰にはまだ時間がかかりそうで、騒乱の徒というのは一度、自分の言い分が通ってしまうと、やりすぎることが多いのではと思います。

 この騒乱に関しては、欧米のメディアが流す記事だけでも膨大なので、追いかけているゆとりがないです。漸く仕事上の「農繁期」が過ぎた状態ですが、月末までエクストラのタスクが付け加わっているので、ちとげんなりします。エジプトの騒乱が長期化し、大規模化したため、イラクにも波及している状態ですので、アメリカのメディアが連日、トップで扱うのは当然だろうと。中東というよりはアラブ諸国の問題は、原油のような資源の問題にとどまらず、地中海の南側とペルシア湾、インド洋に面した地域を不安定化するように作用するでしょう。とりわけヨーロッパからすれば地理的に非常に重要な地域であるのにもかかわらず、その影響力は非常に限定的であり、対応に四苦八苦していることが大きいのでしょう。私からすれば、昨年と今年で年が変わった気がまったくしなかったのですが、今年に入ってからの騒乱は、仮にエジプトの騒乱が"normalcy"に落ち着いたとしても、既に、アフガニスタンとイラクだけでもコントロールが難しい状態にさらに混沌とした、不透明な情勢をもたらすのかもしれません。


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2011年02月07日

訂正と反省

 昨日、「寝言」でとりあげたWashington Post紙の""Egypt's opposition parties fracture as talks with government begin"は日付も2011年2月6日に変更されている上に、大幅内容の修正が施されていました。日曜の午後に読んでいたら、大幅に内容が変わっているので、困惑しました。2点ほど述べておきます。

(1)記事の3つ目のパラグラフにあったエジプトの国営放送がホスニ・ムバラクが国民民主党党首を辞任し、その息子であるガマル・ムバラクも書記長を辞任したという内容は完全に記事から削除されました。アラブ圏のメディアが流した情報が不確かだったことが原因のようです(昨日、引用した記事では党首辞任の情報源はエジプトの国営放送となっていたと思いますが、当該記事をプリントアウトしてないまま、読んでいたので、私の記憶違いの可能性もあります)。

(2)Washington Post紙以外の米紙や邦字紙も報じているように、ムスリム同胞団はスレイマンが開く会合に参加するようです。こちらは、引用した記事が誤報を流したわけではなく、ムスリム同胞団の態度が変わったということです。

 日曜日に寝ぼけた状態で書いておりましたので、不確実な記事を選んで「寝言」を書いていたことに恥じ入ります。Washington Postの社説に違和感を覚えましたが、ミュンヘンでの会合で欧米諸国が落ち着いた改革を推進する方向を打ち出したために、少し安心しました。日曜日の「ムバラクの国民民主党辞任とスレイマンの「野党」との対話」は、私の「なまもの」の扱いが不注意だという自戒をこめてタイトルを変えずに、そのままにしておきます(寝ぼけていたおかげで、追記が尻切れトンボになっていますが。リアル寝言というところでしょうか)。


時間がないのでごく簡単ですが、New York Timesが2011年2月6日付で配信したJudy Dempseyの"Looking to Egypt’s Future, Merkel Recalls Her Past"という記事にあるメルケル独首相の発言が印象に残りました。

“Everything we do, we need to uphold these principles of human rights, wherever we go, whatever we do,” Mrs. Merkel said.

Looking back at her own experiences during the heady days of 1989 when the Berlin Wall was torn down, Mrs. Merkel said that human rights had to be based on stable foundations.

This, she cautioned, did not mean quick elections that in any event had to be fair and free. “Change needs to be shaped in a peaceful and sensible way,” she said − even suggesting that elections should be delayed.


 人権は無条件に尊重されるべきである。だが、それは安定した土台にもとづかなければならない。このような経験に裏打ちされた常識的な判断がエジプト情勢への欧米の対応を決定づけることを願います。

2011年02月06日

ムバラクの国民民主党辞任とスレイマンの「野党」との対話

 先週の前半に急ぎ過ぎたために、後半でバテてしまいました。「やりたいこと」に専念するためには「やらなければならいこと」を先に片付けなければなりませんが、物事を性急に進めようとすると疲れてしまいます。土曜の昼頃に外出のために鼻毛の処理をしていたら、右の鼻腔の入口の粘膜をうっかり傷つけてしまい、血が止まらなくなって、慌ててしまいました。傷そのものは、5mm程度ですが、わりと新鮮な血が出てきて、5時間が経過しても、出血が収まりませんでした。鏡を見ると、この顔は本当にパッとしなくて悲しいなあと思うのですが、さすがに鼻の下にガーゼをあてて外出する勇気がなかったので、とりやめて収まるのを待っていました。何度もガーゼをとりかえてようやく出血が止まったのが午後7時で、面倒だったので、適当にありあわせで簡単なシチューを作って、ネットで注文しておいたひらめのおつくりを食べて、終わり。冷静に振り返ると、温かい日に出かけられなかったのは寂しいものがありますが、けっこう食生活は充実しているのでしょう。ひらめのつくりは、わさびは使わずに、添付されていた、やや薄めの醤油をほんの少しだけつけて食べたのですが、醤油の香りと味がひらめの甘みを感じさせてとってもおいしかったです。つくりで好きなのはやはりひらめでして、年に2、3回食べれば満足ですが、これで980円と思うと、お値打ち感があります。

 それはさておき、エジプト情勢ですが、どうも日本のメディアを軽く見すぎていたなあと。時事通信やNHKがラシャド・バイユーミへインタビューした記事を配信したのが、2月2日および3日でしたが、その頃、米紙はどの程度、コンタクトをとれていたのかは記事からはわからない状態でした。ツイッターでは、イスラエルとの平和条約破棄に言及したことが問題になっていましたが、日本のメディアが早い段階でインタビュー内容を報道したことは大したものだなあと。最近、感じるのは、ブログやツイッター、SNSが発達しても、メディアの情報の方がはるかに質が高いということでしょうか。『朝日』が2011年2月5日付で配信した「パン値上がり、ガソリン不足…カイロ、デモの影響深刻」という下記の記事も、派手な騒乱の背後にあるエジプト人の生活を描いていて、一断面とはいえ、バランスがとれていると思いました。

【カイロ=玉川透、北川学】ムバラク大統領の即時退陣を求めるエジプトの民衆デモは5日、前日から夜を徹して続けられた。その一方、再開する商店も増えはじめ、街は日常の顔を取り戻しつつある。ただ、デモの影響で物価高や品不足は深刻だ。エジプトでは週初めとなる日曜日の6日を控え、市民は事態の早期収拾を願っている。

 熟れたバナナの房が店先にぶら下がり、商品棚にはパック詰めされたニンジンやキュウリ、ニンニクが並ぶ。カイロ中心部の青果店は5日、3日ぶりに店を開けた。

 ところが、近所の主婦らは店先をのぞくだけで、何も買わずに帰ってしまう。デモの影響で物流が混乱。仕入れ値が上がり、価格を3〜4倍に値上げせざるを得なかったからだ。

 店先にたたずむ店主のロトフィさん(48)の表情は浮かない。「このままじゃ、全部捨てなくちゃいけなくなる……。全部デモのせいだ。一刻も早く終わってほしい」と怒りをぶつけた。

 路上でバラの花束を売るアフマドさん(16)は、「食べ物は高くても買わずにはいられないが、心に余裕がないと花は売れない」とぼやく。いつもなら1日15束は売れていたが、最近は半分以下だという。

 地元紙などによると、1月25日に反政府デモが始まって以降、主食のパン、米、マメの価格は最大で80%上昇。例えばエジプト料理でよく使われるトマトは1キロあたり4エジプトポンド(約56円)。デモが始まる以前の4倍に跳ね上がった。ムバラク政権はこれまで、補助金を使ってパンなどの価格を安く抑え、国民の不満を抑えてきた。

 休業していたガソリンスタンドも、営業を再開するところが増えている。ただ、東部スエズの製油所からの陸路輸送が夜間外出禁止令の影響で滞った。1リットル1.75エジプトポンド(約25円)の価格はデモの前と変わらないが、品薄のため自発的に販売量を制限するところがほとんどだ。

カイロ市内のあるスタンドでは、車1台につき30リットルまでしか売らない。「何で満タンにできないんだ」と店員にかみつく客も少なくない。給油に訪れた商店経営サイードさん(51)は「友人の分もポリ容器で買いたいのに、どのスタンドでも断られた」と怒っていた。

 店長(35)は「デモが長引けば、この先どうなるか分からない。みんなのためを思って販売を制限している」と話した。

 市内では一時、略奪行為も横行したが、いまのところ収まっている。閉鎖されていた銀行業務は6日から再開される見通しだ。政府は国営テレビを通じ、タハリール広場を占拠するデモ参加者に対し、通常生活に戻るよう重ねて促している。


 邦字紙でも報道されていますが、Washington Postが2011年2月5日付で配信したGriff Witte and Ernesto Londonoの"Egypt's opposition parties fracture as talks with government begin"という記事は、エジプトの国営放送がホスニ・ムバラクが国民民主党党首を辞任し、その息子であるガマル・ムバラクも書記長を辞任したことを伝えています。副大統領に就任したオマル・スレイマンが野党との対話を始めています。エジプト最大野党のイスラム同胞団とエルバラダイは対話を拒否したと報じています。他方、リベラルなワフド党のMounir Fakhry Abdel Nourは対話に参加するとともに、憲法の改正をスレイマンに求めています。Nourは、立憲体制の変革か軍によるクーデターという二つの道を示し、立憲体制の維持と変革を進める方向を示しています。なお、現状では、ムバラクが大統領職から去る方法は不明瞭です。

 この対話とは別に、30人の知識人とビジネスの指導者が会合を行っていますが、エルバラダイによると、「手詰まり」とのことです。当初はムスリム同胞団の動向が注目されましたが、ムバラク政権からの移行についてはまだ明確な見通しが立っていないのが現状なのでしょう。また、仮に、立憲体制の変革を行うにしても、ムスリム同胞団が非合法化された理由である政教分離の問題をどのように扱うのについて見通しが立つのだろうかと疑問に思います。タハリール広場に集まっている反政府デモ勢力はムバラクの即時退任を求めており、野党の足並みがそろっていないのが現状なのでしょう。


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2011年02月01日

アメリカが中東の「友人」を失うとき

 ものはいいようで、"orderly transition"だそうで。ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズの論調に引っ張られたわけではないのでしょうが、オバマ政権はあっさりとムバラクを見捨てる方向かなと。まあ、昨年からムバラク政権に圧力をかけていたわけですから、狼狽して方向転換をしたというわけではなく、圧力にもかかわらず、ムバラクが愚図だったために暴動が治まらず、ウォールストリート・ジャーナルの社説がムバラク同様、アメリカ側にも打つ手がないと見ていたように現状を追認したというところでしょうか。"Analysis: The US moral conundrum in Egypt"というAP電はムバラク政権の行き詰まりとサウジアラビアやヨルダンなどへの波及というジレンマに直面するアメリカ外交を描いていて、メモでもしたいのですが、今週から来週は一年間で最も厳しい時期なので、ごく簡単にクリップ程度にしておきます。内容そのものは、他紙が伝えている事実と重複するところが多いのですが、次のあたりは、オバマ政権の中東政策が行き詰まる可能性を示唆していて興味深いです。

"Jimmy Carter will go down in American history as `the president who lost Iran,' which during his term went from being a major strategic ally of the United States to being the revolutionary Islamic republic," wrote the analyst Aluf Benn in the daily Haaretz. "Barack Obama will be remembered as the president who `lost' Turkey, Lebanon and Egypt, and during whose tenure America's alliances in the Middle East crumbled."


 カーターはイランを失った大統領としてアメリカの歴史に残るだろうが、オバマはトルコ、レバノン、エジプトを失った大統領として記憶されるだろうと。そうならないことを願いますが、カイロかどっかでやっていた演説を斜め読みしたときに、ああ、この人は夢を見る人なんだなあと。エジプト情勢がどうなるのかは予想がつきませんが、ムバラクを見放したところで、イスラム同胞団に統治能力があるとは思えず、大変でしょうなと。中東情勢には疎くて、ムスリム同胞団と「イスラム過激派」とは曖昧に区別しておきましたが、エルバラダイをかついだところで貧困の問題が解決するとは思えず、他方で政教一致の傾向が強まるのが民主化といってよいのかもためらいがあるというところでしょうか。仮に、ムバラク政権が崩壊したとしても、安定した体制へと移行する見通しが立たないのが現状です。

 冷静に見て、イランの核開発の問題があり、並行してイラクとアフガニスタンが収まらない現状では、チュニジアに続くエジプトの騒乱はアメリカの中東における影響力の低下を招くリスクが極めて高いと思います。中東におけるアメリカの威信の低下がただちに他の地域、とりわけ北東アジアに直接、影響を与えるわけではないと思いますが、やはり畏怖される存在としてはみなされなくなる可能性もあります。米中の軍事バランスが決定的なのでしょうが、アメリカ外交が試練にさらされ、9/11から始まった孤立主義的な傾向が極めて抑制された状況がオバマ政権の残りの任期で覆ることが、現状では日本にとって極めてリスクが高いことだと思います。 

2011年01月30日

エジプト危機の一断面 経済自由化と食糧価格の高騰

 暇なわけではないのですが、連投です。あんまり、のんびりしている状況ではないですねえ。おまけに、今日、「寝言」を呟いたら、ついついすべての日付に「2010年」と入れてしまう始末。痴呆が入っているのではないかと不安になります。

 それはさておき、「デフレの国」に住んでいると、世界の潮流からあまりにかけ離れてしまうようです。ダボス会議で最も優先順位が高い議題がエネルギーと食糧の価格高騰とは。8年前でしたか、でかい割には暇くさい会合でデフレは日本特有の現象か否かという話をしていて、退屈だった記憶が蘇ります。そんなものは日本ぐらいでしょ。人口は増えないし、爺くさくなる一方だしと毒づいていたのを思い出します。Wall Street Journalが2011年1月27日付で配信した"Rising Price Pressures Spur Concerns"という記事のグラフは、リーマン・ブラザーズ破綻以前からアメリカや中国、日本などで物価下落の傾向が生じていたことを示しています。グラフのソースを実数で確認していないので、ちょっと危険ではありますが、2009年以降もデフレが続いていたのは、日本とフィンランド、アイルランドぐらいで、アイルランドが2009年6月から物価上昇に転じて以降は、日本ぐらい。エジプトあたりは紅蓮の炎に包まれている感じで、ギョッとします。

 まったくもってどうでもいいのですが、寒い冬なのに光熱費が前年比で下がっているのには驚きです。6月にエアコンが故障して参ったのですが、省エネ性能がすさまじく、猛暑時でも前年比でキロワットでみても支払額でみても、電力消費が減少し、ついでに、冷蔵庫(昨年で12年目)も買い替えたら、驚きの状態です。米は安いし。値上がりしたなあと思ったトマトも落ち着いていて、鰆はうまくて安いし(午後6時をすぎると、二切れで400円)、懸念といえば鳥インフルで鶏肉があがりそうなぐらいでしょうか。所詮は生活実感に支配されているのですねえ。

 それにしても、Wall Street Journalのサイトからログアウトしてリーダーで検索した記事の中で見つけた、Caroline Henshawの"Free Food May Decide Outcome of Egyptian Election"(2011年11月26日付配信)という記事を読んでびっくりしました。記事自体は、エジプト議会選挙の予測ですが、記事にでてくるデータがすさまじいです。正直なところ、エジプトに関する基礎知識がない状態でしたので、メモも兼ねて、です。記事にないデータとしては、外務省HPから人口は約7,785万人(外務省HP)、一人当たりのGNIが2,070ドルとチュニジアの3,720ドル(世銀データ)よりも貧しい状態です。以下、データ中心のメモです(あまりに凄まじい数字が連続するので、そのまま信用してよいのかと疑ってしまう部分もあるのですが)。

・食料価格の上昇率は20%近い。
・アラブ諸国の中で最も人口が多い国であり、1日1ドル以下で生活する貧困層が5人に1人である。
・エジプトは世界最大の小麦輸入国である。1,420万人以上の貧困層へ補助金つきのパンを支給するために毎年800万トンの小麦を輸入している。
・2010年の夏にトマトなど基本食料品価格は300%も上昇した。
・2010年の夏には国内の食肉の価格も上昇した。飼い鳥が40%、他の肉の費用は25%上昇した。

 さらに、2004年以降から実施された経済自由化によって5%程度まで経済成長率が上昇して海外から称賛される一方、国内では多数は貧富の差が拡大しただけだと感じていると指摘されています。実は、昨日の時点で見たIMFのデータでは実質成長率が高いので、この記事を読むまでちょっと頭が混乱していました。経済的要因がエジプト危機を説明するすべてとは思わないのですが、経済自由化は経済成長をもたらす一方、中流階級が没落し、貧富の格差を拡大して、社会の分断を広げたのでしょう。また、ムスリム同胞団の支持者を1,000人以上も逮捕したのは、圧制という印象を強めたのでしょう。国民民主党が腐敗しており、実質的に交代可能な政党が存在しない以上(候補者を立てているものの、ムスリム同胞団は非合法化されているようです。なんとも中途半端な「弾圧」という印象)、ムバラクが批判の的になるのは当然であるともいえます。夜中にデモの光景を中継していたのがCNNぐらいというのはちょっとのんきすぎるのでは。公共放送様はなんのためにあるのだろうと疑問に思います。


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2011年01月29日

エジプトの騒乱

 金曜日の9時から某公共放送のニュースを見ておりました。国内政治が完全にスルーされていたので、極めて快適です。総理大臣の顔が映ると、チャンネルを変えずに、そのまま電源を落としてしまう厨二病患者ですので、非常に快適でした(思想・信条や党派の相違よりも無能には嫌悪感が極めて強い。もっとも、ある人物が無能だというのは感覚であって客観的な評価だとは思いませんが)。エジプトの騒乱に関してオバマ米大統領のコメントが紹介されていましたが、字幕では、私の目が悪いので見間違えたのかもしれませんが、「革命を望む」とあって目を疑いましたが、英語では"reform"と聞き取れたので、あれはなんだったのだろうと。単に私の目が悪かっただけかもしれませんが。

 国内でも報道が多いので、とりあえずは簡単に米紙各紙のお見立て。New York Timesが2011年1月28日付で配信した"Washington and Mr. Mubarak"という社説では、エジプトをアメリカの同盟国であり、同時に毎年15億ドル程度の援助をアメリカから受けている国と位置付けたうえで、結論部分では、ムバラク・エジプト大統領が政治システムを開放しなければ、オバマ大統領は援助を削減する意思をもたなければならくなるだろうと警告しています。途中でウィキリークスをソースにアメリカがムバラク大統領に圧力をかけていたことも指摘しています。また、エルバラダイを「民主化」のリーダーと見立てているようです。

 Washington Postは、2011年1月29日付で配信した"The U.S. needs to break with Mubarak now"という社説で、New York Timesと同じく、支援について触れ、アメリカ政府の対応がムバラク政権の存続を前提にしていることを批判し、エルバラダイの解放を求めるよう主張しています。社説の中で紹介されているPBSでのバイデン米副大統領の発言は相変わらずの優柔不断さを感じさせますが、現段階でアメリカ政府がムバラク政権を切り捨てるととられる発言をすれば、まあ、率直なところ、微温湯的な改革では収まらないリスクが高いとは思いますが、強烈な内政干渉になりかねず、やむをえないところではとも思います。

 Wall Street Journalも2011年1月29日付で社説を配信してはおりますが、有料記事ですので、ご覧になりたい方は、正規の方法でお願いします。サブタイトルがグーグルのリーダーでも配信されていました。"Mubarak now has few good options for retaining power."とあり、「今やムバラクには権力を維持するよい選択肢がほとんどない」というところで、上記2紙とは異なって、勧善懲悪調の雰囲気が相対的に希薄なのが印象的です。また、エルバラダイの国内における影響力に関しても未知数としており、現状では最も穏当な見方だと思いました。最後で、「ポスト・ムバラク」が避けられないと指摘した上で、アメリカを権威主義的体制の最後の友人とみなすことはできないと述べています。有料記事ですので、これでおしまいですが、今回の事態ではアメリカの選択肢も狭く、フィリピンや韓国、その他の国々の民主化と並べて、アメリカが政治改革を過去にも促しきたこと(そして、それが失敗に終わったこと)も指摘しています。

 現状の見通しとしては、エジプトの騒乱がムバラク政権の崩壊の始まりとみている点は概ね共通しているようです。ムバラクが息子に政権を禅譲しようとする行為などは米紙では批判を招いており、ムバラクを権威主義的な独裁者とみる点は共通しているのでしょう。他方、アメリカの影響力に関する立場にはかなりの濃淡があり、WSJは、ムバラクが手詰まりなのと同じく、アメリカの影響力は限定的と見ており、NYTやWaPoはアメリカがさらにムバラクに圧力をかけるべしと主張する点で、相違があります。おそらく、後者の立場が現政権により強い影響力を与えるのでしょうが、現実問題として、実際にはムバラク政権の崩壊を促す方向に作用するのでしょう。一般教書演説を斜め読みした限りは、オバマ自身は内政に専念した意向のようですが、イラクにアフガニスタンという継続した問題に加えて、中近東の「民主化」への対応でなにをしてもアメリカ国内で批判されるという立ち位置に置かれる可能性もあるのでしょう。エルバラダイの評価に関しては、留保でしょうか。日本政治のように「神輿は軽くてパーがいいお」というほど成熟しておれば、あまり問題がなさそうですが、そうではないから騒乱になるわけでして、ワシントン・ポストの社説のように期待する方が理解に苦しみます。

 なお、チュニジアに続く、エジプト騒乱の背景とされる失業率の高止まりと物価上昇率ですが、後者に関しては、小麦の国際価格の上昇が大きいのかもしれません。アメリカのデータですので、各地の価格と対応しているのかは問題がありますが、IMFのデータによると、2008年3月に1トン当たり約440ドルに達した後、2010年6月には約158ドル程度まで下落しました。再度、2010年12月には約307ドルに達しており、生活への直接的な影響が大きいものと推察します。なお、失業率に関しては(参考)、エジプトに関しては2002年から2006年まで10%を超えており、チュニジアに関してはIMFにデータが登録されている1990年から2002年の期間で15%を超えています。2010年に関しては、エジプトがIMFの推計値で9.2%、チュニジアが13.2%となっており、利用可能な統計からは失業と騒乱との関係はかならずしも自明ではありません。もっとも、統計自体が整備されているかどうかはかなり難しい部分があり、報道されている方が実態に近いのかもしれません。

 中近東に疎いど素人の「寝言」ですが、チュニジアに続くエジプトの騒乱は、米紙が指摘する権威主義的体制の崩壊の始まりというよりも、部分的とはいえ西欧化と世俗化が進んだ一部のイスラム諸国の政治体制の脆弱性を示しているのでしょう。ムバラク政権そのものは寿命かなとも思うのですが、欧米世界が"dictator"がいなければ無秩序でしかない社会もあるということを理解しない限り、この手の騒乱はイエメンにも広がるのかもしれません。共和制を採用し、それなりに西欧化と世俗化を進めてきた国が政治的混乱に陥ることは、イスラム過激派にとって浸透しやすい地域を増やすだけでしょう。


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2011年01月11日

底冷えするユーロ危機

 なぜか、年末から1994年の出来事のトラウマに苦しみましたが、単なる躁鬱なんでしょうか。しかし、元旦の朝も夢まで見て、びっくりしました。15年以上も、自分でもしつこいなあと。後悔先に立たず。覆水盆に返らず。結婚なんて種々の打算と感情に関する妥協の産物という観念を経験的に植えつけられたので、真剣に絆を求められるという事態に直面して、当惑してしまったのでありました。1月3日に新年会で古傷を嫌というほどいたぶられたおかげで、けろっと直ってしまったのが不思議ですが。旧友から電話があって、他の用件もあったのですが、ちとネットにはさらしにくい話がメインでした。私と違って「婚活」しているようなので、ちらっと様子を伺いましたが、苦戦中の様子。今年で42歳になるのですから、もうそろそろ観念しろよと自己暗示をかけたりするのですが、なにしろ即物的でして、具体的に相手がいないのに、将来のことを考える想像力がなく、いまだに相手によって結婚が前提とか考えることができない幼稚さです。

 それはさておき、気象もあるのでしょうが、朝が憂鬱ですね。あ、今日は休日だったっけと月曜日に目を覚まして、適当に朝食を済ませて、PCの電源を入れて、適当に放置して、ノートン先生を起こしてアップデートを確認して・・・・・・冷静に考えると、のんきな話です。開いた先がグーグルのリーダーだったのが運のつきでして、ユーロ圏の「寝言」は書いたし、放置しておこうと思ったら、"Calculated Risk"が"Europe Update: Portugal"という記事を配信していて、"If the bond auction goes OK, maybe yields will fall. If not, we might see the 'intensity of deliberations' increase next weekend."(債券の入札がうまくいけば、イールドは下がる。不首尾なら、来週末までに「熟慮の厳しさ」が増すだろう)とあって、血が凍りそうになりました。前回、引用した記事からいけば、ポルトガル国債の"haircut"(どこぞの某FRB議長並みに刈り込まれるのでしょうか)がどこまで進むのか、"haircut"では済まず、実質的に市場から資金を調達できない状態に陥るのか、わからない事態が想定されるというわけでして、室温は朝にしては18度と温かいのですが、寒気がしました。のろのろとリンク先の記事を読んで、さらに憂鬱に(Wall Street journalが2011年1月10日付で配信したMarcus Walkerの"Portugal in Market's Hot Seat"という記事)。先週、金曜日にポルトガル国債の10年物の金利が7%を超えたとのこと。水曜日には国債の入札があり、ここが分岐点の一つになるようです。

 さらに、問題はスペインで、これは月曜日の晩に読み込んだ、やはり"Calculated Risk"の"Europe Update"という記事でも触れられています。こちらは後回しにして、WSJの記事に話を戻すと、ポルトガルの入札が不首尾に終われば、スペイン、そしてベルギーにも投資家のパニックが波及するおそれがあると指摘しています。スペインは、ドイツ、フランスイタリアに続く、ユーロ圏で4番目の経済規模の国であり、スペインまでもが市場の不信の対象となれば、収拾がつかなくなるでしょう。また、ベルギーについては、下記の指摘をしています。

Belgium's political paralysis worsened last week after the mediator of talks between parties representing the country's two main language groups tendered his resignation. Belgium has had no government since elections in June, leading to fears that the country won't act to rein in its high debts.


 "Belgium has had no government since elections in June"とあるのにびっくりしました。フランドルとワロンの対立でしょうか。このあたりはベルギーに詳しくないので、確かに、「道路」ではなく「国」なのでしょうが、昨年6月から無政府状態というのは驚きです。経済規模からすればスペインが大きいのでしょうが、政治システムが脆弱な国は、今回の危機を和らげることすら困難でしょう。しかし、当座の問題はポルトガルが市場から資金調達ができるかという点になります。この点では、1月17日にユーロ圏の財務相会合が予定されており、記事はこの会合でポルトガル国債に対する市場の態度が明確になるだろうと指摘しています。

 ギリシャ救済後に設立された欧州金融安定化ファシリティ(EFSF: European Financial Stability Facility(参考))がアイルランドに続いて、ポルトガルにも適用されるだろうと記事は指摘しています。緊縮財政をポルトガルが受け入れる姿勢を示しているとともに、ドイツが条件について歩み寄りを見せていると指摘しています。ポルトガルが崩れれば、スペインにも波及するという状況ではドイツも譲歩せざるをえないのでしょう。他方、記事によれば、ユーロ圏共通の債券発行には反対の姿勢を崩していません。ドイツ自身が苦痛に満ちた改革を行わなくてはならず、ドイツ自身の財政資金のコストを引き上げる"E-bonds"の創設には、反対の立場を崩していません。2010年1月8日の「寝言」で粗雑なメモをしたWSJの記事でも、"E-bonds"の創設にはドイツだけではなく、フランスも反対の立場です。これまでの経緯からすると、ユーロ圏の「弱い環」の財政危機が悪化すると、後追い的に独仏が関与を深めるというパターンですので、1月8日の「寝言」ではユーロ圏の政治的統合は無理だろうと述べましたが、徐々に独仏の選択肢が狭まっている印象があります。

 他方、ドイツがユーロ圏では安定的に市場から資金を調達できるといっても、限度があるのでしょう。1月8日の時点で想定していたよりも、ユーロ圏諸国の協調は進んでいる印象がありますが、仮に救済がポルトガルにまで広がった場合、緊縮財政を強いられる国は不満をもち、救済に必要な資金を担保する国では政治的な説得が困難になる可能性が高いでしょう。カネがある国がそうでない国を助けることが「正義」だとしても、それが政治的合意の形成を可能にするのかは疑問です。

 それにしても、人様の間の悪さをこきおろしましたが、私自身の間の悪さはさらにひどいものです。年末にWSJの報道を読んでいなかったら、ユーロ圏の困難に気づかなかったでしょう。私が大変だと感じるときには、既にことが起きていることがほとんどですね。また、2008年9月に、「金融における"Doomsday Machine"」という「寝言」を書いたときには、内容は今、読み返すとあまりに稚拙ですが、まだ肚が据わっていたように思います。アメリカのメディアやブロガーほど冷徹になれないひ弱さを感じた休日でした。



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2011年01月08日

ドービル協定の破壊力 ユーロ圏の憂鬱

 昨年末に、リーダーが読み込んだWall Street Journalが2010年12月27日付で配信したCharles Forelle, David Gauthier-Villars, Brian Blackstone and David Enrichの"As Ireland Flails, Europe Lurches Across the Rubicon"という記事を読んで、憂鬱になりました。年が明けて1月6日付でCalculated Riskは"EU Proposes Bank Failure Plan, European Bond Spreads Increase"というエントリーをアップしました。グラフがあまりに雄弁で言葉を失いました。昨年も2月ですが、「ヨーロッパを変貌させた「ギリシアの悲劇」 "The Greek Tragedy That Changed Europe"」という「寝言」を書いておりましたが、メモをつくるだけでぐったりしました。今回は、なんともいえない沈痛な気分です。"As Ireland Flails, Europe Lurches Across the Rubicon"は政治プロセスの描写が中心の記事ですが、今回もメモで終わらせる予定です。ユーロ圏の人々になにを語ることがあるのか、言葉すら出てこないというのが率直なところです。

 メモでも作ろうかと思っておりましたが、もたもたしている間に、日本版にが出ていました。実は、日本語版はほとんど読まず、"Deauville pact"を「ドービル協定」と訳すのか、「ドービル条約」と訳すのか迷っていたところ(元旦には「ドービル」と「協定」で検索してもこれという記事はありませんでした)、「ドービル協定」で検索したら、ヒットしたというだけの話です。Calculated Riskの簡潔なグラフは、2013年から債務不履行に直面したユーロ圏諸国の債券の損失を投資家に負担させるという、ドービル協定の「破壊力」を如実に示しています。また、私自身がユーロのしくみに詳しくないため、ECBがアイルランドの銀行に融資した830億ユーロの、一部でも、返済ができなくなった場合、どのように負担するルールがあるのかが不明です。

 「なんだかややこしいユーロ圏」という「寝言」ではこんなことを書きました。パッと報道を追ったときに、感じた素朴な実感でしかないのですが。

交渉のアクターは、ファンロンパイEU大統領、バローゾ欧州委員会委員長、サルコジ仏大統領、メルケル独首相、トリシェECB総裁、パパンドレウ・ギリシャ首相と多いですなあ。EUをバカにするわけではないのですが、交渉に関わるアクターが増えるだけで厄介な気もしますが。


 ナイーブすぎる感覚でしょうが、政治的合意をえるときに、利害が相反するアクターの数が多いというのは不幸なことでしょう。日本の知識人がバカだから不良債権問題を10年間も解決できず、ヨーロッパの知識人は良質だからなんとかなると思える方は幸せでしょう。おそらく、アジア通貨危機の前の住専問題ですら、どれほど政治的説得で苦労したのかということもお忘れの御様子で、歴史はおろか、経験からすら学習しない方が幸せなのでしょう。WSJの記事は、危機によってユーロ圏の絆が深まった側面を強調するトーンになっていますが、債務危機に陥った国を救済するために、政治同盟を強化することをドイツの政治家が自国民に説得することがどれほど困難なことか。また、説得される側からしても、仮に頭でわかったとしても、消極的にですら、支持するのは非常に難しいと思います。

 「寝言」というよりも妄言の域ですが、より根本的な問題として経済的相互依存を基礎に国家が形成できるのかということがあるのでしょう。まったく例外がないとはいえないのですが、近代国家に限らず、国家の本質は、その領域内で、軍事力を中核にして強制力を独占していることだと考える古臭い人間ですので、もう一度、欧州大戦でもやるバカが出てこない限り、ヨーロッパの政治的再編というのは非常に困難だと考えております。李克強の欧州訪問に関しては、Wall Street Journalが2011年1月7日付で配信したMarcus Walker and Jason Deaneuの"Aims to Seal Deal With Beijing"という記事が主として外貨準備の価値保全など中国の経済的利益から説明しています。外交に練達した人物であれば、ある交渉を経済的利益のみから行わないのでしょう。70年近く大国間戦争がないという状況が生み出した先進国に住む人たちの幻想が覚めないことを願わずにはいられませんが(結婚と同じく幻想から覚めない方が幸せなことが多い)、幻想を打ち破るとすれば、それはやはり中国なのでしょう。


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2011年01月06日

中国の強みと弱み

 いきなり本題から外れますが、子育て世帯のお話を伺うと、女の子はしみじみ大変だなあと。高校進学を控えて、公立か私立かで迷うでしょうし、大学までとなりますと、親御さんの立場に立つと、なかなか迷いそうです。小学校入学以前からのお付き合いですので、ずいぶん大きくなったなあとびっくりするのですが、女性が安定した収入を見込めるとなると、パッと思い浮かぶのが、公務員か学校の先生あたりでしょうか。15年ぐらい前に、私には想像力というものが非常に貧困ですので、結婚もしていないのに、子どもは男女一人ずつがいいとか、やはり女の子がいいという話で盛り上がっていたときには、なんだかついていけなかった記憶があります。現実はやはり大変だなあと。利発な娘さんなので大丈夫でしょうとは思うのですが、「投資」しても、ご本人に回収の機会があるのかは不確実性があまりに大きくて、ご両親の立場を考えると、助言が難しいなあと実感しました。まあ、男女ともに厳しい時代ではあります。ニコ動でブラック企業の番組をタイムシフトで見ましたが、解説者の選定は失敗だったような。さっぱりわからない。西村博之さんが素直な質問をして答えられないというのはたいてい終わっている印象ですね。労働政策は必要なのでしょうが、あまり多くを期待しない方がよさそうです。

 年始に見た番組では、サンデル先生は別格として、こちらの大晦日の分がよかったです。柯隆さんの話だったら、聞き手は伊藤のおじさまだし、大丈夫だろうと。しかし、広東から香港に買出しというつかみの部分でありゃまという感じです。言いにくいのですが、データでは中国のインフレーションは明確なのですが、イメージがつかみにくい。なるほど、サラダ油が本土が4割り増しでベビーカーで買出しとなると、これは大変だなあと。中国全土のエンゲル係数(これ自体が懐かしかったりしますが)が36%程度、低所得者層が60%程度というのは驚きです。一人暮らしですから、私自身は10%あるかどうか。日本で食費への支出はだいたい家計消費支出の4分の1程度ぐらいじゃないかなと思いますが、3割を超えている状態でインフレでも十分こたえるでしょうが、6割となると、気が遠くなりそうです。柯隆さんのお話ではバブル崩壊の危険性が高まる一方で、対策がないわけではない印象をもちましたが、どれも時間がかかるので、綱渡り状態でしょうか。番組の著作権に触れそうですから、伊藤さんに怒られない程度ですが、(1)変動為替相場制への移行、(2)金融制度改革、(3)国有企業の改革と処方箋は明確でしたねえ。とくに、第1の点は、こちらで書きましたように、変動為替相場制への移行をどう説得するのかという点に示唆が大きいと思いました。「クルーグマンは保護主義を正当化しているのか?」という「寝言」や「中国の白鳥の歌:クルーグマンによるスワン・ダイヤグラムを用いた分析」という「寝言」はクルーグマンによる保護主義的な主張の弁護だとレッテルを貼る方がいてびっくり。「このコラムはむしろ、中国の「重商主義的政策」が、中国経済自体を傷つける可能性を示唆していることが興味深いと思います」という部分はバッサリ切り捨てるあたり、ネットで固有の観念にとらわれている方とマスメディアの一部の恣意的な報道というのは大差がないような気がします。

 それはさておき、柯隆が指摘するインフレーションの進行は、変動為替相場制への移行の準備をすすめるインセンティブを中国共産党や人民銀行に与えるのでしょう。現状では、中国経済の「ハードランディング」は、日本のみならず、世界経済に、ユーロ圏と並んで混乱を招く可能性が高いでしょう。中国との利害の一致から、長期的に変動為替相場制への移行を準備してもらう説得が必要になるのでしょう。やや図式的ですが、国際金融のトリレンマ((1)独立した金融政策、(2)資本移動の自由、(3)固定為替相場制のうち、どれか一つを断念しなければならない)からして、中国国内の安定に必要な独立した金融政策を実行するためには、固定為替相場制を放棄せざるをえないということを説得するロジックを、中国の国内経済や社会体制に即して説得するのが、迂遠なようですが必要だと思います。『世界の論調批評』の「米議会が為すべき中国への諸策」(参考)にあるような安全保障の観点や米国を宥めるための方策も無視はできないのでしょうが、中国が節度ある国際経済のプレイヤーとなるように、誘導することが基礎になければ、今日の経済的相互依存は意外と脆い側面をもっていることに留意が必要だと思います。


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2010年12月02日

中国が北朝鮮をかばう理由

 世の中、内部告発が流行しているようで。かなりのひねくれ者なので、海保の件でも、正義感に裏打ちされた行為に対して冷淡な感想しか浮かばないのですが、準公的機関が内部告発を監督下にある組織から内部告発を促進して、ほとんどがガセ情報だったという話を聞いて、そうだろうなあと。世間様の感覚よりも官公庁には信頼感をもっていますが、あまりの無能さに絶句しました。WikiLeaksネタは英語記事をいくつか読んだものの、空しいだけ。WikiLeaksは、まだ、公文書だけに価値が高いとはいえますが、日本国内の無能な役所の下にある準公的機関が内部告発を促したところで、本当の情報を出すインセンティブが欠けていれば、「悪貨が良貨を駆逐する」じゃありませんが、誹謗中傷が増えてまともな情報を見分けるのが困難になり、監督する立場の準公的機関の機能がかえって低下してしまうという簡単なことにさえ気がつかない役所は軽蔑するだけです。

 風邪も徐々に回復してきました。医師の話では今年の風邪はいちだんとしつこいようで、指示されたとおり薬を飲んで睡眠時間を確保。お腹の調子がほぼ復調したので、かなり回復した状態でしょうか。『日経』をはじめとする日本語の新聞の政治面をスルーするのが健康にはベストなのかも。意外と効果的だったのが、加湿器でして、あれまという感じで楽になりました。冬場の乾燥は意外とこたえるのだなあと。シューマンのコンサートがあるよとお誘いがありましたが、さすがに病み上がりなので、残念ながら自粛。今月は「師走」という名の通り、Windows 7の本格導入(勤務先が2011年の後半から入れ替えを始めるらしい)、2台目の自作機の作成ととてつもなくせわしない状態になりそうで、年賀状はどうしましょという感じです。

 いくら「時の最果て」とはいえ、本題の前に道草が過ぎる気もいたしますが、やはり気になるのは第23期竜王戦七番勝負第5局でしょうか。帰宅してからたらたらと封じ手前の局面まで再生しましたが、先手の渡辺竜王が主導権を握るべく、後手の羽生名人の8五飛車戦法を拒絶して、ほぼ駒組みでは言い分が通った印象でしょうか。正直なところ、「名人に定跡なし」とは言うものの、羽生名人の△3一玉は理解ができないです。素人目には、羽生名人の守備陣は、壁銀のすぐそばに玉がいて、角が動くと金銀の連携があまりに悪く、とても指せる気がしません。逆に、過去4回と比較して、駒組みで羽生名人に追随せずに主張を通した渡辺竜王が、この局を落とすと、厳しいでしょう。

 それはともかく、いくつもとりあげたい記事が山積みですが、2010年11月25日付けでWashington Postが配信したJohn Pomfretの"U.S. aircraft carrier's arrival off Korean peninsula also sends a message to China"という記事は、その中でもとりあえずメモだけ残しておこうかというところです。ツイッターのTLで、いわゆる「軍オタ」の人たちが中国が北朝鮮による延坪島砲撃事件を受けて六者会合を提案したことに失望していたのが意外でした。この記事でも出てくるように、"the tail is wagging the dog"という現状でして、北朝鮮という「尻尾」が中国という「犬」を振り回している具体的なプロセスは謎ではありますが、天安号が沈没した事件から中国の姿勢は、親北朝鮮で一貫しています。記事の後半で出てくる中国の言い分は、それが正当であるかどうかは別として、興味深いと思います。

  China's leaders have justified their support of North Korea to U.S. officials by saying that if the government collapsed, hundreds of thousands of refugees would flow over their border. But deeper issues are involved, according to a series of interviews conducted with Chinese officials and academics. China's Communist Party views the survival of the North Korean regime as a key to the maintenance of its own rule.

  "North Korea is our East Germany," said one senior Chinese security official interviewed in Beijing over the summer. "Do you remember what happened when East Germany collapsed? The Soviet Union fell."

 中国の指導者たちはアメリカの高官に次のように述べて北朝鮮に対する支援を正当化してきた。もし、(北朝鮮)政府が崩壊すれば、数十万人にのぼる難民が国境を越えてあふれてくるだろう。だが、中国の高官や学者への一連のインタビューによれば、より深い問題がある。中国共産党の見方では、北朝鮮の体制が生き残ることは、中国共産党の支配を維持するための重要な点である。

 「北朝鮮はわれわれにとっての東ドイツだ」と夏が終わるまで行ったインタビューで中国の安全保障関係の高官の一人は述べた。「東ドイツが崩壊してなにが起きたのかを忘れたわけではないだろう? ソ連が崩壊したのだ」。


 上記の引用部分は、あくまで中国共産党の言い分であって、北朝鮮に対して中国が宥和的である「本当の理由」は別にあるのかもしれません。他方、深読みをしなければ、しごくもっともな側面もあって、集団指導と世襲という相違はあっても、北朝鮮における一党独裁体制の崩壊が生じれば、中国国内で情報をいくら操作しても、共産党の一党支配の正統性にかかわる問題になりうるのでしょう。

 見方を変えれば、確かに台湾海峡の軍事バランスが東アジアの平和と安定にとって最も重要であるという現状は変わっていないと思いますが、対テロ戦争、イラク戦争の間に進行した、いわば「虫歯」ともいうべき朝鮮半島情勢は中国にとって風が吹くだけでも神経に障るぐらいの「痛点」となっている可能性もあるのでしょう。中間選挙の前後からオバマ政権に好意的だったはずの人々が見放す姿を冷笑しながら見ておりますが(この「寝言」を書いた頃にはとくだんの感慨もなくいつも通り、私はマイノリティに属するだなと思っていました)、アジア・太平洋地域におけるオバマ政権の政策は、中国の拡張政策に対する厳しい包囲網を築きつつあり、「冷戦」のような明示的な対立ではないにしても、かなり厳しいメッセージを送っている点を評価した方がよいと思います。

 まだ、ブッシュ前大統領の回顧録を読んではいないのですが、次のあたりも当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、北朝鮮とその背後にある中国を相手にするときには、「砲艦外交」を背景にした交渉以外は、どんなに精緻な枠組みを設けても、徒労に終わることを示唆しているのでしょう。後悔先に立たずですが、当初は懐疑的だったものの、中身は空っぽですが声ばかり大きい連中に押されて、松尾文夫氏の「拉致敗戦」に理解を示したことは、私自身が対北朝鮮外交の基本を理解せずに、「現実主義」という軽薄な名詞に踊らされていたのだと反省することしきりです。

  Only when Bush threatened military action against North Korea in a conversation with then-Chinese President Jiang Zemin in February 2003 did China begin to work with the United States to pressure the North Koreans, Bush wrote in his newly released memoir, "Decision Points." His experience comports with that of officials during the Clinton administration.


 そんなわけで、日本国内では、オバマ政権をなぜ歓迎しないのかとあれほどわめいていたマジョリティの連中が中間選挙後、オバマにそっぽを向けると、なんとなく好意的に見てしまうというひねくれた私の成功が偏った記事を選んでいるだけかもしれませんがね。

 次の部分がありますので、空母ジョージ・ワシントンを派遣したのは、第一義的には北朝鮮に対する威嚇ではありますが、同時に中国への厳しいメッセージであるのは自明と言ってよいのでしょう。

  "It's really important that Beijing lead here as well," Adm. Mike Mullen, chairman of the Joint Chiefs of Staff, told CNN's "Fareed Zakaria GPS" on Wednesday. "The country that can influence North Korea the most is clearly China."

  State Department spokesman P.J. Crowley said the United States viewed the artillery fire as a "one-off, premeditated act," not a sign that war was imminent. "Without getting into intelligence matters, we don't see that North Korea is preparing for an extended military confrontation," Crowley said.


 CNNの"Fareed Zakaria GPS"を見ていないのは不覚。統合参謀本部議長を務めるマイク・ムレン提督が中国に対するメッセージとして、ここまで明確に述べるというのはちょっと驚きです。クローリーの発言は、形式的ですが、これで十分でしょう。北朝鮮による砲撃は、「一回限りで計画的な行動」であり、「戦争が差し迫っているという兆しではない」。韓国の世論が強硬になってはいるものの、韓国人の知り合いに聞くと、無理でしょうとのこと。よって、米韓の軍事演習を引き続き行って、直接には北朝鮮を圧迫し、挑発行為を牽制しながら、中国に対しても誤解のないメッセージを送る姿勢が続けることができるかどうかが、オバマのアジア外交の試金石となるのでしょう。国内世論に対するオバマ政権の説得する能力はかなり厳しい状態でしょうから。

 Pomfretの記事を読みながら憂鬱になるのは、"Japan's government, which had been considering a more equidistant policy between the United States and China, moved closer to Washington. South Korea and the United States are apparently closer than they have been in years."というあたりで、日米同盟軽視とまではいかないにしても、日本を恃む機運は薄いというあたりでしょうか。前政権の迷走、現政権の無能さを考えれば、むべなるかなとは思うのですが、いざというときに「無能力者」というレッテルを返上するのは、もはや困難とさえ思えます。WikiLeaksが出している公文書に日本の指導者に対する評価があれば、公然の秘密でしかないとはいえ、現政権に対するとどめになるのかもしれませんね。普天間もアメリカ側がどの程度、現実に期待しているのかは疑問ですから、菅直人内閣総理大臣閣下におかれましては、金魚の糞の如く米韓を支持していれば、もうけっこうです。


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